藤本健のDigital Audio Laboratory

第635回:アナログ/デジタル融合シンセや新AIRAなどRoland新製品

第635回:アナログ/デジタル融合シンセや新AIRAなどRoland新製品

浅倉大介氏と三木社長のコアなトークも

 5月13日、ローランドは東京・渋谷のライブ会場で「Roland Summer Forward 2015」と題した新製品発表会を行なった。これは今年1月にアメリカで行なわれたNAMM SHOW、そして4月のドイツでのMusikmesseで出展されたRolandブランド、BOSSブランドの新製品の国内お披露目となるもの。昨今のアナログ・シンセサイザ・ブームに対してローランドが出した答えともいえるような発表会となっていたが、どんな製品が登場したのかを紹介しよう。

発表会の模様

アナログ/デジタルシンセを融合した「JD-XA」登場

 今回のローランドの発表会において、中心的な存在だったのは、同社のシンセサイザ新製品。社内でも競合しているといえる2つの部署がまったく別のアプローチで異なる製品を同時に出してきたのだ。まずはそれを順番に見ていこう。

 一つ目は、アナログシンセとデジタルシンセを融合させた、アナログ/デジタル・クロスオーバー・シンセサイザ「JD-XA」だ。価格は未定だが、6月に発売される予定。既に発売されているミニ鍵盤のシンサセイザ、JD-Xiの兄貴分にあたるもので、内部にはアナログ回路のシンセサイザとデジタル回路のシンセサイザが共存するというユニークな設計のもの。

アナログ/デジタル・クロスオーバー・シンセサイザ「JD-XA」

 会場には、シャーシを開いて内部の基板が見えるようにしてあるモデルも展示されていたが赤い基板がアナログ回路、緑の基板がデジタル回路と、完全に分離された構造になっていることがわかる。ここにはモノフォニックのアナログシンセが4パート搭載されており、各パートに2オシレータ、フィルタ、アンプ、そして4エンベロープジェネレータを装備。4音のポリフォニック・アナログシンセとしても使えるようになっている。この際、デジタル回路を一切通さずアナログ回路だけによるサウンドが出せるというのが大きなポイント。ただし、各パラメータの制御はデジタルで行なうので、アナログシンセながら、パラメータを確実な形で記録したり制御できるようになっているのだ。

JD-XAの内部基板が見えるようにした展示
4パートのアナログシンセを同時使用可能
こちらは弟分の「JD-Xi」

 一方のデジタルシンセサイザも4パートで最大同時発音数は64。このデジタルパートはローランド自慢のSuperNATURALシンセ・エンジンを採用したものであり、きらびやかなPCMサウンドはもちろんのこと、SuperSAW波形による分厚いサウンドなどデジタルシンセならではの音が出せるようになっている。では、これの何がクロスオーバーなのか? これはアナログとデジタルを同時に出せるというだけでなく、デジタルサウンドをアナログフィルターで加工したり、デジタルパートで作りこんだ音をソースとしてアナログパートにクロスモジュレーション/リングモジュレーションをかけるなど、さまざまなクロスオーバーが可能になっているのだ。

さまざまなクロスオーバーが可能

 その上で、PCとはUSB接続してオーディオ・MIDIのやり取りができるほか、MIDI入出力、さらにはアナログのCV/GATEの出力端子も2系統装備しており、外部のアナログシンセをコントロールできるようになっている。これだけの機能を装備しながら49鍵盤で6.5kgという軽量ボディー。最終的な価格がいくらになるのかが気になるところだが、多くの人から注目を集めている製品となっている。

端子部
外部アナログシンセのコントロールなども可能

AIRAシリーズ「SYSTEM-1m」は、現行SYSTEM-1とどう違う?

 そのJD-XAに対抗するかのように登場したのが、同社のAIRAシリーズの新製品、SYSTEM-1mだ。AIRAシリーズは昨年3月に登場し、これまでTR-808やTR-909を復刻させたTR-8、TB-303を復刻させたTB-3をはじめ、ボイス系エフェクトのVT-3など、さまざまな製品をリリースしてきている。これらに共通するのがACB=Analog Circuit Beheviorという技術。同社に残る昔のアナログ製品の回路図や実機などを元にして、当時の回路を正確にデジタルで再現しようという技術なのだ。JD-XAが実際のアナログ回路を採用しているのに対し、AIRA側はアナログ回路をデジタルで再現するというまったく別のアプローチをしているわけである。

AIRAの「SYSTEM-1m」

 そのACBを使ったユニークな製品として昨年6月に発売されたのがSYSTEM-1というキーボード型のシンセサイザだった。もともと、これ自体は特定の機種を再現したものではなく、いわば新しく登場したアナログモデリングのデジタルシンセサイザだったのだが、ここには大きな仕掛けが用意されていた。それがPLUG-OUTという技術。PC上では現在さまざまなPLUG-INのシンセサイザが存在しているが、そのPLUG-INを外に持ち出そうという発想の技術だ。

 具体的にいうと、ローランドはこれまでSYSTEM-1用にSH-101、SH-2、PROMARDSという3種類のシンセサイザを発売している。これらはPC上ではVSTやAudioUnitsのプラグインとして動作するものであり、SYSTEM-1と無関係に動作するソフトウェア音源だ。しかし、これをSYSTEM-1と接続した上でPLUG-OUTとして転送すると、SYSTEM-1にプログラムが送られ、SH-101やSH-2、PROMARDSへと変身するというものなのだ。ここにはやはりACBが採用されており、往年の名機そのものとして動作してくれるのだ。

左右にアダプタを取り付けてラックマウントも可能
AIRAシリーズの製品ラインナップ

 さて、ここで本題に戻ろう。今回登場したSYSTEM-1mは、そのSYSTEM-1からキーボードを廃し、いま世界的に流行のユーロラック規格のモジュールにしたもの。ただ、ユーロラックとしてだけでなく、テーブルトップのシンセとして、さらには左右にアダプタを取り付けることで19インチ・ラックマウント・ユニットとしても使えるユニークな設計となっている。

 もっとも中身的にはSYSTEM-1と同じシンセサイザであり、単独のアナログモデリングシンセサイザとして機能するとともに、やはりPLUG-OUTの音源として機能するようになっている。とはいえ、単にSYSTEM-1の形状が変わっただけ、というわけではない。ここにはいろいろな仕掛けがしてあるのだ。最大のポイントは、パネル上部に計19個の端子が用意されたことだ。よく見ると赤いLEDに縁どられた端子が8つ、青いLEDに縁どられた端子が11個用意されているのが分かると思うが、赤いのがオーディオ入出力、青いのがCV/GATEの入出力となっている。これらをパッチングすることにより、SYSTEM-1単独ではできなかったモジュールの組み合わせが可能になってくる。

 もちろん、これらはSYSTEM-1m内で完結する必要はない。外部のアナログシンセサイザなどと組み合わせて使うことも可能なのだ。たとえばPLUG-OUTを使ってPROMARDSを転送した上で、そのフィルタだけを外部のシンセサイザから使うといったことも可能。もちろん前述のJD-XAのCV/GATE出力をSYSTEM-1mへ取り入れてコントロールすることもできる。このSYSTEM-1mの発売は5月末。オープン価格だが店頭予想価格は74,000円前後となっている。

 同じAIRAのシリーズからはさらにBITRAZER、DEMORA、SCOOPER、TORCIDOという4種類のユーロラック型の比較的小さなエフェクトも登場している。いずれも6月発売予定で、価格は現在まだ未定とのことだが、これらもなかなかユニークなシステムとなっている。

BITRAZER
DEMORA
SCOOPER
TORCIDO
ユーロラック型を採用(写真はTORCIDO)

 BITRAZERはビットレート/サンプルレート・クラッシュ・エフェクト、DEMORAはディレイ、SCOOPERは、ループ・レコーダー/サンプラー、TORCIDOは、ディストーションとなっているが、いずれにも共通するのはユーロラックサイズの機材であり、内部的にはデジタル回路で構成されているということ。

 ただし、パラメータノブでのコントロールは1,600万段階以上の解像度となっているので、アナログ以上に(?)極めてスムーズ。そして、各パラメータをCV/GATEでコントロールできるようになっているというのが大きなポイント。たとえば、ディストーションの深さやトーンのパラメータ、ディレイ・タイム、フィードバックといったパラメータをCV/GATEでコントロールできるため、アナログシンセサイザやアナログシーケンサとの連携が可能になっているのだ。もちろん、単にアナログ回路をデジタルでシミュレーションしているということに留まらない。たとえばディレイの場合20マイクロ秒といったアナログでは不可能なショートディレイを実現でき、それをフィードバックさせると、従来では出せなかったような新しい音を作り出せるといった具合なのだ。

 さらに、これら4つのエフェクトにはUSB端子が用意されており、これをPCと接続することで、各コントロールをPCから行なえると同時に、ほかのAIRAシリーズと同様に96kHz/24bitのオーディオでの接続が可能になり、これらの機器から出力される音をデジタルのままDAWへ取り込むことも可能になっている。さらに、Windows、Mac、iOS、Androidで動作するエディターアプリが用意されているというのも非常にユニークなところだ。

USB端子を装備
Windows/Mac/iOS/Androidで動作するエディターアプリも用意

 実はこれらのエディターアプリを用いることで、それぞれのモジュールは単なるディレイやディストーションなどではなくなる。LFO、ADSR、NOISE、SAMPLE & HOLD、RING MOD、FILTER 6dB、FILTER 12dB、TONE、AMP、MIXER、STEREO MIXER、CURVE CONV、GATE DIVIDER、TRIG TO CV DELAY TIME、MIDI CLOCK TO GATEという計15種類のバーチャル・サブモジュールが利用可能で、それを自由度高く組み合わせることが可能になっているのだ。極端な話、ディレイであるDEMORAの中のディレイ機能を止めて、12dBのフィルターだけを有効にするといった使い方も可能なのだ。この辺はぜひ実機で試してみたいところだ。

 そのほか、このAIRAのシリーズとしてSYSTEM-500シリーズも秋に登場することがアナウンスされている。

秋に登場する「SYSTEM-500」シリーズ

“レイテンシーほぼ皆無”のBOSSギターシンセサイザ

 もう一つ、今回の発表会でまったく異なるシンセサイザが登場した。これはBOSSブランドで登場したギター用のシンセサイザ、SY-300だ(6月末発売、店頭予想価格7万円前後)。歴史を振り返ると、これまでローランド/BOSSからは数々のMIDIギターやギターシンセサイザがリリースされてきたが、最初に登場したのは1977年のGR-500だった。ここで常にテーマになってきたのは、その反応性。その仕組み上、まずギターを弾いた音を検出し、それをMIDI信号に変換したり、シンセサイザのオシレータに送って発音させていたため、どうしてもレイテンシーがあり、気持ち良いプレイができなかったのだ。今回のSY-300は「史上、最も身近になったギターシンセサイザー」、「エフェクター感覚で接続できる」と謳っている通り、レイテンシーがほぼ皆無で弾けるものとなっており、まさにエフェクターのような感じだ。

シンセサイザの新機種「SY-300」
SY-300を使ったデモ
1977年の「GR-500」

 プレゼンテーション内容から全容は掴めなかったが、ギターの音をそのままオシレーターにしているというわけではないらしいが、従来のギターシンセサイザとはかなり違った仕組みを採用しているとのこと。オシレーターは3基搭載しており、それぞれ波形としてSIN、SAW、TRI、SQR、PWM、DETUNE SAW、NOISE、さらに外部からのINPUTが利用できるとなっている。実際にヘッドフォンをして弾いてみたところ、確かにこれまで違和感のあったギターシンセサイザと明らかに違い、まったくレイテンシーなく使うことができた。機会があったら、この仕組みについて詳しく聞いてみたいところだ。なお、SY-300にもUSB端子が用意されており、SY-300の出力音をUSB経由でデジタルレコーディングできたり、ドライ音(ギターの生の音)を先にDAWにレコーディングしておき、それをSY-300に送ってシンセサイザ音へ変換するReAmpならぬReSynthも可能。さらに専用エディタのTONE STUDIOを使うことで、シンセのパッチなどをグラフィカルにコントロールすることも可能になっている。

SY-300の出力音をUSB経由でデジタルレコーディング
専用エディタのTONE STUDIO

 今回の発表会では、これらのシンセサイザ製品のほかにもV-Drumsの新製品としてTD-25KV-S(店頭予想価格26万円前後)、TD-25K-S(同20万8000円前後)も登場し、これらはすでに発売されている。ここには新しい音源モジュールとしてTD-25(同108,000円前後)が採用されているのがポイント。これはフラグシップモデルのTD-30直系のサウンドエンジンを搭載しつつも、低価格を実現しているのが特徴だ。

TD-25KV-S
TD-25K-S
音源モジュールはTD-25を採用
Blues Cubeシリーズのフラグシップギターアンプ「BC-TOUR」

 また、Rolandブランドのギターアンプ、Blues Cubeシリーズのフラグシップモデル「BC-TOUR」(発売時期未定、店頭予想価格14万円前後)、キャビネットのBC-CAB410(発売時期未定、同13万円前後)も発表された。ここにはTube Logicテクノロジーが採用されており、ビンテージ真空管アンプの音に影響する回路動作を徹底再現されている。なお、BC-TOURにもUSB端子が搭載されており、スピーカーから出るのと同じリッチなサウンドをPCへ直接レコーディングできる仕掛けも装備されている。

三木社長と浅倉大介氏によるコアな内容のトークも

 ところで、今回の発表会でちょっと面白かったのはローランドの社長である三木純一氏と、アーティストの浅倉大介氏のトークセッションというコーナーがあったところだ。これまで見てきたローランドの発表会で経営トップが登場することもあまりなかったし、登場しても挨拶的なものしかなかった気がするが、技術者出身の三木社長の浅倉氏との話がマニアックですごく楽しかったのだ。

三木純一社長と浅倉大介氏のトークセッションが行なわれた

 浅倉氏は、アマチュア時代の10代のころにバイトでお金を貯めてSH-101を買い、Jupiter-8に憧れつつ秋葉原のショールームでカタログをもらっては眺めていた……といった話をしつつ、今回のJD-XAの話へと進んでいったのだ。すると三木社長からは「たとえば、シンセってエンベロープを最短にすると、パツパツいう音になりますよね。あれはオケのなかで、抜ける音にするために重要とされているものなんです。そのため、いろいろなシンセサイザーの音の立ち上がりを比べてみて、一番いいところを時間をかけて詰めていました」なんて話が飛び出してくる。

三木社長と浅倉氏

 また、AIRAのACBの話に至っては、将来的な可能性の話と前置きしつつ「たとえばSH-101の抵抗を金被膜のものに置き換えたらどんな音になるか、コンデンサをマイラコンデンサやタンタルコンデンサに変えたら、どう音が変わるかなんてことができたら面白いですよね。またARPのオシレーターにOberheimのSYNCがかかって、MOOGのフィルター、Jupiterのモジュレーションがかかるなど、可能性としてはできますよね」とエンジニアでないと決して出てこないような話も飛び出して、ワクワクした。

 三木社長には2年前の就任直後にインタビューさせてもらったことがあったが、その後ローランドが大きく変わってきたことを実感した。今後どのような形で進展していくのか楽しみなところだ。

発表会最後には、浅倉氏が今回発表された機材を使った即興パフォーマンスも行なった

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto