藤本健のDigital Audio Laboratory
第1013回
クラファン2億円超えの“1台で3Dサラウンド”スピーカー「pavé」がやって来た
2024年6月10日 08:00
昨年7月に開発者インタビューという形で紹介した小さなスピーカー「pavé」(パヴェ)。9.5cm四方の手のひらに乗るスピーカーだが、音楽を再生すると、スピーカーは目の前にありながら音が左右幅1mくらいの範囲から立体的に聴こえてくる不思議なデバイスだった。
筆者は昨年、クラウドファンディングの開始日に申し込みをしており、先週ついにファーストロットのpavéが届いた。実際に自宅で試してみたところ、思っていた以上に面白いスピーカーだったので、改めてユーザーとしてレポートしてみたい。
GREEN FUNDINGで過去3番目の大記録。トータル2億3,450万円の支援に
pavéは、東京都台東区にある10人ほどの社員で構成された日本の技術ベンチャー・Cear(シーイヤー)株式会社が開発した画期的なスピーカーである。
一口に“3Dスピーカー”と表現してしまうと「あ~、よくあるやつね」と思われてしまいそうだが、既存のそうした類のスピーカーとはまったくの別物になっている。
まさにこの小さな箱から音が飛び出して、その左右前後にあるスピーカーから音が出ているかのように聴こえる機材。実際に体験して聴いてみないとなかなか信じられない、不思議なスピーカーなのだ。
昨年9月にGREEN FUNDINGで開始されたクラウドファンディングでは、39,800円という価格ながら、スタート翌日には1,000万円の目標を達成。その後クラウドファンディング期間の延長などもあり、最終的には5,450人が支援し、トータル2億3,450万円が集まるという大成功を収めた。ちなみに、GREEN FUNDINGのクラウドファンディングとしては、過去3番目の金額を集めたという。
筆者はこれまで、国内外含めて、さまざまなクラウドファンディングに支援してきた。主には音モノのガジェットだったが、とくに海外のクラウドファンディングはその後音沙汰がなくなり、ただただお金が消えていった……というケースも少なくない。
しかし、国内のクラウドファンディングではそうした問題にはこれまで遭遇していないこと、実際に動いている実物を目の前で見て聴いて体験していること、そして開発者にも直接会って話を聞いて間違いないと確信していたこともあって、クラウドファンディングスタート初日というより、スタートして数分後には購入して楽しみに待っていたのだ。
もっとも当初の製品到着予定は3月以降という記載になっていたが、一台一台のキャリブレーションが必要になったり、基板実装作業の工程でマイクの不具合問題が発覚するなどでスケジュール調整に。その後、無事に生産が軌道に乗り、6月頭からの配送開始となり、そのファーストロットが、6月4日にウチが届いたわけだ。
まあ、クラウドファンディングに納期遅延はいつものことだし、そうした途中経緯のメールは、あまりしっかり読んでいなかったこともあって、出荷の通知メールが来たときには「もう届くのか!」と逆に驚いてしまったほど。
郵便局が届けてくれた段ボールを開けると、クラウドファンディングのお礼状とともにpavéの箱が登場。箱には、Bluetoothだけでなく、Auracastロゴもあってちょっとびっくり。
支援後、きちんととクラウドファンディングサイトの更新を見ていなかったので、全然わかっていなかったのだが、Auracast対応トランスミッターも今後製品化されるとの情報がページで発表されていたようだった。また、世界初のSnapdragon Sound対応ポータブルスピーカーということもあって、しっかりSnapdragon Soundのロゴも箱にプリントされていた。
箱をあけると、取扱説明書と黒いケースが現れた。これがpavé専用のキャリーケースとなっているのだが、ケースを開けるとpavé本体、USBケーブル、カラビナが出てきた。
とりあえず電源ボタンを押してみると、起動音が鳴るとともに「Pearing mode」という声が聞こえ、LEDが赤と青に点滅し始めた。
この状態で、手元のiPhoneのBluetooth画面を開くと「Cear pave CP-4000」という表示があるのでこれをタップ。するとpavéから「pearing success.Connected」という声が聞こえ、ペアリングが完了した。
目の前にスピーカーがあるのに、違うところから音が聴こえる!
さっそくiPhoneで音楽再生してみると、「わぁ!」と驚く不思議な感じで音が聴こえてくる。目の前にスピーカーがあるのに、違うところから音が聴こえてくるのは、やはり不思議な感覚だ。
ステレオの楽曲であれば、どれでも音が同じように音が飛び出してくる。が、より立体的なサウンドの楽曲を試してみたくなった。
というわけで以前、自分のレーベルであるDTMステーションCreativeからリリースした小岩井ことりさん歌唱のASMRサウンド=バイノーラルサウンド楽曲「oyasumi」を再生させてみた。この曲、配信などをしていないが、以下のSound Cloudでそのデモを聴くことができる。
【Sound Cloudリンク】
https://soundcloud.com/kenfujimoto/oyasumiry?si=06999fc708bc4995b7b70d3a3d86c0a0&utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing
この曲、ボーカルが自分の周りを360度回りながら歌うようにミックスしているのだが、仕事用のデスクにpavéを置いて約30cm離れたところから鳴らしてみると、確かに小岩井さんがスピーカーから飛び出してpavéを中心に半径50cmくらいを回っているような感じに聴こえる。
ただし、自分の斜め後ろ辺りが限界。真後ろには来ないで前にいるように感じてしまうのはpavéというより、この楽曲のミックスの限界かもしれない。
ところで、この時点ではいきなりpavé使っていて、まだマニュアルを見ておらず、このサイコロ状のスピーカーの、どちらが前で、どちらが上かも分からず適当に机の上に置いていた……。
マニュアルを見てみると、やはり設置の仕方を間違えていたようだ。けれど、たまたま左右は合っていたので結果的には問題なし。正解は正面からCearのロゴが正しく見える形で設置する、ということのようだった。
このマニュアルには左右にスピーカーがあるように書かれていたので、サイドをライトで照らしてみると、ハニカム状の穴が開いていて、その中に左右1つずつスピーカーが設置されているようだ。
音楽再生中にpavéに触れてみると、確かに振動していて、ここから音が出ているのだと感じられる。試しに片手で右側のスピーカーをふさいでみると、飛び出していた音が急にこのサイコロ型のボックスの中に戻ってしまうように感じられるのも面白いところ。魔法のランプならぬ魔法のスピーカー、という感じ。
また30cmの距離で座って聴いていたところから、立ち上がって50cm位、下にpavéを見る形にしてもまだ立体的に聴こえるが、飛び出し具合は少し弱くなる。逆に立ったまま1m程度下がってみると、少し立体感が戻ってくる感じだ。
また左右に動いてみたところ、pavéから見て90度の角度内にいると、それなりに飛び出しているけれど、その範囲を外れると急に立体感がなくなりpavé本体から音が聴こえてくる感じになる。スウィートスポットは、正面で30cmから50cmくらいの距離で聴くのが良さそうだ。
仕様を見ると、このスピーカーは左右それぞれ15Wの出力とのことで、一般家庭で最大音量で鳴らすと、かなりな爆音だ。ただ、最大音量にしても音が割れるということはない。
また微弱な音量で出すより30%程度以上の音量にしたほうが、より立体的に音が聴こえるようだ。もっとも、それ以上にしても音像が広がるとか、立体感が変化するわけではないが。
ちなみに、このpavéの重さは465g。手のひらに乗せるとある程度の重さを感じるが、それはこの中にリチウムイオンバッテリーが搭載されているため。この内蔵バッテリーのおかげで、約8.5時間の連続再生が可能になっている。充電はUSB Type-C端子から行ない、フル充電に約4.5時間がかかるとのことだ。
Movieモードは、音がより広がって60cm~70cmくらい飛び出してくる
そのマニュアル、もう少し読んでみると、実はいろいろな機能があることも分かってきた。リアパネルに音量調整のための+ボタンと-ボタン、それに電源ボタンとマルチファンクションボタンがあるのだが、これらを使っていろいろな操作ができるようになっている。
まずは3つのモードがあるとのことで、+ボタンとマルチファンクションボタンを同時に押して切り替えてみた。
最初に聴いた音は「Standard」モードで、次に「Music」モード、さらにもう一回押すと「Movie」モードが繰り返されるようになっている。それぞれで極端な違いがあるわけではないのだが、Musicモードにすると、より解像度が高くクッキリした音になる。音の飛び出し方は少し弱くなり、50cm飛び出ていたのが40cmくらいになる印象。
一方、Movieモードにすると、音がより広がって60cm~70cmくらい飛び出した感じになって、pavéの面白さが実感できた。Movieにしても、音がボケてしまうようなことはないので、個人的にはMovieモード固定でいいのでは? と思ったくらいだ。
ボタン操作で再生・停止のコントロールができたり、ペアリングモードに入るなど、いろいろな操作があるが、Bluetooth接続自体でマルチファンクションボタンを押すと「通話」と書かれていたので、「ん?」と思ったのだが、実はpavéにはマイクも搭載されていて、通話もできるようになっている。
マイクは天面に4つ内蔵されており、ビームフォーミングによって集音することで、しっかり通話もできるようになっていた。
ボタンの上にある蓋を取り外してみると、中に4つの端子、というか穴がある。
左からリセットスイッチ、充電LED、USB Type-C端子、そして3.5mmステレオライン入力だ。このUSB Type-C端子は充電用にも使える一方、PCなどに接続すれば、USBクラスコンプライアントなオーディオデバイスとして認識され、普通にUSBスピーカーとしても使えるようになっている。
Windowsマシンに接続して再生してみたところ、Bluetooth接続したときと同様、音が飛び出して聴こえてくる。確認してみたところ、信号的には16bit/48kHz、24bit/48kHz、24bit/96kHzのそれぞれに対応しているようだ。また3.5mmのステレオミニにケーブルを挿しても、きちんと立体的に音が飛び出してくるので、入力は何でもOKとなっている。
ちなみに、Bluetooth接続して、USB接続して、さらにアナログ接続した状態で、それぞれから音を出すとどうなるのか。
これを試してみた結果、ミックスされるのでなく、Bleutooth>USB>アナログという順番の優先度になっていた。つまり3つ同時に出せばBluetoothが優先され、アナログとUSBであればUSBの音が出る形となっているようだ。
ブロードキャスト機能「Auracast」も試してみる
さて、もう一つ試してみたかったのが、パッケージにロゴがあったAuracastだ。
Auracastがどのような機能なのか? ということについては割愛するが、先日「最新Bluetoothのブロードキャスト機能を体験! LE Audioでサイレント阿波踊り」という記事でその実験レポートをしているので、そちらを参照いただきたい。
Auracastをpavéで使うようなシチュエーションがあるかどうかは分からないが、実際に使えるとしたらちょっと面白そう。
ということで、さっそく接続の実験をしてみた。
といっても、手元にあるAuracastのブロードキャストができる機材は、クリエイティブメディアのBluetooth LE対応のヘッドフォン「ZEN HYBRID PRO」に付属しているドングルのみ。これをブロードキャスト状態にしてpavéで音が出せるのか……。
ドングルをブロードキャストモードにすると、ZEN HYBRID PROはブロードキャスト状態で接続され、それを意味する紫のランプが点灯する。一方、pavéの電源を入れ、ペアリングモードにしてみたが、どうも反応しない。
他に何か方法がないかマニュアルを探してみたのだが、どうもこれに関する記載がないようなのだ。
そこで、Cearの広報担当者に連絡したところ、「Auracastには標準で対応しているので、ブロードキャストされている状態でpavéを起動すれば自動的に接続されるはずです。ただ、当社でもAndroidでブロードキャストさせてみたところXperia 1 Vの場合はうまく接続できたのですが、Galaxyでは接続できないといった問題がありましたので、いろいろチェックしているところです」とのお返事。
先日のサイレント阿波踊りの際に東芝やソニーに話を聞いたところ、Auracastはまだ対応デバイスが少ないので、相性問題も多く、各社で調整中……といったことを言っていたので、単に相性問題ということなのかもしれない。
一方、pavéにはもうひとつ独自のAuracast活用機能が搭載されている。
それはシーイヤーが今後発売する予定のAuracast対応トランスミッターを利用することで、複数のpavéを連携させ、それぞれをマルチチャンネルスピーカーとして使うというもの。
この動作には、CearLinkという独自のプロトコルを利用するのだとか。
今回購入したpavéは1台だけなので、CearLinkのテストはできなかったが、前述の4つのボタンを操作するとともに、pavéを回転させることで内部にあるジャイロセンサーが反応。フロントセンター、フロントレフト、フロントライト、リアセンター、リアレフト、リアライトと6つのモードに変身させるとともに、それぞれを連携させてマルチスピーカーで利用できるようになっているようだ。
以上、届いたばかりの小さなスピーカー、pavéについてレポートしてみた。
実際に音を聴いてみないとこれの面白さはなかなか伝わらないかもしれないが、間違いなく画期的なスピーカーだといえそうだ。すでにクラウドファンディングは終了してしまったので、今から申し込むことはできないが、クラウドファンディングへの参加者5,450人にモノが届いた後には一般販売をスタートさせる予定と聞く。
価格はクラウドファンディングで示していた39,800円にする予定ではあるけれど、状況によっては多少の変動もありうるとのこと。クラウドファンディングに参加できなかった方は、もうしばらく待つしかなさそうだ。