第388回:ギター系ツールを強化したAppleのDAW「Logic Pro 9」
~ Snow Leopardで試す。Flex Time機能も新搭載 ~
先日、AppleからLogicの新バージョン「Logic Pro 9」を収録したDTMスイート「Logic Studio」が発売された。2年ぶりのバージョンアップとなったLogicはギター関連の機能を大幅に強化するとともに、Flex Timeというオーディオストレッチ関連の機能を搭載。価格は前バージョンよりさらに下がって54,800円とDAWの中では非常に安い設定になっている。
今回、このLogic Studioを新OSのSnow Leopard(Mac OS X 10.6)で使ってみたので、機能強化された点を中心に見ていくことにしよう。
■ 新OS「Snow Leopard」をインストール
WindowsはまもなくWindows 7登場ということで賑やかになってきているが、Macは8月末にSnow Leopardがリリースされて、すでにひと段落した状況。発売されて早々にLeopardが入ったMac miniにアップグレードインストールしてみたが、あっけないほど簡単だった。
Macの新OS Leopardをアップグレードインストール |
派手な変化はないものの、64bit化が進んだようで、体感速度的にも速くなったように感じる。また、OS自体がPowerPCのサポートをやめてUniversal Binaryでなくなったため、HDDを占めるOSのエリアが半分近くに減り、7GBもの空きエリアができたのは、個人的には非常にうれしい点だった。
気になるDTM環境も、ドライバ、アプリケーションともLeopardのものがそのまま使えてしまうため、何の問題も起こらなかった。Cubase 5、ProTools 8 LEが入った状態での移行だったが、プラグイン類を含めて安定的に動作してくれる。
コンパクトなLogic Studioのパッケージ |
その環境に対してのLogicのインストールとなるが、Appleに確認したところ、Snow Leopardを正式にサポートしているとのことだったので、さっそく試してみた。実は、Logic Studioのパッケージを見て最初に驚いたのが、箱のコンパクトさ。前バージョンのLogic Studioは大きな箱に、1,000ページを超えるユーザーズマニュアルやプラグインのマニュアルなどが数多く入っていて、非常に重たいものだった。それが、約6cmという厚みこそあるものの、OSやiLifeなどと同じサイズのパッケージに変身している。
とはいえ、インストール用のDVD-ROMが全部で9枚と、前バージョンより1枚増えて、インストール総容量はなんと56GBにもなっている。いくらSnow Leopardにして増えたとはいえ、たった80GBしかないMac miniのHDDにはインストールできない。そこで、GarageBandやJamPackに収録されているのと同じというAppleLoopsなどライブラリのインストールを見送った結果、システム本体の容量は11GB強にまで縮まり、30分程度でインストールすることができた。
インストール総容量は56GB | AppleLoopsなどライブラリのインストールを見送り、システム本体の容量を約11GBまで抑えた |
ちなみにLogic Studioのソフトウェア構成としては、DAWの「Logic Pro 9」とプラグイン類のほか、リアルタイム演奏用プラットフォームの「MainStage 2」、CDライティングツールの「WaveBurner 1.6」、Final Cut Proと連携するサウンド編集ツールの「Soundtrack Pro 3」、また「Compressor」、「インパルスレスポンスユーティリティ」、「Apple Loopsユーティリティ」などのユーティリティ類とApple Loopsやデモデータなどのライブラリ類となっている。
■ 充実したギター用プラグイン
今回の新機能の一番の目玉はギターアンプシミュレータやギター用のコンパクトエフェクタの搭載など、ギタリスト用のプレイ環境を充実させたことだろう。IK MultimediaのAmpliTubeやNative InstrumentsのGuitar Rigなどギター用のツールに注目が集まっているが、Logic自体にこれに相当する機能を数多く搭載し、真っ向勝負を挑んできた。
マイクの選択もできる |
まずはアンプシミュレータープラグインの「Amp Designer」。ここには25機種のヘッドアンプと25種類のスピーカーキャビネットが自由に選択できるとともに、それを捉えるマイクをコンデンサマイク、ダイナミックマイク、リボンマイクの3種類から選択できるという構成になっている。
ヘッドアンプを見ると、25種類ともすべて「Logic」と書かれているが、その絵柄はMarshall、Fender、VOXといったメーカーの製品ソックリとなっており、出音もかなり近い雰囲気になっている。
「Marshall」のヘッドアンプそっくりな絵柄 | 「Fender」に似たアンプ | 「VOX」に似たアンプ |
チープな雰囲気のアンプも |
また、あえてチープな雰囲気のガラクタアンプもラインナップに入れているのも面白いところである。もちろん、数多くのプリセットが用意されているから、まずはそこから気に入ったサウンドを選べばいいし、必要に応じて組み合わせを変更したりEQやリバーブなどを用いて音をチューニングするのもいいだろう。
AmpliTubeやGuitar Rigはマイクとアンプの距離や、マイクを置く位置の設定を設定したり、同じコンデンサマイクでもAKGなのかSennheiserなのかといった設定までできるようになっているので、まったく同種のソフトとはいえないかもしれないが、多くの人にとってはこれで十分過ぎるほどのことができるのだ。
もうひとつのギター用プラグインが「Pedalboard」という、コンパクトエフェクターとエフェクターボードをセットにしたもの。ここにはディストーション、ファズ、コンプレッサ、フランジャー、コーラス、ディレイなど26種類のコンパクトエフェクタと、2種類のペダル、そしてスプリッターとリミッタが装備されており、これらを自由に並べて組み合わせることができる。
スプリッターを使うことで、2つの経路に分けてエフェクタをかけることができ、その結果をミキサーでまとめることで、音作りの範囲も広がられるようになっている。
コンパクトエフェクタとエフェクターボードをセットにした「Pedalboard」 | 様々なエフェクタなどを自由に並べて組み合わせることができる | スプリッターも利用可能 |
Pedalboard向けのコントローラ兼オーディオI/F「GiO」 |
さらにユニークなのは、このPedalboardとベストマッチなコントローラー兼オーディオインターフェイスもリリースされるということ。それが、USB接続する「GiO」で、フットスイッチ部にLEDが搭載されているが、エフェクタの色に応じて、LEDの色も変化するということで、なかなか使いやすそうだ。
もっともこれはAppleからではなく、Apogee(国内での扱いはエレクトリ)から今秋発売されるもので、まだ価格や正確な発売日は決まっていない。ただ海外の情報を見ると、9月中に395ドルで発売されるとのことなので、おそらく日本でも大きく違わない価格で入手できるだろう。
■ 「Flex Time」機能を新搭載
こうした派手なプラグインの追加に対して、DAWであるLogic Pro 9そのものは、それほど大きな変化はない。まあ、これはLogicに限ったことではなく、DAW全体にいえる話だが、それでもいくつかの機能が追加されている。
一番大きいのは「Flex Time」というタイムストレッチ系の機能だ。すでにCubaseやSONARなどのDAWではオーディオクォンタイズ機能を装備しているが、それに相当するのがFlex Timeだ。オーディオイベントをFlexモードにすることで、ヒットポイントを検出するとともにオーディオクォンタイズがかけられるようになったり、マウスのドラッグ操作でフレーズの時間的な変更が可能になる。
Logic Pro 9にはいくつかの機能を新たに搭載 | タイムストレッチ系の機能「Flex Time」 |
たとえば「ちょうーちょー」と歌っているのを「ちーーょうちょっ」といった感じにすることが簡単にできるわけだ。またこのFlexモードの状態からノリをグルーブという形で抽出するといったことも可能。この抽出したグルーブでMIDIデータにグルーブクォンタイズをかけることで、オーディオのノリをMIDIに適用できるわけだ。まあ、この辺はすでに多くのDAWが採用していた機能なので、それと並んだ形だ。
一方、Flex Timeの技術を応用しつつ、ほかのDAWではあまり見かけないユニークな機能も搭載されている。それが「ドラムの置き換え/ダブリング」というもの。オーディオでドラムを録音したけど、音がイマイチということもあるだろう。そんなときに、これを使うことで、オーディオのタイミングはそのままに、ソフトシンセのEXSによるドラムに置き換えたり、ダブルで発音させたりできる。
ピークを検出してMIDI化するだけだから、ドラムをレコーディングするのではなく、マイクに向かって「タン、タン」と声で入力して、仕上げをEXSに差し替えるといったことも可能なわけだ。
ソフトシンセ「EXS」によるドラムに置き換えや、ダブリングが可能 |
そのほかにも、ピーク検出した結果をタイムスライスしてMIDIキーに割り振る「ReCycle!」のような機能などTime Flex関連の機能がいろいろと搭載されているのが、Logic Pro 9の大きな進化ポイントとなっている。
■ リアルタイム演奏用ツール「Main Stage」も
もうひとつの大きなアプリケーションである「Main Stage」はライブなどでの利用を想定したリアルタイムにプレイするためのツールで、MIDIでソフトシンセを演奏したり、ギター用のエフェクタなどとして使えるツールだ。
本体機能は、前バージョンとそれほど大きく変わっていないのだが、前述のギター用プラグインであるAmp DesignerやPedalboardを使うことで、より強力なライブパフォーマンス用ツールとして活用可能となる。
リアルタイム演奏用ツール「Main Stage」 | ギター用プラグインと使用することで、ライブパフォーマンスなどに活用できる |
また、Main Stage専用のプラグイン機能が2つ新たに搭載された。まずはPlay Backというもので、チャンネルストリップ上にオーディオの再生専用のストリップを追加できるようになる。
つまり、あらかじめカラオケのオーディオを用意しておけば、それを再生するととおに、キーボードやギターなどを演奏することができるわけだ。ただし、Play Backで再生できるのはAIFFやWAVであり、MP3などの圧縮フォーマットは対応していないようだった。
もうひとつはインサーションエフェクトとして追加する形のツールであるLoop Backだ。これは、流れているオーディオをそのまま録音することができ、16小節ごとなど指定した長さをループしながら音を重ねていく。したがって、ステージ上で、だんだんパートを増やして音を厚くしていくプレイができるほか、自宅で一人で演奏するといった際にもDAWを使ったレコーディングとは異なる多重録音を楽しむことができる。
Main Stage専用のプラグイン「Play Back」 | 「Loop Back」 |
なお、Main Stageを起動した際に、Keyboards、Guitar Rig、Vocals、Drums、Mixersとさまざまなテンプレートをグラフィカルな画面で選べるようになったのも、大きな機能強化ポイント。ボーカル用のエフェクトツール、ドラムマシン、さらにはミキサーコンソールとしてMain Stageを利用することが可能になるのだ。
Soundtrack Pro 3やCompressor、インパルスレスポンスユーティリティなどについては割愛するが、ちょっと気になったのが、WaveBurnerの機能追加ポイント。基本的な機能は変わっていないのだが、CDを焼く機能だけでなく、DDP出力にも対応したのだ。
最近、プロのレコーディング・マスタリング現場ではプレス工場に出す際、テープやCDではなくDDPを使うのが主流になってきているが、まだDDP出力に対応しているソフトは少ないのが実情。そんな中、WaveBurnerが搭載したことは、DDPのさらなる普及を加速させていくかもしれない。
楽器のテンプレートをグラフィカルな画面で選択可能 | WaveBurnerではDDP出力に対応した |