藤本健のDigital Audio Laboratory

第625回:新「SONAR」注目のDSD対応を試す。バージョン一新でどう変わった?

第625回:新「SONAR」注目のDSD対応を試す。バージョン一新でどう変わった?

 ティアックから米Cakewalk「TASCAM Professional Software」ブランドのDAW、SONARの新シリーズが間もなく発売される。この新SONARには、ティアックの技術協力によってDSDに対応する機能が搭載されている。SONOMAやPyramixなど、DSDを前提としたDAWを別にして、一般的なDAWでDSDサポートされるのは今回が初めて。実際どんなものなのか試してみた。

ティアックが先日行ったSONARの記者発表会

サブスクリプションとは異なる“メンバーシップ制”に。注目はDSD対応

SONAR発表会の模様

 「ティアックがCakewalkのSONARを発売? 」と不思議に思われる方もいると思うので、新SONARの話をする前に、少し会社の状況についての整理を行なっておこう。ご存じの方も多いと思うが、Cakewalkは長年ローランドと提携関係にあり、2008年にはローランドの100%子会社となっていたが、2013年9月に米Gibsonへと売却され、Gibson傘下へと移り替わった。一方、日本の老舗オーディオメーカーであり、プロオーディオ機器のTASCAMブランドを持つティアックも、2013年3月にGibsonに買収されており、同じオーディオメーカーであるオンキヨーとともに現在はGibson傘下の外資系企業となっている。

 つまりCakewalkとティアックはGibsonを親とする兄弟会社の関係にあり、国内でのSONARの発売元も2014年に発売されたSONAR X3からは、ローランドではなくティアックへと変わっている。またブランドも国内ではCakewalkではなく、TASCAM Professional SoftwareのSONARとして展開する形となっている。

 そのSONARは、これまでSONAR X1、SONAR X2、SONAR X3と毎年バージョンアップを重ねながら機能強化が図られてきたので、当然今度はSONAR X4になるのかと思っていたが、ちょっと違っていた。バージョン番号がなくなり「SONAR」となるとともに、グレードによって上からSONAR PLATINUM、SONAR PROFESSIONAL、SONAR ARTISTの3製品となったのだ。なぜ、バージョン番号を廃したのかというと、販売・サポート方式として「メンバーシップ制」を導入したことにより、毎月のように新バージョンを出して機能強化を図っていく体制をとったため、SOANR X4といった名称を採用しなかったのだ。

 なお、発売時期については、当初ダウンロード販売を2月下旬としていたが、3月上旬に延期されている

左から、SONAR PLATINUM、SONAR PROFESSIONAL、SONAR ARTIST
今回の新モデルから、「メンバーシップ制」を導入
CakewalkのMichael Hoover社長

 このメンバーシップ制に関する詳細についてはTASCAMのサイトに記載されているが、SONARの新製品発表会において、Cakewalkの社長、Michael Hoover氏が強調していたのは、「メンバーシップ制はサブスクリプション制とは異なる」ということ。

 AdobeのPhotoshopなどで採用されているサブスクリプション制は、お金を支払っている期間に利用可能という実質的なレンタル型であるのに対し、SONARのメンバーシップ制は買い切り型であり、メンバーシップ契約が切れてもソフトは使い続けることができるのだ。また従来との違いは、年に1度の大きいバージョンアップではなく、毎月のように新機能が追加されている形で、契約期間中はそのアップデートが受けられるというのだ。基本的に12カ月分がパックとなっているので、購入すれば、1年後のバージョンまで入手できるというメリットがある。ただし、サポートを受けられるのは契約期間中のみなので、その後のサポートが受けられないというのがデメリットとなるわけだ。

 さて、その新SONARの中の最上位バージョン、SONAR PLATINUMをインストールしてみた。このインストールは、Cakewalk Command Centerというソフトを用いて行なうのが、従来のSONARと大きく違う点。従来はDVD-ROMを使ってインストールしていたのに対し、新SONARでは、まずダウンロードして入手するCakewalk Command Centerを起動してログインすると、インストール可能なソフトやモジュールの一覧が表示される。この中から必要なものを選べばあとは自動的にネットからダウンロードしてインストールしてくれるのだ。

Cakewalk Command Center
必要なソフト/モジュールを選んでダウンロードする

 起動してちょっと使ってみると、正直なところ「SONAR X3とどこが違うのだろう? 」というくらい、見た目での違いはない。が、リリースを見ると、主な新機能として、以下のようなものがある。

  • 複数のボーカルパートに一体感を与えるボーカルシンク機能
  • ProChannelにREmatrix soloサンプリングリバーブを搭載
  • 操作性のさらなる向上を目指し改善されたコントロールバー
  • ワンクリックで簡単にミックスの切り替えが可能なミックスリコール機能
  • タイムストレッチ、クオンタイズを自在に操ることができるAudioSnap機能を強化
  • 16台のアンププリセットを持つバーチャルアンプシュミレーターを搭載
  • MIDIフレーズの編集作業を飛躍的に向上させるパターンツール機能
  • エフェクトの全体像を簡単に把握しコントロール可能なFXスタック機能
  • DSDのインポート/エクスポートに対応
  • VST3 MIDIマルチインプットバスに対応
新SONARの画面。一見したところX3と大きな違いはなさそうだ

 これら新機能の中で、ここで注目するのはDSDのインポート/エクスポートについて。実は、アメリカではまだ知名度も低いDSD。Cakewalkの英語サイトにおける新機能でも、最後のほうに、小さく記載されているだけ。これは日本のティアックからの強い要望によって搭載したものであり、実際ティアックからエンジニアが1名、渡米して、この機能を実装したのだとか……。現在の主要DAWでDSD対応しているものはないので、日本のユーザーで、ここに注目している人は少なくないだろう。

DSD入出力をチェック。入力時にPCM変換して最高11.2MHz書き出し

 では、実際のところDSDのインポート/エクスポートはどのようになっているのか? 試してみた。まず、インポートからだが、SONARの場合オーディオのインポートは、まずプロジェクトを作成しておき、ここに読み込むというのは、従来からと同様。これまでもWAV、AIFF、MP3、FLAC……と各種フォーマットを読み込むことができたが、ここにDSDのファイル形式であるDSFおよびDSDIFFが加わった格好だ。

プロジェクトを作成しておき、ここにオーディオを読み込む
DSFとDSDIFFにも新たに対応した

 また、あらかじめプロジェクトを作成しておく関係上、そのプロジェクトのフォーマットが44.1kHz/16bitなら44.1kHz/16bitに、96kHz/24bitなら96kHz/24bitのPCM信号に変換された形でトラックに読み込まれることになる。

 試しに96kHz/24bitのプロジェクトに5.6MHzのDSDファイル(DSFフォーマット)で3分33秒の曲を読み込んだところ、筆者のPC(CPU:Core i7 4770K、メモリ:16GB、OS:Windows 8.1 64bit)で約40秒かかった。PCM化されたトラックをそのままストレートに再生することもできるし、ProChannelというチャンネルストリップを通して音を出してみたり、必要に応じてマスタリングエフェクトなどをかけて再生することも可能。

 まあ、できることならば、DSDネイティブのままトラックに読み込めるとよかったのだが、それは、PCMのDAWであるという性格上不可能ということなのだろう。またトラックの再生はASIOドライバ、WASAPIドライバを利用し、オーディオインターフェイスを介して行なうことになるが、トラック自体がPCMなのだから、ドライバへの流れも普通のPCM。ASIO 2.1でのDSDストリーミングやDoPを使った再生といったものには対応していない。

筆者のPCでDSFファイルを読み込んだところ
再生はASIO/WASAPIドライバを使い、オーディオインターフェイスを介して行なう

 続いて、SONARで作成したプロジェクトをDSDにエクスポートするテストも行なってみた。最初、SONARで作成されたマルチトラックの大きなデータをDSDでエクスポートしようとしたところ、そもそものトラックのミックスダウンに時間がかかるので、ここでは2トラックの96kHz/24bitの5分6秒の曲を読み込み、これをDSD化したのだ。

2トラック、96kHz/24bitの曲を読み込んでDSD化

 具体的には、まず2.8MHzのDSF、DSDIFFのそれぞれのファイル形式で書き出してみたところ、両方ともに48秒かかった。設定項目を見ると分かる通り、対応しているDSDのサンプリングレートは2.8MHz、5.6MHz、11.2MHzの3つ。せっかくなので同じデータを5.6MHzおよび11.2MHzのDSFで書き出してみたところ、それぞれ108秒、192秒かかった。

 まあ、96kHz/24bitのデータを5.6MHzさらには11.2MHzで書き出すことに意味があるのかは分からないが、とりあえずしっかり演算した上で書き出してくれるわけだ。また、デフォルトではフィルタの種類が「90% of Nyquist」となっているが、そのほかにもNyquist Frequency、Large Order FIR、FFT FIRのそれぞれを選択することも可能になっている。

2.8MHzのDSFとDSDIFFで書き出してみた
DSDのサンプリングレートは2.8/5.6/11.2MHzに対応
フィルタの種類

 では、こうして書き出したデータは、本当にDSDのファイルになっているのか、確認のため、KORGのAudioGate3を使って再生できるのか確認してみた。結果的には当然ではあるが、2.8MHzのもの、5.6MHzのものともに、読み込んで再生することができた。ただし、11.2MHzはAudioGate3が対応していないし、筆者の手元にもそれに対応するデバイスがないので、確認することができなかったが、きっと問題はないだろう。

AudioGate3を使って再生できた

DSD対応オーディオインターフェイス登場と、DAWのDSDネイティブ対応に期待

 以上、SONARによるDSDのインポートとエクスポートを試してみたが、現在DSDはマスタリングのファイルフォーマットとして定番化しているだけに、DAWから直接DSDの書き出しができるというのは、一つ大きな進化だと思う。今後、同様のアプローチをするDAWも登場してきそうであるが、ここは長年DSDに取り組んできたティアックの力があったからこそ、ということなのだろう。ちなみに、DAWではないが、国内でもインターネット社が3月中旬にリリースする波形編集ソフト、Sound it!8で、DSDのインポート/エクスポートに対応することを発表しているので、これも入手できたところで試してみる予定だ。

 今後は、インポート/エクスポートだけでなく、DSDネイティブでの録音と再生への対応が望まれるところだが、そのためにはDSDネイティブ対応のオーディオインターフェイスが必須となる。現状においては、まだ再生専用であるUSB DACがDSD対応しているだけで、録音に対応したものは存在していない。ここは、ぜひオーディオインターフェイスのメーカーであるティアックのTASCAMブランド製品に期待したいところだ。ティアックに確認したところ、「そうしたオーディオインターフェイスがすぐに登場することはない」としつつも、検討はしているようなので、ぜひ楽しみに待ちたい。きっと、SONARも、TASCAM製品に呼応する形で、DSDネイティブ対応してくれるに違いない!

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto