藤本健のDigital Audio Laboratory

第627回:16入力とDSP搭載で約42,000円のTASCAM USBオーディオ「US-16x08」を試す

第627回:16入力とDSP搭載で約42,000円のTASCAM USBオーディオ「US-16x08」を試す

 '14年9月にTASCAMの「US-2x2」、「US-4x4」というオーディオインターフェイスを取り上げた。いずれも96kHz/24bitのアナログ入出力を備え、2IN/2OUTと4IN/4OUTという機材。その上位版として「US-16x08」も同時に発表していたが、そのUS-16x08がようやく発売となった。価格はオープンプライスで実売は42,000円前後と、このスペックからすると安価なのが注目ポイントだ。

US-16x08

 こちらは名前からもわかる通り16IN/8OUTという仕様だが、単に入出力が多いだけでなく、内部にDSPを搭載し、各入力チャンネルにはEQとコンプレッサを使えるようになっている。実際どんな機材なのか、試してみた。

新デザインで最上位の16chモデル。入出力はアナログ

 US-16x08(US-Sixteen by eight)はTASCAMのオーディオインターフェイスの新ラインナップの中で最上位に位置付けられるもの。具体的にはUS-2x2、US-4x4の上位版であり、デザイン的にも共通。

US-16x08を正面から見たところ

 これらはMOOGやWaldorfなどのシンセサイザのデザイナーとして著名なドイツ人のAxel Hartmann氏によるデザインであり、側面を見ても一風変わったものだ。1Uラックマウント型ではあるが、前面が少し持ち上がった形状であるため、デスクトップ上で使う場合、普通の1Uラックマウント型よりも操作しやすいのも特徴だ。ラックマウントとして使いたい場合には、サイドのフレームを取り外し、ラックマウント用のものに交換することも可能になっている。

US-2x2やUS-4x4と同様に、側面パネルが特徴的なデザイン
サイドのフレームを取り外し、ラックマウント用に交換できる

 TASCAMのオーディオインターフェイスには、高品位なマイクプリアンプを搭載したUS-7000や、安いのに小さくて高機能なUS-366などがあるが、これらとは別ラインナップという位置づけのようで、デジタル端子を持たず、入出力ともにすべてアナログ。多チャンネルのオーディオインターフェイスの場合、adatなどのデジタル端子を使うことで、チャンネル数を稼いでいるものも少なくないが、US-16x08は全部アナログで用意しているというのも、他社製品とは違うところだ。そのためなのか、最高で96kHz/24bitと、あえて192kHz/24bit対応にさせていないのも割り切った印象を受ける。

 まずは基本的な入出力から見ていこう。フロントにはズラリと8つのXLR端子が並んでおり、すべてバランス入力となっている。IN1~4、IN5~8とそれぞれにファンタム電源スイッチが用意されており、これを使うことでコンデンサマイクの利用も可能だ。その右にはIN8、IN9というTSフォン入力が2つあり、各端子の右隣にLINE/INSTというスイッチがある。これをLINEにすればライン入力、INSTにすればHi-Z対応のギター入力端子として利用できるようになっている。いずれも、右に並ぶノブで入力レベル調整ができるようになっているのだ。一番右にはヘッドフォン端子と、ヘッドフォン用の音量調整ノブ、またリアのLINE OUT1-2用の音量調整ノブも用意されている。

前面のXLR端子
音量調整ノブ

 また、リアパネルをみると、上段がLINE IN、下段がLINE OUTとなっている。いずれもTRSフォンの端子となっており、バランスでの入力と出力。LINE INに関しては11-12、13-14、15-16と3つのペアという組み合わせであり、それぞれのペアごとにレベルを民生用の-10dBVにするか、業務用の+4dBuにするかの設定が可能となっている。一方のLINE OUTの8chともすべて+4dBuのレベルとなっているようだ。そのほかMIDIの入出力が1系統あるというのが外見上のスペックだ。

背面
TRSフォン端子。民生用-10dBV、または業務用+4dBuの選択が可能
MIDI入出力

EQとコンプレッサの両機能をチェック

Windows用ドライバとSettings Panelがセットになったソフトが公開されている

 US-16x08は単に16IN/8OUTのオーディオインターフェイスということに留まらない。DSPによる内部的なミキシングコンソール機能も備えているのだ。このミキシングコンソールを利用するためには、PC側からコントロールを行なう必要があるため、まずはドライバのインストールを行なった上でUSBで接続する。もっともUS-16x08自体はUSBクラスコンプライアントな設計になっているため、Macの場合ドライバは不要。といってもこのミキシングコンソールを利用するためにTASCAM US-16x08 Settings Panelというソフトをインストールする。Windowsの場合は専用のドライバとSettings Panelがセットになったソフトが公開されているので、これをダウンロードしてインストールする。

 接続して起動した画面が下の写真。ずらりと16chが並んでおり、外部から信号を入れるとレベルメーターが動き出す。1chと2ch、3chと4chのように隣り合った2つのペアをLINKボタンでリンクさせることもできるようになっている。

Settings Panel画面
外部から信号を入れるとレベルメーターが動く
隣のチャンネルリンクさせて操作することも可能

 画面を見て気づく人も多いと思うが、DSPを搭載しているオーディオインターフェイスではあるが、US-366のものとはだいぶ雰囲気が違う。その最大の理由はドライバの開発元が変わったことにある。この点については先日のUS-2x2、US-4x4の記事でも触れたが、従来はドイツのPloytecに外注していたものが、国内開発へと切り替わり、画面も機能も大きく変わるとともに、より安定したドライバになっているのだ。

 この画面で、やはり目立つのが上部にあるEQUALIZERとCOMPRESSORの存在だろう。これはDSPによって動作するUS-16x08本体内のEQとコンプレッサで、16chすべて独立して搭載されている。設定を行なうには、まず目的のチャンネルを選択した上でそのチャンネル上にあるEQやCOMPをクリックしてオンにする。するとEQUALIZER、COMPRESSORがアクティブになるので、画面上のノブを動かして設定するのだ。画面を見てもわかる通り、EQは4chのパラメトリックEQでローカットオフ機能も用意されている。またコンプレッサは5つのパラメータが並んでいるが比較的オーソドックスなものとなっている。

EQやCOMPをオンにする
4chのパラメトリックEQで、ローカットオフ機能も利用可能
コンプレッサは5つのパラメータが並ぶ

 ここでポイントとなるのは、このようにチャンネルストリップを組んで設定したサウンドはモニター用のものなのか、掛け録りができるのか、という点だろう。結論から言ってしまえば、これは掛け録りが可能となっており、EQ、コンプを経由した音がPCへと入っていくのだ。なお、EQの前段には位相反転のPHASEスイッチも用意されている。ただし、US-366やUH-7000に搭載されていたリバーブやコーラス、ディエッサ、ノイズゲートといったエフェクトは搭載されていないようだった。

 では、これがPCからはどのように見えるのだろうか? 先日紹介した、SONAR Platinumの環境設定から見ると、入力がステレオ8系統、出力が出力4系統として見える。ただし、この出力側に関しては、必ずしも先ほど見たリアパネルの出力端子とそのまま対応しているわけではない。これは、Settings PanelのOUTPUT SETTINGタブで設定できる。

SONAR Platinumの環境設定から見たところ
Settings PanelのOUTPUT SETTINGタブで出力側の端子を設定

 この画面を見るとわかる通り、デフォルトではPCのドライバとして見えるCOMPUTER 1~8が、そのままLINE OUT 1~8に割り当てられており、LINE OUT 1/2がヘッドフォン出力も兼ねている構造だ。では、何がここで設定できるのかというと、LINE OUTの各チャンネルに出力する信号をどれにするかを自由に変更できるのだ。設定次第では、同じ信号を複数チャンネルで出すこともできるし、MASTER L/Rとして設定することも可能。この場合、MASTERへはPCからの信号および入力に入ってきたものをミックスして出せるようになっている。つまり、この状態でダイレクトモニタリングが可能になるため、PCのDAW側のモニタースイッチをオフにしても、レイテンシーのない音でモニタリングが可能になるのだ。

LINE OUTの各チャンネルに出力する信号をどれにするかを変更できる
同じ信号を複数チャンネルで出すことも可能
MASTER L/Rとして設定

 このようにミキシングコンソールのチャンネルストリップの設定や出力に関するパッチの設定を行なったものはシーンメモリーとして10種類まで保存できるようになっている。

 では、こうした設定、一度電源を切るとどうなるのだろうか? 実はこれを内部メモリーが覚えていてくれ、これが便利な使い方につながってくる。まず、PCとのUSB接続を切り離すとスタンドアロンで動作するマイクプリモードとなり、IN1~IN8に入ってきた信号がマイクプリアンプを経由してLINE OUT1~8へと出力される。この場合は、単純にマイクプリアンプを通るだけで、ほかに何もしないため、このメモリー自体は有効ではないのだが、このままiPadやiPhoneに接続したときに、効果を発揮してくれる。前述のとおり、US-16x08はUSBクラスコンプライアントなデバイスであるため、Lightning-USBカメラアダプタを利用することで、iPadやiPhoneと接続することができ、CubasisやMultitrack DAWといったアプリを使うことで、多チャンネルを同時にレコーディングすることが可能になる。そして、この際に先ほどの設定が有効になってくるのだ。つまりEQやコンプを通した音でレコーディングすることができる。

iPadのCubasisアプリ利用時の画面
Multitrack DAWアプリの画面

16入力で低価格ながら十分な音質。iOS設定アプリの登場にも期待

 ではこのUS-16x08をいつものようにRMAA Proを用いて音質テストを行なってみよう。今回はリアパネル側で3ch/4chから出力した信号を、15ch/16chに接続して受ける形でのテストだ。信号レベルは+4dBuに設定した上で、バランスケーブルで接続している。44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzのそれぞれでテストした結果が以下のものだ。必ずしも最高の値というわけではないが、16IN/8OUTで8つのマイクプリアンプを搭載した42,000円の機材としては悪くないパフォーマンスを出していると思う。

 一方、バッファサイズはINTERFACEタブの画面で調整できる。64 Sample~2,048 Sampleまで変えられる仕様であり、64 Sampleの設定にしてもCore i7-4770K 3.5GHzのマシンはSONARでもCubaseでも問題なく動作してくれた。しかし、これが実測でどのくらいのレイテンシーなのかを調べようと、ASIO Latency Test Utilityを使ってみたが、うまく測定できなかった。これは、以前US-2x2、US-4x4で試してみたときと同じ現象なのだが、内部ループしてしまっているようで、理論値通りの超低レイテンシーという結果が表示されてしまうのだ。実際、外部でループさせているケーブルを抜いてもこうした結果が出てしまうし、パッチを切り替えても効果はなし、ということで断念。とはいえ、使った感覚としては、64Sampleの設定であれば、かなりレイテンシーの小さい運用ができるのは間違いない。

64 Sampleに設定し、ASIO Latency Test Utilityでレイテンシーを測定したところ、正しい値は出ていないようだった
RMAAテスト結果。44.1kHz/24bit
48kHz/24bit
88.2kHz/24bit
96kHz/24bit

 以上、US-16x08について見てきたが、いかがだっただろうか? 多チャンネルのアナログ同時録音がしたいという人にとっては、安価にできるなかなか使えるオーディオインターフェイスだし、DSP内蔵でこれ単体でかなりの音作りができるというのはなかなかの魅力だと思う。今のところ、このミキシングコンソールはPCでないと調整できないが、できれば今後iOS用の設定アプリなども出してくるとより使いやすくなるのではと思う。

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US-16x08

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto