第487回:iPadやiPhoneで24bit/96kHzはそのまま再生可能?

~Dockからデジタル出力で検証。FLACアプリもテスト ~


 以前からすごく気になっていて、調べなくては……とずっと思っていたのがiPhoneやiPod、iPadが24bit/48kHzや24bit/96kHzに対応しているのか、という点。アップルのサイトを調べてもそうした情報がうまく見つけられないし、ネット上を検索しても曖昧な答えしか見つからない。だったら自分で調べようと思いつつ、1年以上経過してしまったが、ついに思い立っていろいろと試してみた。

 あくまでも筆者の環境での実験であり、その動作を保証したり、否定するものではないが、いろいろと面白い結果が出てきたので紹介していこう。


■ 「ミュージック」では24bit/96kHzまで再生できたが・・・・・・

 筆者も当初はiPodやiPhoneなどはMP3やAACなどの圧縮音楽を聴くための簡易プレーヤーという感覚で捉えていた。が、気がつくと今や、世の中でもっとも広く使われるプレーヤーであり、ハイエンドユーザーまで活用する主要プレーヤーへと登りつめた。ハイエンドユーザーの場合、これに高級なヘッドフォン/イヤフォンをつけて使うようになり、人によってはDock端子からラインアウトを取り出しヘッドフォンアンプを通して使っている。

 そんな中、気になるようになったのがHDオーディオとの整合性だ。昨年の夏に音楽配信サイトである「OTOTOY」に取材に行った記事を掲載したことがあったが、そのとき「24bit/48kHz非圧縮のWAVファイルをiPodで聴いている人も多い」といった話題が出ていて、「自分でも調べなくては……」と思っていたのだ。また記事には書かなかったが、「旧世代のiPod touchやiPhoneでは24bit/48kHzのHDオーディオを再生することができないが、新世代のものならうまくいく……」といった話題も出ていた。

 実際、OTOTOYのサイトにも「最新の第5世代iPod nano、第2世代以降のiPod Touch、iPhoneでは再生可能ですが、それ以前のiPod nano、iPod classic、iPod shuffuleではHQDファイルをそのままに入れて再生すると、再生できませんので16bitに変換して再生してください」と書かれており、機種によって違いもあるようなのだ。

 ただ、一言で調べるといっても、確認しなくてはならないことがかなりたくさんあるため、面倒で放置していたというのが正直なところ。でも、いまだに詳しい情報がどこからも出てこないので、ひとつずつチェックを行なっていったのだ。

今回の検証に使ったiPhone 4S、iPad 2、初代iPod touch

 まず、今回チェックに用いたのは3機種。具体的にはiPhone 4S、iPad 2、初代iPod touchだ。ちなみにOSはiPhone 4SとiPad 2はいずれも最新のiOS 5.0.1。一方、初代iPod touch用には現在iOS 3.1.3というバージョンが出ているが、あまり使っていなかったこともあり、3.0のままでテストしてみた。

 音の素材として使ったのはリニアPCMレコーダーでレコーディングした「16bit/44.1kHz/ステレオのWAVファイル」、「24bit/48kHz/ステレオのWAVファイル」、「24bit/96kHz/ステレオのWAVファイル」の3種類。いずれも非圧縮のWAVファイルの状態で、iTunesを経由させて先ほどの3機種の機器に転送できるのか、そして再生できるのかを試してみた。

iTunesでの転送は問題なく完了

 その結果、まずiTunesを使っての転送は、すべて問題なくできた。そして、標準のプレーヤー機能である「ミュージック」を使って3つのファイルそれぞれを再生してみた。その結果は、16bit/44.1kHzの再生ができたのは当然ながら、なんと24bit/48kHzでも24bit/96kHzでも再生できてしまった。先ほど挙げたOTOTOYのサイトにある情報では「16bitに変換して再生してください」とあったが、とりあえず手元のiPod touchではうまく動いてしまったわけだ。

 ただ、これをもって「すべて再生できる」と結論付けるのは早計。ここで聴いた音はあくまでもそれぞれのプレーヤー内蔵のDACを通じてヘッドフォン端子からの音であり、本当の意味で24bit/48kHz、24bit/96kHzで再生できていたのかは怪しい。つまりファイルは確かにHDオーディオのフォーマットだけど、プレーヤーが自動的にリサンプリングしたり、下位ビットを丸め込んで16bit/44.1kHzにリアルタイム変換した上で再生していた……なんて可能性だって十分に考えられるからだ。



■ デジタル出力I/Fを接続して検証、iPhone 4Sでは24bit/48kHzで再生可能

 そこで実験は次の段階に入る。それは、iPhone、iPadなど各プレイヤーで再生した音をデジタルで取り出すというものだ。とはいえ、これらの機器にはデジタル出力などついていないので、機器を取り付ける必要がある。ただ、そうした機材もいっぱいあるわけではない。iPhone、iPod touchで使える代表的なものはオンキヨーの「ND-S1/ND-S10/ND-S1000」のシリーズやWadia「iTransport」などだ。

 また、iPhone 4Sにおいてはそのいずれも正式には対応していないし、そもそも筆者の手元にあるのは、最初に出たときにすぐに購入した初代機であるND-S1のみ。そういえば、先日アップル純正のHDMI出力ケーブルが登場し、これでオーディオをデジタル出力できる…という話も聞いたことがあるが、残念ながらこれもまだ未入手であるため、今回はND-S1を使って試してみることにした。

 一方、iPadに関しては最近オーディオインターフェイスがいろいろと登場しはじめてはいるものの、デジタル出力できるものというと現状見つからない。となると、例の必殺技、iPad Camera Connection Kitを利用してUSBに変換した上で、USBオーディオインターフェイスやUSB-DDCにつなぐという手段だ。編集部に確認したところ、ラトックシステムズの「USB Digital Audio Transport RAL-2496UT1」があるとのこと。当然iPad用と謳った機材ではないが、これなら24bit/96kHzにも対応しているので、良さそうな気がする。

 再生側はこれで準備は整ったが、ここから出力されるであろうS/PDIFによるデジタル信号をしっかりとキャッチしなくてはならない。そのためにはPC側で受け止めるのが無難ということで、Windows7 64bitのマシンにRolandの「OCTA-CAPTURE」を接続。ここに搭載されているコアキシャルのS/PDIFで信号を受け取り、筆者愛用の波形編集ソフト「Sound Forge 10」で記録することにした。

オンキヨーのND-S1。前面ND-S1の背面
ラトックシステムズのRAL-2496UT1RolandのOCTA-CAPTURE波形編集ソフトSound Forge 10

 まず最初に行なったのは16bit/44.1kHzのWAVファイル。これらを録音した結果のWAVファイルを、efu氏開発のフリーウェアで、WAVファイルの比較を行う「WaveCompare」を使ってオリジナルと比べてみた。その結果が以下の通りだ。これを見ると、iPhone 4SとiPod touchではドンピシャに一致。いわゆるビットパーフェクトが実現できていることがわかる。

 一方、iPad 2からRAL-2496UT1経由で録音した音はなぜかビットパーフェクトとはならないものの、だいたい一致するという結果になった。何度か追試を行なったが、そのたびに微妙に違う結果となるものの、やはり完全には一致しないのだ。どこかのタイミングで誤変換などが起こるのだろうか? とはいえ、聴いた感じでは非常にキレイに聴こえており、実用上はほぼ問題ないと考えていいようだ。

efu氏開発のフリーウェア「WaveCompare」でオリジナル音源とiPhone 4Sでの再生環境を比較iPod touchでの再生環境iPad 2での再生環境。完全には一致しなかった

 次に行なったのは24bit/48kHzのファイル。iPhone 4S、iPod touchとND-S1の組み合わせでも再生できるし、iPad 2+RAL-2496UT1の組み合わせでは、しっかり表示が48kHzへと切り替わる。いずれもOCTA-CAPTURE側のモニターで音がキレイに聴こえていることも確認できたので、それぞれ別ファイルとして録音を行なった。そこで同じようにWaveCompareでオリジナルの24bit/48kHzのデータと比較してみたのだが、その結果、ND-S1組は壊滅。逆にiPad 2+RAL-2496UT1では、やはり多少の誤変換が認められるものの、ほぼピッタリという結果になった。ND-S1の仕様は16bit/44.1kHzまたは16bit/48kHzと記載されており、実際に16bit止まりで24bitには対応していないようだ。

 ためしにSound Forgeで録音したデータのスケールを拡大して1サンプルごとの縦軸の動きをみたところ、やはりND-S1でのものは、オリジナルに比較して荒いため、16bitとなっているように思える。そのため一致しなかったのだろう。

iPad 2+RAL-2496UT1の組み合わせでは表示が48kHzへと切り替わるiPhone 4Sの再生環境では一致せずiPod touchもiPhone 4Sと同様に壊滅
iPad 2+RAL-2496UT1ではほぼ一致Sound Forge 10でオリジナル音源を拡大して縦軸の動きを見るND-S1のものはオリジナルと比べて荒い

 本当は、iPhone 4SとiPod touchにiPad Camera Connection Kitが接続でき、ここを経由して同じUSB-DDCと接続できればいいのだが、残念ながらそうした接続ができない。ただ、iPad 2でうまくいっていることを思えば、少なくともiPhone 4S自体にはしっかり24bit/48kHzの再生機能が搭載されていると考えるのが妥当だろう。


■ アプリ「FLAC Player」では24bit/96kHzを48kHzに変換?

 では、次の段階、24bit/96kHzがどうなるかだ。前述のとおり、24bit/96kHzのデータであっても3機種とも再生して、ヘッドフォン端子から音を出すことはできた。では、デジタル出力のほうはどうなるのだろうか?

 まずiPhone 4S+ND-S1の環境では、そのS/PDIF出力をOCTA-CAPTUREのS/PDIF入力へと接続。OCTA-CAPTURE側のサンプリングレートの設定を96kHzに変更した上で、再生をしてみたのだが、音が出てこない。OCTA-CAPTUREの液晶パネルを見ると「MISMATCH CLOCK」という表示が現れた。どうやらND-S1は96kHzの信号を出していないようなのだ。まあ、そもそもカタログスペック上では「44.1kHzと48kHzに対応」とあるので、96kHzに期待したほうが間違いだったのだろう。

 試しにOCTA-CAPTURE側のサンプリングレートを48kHzに設定すると、クロックが同期し、再生した音が聴こえだした。96kHzのファイルを再生しているのに、48kHzのサンプリングレートで同期し、音もおかしくならずに出てくる。どこで96kHzの信号を48kHzに変換しているのかは定かではないが、サンプリングレートコンバータ機能がどこかにあるらしい。iPod touchでも結果はiPhone 4Sとまったく同じになった。したがって、96kHzでの録音もできず、WaveCompareで比較する段階にも至らずに棄権ということになった。

OCTA-CAPTUREのサンプリングレート設定を96kHzに変更液晶パネルを見ると「MISMATCH CLOCK」という表示が現れた

 iPad 2のほうはどうだろうか? 先ほどと同じくRAL-2496UT1に接続して96kHzのソースを再生してみたが、こちらも問題が発生。RAL-2496UT1のサンプリングレートを表示するインジケータが96kHzにならず48kHzとなってしまうのだ。そして、当然OCTA-CAPTURE側もクロックが同期せず録音することができない。そこで、OCTA-CAPTURE側のサンプリングレートを48kHzに設定してみたところ、やはりちゃんと再生されるのだ。これを考えると24bit/96kHzのデータはプレーヤーアプリである「ミュージック」またはiOS側が自動的にサンプリングレートコンバートを行なって48kHzに変換していると考えるのが妥当だろう。

 ここで終了としてもよかったのだが、たまたま先日、24bit/96kHzに対応するプレイヤーアプリを発見した。それはDan Leehr L.L.C.というところが開発した「FLAC Player」(850円)というもの。WAVファイルを直接再生できるわけではないが、可逆圧縮方式であるFLACに変換しておけば24bit/96kHzでも再生できると書かれている。

 App Storeでの英語の紹介文を読むと、「オンボード(iPhone/iPadなどの搭載のハードウェアデコーダ)では最高16bit/48kHzの精度での再生」とある。よく分からないが、これが事実であるとしたら、内蔵ハードは24bitの精度はない、ということなのだろうか。その一方で「USB-DACをCamera Connection Kit経由で接続すれば24bit/96kHzでの再生が可能」と書かれている。とすると、ちょっと期待が持てそうだ。そこで、24bit/96kHzのWAVファイルをFLACに変換し、再生してみることにした。FLAC Player自体はiPhone/iPad両方で使えるユニバーサル・アプリなので念のため、iPhone 4S+ND-S1の環境でも試してみた。

 しかし、残念ながら結果はもっとひどいことに……。内蔵ハードであれば問題なく再生できた96kHzのFLACだが、RAL-2496UT1を接続した状態で再生すると、その場でアプリが終了してしまうのだ。やはり現在のハードウェアもしくはiOSが96kHzをサポートしていないように思えてくる。iPhone 4Sのほうは再生できるものの、やはり出力は48kHzとなっているようだった。

 最後にダメ押しの実験としてiPad 2側の接続先をRAL-2496UT1からRolandの「UA-1G」に変えて24bit/96kHzの信号を試してみることにした。UA-1GのサンプリングレートはUSBから入る信号で決まるのではなく、本体のリアにあるDIPスイッチで設定を行なうようになっている。ここでは強制的に96kHzに設定して接続したが結果は同様でアプリが強制終了してしまい、再生することができなかった。

24bit/96kHzのWAVファイルをFLACに変換し、iPad 2で再生iPhone4S+ND-S1の環境でも試すiPad 2側の接続先をRolandのUA-1Gに変えて試す

■ iOS端末のサンプリングレートコンバータが影響か

 実はオマケの実験として、このUA-1Gを接続してFLAC Player以外にも、標準機能のミュージックでもテストしてみたのだ。普通に音も出て録音もできたのだが、こちらはWaveCompareを使って比較すると、すべて合わなかった。何でだろう……と思っていろいろ調べてみたところ、やはりちょっとしたトリックがあった。そう、UA-1Gの設定を48kHzにして44.1kHzのデータを再生しても、44.1kHzの設定で48kHzをデータを再生しても音が出てしまう。UA-1G側なのかiPad 2側かは分からないが、サンプリングレートコンバート機能が入ってしまっているから、うまくいかないようなのだ。ノイズのないキレイな音ではあるが、UA-1Gでは原音のままデジタル出力をすることはできないようだった。

 ちなみに、UA-1Gのデジタル出力はオプティカルしかなく、OCTA-CAPTUREのデジタル入力はコアキシャルしかないため、そのまま接続することができない。かといってオプティカル/コアキシャルコンバータを使っても、正しく変換されるのか怪しいため、ここでは1世代前のRolandの「UA-101」を使ってオプティカル入力を行ったが、結果的にはダメだったわけだ。

 以上、筆者の手元の機材、素材を使って実験してみたがいかがだったろうか? データの流れを目で確認できるわけではないので、若干憶測も混じってしまうが、ここまでの実験結果を見る限り、iPhone 4S、iPad 2、初代iPod touchのそれぞれにおける標準の音楽再生機能には基本的な違いはなく、16bit/44.1kHzは当然として、24bit/48kHzまではしっかり再生できる機能を持っている。ただ、それをデジタル出力できるのは現時点iPadだけであり、多少面倒な接続や設定が必要になってくる。

 一方、24bit/96kHzのデータも再生することはできるが、内部的には24bit/48kHzに変換されてしまうため24bit/96kHz本来の音を出すことはできない。このことはFLAC Playerという外部アプリを使っても変わらないようだ。ただし、内蔵のハードウェア(それはDock経由でライン出力しても同様)で本当に24bitに対応しているのかは、ハッキリせず、実は内部的に16bitに変換されているという可能性も高そうではある。


(2011年 12月 12日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]