藤本健のDigital Audio Laboratory

第984回

3640円の中華4chミキサーはアタリかハズレか? 実力を試した

今年1月に本体価格3,640円で購入した4chオーディオミキサー

別に欲しいものがあるわけではないけれど、宣伝メールが来るとつい覗いてしまうのが、中国通販サイト「AliExpress」だ。ガジェット系の怪しい機材がいろいろあるので、安いと気になって買ってしまったりしている。手元に届くまで数カ月かかることもあるし、届いたら壊れていたり、そもそもインチキ品だったりするケースもあるため、経験上の失敗率は30%程度といったところだ。

そんな中、先日3,640円で購入した4chオーディオミキサーがなかなか面白い機材だったので、今回はこれについて紹介してみたいと思う。

中国通販サイトで見つけた、とにかく安い4chオーディオミキサー

AliExpressでの品定めは、秋葉原のジャンク屋で物色するのに近い感覚で、本当にどうでもいい機材、くだらない機材などを買ってしまいがち。注文履歴をさかのぼると、HDMI-USB変換器、PC用のACアダプタ、オキシメーター、非接触体温計、液晶モジュール、カラーフィルム、コンデンサマイク、Arduino互換機などなど、結構いろいろ買っている。

中でもお買い得感いっぱいだったのが、ペンシル型のコンデンサマイク。今は少し値段が上がってしまったが、3年前は送料込みで1本3,000円弱。音質的にも悪くなく、見た目にもスマートなので、DTMステーションPlus! というYouTube Live/ニコニコ生放送の番組でもフル活用している。

そんな中、AliExpressから届いた宣伝メールで発見したのが、今回紹介する小型オーディオミキサーだ。3,640円と書かれていたので、この値段だったら試しに買ってみてもいいかもと勢いで購入してしまった。

“先日”と言っても、実は購入したのは2023年1月28日。気になる「お届け予定日」は2月27日とあったので、1カ月を要するはずだったが、届いたのは予定より遥かに早い2月6日。AliExpressでの買い物史上、最速9日での到着だった。

購入したのは今年1月下旬
筆者のAliExpress買い物史上、最速9日での到着!(笑)

ちなみに送料は1,198円。よくわからない73円の割引があり、トータル4,765円でカード決済している。

届いた物は、かなり軽い箱。偽物ではないかと開封してみると、中にはプチプチで梱包された箱が出てきた。プチプチをはがすと、確かに購入したミキサーと思われるものが出てきた。角がつぶれてしまっているが、まあここは良しとしよう。

プチプチで梱包
購入したと思われるミキサー登場
角がつぶれている

箱の中からは、キレイな機材が登場。付属のACアダプタとUSB-Cケーブルで電源供給すると問題なく動作した。

箱の中からは、キレイな機材
ACアダプタとUSB-Cケーブルが付属

なお、原稿執筆中の5月14日現在のAliExpress価格は、4.026円+送料1,203円=5,229円と多少値上げしていた。日本のAmazon楽天市場などでも販売されているが、価格はその倍程度となっている。

4ch入力の小型アナログミキサーとしては十分な機能

では、具体的な機能・性能を見ていこう。

本機はアナログ4chのミキサーで、入力はCH-1、CH-2はコンボジャックとなっており、マイク/ギターの入力が可能だ。

またこのCH-1、CH-2にはそれぞれ+48Vのファンタム電源も搭載されているので、コンデンサマイクを接続することもできる。それぞれモノラルの扱いで、PANの設定はなし。いずれもセンター固定となる。

+48Vのファンタム電源を搭載。コンデンサマイクも接続できる

CH-3とCH-4は、TSフォンの入力で、ステレオに対応。PAN設定はないが、CH-3がL、CH-4がRで、CH-3のみに接続した場合はモノラル扱いになる。

CH-3とCH-4は、TSフォン入力

トップパネルを見るとわかる通り、CH-1、CH-2、CH-3/4それぞれにゲインがあり、HIおよびLOWのイコライザ設定、そして入力レベル調整がノブで用意されている。試してみると、EQ含めしっかり使うことができるし、入力ゲイン、レベルを上げていっても、それほど目立ったノイズはなく、数千円のミキサーとしては十分すぎるSN、という印象だった。

CH-1とCH-2にはEFFというオレンジのノブが用意されている。これはエフェクトへのセンドレベルを決めるためのもの。つまり、同ミキサーにはディレイとリバーブが搭載されており、双方に送ることができる。

エフェクトへのセンドレベルが調整できるEFFノブ

その送り先が右側にあるDELとREP。DELのノブを回すとディレイ時間の調整ができ、REPのノブを回すことでリバーブ空間の広さを調整可能だ。リターンレベルの調整などはできないので、かかり具合はセンドレベル側で調整するしかないが、とりあえずエフェクトが使える、というだけでも悪くはなさそう。

右側にはDELとREP

ミックスした音をモニターするための出力も3系統用意されている。

標準のステレオフォンジャックでのヘッドフォン出力のほか、TSフォンジャックでのマイン出力、外部録音用としてRCAのL/R出力がある。いずれもMAINノブで音量調整でき、ヘッドフォン出力においては、PHONEで調整できるようになっている。4ch入力の小型アナログミキサーとしては十分な機能と思う。

さらに、この激安ミキサー。単なるアナログミキサーではなく、デジタル的な機能もいろいろと備えているのもポイント。

まずは、フロントにあるUSB Type-A端子にUSBメモリを挿すことで、MP3プレーヤーとして利用できる。この場合CH-3/4にMP3プレーヤーの音が入ってくるため、CH-3/4にある切り替えボタンをSTからUSBに切り替えて使う。

MP3プレーヤー機能も搭載

付属マニュアルにもMP3プレーヤーと記載しているが、MP3だけでなく、WAV、WMA、M4A、APE、FLACにも対応し、意外と万能な仕様。これらは再生/停止ボタン、早送り、早戻しボタンで操作できる。

ただ、試してみるとうまく再生できるファイルと、正しく再生できないファイルがあることに気が付いた。再生できても、ノイズが乗ってしまう場合もあった。

漢字など、2バイトコードのファイル名がダメなのかと思って変更してみたが、うまくいかない。いろいろ試してみた結果分かったのは、44.1kHzまたは48kHzのファイルのみに対応しており、96kHzや192kHzのサンプリングレートのデータは認識されないようだった。

さらに、16bitのデータは問題なく再生できるが、24bitだとホワイトノイズというか妙なノイズが乗ってしまい、思った音で再生することができなかった。つまり、正しく再生できるのは44.1kHz/16bitもしくは48kHz/16bitの各種ファイル形式ということのようだ。まあ、これを理解した上で使うのであれば問題なさそうだ。

操作ボタンの一番右にあるMODEボタンを押すとbLUEという表示になるのだが、これによりBluetooth接続が可能になる。試しにiPhoneからペアリングしてみたところ。しっかり音を出すことができた。

Bluetooth接続も行なえる

オーディオインターフェイス機能も搭載。当たれば使えそう?

さらにこのミキサー、オーディオインターフェイスとしての機能も備わっている。

先ほどはリアのUSB Type-C端子をACアダプタにUSBケーブルを接続して電源のみを送ったが、これをACアダプタではなくPC接続することで、USBバスパワー駆動のオーディオインターフェイスとして動作するようなる。この際、リアのスイッチをMP3からPCへ切り替える必要があるが、操作としてはそれだけ。

リアにUSB-C端子

Windowsに接続し、PCに切り替えると、すぐに認識。PCの再生音をミキサーに送ることができた。CH-3/4に立ち上がってくるため、この時はMP3プレーヤーは機能しない。

PCに接続すると、本機を認識

設定を確認してみたところ、デバイスとしては48kHz/16bit固定。やはりハイサンプリングレートや24bitには対応していないが、PC側で自動的にリサンプリングされるので、96kHz/24bitや192kHz/24bitの楽曲を再生しても、とくに問題なくミキサーから音を出すことができる。

デバイスとしては、48kHz/16bit固定の模様

録音デバイスとしても認識された。この場合も48kHz/16bit固定ではあるが、レコーディングを試してみたところ、MAIN出力で調整した結果がUSBへ行くようで、CH-1~CH-4のミックスを録れることが確認できた。

録音の場合も、48kHz/16bit固定
CH-1~CH-4のミックスを録れる

USBレコーディングを行なう場合、CH-3およびCH-4はアナログ入力しか利用できないようだが、いろいろな使い道はありそうで、この値段で買ったデバイスという意味では申し分ない印象だ。

ちなみに1つだけ気になったのが、USBケーブル。実は最初、付属のケーブルを使わず、Thunderbolt 3ケーブルでPCと接続したところ、電源が入らず「不良品だ!」と思ってしまった。

筆者の認識では、Thuderbolt 3ケーブルであれば、USB 3の上位互換であるため何にでも使えるはずと思って接続したが動作しなかったのだ。もちろん、Thunderbolt 3ケーブルはほかのデバイスでのは使えるので問題はない。

そこで、付属ケーブルを使うとACアダプタでもPC接続でも動作したし、手持ちの安いUSB Type-Cケーブルでも問題なく動作するのに、改めてThunderbolt 3ケーブルに挿し替えると動かない。

Thunderbolt 3ケーブルの接続先をPCではなく、Macbook用のUSB Type-Cのアダプタにしてもダメ。今度はThuderbolt 3からUSBのType-C同士のケーブルに交換しても結局ダメだった。ネットでいろいろ調べてみると、USB Type-Cでの電源供給には互換性問題が存在するようで、どうやらそれが原因の模様。

最後に、確認のため、これをMacと接続してみたが、やはりMac側がUSB Type Aの端子ならばうまくいくが、Type-C端子=Thunderbolt端子だと電源供給すらされず認識されないのでMacユーザーはこの点で、注意が必要だ。

以上、AliExpressで買った激安ミキサーを紹介してみたが、いかがだっただろうか? 海外のレビューを見ると「ノイズが酷い」といったコメントもあるため、筆者がアタリの機材を引いた、ということなのかもしれない。

そのうち、秋葉原などで同様の機材が出回るようになるかもしれないが、うまくアタリの機材が入手できれば、それなりに使えそう……ではある。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto