藤本健のDigital Audio Laboratory

第939回

マイクや接続、ノイズ対策の方法は? 藤本的いい音配信のススメ3

筆者が作曲家の多田彰文氏と一緒に9年間続けているDTMの情報番組「DTMステーションPlus!」(ニコ生/YouTube)の舞台裏を伝えてきた“いい音配信のススメ”。3回目の最後は“音周り”がどのようなセッティングになっているのかを紹介していく。

どうすれば高音質で配信できる? 藤本的いい音配信のススメ1

ミキサーと配信マシンはどう選ぶ? 藤本的いい音配信のススメ2

DTMの番組ということもあり、我々も音には細心の注意を払いつつ、できるだけいい音を目指して続けてきたが、振り返ればトラブルの連続だった。いま配信を自分で行なう人も増えているが、ここでの事例が何らかの形で役立てば幸いだ。

トーク用は、TASCAMのコンデンサマイクセット

9年前の番組スタート当初は、プロ用の六本木のレコーディングスタジオから配信を行なうという、かなり贅沢な環境だったことは以前の回でも触れた通り。

現在はESPミュージックスクールの音楽教室ホールに場所を移し、結構な広さと機材の取り回しが便利になった反面、レコーディングスタジオにあるような特別な設備は置かれていない。PAでスピーカーを鳴らせる設備があること、そしてマイクスタンドやキャノンケーブルなどは揃っているが、それを除けばごく普通の広い部屋なのだ。

ここに長机を2つ並べて、配信ステージを設営しているわけだが、ここにセッティングする機材はすべて自前のもの。その機材の中でも、おそらく多くの人が気になるのはマイクではないだろうか。

実はこの番組を運営する上で、マイクには2つの役割のものを用意している。

1つは筆者や多田氏、またゲストのトークを収録するためのマイク。もう一つはボーカリストが入ったり、アコースティックギターなどを、まさに音楽を収録するためのマイクの2つであり、それぞれ別物と位置付けている。

まず前者、つまりトーク用だが、六本木のスタジオ時代はNeumannの「U87」などを使う贅沢なことをしていたが、机の上に置くのだから、ペンシル型のコンデンサマイクがいいよねとなり、AKGの「C451EB」などを使ったことがあった。

とはいえ、トーク用にそのような高いマイクを買うのも……と考えあぐねていたところ、たまたまティアックから提供を受けて使ったのが、TASCAMのドラム用マイクセットだった。

TASCAMのドラム用マイクセット

キック用、スネア用のダイナミックマイクが1つずつ入っているほか、トップ用のペンシル型のコンデンサマイクが2本入って、わずか2万円という製品だったのだが、試しにこのコンデンサマイクを試してみたら、結構使えたのだ。トーク用なら、細かな声のニュアンスよりも、明瞭に音を捉えられれば十分と判断。見栄え的にもいい感じだったので、この2本を使い始めた。

TASCAMのマイク

このマイク、単一指向性ではあるけれど、コンデンサマイクなので、ある程度距離が離れていても大丈夫だし、そこそこ広く音を捉えることができる。基本的に1人1本だが、ゲストがいても、2本で3~4人捉えることはできる。

ちなみに、これがダイナミックマイクだとそうはいかない。確実にマイクの近くでしゃべる必要があるし、1本で1人が限界だから、取り回しが大変。コンデンサマイクなら、運用が圧倒的に楽なのだ。

もっともマイクから近い・遠いで、ある程度の音量差は出てしまう。なので、これを接続する「VR-4HD」のコンプレッサ機能を使い、ある程度音量を整えるようにしている。でも、たったそれだけで、声のバランスも利便性も両立できるので、コンデンサマイクの使用は配信においては絶対、と思っている。

VR-4HDのコンプレッサ機能で音量を整えている

実は1年ちょっと前に、このTASCAMのマイクが1本壊れてしまった。とても重宝していたので、このマイクだけ追加購入しようとしたのだが、単品売りが存在せず、TM-DRUMSのセット自体がディスコンになってしまって入手できない。

それに代わるいいものはないかと探してみた結果、中国通販サイト・Aliexpressで見つけたのが、2本/6,000円弱の「CM-60」というペンシル型マイクだった。これで大丈夫だろうか? と若干不安ではあったのだけれど、値段が値段なので、ダメ元で注文して試してみたところ結構使える事が判明。ということで、現在はこのCM-60を2本と、TASCAMのマイク1本で運用している。

2本/6,000円弱で購入した、ペンシル型マイク「CM-60」

ボーカル/楽器用マイクは別経路を確保。トーク用はモニターにルーティングさせない

ボーカル/楽器用マイクに関しては、トーク用とは別モノとして、その時々で用意している。

番組内で特定のマイクを取り上げる際は、そのマイクを使うし、ゲストミュージシャンが持参するときもあれば、それ用に借りてくる場合もある。

Blue Microphoneのマイクを使うシンガーの中原涼さん

マイクも含め“楽器”という位置づけであり、場合によってはマイクプリアンプとセットで用意することもある。そして、そもそもトーク用マイクとはまったく別接続を取っている。番組の接続図を表したのが以下の図だ。

「DTMステーションPlus!」のシステム接続図

前述のとおり、トーク用マイクはVR-4HDに接続するだ、ボーカル/楽器用マイクは、その他の楽器やPCからの音ともにミキサーに突っ込んでいる。このミキサーも別に高いものではなく、ベリンガーの「XENYX 1202FX」という13,000円弱で購入したものだ。

ベリンガーの「XENYX 1202FX」

「そんなものでいいの?」と言われてしまいそうだが、配信用であれば必要十分というのが我々の認識。ただ、そのミキサーのグレードそのものよりも、その接続に音をうまく扱うための工夫をしている。

改めて先ほどの接続図を見ていただきたい。実は、ベリンガーのミキサーを使っているのは単にVR-4HDではチャンネルが足りないというだけではない。このミキサーでまとめた音がVR-4HDに行くのと同時に、モニタースピーカーへと出力させている。

実際にはいわゆるモニタースピーカーではなく、ESPミュージックスクールのPAへと接続しているのだが、これによって、楽器やボーカルの音が配信へ届くだけでなく、現場にいる我々もこのモニタースピーカーで音を確認できるようにしている。

PAモニター

「それがスゴイことなの?」と不思議に思う方もしれないが、実は“トーク用マイクがモニタースピーカーへルーティングされていない”というのがミソなのだ。そう、トーク用のマイクからの音がモニタースピーカーから出ると、ハウリングを起こしてしまう。でも、この形であればそうした心配はないし、そもそも我々がしゃべる声は隣にいて聴こえるのだから、モニターする必要がない、という考え方だ。

また楽器の音やPCのDAWからの音などをより鮮明に、いい音で視聴者に聴かせるためには、トーク用マイクが邪魔になることがある。そんなときは、VR-4HDでトーク用マイクをフェードアウトさせてしまうことができるのも、この接続のメリット。

現在、筆者と多田氏のほか、カメラワーク、ビデオスイッチング、ミキサー操作を担当するスタッフの計3名で運営しているが、そのスタッフが、番組進行中トーク用マイクのフェーダーを下げるとともに「トークマイク、オフにしました!」といった声を出してくれるので、そこで我々も安心して進行打ち合わせなどができる。

またオーディオインターフェイスからの音量、ボーカルマイクなどからの音量、楽器からの音量については事前にリハーサルを行なって、ミキサーをいい具合に設定しておく。それでも進行中に音の大小があるので適宜調整する、ということを行っている。

リハーサル時に、各系統の音量をミキサーである程度整えておく

また現場での音と、ニコニコ生放送、YouTube Liveを介した音では10秒~30秒程度のタイムラグがあるが、時々その配信先の音をイヤフォンなどでチェックしている。喋りながらなので、常にチェックできているわけではないが、トーク用マイクをオフにして音楽を流しているときなどは特に、しっかり音が届いているかは確認している。場合によってはニコニコ生放送やYouTube Liveのコメント欄からは、「音が小さい!」なんてフィードバックもあるので、そうした情報も見つつ操作するようにしている。

なお、配信のオーディオ設定は、ニコニコ生放送が192kbps、YouTube Liveが128kbpsとしている。いずれも推奨のものを使っているが、AAC-LCやMP3でのエンコードがされている。

ピュアオーディオの世界からすれば「そんな低いレベルの音なのか」と言われてしまいそうではあるが、楽器の音を届ける上では、これでもかなりの品質であると思っている。実際、微妙な音の聴き比べなどを配信を通じて行なっているが、視聴者はそれを聴き分けてコメントなどをくれるので、確実に伝わっていることを実感している。

グランドループを断つ「DI」導入はお勧め

前述のとおり、機材的にはリーズナブルな、誰でも使えるミキサーなどを使っているわけだが、それなりのクオリティの音は出せている。もちろん、そのためにはしっかりと音が出るか、レベルは正しく送られているか、ノイズは乗ってないか、など入念にリハーサルは必要だが、その際に問題が生じるのも日常茶飯事。

単純にケーブルの接続ミスなどであればいいが、ケーブルが断線していたり、接触不良などもよくあるケース。リハーサル時にしっかりとチェックしながら、ケーブルの交換なども含め、正しく接続するようにしている。

しかし、それでも「ブーン」というノイズがどうしても乗ってしまうことがしばしばある。とくにUSB接続の楽器とUSB接続のオーディオインターフェイスを接続した場合は、必ずと言っていいほど問題が起こる。

これは、グランドループと呼ばれる現象で、かなり耳障りなハムノイズが乗る。これを断ち切るためには、DI(=ダイレクトボックス)と呼ばれる機器を間に挟むようにしている。トランスを介すことで、直接接続を避け、グランドループを切るのだ。機材からの音を配信で届けたいという場合、このDIだけは備えておくことをお勧めする。

グランドループを断つDIは、ノイズ対策に有効

音に関して行なっているのはその程度で、特殊な機材などを使っているわけではない。

WindowsマシンやMacからの音はなるべくオーディオインターフェイスを介してミキサーに送っているが、場合によってはPCのヘッドフォンジャックからミキサーに直接接続してしまう…というケースもあるくらいなので、実は結構いい加減なところもあるが、ノイズが乗らず、レベルさえしっかり合わせることができれば、実用上は問題なかったりもするのだ。

先ほどの接続図を改めて見てもらうとわかるが、このシステムにおいて配信のためのオーディオインターフェイスは使っていないのも面白いところ。前回も触れたが、多くの人が使っているOBSでの配信ではなく、配信専用機であるLiveShell.Xを使っているためにオーディオインターフェイスがないのだ。そしてLiveShell.XにはVR-4HDからビデオとオーディオがセットでHDMIケーブル1本で届けられるといういたってシンプルな構成になっている。

ここでもう一つ補足しておくと、1年ほど前からLiveShell.Xを2台体制にしている。

「LiveShell.Xが1台あれば3回線の配信ができるのになぜ?」と思うかもしれない。確かに、これまで1台でニコニコ生放送、YouTube Liveを配信しつつ、microSDカードへの録画ということを行なっていたが、実はこの3つの合計には上限がある。そう、1080p60が上限で、録画を1080p30で行なうとニコニコ生放送もYouTube Liveも720p30までしか扱えない。そこで、2台のLiveShell.Xを使えば、すべて1080p30で配信できるようになる、というわけだ。

2台体制の「LiveShell.X」

ただし、そのためには、VR-4HDで送られてきた信号を2つに分ける必要がある。ここにはAmazonで1,000円程度で買った機材を使っている。こうしたHDMIの安物機材は壊れやすい、という話はよく聞くので、いつか故障するのでは? と冷や冷やしながら運用しているのも事実。サンワサプライのHDMIスプリッターも予備に用意しているのだが、今のところトラブルなく運用できている状況だ。

サンワサプライのHDMIスプリッター

以上、3回に分けて「DTMステーションPlus!」の配信システムについてお伝えしてみたが、いかがだっただろうか? まだまだ改善の余地はあるとは思うが、こんなシステムで普段配信しているのだ。過去のアーカイブもほとんど見れるようになっているし、隔週火曜日の20時30分から22時30分に生配信を行なっているので、よかったらぜひご覧いただければと思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto