第486回:iPad/iPhone用のDTMオーディオI/F 3製品を試す
~ギター用のMobile InとiRiffPort、PCM録音マイクiM2 ~
今回試した製品。左からMobile In、iRiffPort、iM2 |
iPad/iPhone用のDTMデバイスが続々と登場してきている。以前、MIDIインターフェイスを3つ紹介したことがあったが、今回はオーディオインターフェイスを3つ取り上げてみる。
具体的には11月30日に発売になった米LINE6の「Mobile In」(オープン価格で店頭価格は8,400円前後)、12月1日に発売になった米POCKETLABWORKSの「iRiffPort」(Amazonマーケットプレイスで8,925円)、そしてまもなく発売されるTASCAMの「iM2」(オープン価格で店頭予想価格は8,000円前後)。それぞれ、だいぶ性格の異なる製品ではあるがどんな製品なのか見ていくことにしよう。
■ iPad/iPhoneをDTM機器として使うための3つの課題
このDigital Audio Laboratoryでも何度か取り上げてきたとおり、iPadおよびiPhoneに搭載されているiOSにはオーディオ入出力のためのシステムである「Core Audio」とMIDI入出力のためのシステムである「Core MIDI」が搭載されている。
これらはUSB経由でオーディオインターフェイスやMIDIインターフェイスと接続するシステムであり、現在リリースされている多くのDTMアプリが、これらに対応している。問題は、USB端子を持たないiPad/iPhoneにどうやってそのオーディオインターフェイスやMIDIインターフェイスを接続するかだが、これは「iPad Camera Connection Kit」を用いて行なう。
ただ、ここにも複数の課題というか問題もあった。まずはiPad Camera Connection Kitという名称からも分かるとおり、これはiPad用のデバイスでありiPhoneでは利用できないこと。2つ目はiOSにはドライバをインストールするという概念がないため、利用するにはWindowsやMacでもドライバ不要なタイプ(クラスコンプライアントとかジェネリックなどと呼ばれることもある)を使用する必要があること、そしてiPadから供給できる電力がわずかなので、なんらかの方法で電力供給する必要があること、の大きく3つだ。
これらの課題を乗り越えれば、DTM機器としての幅が大きく広がるわけだが、やはりそれなりに面倒というのも事実だ。今回紹介する3機種は、いずれもこうした問題をうまく解決した製品であり、扱いがとても簡単というのが共通するところだ。
■ ギタリスト用オーディオインターフェイス「Mobile In」
では、ひとつずつ見ていこう。まずはMobile Inからだ。先日の楽器フェアでも展示されていたLINE6のMobile InはiPad/iPhoneのDockコネクタに接続する非常にコンパクトなオーディオインターフェイス。名称からも分かるとおり、入力にのみ対応したオーディオインターフェイスで、ここにはLINE INとGUITAR INの2つの端子が用意されている。
LINE IN側はステレオミニ、GUITAR IN側はモノラルミニ対応なのだが、使えるのは片方のみ。両方挿した場合にはLINE INが優先される設計になっている。またGUITAR IN用に2mのケーブルが標準で付属している。
米LINE6のMobile In | iPhoneとの接続 | iPadとの接続 |
このGUITAR INがあることからも想像できるとおり、ギタリストをメインターゲットにしたオーディオインターフェイスであり、最大のウリは、同社が無料配布するユニバーサルアプリ、Mobile PODと連携して使うことで、iPadやiPhoneがLINE6のPOD Version 2.0相当の機材に変身するということ。そう、POD 2.0と同じくFender Tweed Deluxe(1952年モデル)やMarshall JCM 800(1990年モデル)など計32のアンプをモデリングしており、それらを自由に切り替えられる。
キャビネットも1967年VOX AC-30、1959年Fender Bassmanなど16種類のモデリングを搭載。さらにコーラス、フランジャー、ディレイなど15種類のエフェクトを装備するなど、かなり強力なアプリとなっているのだ。
同社が無料配布するユニバーサルアプリ、Mobile PODと連携して使うことで、iPadやiPhoneがLINE6のPOD Version 2.0相当の機材に変身 | 計32のアンプをモデリング、切り替えも自在 | キャビネットに6種類のモデリングを搭載 |
コーラス、フランジャー、ディレイなど15種類のエフェクトも装備 | iPadだけでなく、iPhone上でも同じように動作する |
気になるのは、入力しかないオーディオインターフェイスでどうやって音を出すのか、という点。これは標準のヘッドフォン出力を利用して音を出す設計となっており、Mobile PODを使うと、ギターを弾いた音がリアルタイムにヘッドフォン端子からモニターできるようになっている。LINE6担当者は「iPad/iPhoneのオーディオ出力はかなり質が高いが、標準の入力は通話用のマイク入力であったため音質的に問題があった。そこで出力はそのままに、入力だけをDockコネクタ経由で高品質化したのがMobile In」であると話している。
ところでMobile PODはMobile Inがないと使えないが、ハードウェアであるMobile Inは汎用的なオーディオインターフェイスとなっているので、Garagebandほかさまざまなアプリで利用することが可能だ。さらにLINE6の資料を見ると、Mobile Inは24bit/48kHz対応とある。筆者がこれまで見てきたレコーディングアプリはどれも16bit/44.1kHzが上限であったので、Mobile Inで24bit/48kHzが本当に使えるのかは検証できていない。しかし、今後そうしたアプリが登場してくると、iPad/iPhoneのDTMの世界がさらに面白くなっていきそうだ。
なお、LINE6のサイト情報によるとMobile Inの対応機種はiPad、iPad2、iPhone4の3機種となっているが、筆者がiPhone4Sで試してみたところ問題なく動作した。ただし、iPod touchではうまく動作しないとのことなので、その点は注意したほうがよさそうだ。
■ 「iRiffPort」はオーディオ出力とヘッドフォン出力の両対応
次に紹介するiRiffPortはつい先日、クリムゾンテクノロジーが、開発元であるPOCKETLABWORKSの代理店になることが決まり、12月1日からアマゾンマーケットプレイスのみでの販売を開始した。製品コンセプト的にはMobile Inと同様にギタリスト向けで、リアルタイムにエフェクト処理をするというもの。やはりApp StoreでギターアンプシミュレータのPocketAmpとベースアンプシミュレータのPocketGKが、それぞれユニバーサルアプリとしてリリースされている。いずれも450円のアプリだが、モデリング数の少ない無料のLITE版も用意されている。
実際つないでみると、iRiffPortが接続されたことを認識するようだが、iRiffPortが接続されていなくてもアプリを使うことはでき、Mobile InやiRigとの組み合わせでも使うことができた。やはりMobile PODと比較してしまうと、モデリングの数や質という面でもだいぶ見劣りしてしまうことは確かだが、Mobile PODと比較してiPod機能との統合化が上手にできているため、iTunes経由で転送しておいた楽曲をバックに演奏するのがより手軽にできるようになっているのはポイントだ。
iRiffPort | PocketAmp(iPad版) | PocketAmp(iPhone版) |
PocketGK(iPad版) | PocketGK(iPhone版) | iTunesから転送した楽曲をバックに演奏できる |
さて肝心のハードウェアだが、Mobile Inとの最大の違いはオーディオ出力が可能になっていること。具体的にはLINE OUTとヘッドフォン出力をそれぞれ装備しているのだが、その設置位置がちょっと特殊な感じになっている。
まずDockコネクタ接続部とギター接続のためのケーブルが一体型になっており、そのDockコネクタ接続部にステレオミニジャックでLINE OUTが用意されている。一方のヘッドフォン出力はギターへ接続するためのTSフォン端子の根元にある。ギタリストがギターを弾きながらモニターできるように、こうなっているのだろう。試しにLINE OUTとヘッドフォン出力の両方に接続してみたところ、両方から音を出すことができた。また音量はiPad/iPhoneの音量調整で行えるようになっている。
もちろんオーディオインターフェイスとしては汎用的にできているので、Garagebandほか各種レコーディングソフトで利用できるし、iPod機能を使って再生専用に利用するということも可能だ。
Dockコネクタ接続部にステレオミニジャックのLINE OUTを装備 | ヘッドフォン出力はギター接続用のTSフォン端子の根元に装備 |
■ Dockコネクタにデジタル接続するコンデンサマイク「iM2」
そして3つ目に取り上げるiM2をオーディオインターフェイスと呼ぶのは正しくないのかもしれない。そう、これはDockコネクタ接続のコンデンサマイクであり、見た目にも以前に取り上げたロジテックのLIC-iREC03Pに近い感じのものだ。
しかし、その構造はまったく違う。LIC-iREC03PはDockコネクタのアナログ入力端子に信号を送るマイクであったのに対し、iM2はDockコネクタのUSB端子にデジタル接続しており、構造的にはオーディオインターフェイスにマイクを搭載した形になっているのだ。
ご存知のとおり、ティアックのTASCAMブランドは数多くのリニアPCMレコーダーを出しており、こうしたコンパクトなステレオマイクには実績があるわけだが、このiM2はTASCAMの「DR-07MKII」と同等の単一指向性ステレオコンデンサマイクが採用されている。ユニークなのはマイクの向きを180度回転させられるvari-angle機構を採用していること。たとえばiPhoneに取り付けて手で持ち、画面を見ているときに自分にマイクを向けるのか、反対側に向けるのかといった調整ができるわけだ。
iM2 | 「DR-07MKII」と同等のステレオコンデンサマイクを搭載 |
DR-07MKII | マイクを180度回転させられるvari-angle機構を採用 |
このiM2をDockコネクタに取り付けると、青色LEDが点灯する。右サイドにあるボリュームで入力レベル調整が可能で、左側にはリミッタのスイッチがあるのでオン/オフの設定ができる。リミッタをオフにした場合でも耐音圧125dB SPLを実現できるとのことだ。
さらにそのリミッタスイッチの隣にはUSB端子があるが、これはiPad/iPhoneへの電力供給用となっている。このiM2自体はDockコネクタからの電源供給で動作するが、それなりにパワーを喰うため、充電しながらのほうがバッテリーの心配がいらない、というわけだ。
Dockコネクタに取り付けると、青色LEDが点灯 | 右側面のボリュームで入力レベルを調整 | 左側面にはリミッタのスイッチとUSB端子を備える |
ティアックによるとiPad/iPhoneで使えるレコーディング用のアプリ、その名も「PCM Recorder」が無償でリリースされるとのことだが、12月3日現在、まだApp Store上にはなかった(編集部注:12月5日に提供開始)。ただiM2も汎用的に使える機材なので、PCM Recorder以外でも各種アプリで利用できるようだ。
せっかくなので、リニアPCMレコーダーのレビューのときのように、音楽を録音してその音質をチェックしてみた。ここではiPhone 4S上でユードーのMTRアプリ、Rectools Unlimitedを起動させて、16bit/44.1kHzのステレオでレコーディングしている。
録音サンプル | |
Rectools Unlimitedを使用 | |
iM2_music.wav(6.89MB) | |
編集部注:録音ファイルは24bit/96kzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
まずは、その結果の音を聴いていただきたい。どうだろうか? これまでのiPad/iPhoneでのレコーディング音から考えると、格段にいい音で録れているといえる。当たり前ではあるが、iPhone内蔵のマイクでの録音とは比較にならない高品質だ。周波数分析結果を見ても、かなりキレイに音を取り込んでいることがわかる。今回、屋外での録音はしていないが、ステレオ感もしっかりしており、現在あるiPad/iPhone用マイクの中では最上位といっていいのではないだろうか?
iPhone 4SでユードーのMTRアプリ、Rectools Unlimitedを使って録音 | 周波数分析結果 |
では、これが現在あるリニアPCMレコーダーの代替になるかというと、さすがにそこまではいかない、というのが筆者の感想。もちろん、この音質があれば十分過ぎるという人もいるとは思うが、使っていて気になる点がいくつかあった。まずは入力レベルがやや小さいという点。アプリ側でブーストすれば、もちろんそれなりのレベルになるが、0dBの素のままだと小さいのだ。もともとiM2は16bit/44.1kHzという仕様であるためアプリ側でのブーストではどうしても音質が落ちてしまう。先ほどの音は0dBでレコーディングした後、PCに取り込んでノーマライズ処理をしている。
もうひとつはアプリとの連携性。TASCAMの「PCM Recorder」は今回試せなかったが、各種レコーディングソフトを試してみたところでは、やはりリニアPCMレコーダーの使い勝手にはかなわない印象だ。入力されている音をモニターする場合も、ダイレクトモニタリングではないため、微妙なレイテンシーが発生してしまうのも気になった。とはいえ、いざというときのために、iPhoneと一緒に常にiM2を持ち歩くのもよさそうだ。