藤本健のDigital Audio Laboratory
第940回
今日からライバーデビュー!? ヤマハの定番配信ミキサー「AG03/06MK02」を試す
2022年5月16日 08:00
先日、ヤマハからライブストリーミングミキサー「AG03MK2」(18,700円)、「AG06MK2」(23,100円)が発売された。これは2015年に発売されて以来、ずっと人気機種として販売されてきた「AG03」「AG06」の新モデルだ。
製品が発表されると同時に予約が殺到し、発売から1カ月以上経過した今も入手困難という機材だ。最近の半導体不足や材料不足によってオーディオインターフェイスなど、全体的に入手困難な状態が続いているが、その中でもかなり需給ギャップの激しい2製品といえる。
今回そんな人気モデルを借りることができたので、特徴や機能の紹介ほか、オーディオ性能的な部分もチェックしてみた。
小型ボディに多機能、豊富な入力搭載の人気ミキサー
“ライブストリーミングミキサー”とは、一般にはあまり見慣れない名称だが、要するにネットでのライブ配信にターゲットを絞ったミキサーということだ。
前モデルはニコニコ生放送などが流行ってきていた日本で受け入れられ、広く愛用される定番モデルに。もちろんライブ配信に使えるのであれば、いったん収録する形をとるYouTubeの番組制作用のミキサーとしても使えるわけで、YouTuber御用達のミキサーとしても人気を集めた。
そんな環境の中で、コロナ禍が直撃。さまざまなジャンルの人たちが自宅からネット配信をしようと、AG03やAG06を買い求める人が急増するとともに、ZOOMやTeams、Google Meetsといった会議ソフトでも本機を利用するユーザーも出始め、もともと品不足だったAG03・AG06は、まったく入手できない事態へと陥った。
さらに時を同じくして旭化成の宮崎工場の火災に端を発するDAC不足が深刻化。オーディオインターフェイスをはじめとするオーディオ製品が作りにくくなるとともに、コロナ禍に伴う海外の工場閉鎖などもあり、ますます入手し難くなっていった。
結果、ヤフオクなどの中古市場が暴騰し、完全な中古品が新品正価の倍近い値段でやり取りされる状況に。さすがにしばらくして落ち着いたものの、AG03・AG06が入手しづらい状況は続いたままだった。そうした中、新製品となるAG03MK2とAG06MK2が2月末に発表され、4月から発売開始されたというわけだ。
AG03MK2とAG06MK2は、いずれもUSB接続のオーディオインターフェイス兼ミキサーであり、AG03MK2はステレオミニでのAUX入力を含め5chの入力、AG06MK2は同じくAUX含め8chの入力を装備した機材だ。
USBからも2chの信号が入ってくるので、ミキサーとしてみればAG03MK2が7ch、AG06MK2が10chと、コンパクトな割にかなりの入力数を持っている事も人気のポイントだろう。
単にミキサーとして音をミックスして、オーディオを出力するだけでなく、それをUSB経由でPCやスマホに送れる(=ストリーミングできる)のも特徴。だからこそ“ストリーミングミキサー”と呼ぶわけだが、この際にスイッチで何をPC側に送るかを設定できるのもAGシリーズならではのポイントになっている。
具体的には、STREAMING OUTというスイッチを使って「DRY CH1-2」を選択するとCH1およびCH2の入力だけをそのまま送る形に、「INPUT MIX」にするとCH1、CH2に限らずすべての入力をミックスするとともに、エフェクトもかけた状態で送る形となる。さらに「LOOPBACK」にすると、PC側から来た音もミックスに加えて送る形になっている。そのため、PCでゲームをする音や、音楽の再生も配信できる、というわけだ。
本体にDSPが搭載されていて、これを使ってEQやコンプレッサ、リバーブ、アンプシミュレータといったエフェクト処理ができるのも特徴。プラグインなどを使う必要がなく、ストリーミングミキサー本体でエフェクト処理できるので、マシン負荷がかからないのは大きな魅力だろう。
下記にどのように信号が流れるのかを表すブロック図を掲載する。これを見てもわかる通り、コンパクトなのに、非常に多彩な機能を搭載しているのがお分かりいただけるだろう。
初代からの変更点は、カラー、USB-C、ミュートボタン、4極対応AUXなど
気になるのは初代のAG03、AG06と何が変わったのかという点だろう。それぞれの製品写真を並べてみると、見た目はソックリで、基本的な仕様もそのままではある。ただ、細かく見ていくと、いろいろな点が改善されている。
まず見た目でいうと、今回の新製品は従来と同じホワイトのほかにブラックが用意され、カラーが選べるようになった。
またリアパネルを見ると従来のUSB Type BからUSB Type-Cに端子が変更された。
もっともUSB-Cでも信号的にはUSB 2.0のため、仕様上は変わっていない。またUSB-C端子が2つあるが、左側は電源供給用でスマホやタブレットで使うもの。WindowsやMacで使う場合はUSBバスパワーで動作するので、右側の端子だけの利用できる。
では「機能的に違いはないのか?」というと、いくつかの違いはある。
その最大のポイントがミュートボタンの搭載だ。マイク入力が1つのAG03MK2には1つ、マイク入力が2つのAG06MK2には、それぞれのマイク端子に1つずつの計2つのミュートボタンが設けられた。配信をする上で、急にマイクをオフにしなくてはならなくなった…というケースはしばしばあるが、そんなときにボタン1つで対応できるようになったのだ。これがまさにストリーミングミキサーならでは、といった点だろう。
もう一つの目玉が、AUX入力が4極端子に対応したこと。実はこれAndroidスマホ対策の機能で、この4極ケーブル1本でAndroidからのオーディオの入出力が可能になり、スムーズな配信ができるようになった。
ほかにも、初代AG06は+48Vのファンタム電源を送れるのがCH1だけだったのが、AG06MK2ではCH1/CH2に送れるようになったため、2台のコンデンサマイクを使えるようになった。
CH1/CH2それぞれにPADボタンが搭載されていたが、LINEボタンに名称変更された(機能差はない)。
それ以外は機能的にはほぼ同等だが、ボタン配置などは若干変わっているようなので、チェックしてみるといいだろう。
なお、AG03MK2およびAG06MK2をフルに活用するためのソフトとして、「Yamaha AG Controller」というものがある。
このソフトを使うことで、内蔵DSPをフル活用できるようになるのだが、エフェクトなどに慣れていない人でも戸惑わずに使えるようにするためのSimple画面と、ある程度エフェクトについて理解している人のためのDetail画面があり、これを切り替えて使えるようになっている。Detail画面ではギターアンプシミュレーターなども、より細かく設定できる。
入出力の音質とレイテンシーを検証。配信用では十分な性能
ではオーディオ性能に違いはないのだろうか?
パッと音を聴いた感じでは、特に大きな違いはなさそうだが、やや目立っていた旧モデルのマイク入力時のノイズが少し小さくなったような気もする。測定してみると違いが見えてくる可能性もありそうなので、いつものようにRMAA Proで試してみることにした。
最初にAG03/AG03MK2で試そうとしたのだが、CH2/CH3のライン入力だとどうもうまく測定できなかったため、AG06/AG06MK2で試した。こちらはCH1/CH2とスピーカー出力を接続してテストしている。
またAG06MK2はボタンでLINEを選択できるのに対し、AG06のほうは、とくに設定がないのでそのままにしている。
結果を見ると、やはりAG06MK2のほうが、少し音質がよくなっているようだ。一般的なオーディオインターフェイスと比較すると音質的にはやや劣る面はあるものの、ライブ配信用としてであれば十分な性能だ。
最後にレイテンシーに違いはないのか、これもいつものようにCEnTranceのASIO Latency Test Utilityを使ってテストした。
ドライバの設定画面においてLow Latency、Standard、Stableの3つのモードがあるが、今回はLow Latencyを選択した上で、それぞれの機種で44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれでテストしてみた(AG06:21~25、AG06MK2:26~30)。
結果を比較してみると、ほぼ同じ結果となっており、ここには差はないようだった。なお、ドライバは両機種とも同じものを使っており、2.1.1という最新バージョンのものを使っている。
以上、AG03 MK2、AG06 MK2についてみてみたがいかだっただろうか?
やはり非常によくできた機材であり、しかも旧機種よりも音質性能が向上していることを考えると、当面入手困難な状況が続きそうではある。購入を考えるのであれば、店舗に予約を入れるのがよさそうだ。