藤本健のDigital Audio Laboratory
第577回:コルグのDSD対応USB DAC新機種「DS-DAC-100」を試す
第577回:コルグのDSD対応USB DAC新機種「DS-DAC-100」を試す
ポータブルも登場。春に提供の「AudioGate 3.0」もチェック
(2014/1/20 14:09)
e-onkyo musicやOTOTOYなどの音楽ダウンロードサイトにおいてDSDのコンテンツが人気になっているが、DSDのネイティブ再生が可能なハードウェアの選択肢は、まだ限られているのが実際のところだ。そんな中、昨年末にコルグから新たなハードウェア「DS-DAC-100」(実売55,000円前後)とDS-DAC-100m(同30,000円前後)が発売された。従来からあったDSD-DAC-10の兄貴分と弟分といった機材だが、実際どんなものなのか試してみた。
なお、プレーヤーソフトの「AudioGate 3」については、既報の通りダウンロード提供開始時期が2014年春に延期されたが、今回はベータ版のソフトを使ってレビューしている。
上位モデルにはXLRバランス出力装備。本体内部もチェック
2012年11月にコルグが発売したDS-DAC-10は、現在も40,000円前後で販売されている人気のUSB-DACだ。堅牢なボディーにはフロントにヘッドフォン出力、リアにRCAのアナログ出力とコアキシャルのデジタル出力を装備するもので、USBバスパワーで動作するから手軽に扱うことができる。DSD対応のUSB-DACとはいえ、もちろんPCMを扱うこともでき、44.1kHz~192kHzまでの再生に対応している。
DSD-DAC-10の設計思想などについては、製品が発売された当時、開発者インタビューを行なっているので、そちらを参照いただきたいのだが、もともとは社内の開発ツール用に作った機材が、予想外に評判がよく、ほとんどそのまま製品化した、とのことだった。また、こだわりとしてあったのは、オーディオ機器として危険な可能性を持つDoPにはあえて対応しない、という点。ここについてはユーザーにも賛否両論あるようだが、個人的にはDoPによる事故で爆音ノイズを出した経験があるだけに、コルグの考え方には賛同するところだ。
その人気機種、DS-DAC-10の上位モデルとしてDS-DAC-100が、下位モデルとして“ポータブル”のDS-DAC-100mが登場した。並べて写真に撮ってみると、大きさが結構違うことがわかるだろう。奥行はどれもほぼ同じだが、横幅、高さ、重さでいうと、だいぶ異なる。いずれの機種もフロントにヘッドフォン端子がある一方、リアはRCAだったり、XLRバランスだったり、ステレオミニだったりと、いろいろ。またPCMだけが対象ではあるがデジタルアウトを装備しているのは、DSD-DAC-10だけ、となっている。
最上位機種のDS-DAC-100は、ずいぶん不思議な形になっているが、机の上などに置いてみると、とても安定している。不思議に思って、底面を見てみると3つのスパイクで設置される形になっていた。
3機種とも基本的なスペックはほぼ同様で、違いはサイズや出力端子の種類くらい。実際、DAコンバータは3機種ともにCirrus LogicのCS4398が採用されているし、ドライバ的にも共通となっており、DS-DAC-10を取り外し、そのままDS-DAC-100を接続したり、これを抜いてDS-DAC-100mを接続してみても、どれも問題なく使うことができた。
型番 | DS-DAC-10 ('12年発売) | DS-DAC-100 | DS-DAC-100m |
---|---|---|---|
DAC | Cirrus Logic CS4398 | ||
入力フォーマット | DSD:2.8224MHz/5.6448MHz、1bit PCM:16bit/24bit、 44.1kHz/48kHz/88.2kHz/96kHz/176.4kHz/192kHz | ||
ホストインターフェース | USB2.0(ハイスピード) | ||
オーディオドライバ | ASIO(DSD再生はASIO2.1以降のDSDオプションに対応) WDM、Core Audio | ||
電源 | USBバスパワー(5V 最大500mA) | ||
外形寸法 (幅×奥行き×高さ) | 120×150×48mm | 206.5×159.5×60.0mm | 92×129×19.5mm |
重量 | 530g | 862g | 175g |
周波数特性 | 10Hz~20kHz ±1dB(fs=44.1kHz/48kHz) 10Hz~40kHz ±1dB | ||
出力コネクタ | RCA | RCA(アンバランス) XLR(バランス) | 3.5mmステレオミニ |
ヘッドフォン出力 | 6.3mm標準 | 3.5mmステレオミニ | |
最大出力 | 85mW+85mW @32Ω | ||
USB(デバイス) コネクター | タイプB | タイプB | タイプ ミニB |
同軸デジタル出力 | ○ | - | - |
試しに、DS-DAC-10が接続されている状態でDS-DAC-100を接続してみると、再生デバイスが2つ見えて、一見両立しているようにも見えたが、既定のデバイスを切り替えてみるとうまく再生することができず、エラーが起きてしまう。やはり利用できるのは、いずれか1つということのようだ。
では、それぞれで音の違いはあるのだろうか? とりあえず、フロントのヘッドフォン端子にヘッドフォンを接続して聴き比べてみたところ、音の違いはほとんどわからない程度。微妙に違う気がしないでもないが、傾向はどれもほぼ同じであり、音量レベル的にも変わらない。ヘッドフォンで聴くことだけが目的なのであれば、一番安いDS-DAC-100mで十分のような気もする。ただし、操作感という意味ではDS-DAC-100およびDS-DAC-10はボリュームノブで音量をコントロールできるのに対し、DS-DAC-100mはボタンでのコントロール。オーディオ機器であることを考えると、この重めなノブが気持ちいいところではある。
リアのアナログ出力でアンプに出力して再生するとどうだろうか? こちらは、接続先が異なるので、やはり音が変わってくるが、聴いた感じのS/NはDS-DAC-100のXLRで出力するのが一番いい感じだ。一方、DS-DAC-100のRCA出力とDS-DAC-10のRCA出力では、ほとんど違いは分からなかった。一方のDS-DAC-100mの場合は、ケーブルの性能というものもありそうだが、若干高域が欠けるように感じたが、これはステレオミニ出力というのがボトルネックになっているのかもしれない。
ここで気になったのは、DACのチップが同じだとしても、それぞれの機種によって、アナログ回路が大きく違うのではないか……、という点。そう、デジタル的には同じであっても、ボディーが大きいDS-DAC-100には、電解コンデンサが石油コンビナートのように並んでいるけれど、小さなDS-DAC-100mはその辺が省略されているのではないか……といったことだ。3機種ともコルグからの借り物であるので、分解するのはさすがに躊躇があったが、フタをあける程度なら……と思い、覗いてみた結果が下の写真だ。
DS-DAC-100の場合、基板の裏側しか見ることができなかったが、隙間から覗くことはできたので、なんとなく雰囲気は分かるだろう。これらの基板を見る限り、半導体回路による回路が中心であり、すごいコンデンサが並んでいる、という回路ではないようだ。また、オーディオ機器メーカーのように左右をシールドでしっかり分けたシンメトリー構造のものとも違い、比較的シンプルなものとなっているようだ。
一番ハッキリ撮影できたのは小さいDS-DAC-100mだが、チップの配置などを見てもDS-DAC-10のものとほとんど同じ基板になっているのも分かる。こうした点を見ても、それぞれの機器の違いは端子部分が中心であり、アナログ回路が大きく違う、というわけではなさそうだ。
大幅に強化された「AudioGate 3.0」も春に提供予定
ところで、このコルグのDSD対応DACが本領を発揮するのは、同社のプレーヤーソフト、AudioGateを使用した際だ。Windows版、Mac版ともに現状のバージョンは2.3.3。当初、このDS-DAC-100とDS-DAC-100mのリリースに合わせ、新バージョンのAudio Gate 3.0がリリースされるはずであったが、開発の遅れを理由に、リリースはこの春へと延期されてしまった。ただ、まだベータ版ではあるが、AudioGate 3.0を入手できたので、これを少し試してみた。
なお、後述するDSD編集機能を省いた「AudioGate 3 Player Version」は'14年1月下旬に提供される。また、従来バージョンのAudioGate 2.3はDS-DAC-100/100mでも使用可能としている。
AudioGate 3.0を起動してみると、見た目が大きく変わっているのがわかる。従来のAudioGateは、もともとデータコンバータ的なものが生い立ちになっているだけに、プレーヤーとしての操作性については、いろいろ注文を付けていた人も多いと思う。しかし、3.0になるとプレイリストが使いやすくなっている。
具体的な強化点をいくつか挙げると、まずはプレイリストの管理がしやすくなると同時に、iTunesの楽曲が読み込めるようになったのは大きい。またDSDのデータであっても波形表示がされ、現在どの辺が演奏されているかも一目でわかるようになった。さらに、その波形を表示させて、マーカーを付けたり、分割するといった編集機能も追加されている。そして画面サイズを自由に変えられるようになり、画面全体に最大化することもできるようになったのも大きなポイントだ。また、画面の背景を変えるといったこともできるようになっている。というのも、AudioGateは内部的にプレーヤーのエンジン部分とGUI部分の2つから構成されており、表示や操作に関する部分はHTML5で制御できるようになっているので、自由度が大幅に向上しているからだ。
ちなみにWindowsにおいては、DS-DACシリーズがASIOドライバに対応しているため、DSDのネイティブ再生は必ずしもAudioGateを使わなくても、foober2000やHQPlayerを利用するという手があるが、MacにおいてはAudioGateが必須となる。というのも、MacにはASIOドライバが存在しないため、CoreAudioドライバを使うのだが、この際DoPを使うのではなくASIO 2.1的な扱いで直接DSDデータを転送しているからだ。この点についてはAudioGate 3.0でも同様のようだ。試しに、Audirvana PlusでDoPモードにしてDSDを再生してみようとしたが、やはり音はまったく出なかったので、DoPに対応したということはなさそうである。
そのほか使い勝手や機能面においてはWindowsもMacも完全に同じ。もちろんプレーヤーとしての機能だけでなく従来のようにファイルコンバータの機能も装備しているから、いろいろな使い方ができそうだ。なお扱えるファイル形式はAudioGate 2.3.3と変わらない。
以上、コルグのDS-DACシリーズとAudioGate 3.0について見てきたが、いかがだっただろうか? DSDのコンテンツが増えてきている中、やはりDSDをネイティブ再生できる機材は1つは手元に置いておきたいところ。そのための選択肢が増えたというのはうれしい。今回、音質性能などを測定をしたわけではないので、あくまでも筆者が聴いた感じではあるが、3つの機種において極端な音の違いがあるわけではなさそうだ。ただ、大きさ、形状、接続端子の違いなどがあるので、目的に合わせて選べばいいのではないだろうか。
DS-DAC-100 | DS-DAC-100m |