藤本健のDigital Audio Laboratory

第941回

配信最強マイク現る!? ミキサー搭載ヤマハ「AG01」を試した

AG01

前回の記事でヤマハのライブストリーミングミキサー「AG03MK2」および「AG06MK2」について取り上げた記事参照。いずれも「AG03」「AG06」という人気機種をリニューアルした製品で、4月1日の発売以来、ずっと人気で品薄の状態が続いている。そのAG03MK2、AG06MK2とともに発表されたのが、ライブストリーミングマイクロフォン「AG01」(29,700円)だ。

本機もAGシリーズの一つではあるが、AG03MK2やAG06MK2とは見た目もまったく異なるもので、ジャンル的にはUSBマイクの一つだ。しかしPC側から見ると実はほぼ同じものであり、2IN/2OUTのオーディオインターフェイスであるとともに、コンプレッサ、EQ、リバーブを備えた機材でもある。しかも“7ch入力ミキサー”とも捉えることが可能なユニークな機材なのだ。

発売はAG03MK2・AG06MK2よりも3カ月遅い6月30日だが、今回発売前に借りることができた。内部での信号の流れも含め、詳しくチェックしていくことにしよう。

スタンド一体型で扱いやすい“ライブストリーミングマイク”

コロナ禍におけるオンライン会議の普及にともない、USBマイクの需要も増えたようだが、各製品間で大きな機能差がなかったことから、そろそろ頭打ちになっている。

またいくつかのメーカーからは、高性能を歌う製品も登場していたが、そのほとんどは48kHz/16bit、または48kHz/24bit止まり。ASIOドライバーの用意もないため、かなり中途半端な機材に見えていたのが実際のところだ。

ある程度分かっている人であれば、そうしたUSBマイクを買うくらいならオーディオインターフェイスと安いコンデンサマイクをセットで買ったほうが性能的にも機能的にも上だし、汎用性が高く用途も広くなる事に気付いていたことだろう。

そうした中、ヤマハが打ち出したUSBマイクがAG01だ。

“ライブストリーミングマイク”と銘打ち、一般的なUSBマイクとは異なることをアピールしているだけあり、確かに非常にユニークなマイクに仕上がっている。今回借りたのは白い機材だったが、AG03MK2やAG06MK2と同様、ホワイトとブラックの2種類を用意。マイクスタンドと一体型になっている。

ホワイトとブラックの2色を用意する

一般的なコンデンサマイクは別途マイクスタンドを購入しなくてはならないケースも多いが、本機ならすぐに使えるし、グラつくことなく、安定した形で設置できるのもマイク初心者ユーザーには嬉しいところだ。

サイドの2つのネジを取り外せば、マイクスタンドと切り離して使うことも可能。この場合、一般的なマイクスタンドにも取り付けられる3/8インチのネジ穴があるのでこれを利用することになる。

サイドのネジを取り外せば……
マイクスタンドを切り離すことも可能
ネジ穴は3/8インチ

トーク用マイクとして十分すぎる性能。ボタンでリバーブON/OFFも

さて、このAG01。パッと見は、ちょっと縦長な普通のUSBマイクという感じではあるが、これでもか、というほどの機能を盛り込んだ機材になっている。ブロックダイヤグラムを見ながら1つ1つチェックしていくことにしよう。

AG01のダイヤグラム

まず一番上のマイク部はブロックダイヤグラムにECM(=Electret Condenser Microphone)とある通りで、ラージダイアフラムのコンデンサマイク、というわけではない。

マイク部分

そのため、レコーディング用のコンデンサマイクほどは丁寧に扱う必要はなく、ごく普通の機材として扱って問題なさそうだ。マイクの下に小さなアイコンの表示がある通り、カーディオイド型の単一指向性マイクとなっており、仕様書によると1kHzでの指向性は図のようになっている。

小さなアイコンが印字されている
1kHzでの指向性

またECMであるため、低域はそれほど得意というわけではないようだが、周波数特性はグラフのようになっている。50Hzくらいまではしっかり捉えられるようだし、80Hz以上は非常にフラットな特性なので、トーク用のマイクとしては十分すぎる性能だ。

周波数特性。80Hz以上は非常にフラットな特性

ECMから入った信号はヘッドアンプで増幅される。この際マイクゲインの設定が可能で、これはリアにある3段階のスイッチ、LOW・MID・HIGHで選択できるようになっている。

マイクゲインの設定が可能

そして、AG01ロゴのすぐ下にあるMUTEボタンを押すことで、一発でマイク入力を止めることができる、というのも配信用の機材としては非常に安心なところ。MUTEボタンがオンになるとLEDが赤く点灯するので、ミュート状態である、ということが一目で確認できる。

MUTEボタンを用意

さらにブロックダイヤグラムの1番上のラインを右側に進んでいくと、HPF/COMP/EQというのがあるが、これがAG01に内蔵されているエフェクト部分だ。これについては後のアプリ部分で見ていくことにする。

その後段にあるのがリバーブ。ブロックダイアグラムを見てもわかる通りHPF/COMP/EQからの信号は分岐し、片方はストレートにマイクレベルのところに行き、片方がREVERBモジュールを介した上でストレート信号とミックスされる形。この際、REVボタンをオンにしてオレンジに点灯させるとリバーブが動作する。

REVボタンをオンにするとリバーブが動作

マイク本体のボタン一発でリバーブのオン/オフが操作できるというのは、初心者にとっても非常に扱いやすいところ。マイクからのドライの信号は常に流れていて、REVスイッチをオンにするとそれにミックスされる形でウェット信号が加わる仕様になっている。またこのリバーブが加わるところから、L/Rのステレオ信号へと展開されていることも見えてくる。

ブロックダイヤグラムで真ん中のラインがAUX入力。これはAG01のボトムにある3.5mmの入力で、こちらは最初から3極端子のステレオ。ここにはレベル調整などはなく、そのままストレートに入って先ほどのマイクからの信号とミックスされる。

底面に3.5mm入力を装備

さらに一番下のラインは、スマホからの入力を想定する4極端子での接続。

スマホからくるステレオ信号はEXT INPUT LEVEL……つまりAG01フロントの下から2つめのノブでレベル調整できるようになっていて、これを介して先ほどの信号とミックスされる。

ちなみに4極端子のもう1つは、AG01からスマホへのモノラルでの出力。スマホから見れば入力信号が入ってくるので、Android端末でも入出力が可能になり、Android端末とAG01があれば、配信ができるようになっている。ただし、AG01からスマホへの信号はモノラルなので、ステレオでの配信ができない、という制限はある。

ブロックダイヤグラムのEXT INPUT LEVEL左側を見ると、+印があるのに気がつく。これはUSB AUDIOから来た信号がミックスされているのだが、どういうことなのか?

つまりUSB接続したWindowsやMac、またiOSデバイスからのオーディオ信号がミックスされる形になっていて、先ほどのノブは、PCオーディオの信号と4極端子からの信号の兼用となっていることがわかる。マイクとしての見た目はシンプルながら、かなり複雑な信号構成を、シンプルにまとめてコントロールできるようにしているのだ。

豊富な入力系統とループバック機能を搭載

AG01に入る信号を整理してみると、本体内蔵のマイク(モノラル)、AUX(ステレオ)、スマホ(ステレオ)、PCオーディオ(ステレオ)と合計7chのをミックスできる、れっきとしたミキサーになっているわけだ。それらを合わせた信号がヘッドフォンボリュームでの調整を経てPHONES端子からステレオでモニターできるようになっている。

この際、MIX MINUS MICというスイッチを経由しているのもAG01ならではのユニークなポイント。このスイッチはリアの下にあるのだが、これをオンにするとヘッドフォン出力にはマイクからの信号が入らない形となる。そのため、自分の声はモニターできないけれど、ヘッドフォンからの音がマイクに入って発振してしまうハウリング現象を防止することができるのだ。

よくできていると感心するのは、MIX MINUS MICがオンでもオフにしても、配信側には影響しないという点。

配信機器へはSTREAMING OUTのスイッチ部分を経てUSBへ流れていくか、前述のとおり4極端子接続するスマホへアナログで流れるだが、このスイッチでは3つの中から選択するようになっている。

1つ目がマイクからの信号だけを配信するためのMIC、2つ目はマイク、AUXからの計3ch分の信号を配信するINPUT MIX、そして3つ目はマイク、AUXに加えスマホ入力、さらにはPCからのUSBオーディオの計7ch分をステレオにミックスした信号を送るLOOPBACKだ。

ループバックができるUSBマイクがほかに存在しないわけではないが、ここまで丁寧にルーティングを上手に制御できるものはほかにない。しかもUSBでも4極端子でのアナログ接続のスマホでも、同じようにループバックとして扱える設計になっているのは見事だ。

なお、ブロックダイヤグラム右下にもある通り、USBバスパワーで電力が足りない場合は同じUSB Type-C端子だが、5V DCから電源を送ることで利用できるようになっている。iPhoneで使う場合や、AG01を4極端子でAndroidなどと接続して使う場合、さらにはスタンドアロンで使う場合でも5V DCからの電力供給が有効になる。

コンプレッサ/EQ/リバーブ等の詳細が設定できる「AG Controller」

そして、もう一つ紹介しておく必要があるのが、AG01内蔵のDSP部分。

先ほど、マイク入力信号にHPF/COMP/EQというモジュールが接続されていることを紹介したが、これをコントロールするのが、前回の記事でも紹介した「AG Controller」というアプリ。これはWindows、Macで動作するハイブリッドであるだけでなく、iPhone/iPadでもまったく同じように動作するアプリとなっているのだ。そのため、PC用のアプリとしては珍しい縦配置のアプリとなっており、iOS版とUIが完全に共通化されている。

もっともこのアプリ自体はあくまでもAG01内のDSPをコントロールするだけのもので、アプリ側で何等かの信号処理をするものではないが、正しく動作しているかを確認するためのサウンドチェック機能は搭載しており、正常な音で録音できるか、その音をしっかり再生できるかテストできるようにはなっている。

アプリ「AG Controller」

アプリでは、USB接続されているのがAG03MK2なのか、AG06MK2なのか、AG01なのかを判別でき、それによって、画面上部の表示が変わるようになっている。また初心者でも簡単に使えるSimple画面と、より詳細にコントロール可能なDetail画面の2つのモードが用意されている。AG03MK2やAG06MK2ではこのDetail画面でCH1、CH2を扱えたが、AG01ではマイク用のCH1のみで、当然ギターアンプシミュレーターを使うことはできない。

Simple画面
Detail画面

さらにPRESETSをクリックすることで、5種類用意されているプリセットを呼び出すことができるほか、CH1のCOMP、EQ、Reverbの各グラフをクリックすることで、コンプレッサ、EQ、リバーブの詳細設定画面に入ることができ、細かくパラメータを調整することも可能。一度設定すれば、その設定をAG01が本体が覚えておいてくれるので、設定が同じであればイチイチAG Controllerを起動しなくてもOKだ。

プリセット画面
コンプレッサ
EQ
リバーブ

なお、Windowsの場合、このAG Controllerをインストールする際、同時にYamaha Steinberg USB Driverというドライバがインストールされ、ASIOでも利用できるようになる。サンプリングレートとしては44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz、176.4kHz、192kHzのそれぞれで使うことができる。

44.1から192kHzのレート選択が可能

そのYamaha Steinberg USB Driverを試していて今回気づいたのは、複数のデバイスがUSB接続されていても、それぞれを別々のデバイスとして認識していること。

AG01のみが接続されている状態だと何も思わなかったが、複数つながっていると、それぞれのタブが現れて、サンプリングレートなどを個別に設定できるようになっていた。

YAMAHA製品が複数接続されている場合でも、タブで個別設定できる

ただし、ASIOで使う場合は、いずれか一つを選択しなくてはならない。もっともWindowsのシステムからも別々のデバイスとして認識されており、これとは別に動かすことが可能なようだ。

ASIOで使う場合は、1つを選択する
Windowsでも別々のデバイスとして認識

総括

以上、AG01について紹介してみたがいかがだっただろうか?

USBマイクではあるが、かなり高機能なデバイスであり、配信に特化したユニークなマイクであることが分かった。120%使いこなすには、先ほどのブロックダイヤグラムをよく見たうえで、何がどうつながっているかを理解する必要がありそうだが、とりあえず初心者でも簡単に使えるという面でも上手に設計できた機材であると感じた。

発売は6月30日だが、これも人気殺到で、入手するのは簡単ではなさそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto