第457回:海外版iPad 2で、DTMアプリや周辺機器を検証
~起動速度などを初代と比較。CPU強化で安定動作 ~
iPad 2 |
アメリカでiPad 2が発売されてから1カ月。当初予定されていた3月25日の国内発売は延期されたまま、まだ発売日も価格も確定していない状況だが、探してみると秋葉原のショップには並行輸入版が並んでいる。トンでもない価格になっているのでは……と思ったが、Wi-Fi版の16GBなら7万円強と買えなくもない値段となっていることに気づいた。
海外同様、近い将来、日本でも従来のiPad(区別するため、以降iPad 1とする)と同じ金額で発売されるとすれば、48,800円のはずだから、25,000円程度の追加出費。ちょっとバカらしい気もしたが、試してみたいこともいろいろあったので購入してしまった。さっそくDTM関連のアプリや、周辺機器の対応状況などをチェックしてみた。
■ アプリの起動速度などを初代iPadと比較
iPad 2はiPad 1と同様のブラックボディーのものに加えホワイトボディーの製品も登場した。せっかくならホワイトがいいかなと思ったのだが、2,000円高の74,800円となっていたので、ここは節約とブラックを購入。パッケージを開けて本体を取り出してみると、あまり驚きはなかった。「より薄く。より軽く…」と宣伝されていたから、さぞ軽いんだろうと思っていたが、ちょっと持っただけだとiPad 1との差が感じられない程度。しかも正面から見る限り、黒いから、どこが違うのか分からない。しかし、並べてみるとiPad 2は外枠部分が薄くなっているほか、上部中央にカメラが内蔵されている。
パッケージ | 購入したのはブラック | 初代(左)と比較。上部中央にもカメラが |
また、横から見てみると、iPad 2のほうが確かに薄い。裏返してみると、薄くなった分、スピーカーの音の出口が少し変わり、側面から裏面になっている。分解したわけではないので、内蔵されているスピーカー自体が同じなのかどうかは分からないが、モノラルであることには変わりない。
またiPod機能で音楽を演奏させると、音色が少し変わっているように感じられ、微妙に音色が明るくなっている。どちらにせよ、小さいモノラルのスピーカーだから、たいした音が出るわけではないが、なんとなく向上しているようだ。
右側にあるiPad 2の薄さが分かる | スピーカー穴の形が変わっている。左がiPad1、右がiPad 2 |
では、ヘッドフォンで聴き比べてみるとどうだろうか? あまり顕著な変化は感じられないが、せっかくなのでそれぞれのiPadに1kHzのサイン波のWAVファイルを転送し、再生したものを、以前紹介したRolandのOCTA-CAPTUREで取り込み、その分析を試みた。
いずれも-3dBのサイン波であり、ヘッドフォンの音量を最大に設定。またOCTA-CAPTURE側での設定はまったく同じ状態にしてある。これを見る限り、差があることは確かで、iPad 2のほうが若干出力レベルが向上しているのとともに、高域の倍音成分が減っている。個体差であったり、iPad 1をこれまで駆使してきたせいで性能が落ちたということが考えられなくもないが……。
1kHzのサイン波のWAVを転送し、再生したものをRolandのOCTA-CAPTUREで取り込んで分析。左がiPad 1、右が2 |
そんなことよりも重要なのは、iPadのCPU性能の向上がDTMユーザーにとってどれだけの恩恵をもたらすのか、という点だろう。Appleの資料によればiPad 1に搭載されていたCPUがApple A4プロセッサ 1GHzであるのに対し、iPad 2にはApple A5デュアルコアプロセッサ 1GHzとなっており、クロック周波数的には同等だがデュアルコアであるため、高速処理ができるはずだ。もっとも、デュアルコア用にプログラムを組まないと効果が発揮できないというアーキテクチャだと、あまり期待できないことになってしまう。
今回、買ってきたiPad 2も同じ母艦=iTunesに同期させたので、入っているアプリもすべていっしょであり、見た目も使い勝手も何も変わっていない。そのため、あまり新鮮味はない。ただ、アプリの起動時間は明らかに短くなっているようなので、ストップウォッチを使って、3つのアプリの起動時間を比較した。結果は以下のとおりだ。GarageBandの詳細については、また後で述べるが、いずれも起動が速くなっていることは確かだ。
iMS-20 | |||
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iPad 1 | 9.0秒 | ||
iPad 2 | 5.4秒 | ||
Nlog PRO | |||
iPad 1 | 8.8秒 | ||
iPad 2 | 5.6v | ||
GarageBand | |||
iPad 1 | 6.4秒 | ||
iPad 2 | 3.9秒 |
さらに普段、結構時間がかかる処理を、それぞれで比較してみた。まず1つ目のテストはIk Multimediaのギターアンプ・シミュレータ「AmpliTube for iPad」に、BGM用に鳴らすMP3ファイルを転送した際の処理時間。MP3を転送した場合、1回目の再生に限り、WAVへ展開するためか再生開始に時間がかかるのだ。テストしてみたのは、MP3 320kbpsの4分35秒の曲。
AmpliTube for iPad | MP3を転送した場合、第1回目の再生に限り、WAVへ展開するためか再生開始までに時間がかかる |
●AmpliTube for iPad MP3初回再生
[iPad 1] 28.2秒
[iPad 2] 25.8秒
KORGのiMS-20で完成している楽曲を、バウンス機能でステレオのWAVに変換 |
多少速くなったものの、それほど大したことはない。次にKORGのiMS-20で完成している楽曲をバウンス機能を用いて、ステレオのWAVファイルに変換するテストを行なってみた。使ったのは、デモ曲として収録されている2分36秒の曲。バウンス作業の画面を見ていると、パラメータが猛スピードで動いていることから、iMS-20を高速再生させてWAVファイルを生成しているようだが結果は以下のとおり。
- ●iMS-20 Bounce Song SyNc
[iPad 1]72.0秒
[iPad 2]36.3秒
これを見ると、ほぼ倍のスピードを実現している。さらにGarageBandでも同様の実験。こちらは完成したSongに対し「曲をメールで送信」という操作を行なうと、拡張子.m4aのAACデータが生成される。試したのは自分で作った32小節分の1分9秒の曲。結果は以下のとおりだ。
- ●GarageBand 曲をメールで送信
[iPad 1]51.8秒
[iPad 2]38.9秒
iMS-20での差ほどではないが、確かに高速になっているのは確認することができた。
完成したSongで「曲をメールで送信」を選ぶと、.m4aのAACデータが生成される |
■ CPUの強化で動作は滑らかに
GarageBandは、従来Macに標準でバンドルされてきたエントリーユーザー向けのDTMソフトであり、毎年リリースされるiLifeにも入ってきた。今回登場したいのが、そのiPad版だ。アメリカでのiPad 2のリリースに合わせ、3月10日より600円でiTunes AppStoreで販売が開始されているため、すでに使っている人も少なくないだろう。
同時にiPad用の最新版iMovieも600円で発売されているが、最新版iMovieはiPad 2専用(ユニバーサルアプリとしてiPhone 4/iPod touch 4Gでも動作する)でiPad 1非対応なのに対し、GarageBandはiPad 1でも動作するため、既に国内でも使っている人がかなりいるようだ。
GarageBandは、シンセサイザやドラムなどの楽器音源をリアルタイムに演奏し、8トラック構成でレコーディングできる |
ここでは、このiPad版のGarageBandそのものについての詳細は省くが、DTMに興味のない人でもぜひ使ってみることをお勧めしたい。iPadのDTMアプリの集大成ともいえるもので、シンセサイザやドラムなどの楽器音源をリアルタイムに演奏できるとともに、その結果を8トラックの構成でレコーディングしていくことができる。
また、これら音源のレコーディングだけでなく、ボーカルやギターなど生の音をレコーディングすることも可能で、強力なギターアンプシミュレータ機能、エフェクト機能も搭載されているから、ギタリストにとっても非常に強力なツールとなる。
ギターアンプシミュレータやエフェクト機能も搭載されている |
しかも、楽器が弾けない人、触ったことがない人でも簡単操作でフレーズの演奏ができるSmart Keyboard、Smart Guiter、Smart Bass、Smart Drumsという機能が備わっているから誰でもが楽器演奏の楽しみを体験できるのは、やはりスゴイの一言だ。
Smart Keyboard、Smart Guiter、Smart Bass、Smart Drums機能により、楽器が弾けない人でも簡単に演奏を楽しめる |
さらに、驚くべき機能が埋め込まれている。iPad上に表示される鍵盤を弾いたりドラムを指で叩く際、その強さを感知し、ベロシティー(音の強弱)がつけられる。平面の液晶に表示される鍵盤だから表情をつけにくい、といわれてきたiPadの弱点を克服してきた。当初、このベロシティーはiPad 2で初めて使える機能ではないかと思われていたが、iPad 1でも使うことができた。
動作原理は分からないが、iPadに内蔵されている加速度センサーが液晶を叩いたときの衝撃を感知し、その衝撃度合いによってベロシティーをつけているようだ。
3軸ジャイロセンサーが搭載された効果を確かめるため、叩き比べた |
一方で、iPad 2にはiPad 1には搭載されていなかったセンサーがひとつ追加になっている。それが3軸のジャイロセンサーだ。これによって、さらに弾いたり、叩いたりする際の音の変化がでるのではないか……、そんな期待を持ってiPad 1、iPad 2を並べて叩き比べてみた。しかし、持ち上げて角度を変えてドラムを叩いたりもしてみたが、どうも変化はなさそうだった。
では、GarageBandを使う上でiPad 2の恩恵は、処理速度以外にないかというと、そういうわけではなく、ずっと重要な安定性で違いがあった。
「パフォーマンスを最適化中」という表示 |
筆者自身、iPad 1でGarageBandを楽しく使っていたが、「シンセでの演奏を駆使して8トラックフルに利用する……」というところには至っていなかったので、なんら不満も感じていなかった。しかし、トラック数が埋まってくると、ちょっと作業をするたびに「パフォーマンスを最適化中」というメッセージが出てきて調整をするようになる。どうやらCPUパワーが苦しくなると、こうした最適化が行なわれるようなのだ。
iPad 1とiPad 2を並べて同じフレーズを作りながらトラックを埋めていったところ、iPad 1だとこのメッセージが頻繁に出るのに、iPad 2はまったく出なかった。さらに大きな問題になったのが、7、8トラック目となったときの挙動だ。やはりトラック数が増えるとiPad 1ではCPUパワーが限界に近づき、レコーディング中のタイムポジションの動きがガタガタとしてくるとともに、途中で止まったりする。ひどいとクラッシュしてGarageBandが落ちてしまう。この場合、データは保存されないから、すべてが消えるという最悪の事態に陥ってしまう。まったく同じ操作をしているのに、iPad 2ではそうしたトラブルがなく滑らかに動いてくれる。やはりCPUパワーに余裕があるというのは大きなポイントといえそうだ。
■ これまでのDTMアプリ動作に不満なら買い替えも
Line6の「MIDI Mobilizer」を使った外部MIDI機器との入出力は、iPad 2でも可能だった |
これまでも何度かレポートしてきたとおり、iPadでは公式、非公式を含めさまざまなDTM機材とハードウェア的な連携を図ることができるようになっている。
まず公式として挙げられるのはMIDI関連。Line6のMIDIインターフェイス、MIDI Mobilizerを使うことで外部MIDI機器との入出力が可能になる。これについては、iPad 2でもまったく問題なく動作させることができた。
Camera Connection KitでUSB機器と接続 |
一方、公式な使い方ではないが、iPadが持つ内部的なUSB機能を利用することで、MIDI機器、オーディオ機器との連携も可能。それがiPadのCoreMIDI、CoreAudio機能だ。
iPad自身にはUSB端子がないため、「Camera Connection Kit」を使って、USB機器と接続する。iOS 3.xのころは、このCamera Connection KitのUSB端子を介し、外部へ比較的大きな電力供給ができたため、RolandのUA-1Gなどのオーディオインターフェイスを直接駆動させることができたが、iOS 4.xではそれができなくなった。そのため、間に電源供給機能を持ったUSBハブを挟むといった使い方しかできなくなったわけだが、iPad 2なら従来のような電力供給ができるのではと期待していた。
試してみた結論は、iPad 1もiPad 2もまったく同じ。UA-1GやM-AudioのFast TrackなどをUSBハブ経由であれば認識することはできたが、iPad 2からのUSB電源供給はできず、エラー表示されてしまった。
UA-1GやM-AudioのFast TrackなどをUSBハブ経由で認識できたが、iPad 2からのUSB電源供給はできなかった |
iPad 2のDTM環境についてテストしてみたが、DTMにおいては、起動やエンコードが速くなる、GarageBandが安定して動くというメリットは確かにある。そこに不満を持っていた人にとっては乗り換えることで、解消できると思うが、現時点においては、それ以外に際立って得られる大きなメリットがないのも確かだ。前後にある2つのカメラが利用できることや、ジャイロセンサーが使えるという魅力はあるが、DTMだけに限っていえば、iPad 2専用アプリが出てくるまでは、急いでiPad 2dに乗り換えなくてもいいのかもしれない。