第443回:「Sound it!」と「DigiOnSound」の“6”を試す

~4年半以上ぶりのバージョンアップの強化ポイントとは? ~


Sound it!
DigiOnSound

 オーディオ、サウンド関連のソフトウェアというと海外製品がほとんどであるが、数少ない国産波形編集ソフト2本が、揃ってメージャーバージョンアップした。ひとつはインターネットの「Sound it!」、もうひとつはデジオンの「DigiOnSound」である。

 Sound it!は4年半、DigiOnSoundは5年半ぶりのバージョンアップとなる。今回は、強化されたポイントを中心に、それぞれどんなソフトか紹介しよう。



■ バージョンが揃った「Sound it! 6.0」と「DigiOnSound6」

 今回、登場したのはWindows版のソフトであるSound it! 6.0とDigiOnSound6で、偶然ではあるがバージョン番号も揃っている。それぞれのラインナップは、下表の通りで、Sound it!すでに11月19日より発売が開始されており、DigiOnSoundは12月16日の発売が予定されている。なお、両ソフトともダウンロード版が、それぞれ2割程度割安で用意されている。

パッケージ版
Sound it! 6.0 Premium for Windows17,640円
Sound it! 6.0 Basic for Windows7,350円
DigiOnSound647,250円
DigiOnSound6 Express10,290円
ダウンロード版
Sound it! 6.0 Premium for Windows12,600円
Sound it! 6.0 Basic for Windows7,350円
DigiOnSound642,525円
DigiOnSound6 Express7,980円

 

 Sound it! 6.0 Premium for Windowsと、DigiOnSound6を価格で比較すると倍以上の差があるが、実際に機能上の大きな違いがある。Sound it!はモノラルまたはステレオのレコーディング、編集に対応しているのに対し、DigiOnSound6は、さらに5.1chに対応したサラウンド編集が可能になっている。もっとも、この違いは最新バージョンで広がったものではなく、以前からあった違いであり、これこそが両ソフトの方向性の違いともいえるところだ。

 なお、それぞれをインストールしてみたところ、64bitアプリケーションとはなっておらず、ともに32bitアプリケーションとなっていた。



■ カッコよく生まれ変わった「Sound it!」

画面デザインが一新された、Sound it! 6.0

 今回は、それぞれのソフトの上位版について順に紹介していこう。全機能を紹介していくとキリがないので、主にバージョンアップされた機能を中心に見ていく。Sound it!は、前バージョンのSound it! 5.0ではいくつかのバリエーション展開していたが、昨年の第357回で、Sonnox Oxfordのプラグイン3種類がバンドルされた「Sound it! 5.0 Noise Reduction Pack for Windows」を取り上げている。

 これまでSound it!はどうもデザイン的に垢抜けないというか、野暮ったい印象があった。それが、今回ユーザーインターフェイスを一新して、カッコイイものに仕上がった。こうしたUIの変化は同社が7月にリリースしたSinger Song Writerに続くもの。本来の機能とは関係ないのだが、サウンド系のアプリケーションは、見た目のクールさというのもかなり重要だと思っているので、歓迎したいところだ。


Sonnoxノイズリダクション

 機能面において、まず最初に挙げたいのは、VSTプラグインに対応したこと。今さらという気がしないでもないが、デファクトスタンダードに対応したということは重要なポイントだろう。また、Noise Reduction Packに収録されていたSonnox Oxfordのプラグインの3種類、ハムノイズ除去のための、「DE-BUZZER」、ヒスノイズ除去のための「DE-NOISER」、クラックルノイズやポップノイズ除去のための「DE-CLICKER」が、Premium、Basicの双方に標準で搭載された。

 これら3つのノイズリダクションはほかのエフェクトとは少し位置づけが異なるようで、「Sonnoxノイズリダクション」というダイアログを開いて使うようになっている。


DE-BUZZER
DE-NOISER
DE-CLICKER

 

Sonnox EQも搭載されている
 またPremiumには、EQプラグインとして著名なSonnox EQも搭載されている。3バンドのパラメトリックEQにローシェルフ、ハイシェルフが装備された計5バンドという、アレだ。細かく音のチェックまでしたわけではないが、さすがSonnox EQといういい効き具合である。

 さらに、このプラグインの中で特筆すべきがピッチシフト、タイムストレッチ機能の強化である。従来からあった「Pitch Shift」、「Time Comp/Exp」に加え、「Adv Pitch Shift」および「Adv Time Stretch」が新たに追加されている。いずれもパラメータは非常に少なく操作はいたって簡単なのだが、音質劣化が少なく、きれいな音で処理してくれる。Adv Pitch Shiftには「FORMANT」というスイッチが用意されているが、これはボーカルを処理する場合にオンにしておくことで、声質(フォルマント)を変化させずにピッチシフトすることが可能となっている。

Adv Pitch Shift
Adv Time Stretch

 これらエフェクトがPremiumには30種類、Basicでも20種類が搭載されており、いずれもVSTプラグインとなっている。ここで試したのが、VSTプラグインだけを使うことができないか、ということ。通常、Sonnox EQを1つ購入するだけでも4万円程度するので気になるところだが、やはりプロテクトがかかっていた。結局、すべてのSound it!に入っているプラグインは、ほかのソフトで使うことはできなかった。

 そのほかにもACIDファイルの生成(アシッダイズ)が可能になったり、タイマー録音ができるなど、いろいろな機能が追加された充実したソフトに仕上がっていた。


■ 「かんたんエフェクト」機能が追加された「DigiOnSound6」

DigiOnSound6

 次にDigiOnSound6を見ていこう。5年半ぶりと、かなり久しぶりのバージョンアップだが、Sound it!ほど大きな変化はないようだ。UI的にはあまり変わっておらず、もともとVSTプラグインにもDirectXプラグインにも対応していたので、基本的な機能はそのまま踏襲されている。

 新機能ではないが、Sound it!との大きな違いということで、サラウンド機能について見ておくと、DigiOnSound6ではモノラル、ステレオのファイルが扱えるのは当然として、マルチチャンネル=5.1chのオーディオデータも扱えるようになっている。慣れないと、わかりにくいかもしれないが、これはマルチトラックではなく、マルチチャンネルに対応したソフトだ。

 サラウンドパンナーも搭載されているので、視覚的にどの辺りから音が出るのかを設定することもできるようになっている。


5.1chのオーディオデータも扱える
サラウンドパンナー

 

エフェクト操作を日本語で行なえる
 また、WAVファイルやAIFFファイルもマルチチャンネルに対応しているため、DigiOnSoundで扱った5.1chのデータを保存すると、1つのファイルとして全チャンネルまとめて入れることができるようになっている。さらに、Windows Media Professionalおよび、OggVorbisのエンコーダも搭載しているので、必要に応じてこれらのフォーマットを利用することもできる。

 DigiOnSoundのエフェクト操作は日本語のボタン操作で行なえるというのがひとつの売りになっている。以前からかなりいろいろなエフェクトが搭載されていたが、今回新たに「コーラス」、「フェイザー」、「テープディレイ」の3つが追加されたほか、ちょっと毛色が異なるが「BPM検出」も追加されている。これは、調べたいトラックやクリップを選択した上で、「BMP検出」ボタンを押すとトラック上に検出された結果が表示される機能だ。テンポがハッキリわからないようなとき、結構重宝しそうだ。

コーラス
フェイザー
テープディレイ

 

BPM検出機能も搭載された
 こうしたエフェクト操作をより簡単に、ボタン1つで操作できるようにした「かんたんエフェクト」という機能も追加された。これはノイズリダクションや音量調整など、使用頻度の高いエフェクトを並べた大きなパネルで操作するもので、ひとつずつ使うことも、同時に複数を使うことも可能になっている。ただし、ここに並べられたエフェクトは固定であり、変更することはできないようだ。

 またオートゲインコントロールで音量を一発調整するという機能も追加された。ノーマライズやコンプレッサを使ってのコントロールと違い、その時、その時の音量を解析した上で、適切な音量へ自動調整してくれるというもの。音楽用途で使うものではないが、会議や授業など話し声などを録音したものに対してかけると効果がありそうだ。そのほかにもAACをサポートしたり、タイムストレッチの品質向上を図るなど、いろいろな点で強化されている。


かんたんエフェクト
書き起こしに適したゲインコントロールも装備された

 ステレオが目的であればDigiOnSound6 Expressで十分だが、サラウンドを扱いたいのであれば、数が少ないだけに重要な選択肢であり、低価格なソフトといえる。今のところ、DigiOnSound4のときにあったような「Professional」というバージョンはアナウンスされていない。「DigiOnSound4 Professional」には、Doloby Digital AC-3のエンコーダが搭載されていたため、AC-3のデータを比較的安価に作ることができる重要なツールであった。

 もっともサラウンドはBlu-rayの時代へと移り変わりつつある今、DTS-HD Master AudioやドルビーTrueHD が主役となってきているのかもしれない。そこまでのものを個人で作るニーズがどこまであるのかは分からないが、そんなエンコーダーもオプションで登場してきたりすると、さらに面白くなっていきそうだ。



(2010年 12月 6日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]