西川善司の大画面☆マニア

第267回

4K120p対応43型で約12万円。ビエラ「JX850」は満足画質と程よいサイズの万能モデル

パナソニックの4K液晶ビエラ「TH-43JX850」

パナソニックのビエラ(VIERA)シリーズといえば、最近は特に有機ELモデルの人気が高い。他メーカー同様、LGディスプレイ(LGD)製有機ELパネルの採用をするも、他の国内メーカーに先駆けて独自チューニングを施すことで、ワンランク上の性能を実現することに成功。この試みは功を奏し、ビエラは有機ELテレビ製品の中では頭1つ抜けたブランド力を獲得することに至った。事実、2020年発売の有機ELビエラ「TH-55HZ2000」においても、評判通りの高画質性能を確認することができた。

有機ELの常識を覆す明るさ! 最上位4Kビエラ「HZ2000」の画音に惚れた

ひとまず、上級ビエラの高性能を確認できたので“消費者の味方”である大画面☆マニアとしては、今回はあえて、コストパフォーマンスを重視したスタンダードクラスの実力を確認してみたい。というわけで、今回は液晶ビエラ・JX850シリーズから43型「TH-43JX850」(実勢価格12万円前後)をレビューする。

TH-43JX850

'21年発売の4KビエラはJX850シリーズ以外にも、上位にはJX950/JX900シリーズ、そして下位にはJX750シリーズを展開する。

価格と画面サイズだけで選べば、JX750シリーズの40型「TH-40JX750」(8万円前後)でも良さそうに思えるが、チッチッチ。1つ忘れてはいませんか? そう、大画面☆マニアでは、ゲーム対応を疎かにしない方針で製品を選択しており、新世代ゲーム機が要求する4K/120fps入力に対応していないJX750は、泣く泣く候補から外させて頂いた。

つまりTH-43JX850は、4K/120fps入力に対応したHDMI2.1対応の液晶ビエラで、もっともコストパフォーマンスが優秀ということになる。

外観:コンパクトに設置できる軽量機。サウンド性能も十分

TH-43JX850(以下43JX850)のディスプレイ部の重量は12.5kg。今回の評価では、筆者1人で階上へ運搬することができた。別体型のスタンド部は約4.5kg。ディスプレイとスタンドを合体させると約17kgとなる。取材時は階上で合体させたが、この程度の重さならば、合体させた状態でも1人で運搬することは可能だろう。

スタンドはオーソドックスな平板タイプ。チルト、スイーベル機構はなし

スタンドの取付けは、専用のL字形金属プレートを介してビス留めする方式。スタンドはディスプレイの背面中央に組み付け、接合部分は専用の樹脂製カバーを取り付けることで隠すことができる。スタンドはディスプレイとリジッドに接続され、スイーベルやチルト調整はできない。

スタンド背面は吸盤構造(白い部分)になっていて、自重で設置台に吸着する構造。倒れにくくするための、さりげない工夫である
ディスプレイとの接合に用いるL字形の金属プレートは、合計8つのビスで留める。この接合部分は付属する専用のカバーで覆うことで隠すことができる
側面

スタンドは実測で幅56.6cm、奥行き24.5cm程度で、この面積分を確保できる台を用意すれば設置は可能だ。

ディスプレイの寸法は96.6×6.1×56.6cm(幅×奥行き×高さ)。スタンドを取り付けた場合は、96.6×24.5×61.9cm(同)となる。接地面からディスプレイ下辺までの隙間は約6.0cm。ブレーレイソフトのパッケージが4本程度入るスペースがある。

額縁は、上部と左右部が実測で約12mm、下部が約20mm。必要十分な狭額縁デザインが実現できている。映像が映った状態では、ほぼベゼルの存在は気にならない。

額縁はまずまずの狭さ
映像を映したときには額縁の存在は目立たない

表示面は、映り込みをそれなりに低減させたハーフグレア仕様。ただ、天井照明下で画面の前に座ると、それなりに自身の姿は映り込む。部屋を暗めにして見ている分にはそうしたことは気にならない。

天井からの蛍光灯照明下で、画面で暗いシーンを表示すると、部屋の情景が若干映り込む

内蔵スピーカーは、15W出力のフルレンジユニットを、左右のディスプレイ下部に下向きで搭載した標準的な構成。総出力は30Wで、音量を上げたときのパワー感はそれなりにある。目立ったクセもなく、ナチュラルな発音ではあるが、クオリティ的には一般的な薄型テレビの内蔵スピーカーといった印象で、ディスプレイの下に定位している感覚も強い。

Dolby Atmosのバーチャル再生に対応しているとのことで、実際にDolby Atmosの評価ソフトで再生効果をチェックしてみた。

たしかに、通常の状態ではディスプレイ下部に定位していた音が、画面外の左右に飛び出して聞こえるようになる。背後や上下の音像定位感は得られないが、画面外に音像が飛び出してくるようなダイナミズムは感じることができる。“簡易的なバーチャル再生”という先入観で、やや見くびっていたのだが、どうしてどうして。カジュアルに楽しむには十分な品質とは思う。

消費電力は146Wで、年間消費電力量は113kWh/年。同画面サイズの他社製の液晶機とほぼ同等の値に収まっている。

背面
電源はメガネ型で着脱が可能

インターフェース:全4系統のうちHDMI2.1対応は2系統

接続端子パネルは、正面向かって左側面と背面にある。

HDMI端子は4系統で、HDMIポート1/2がHDMI2.1対応で、HDMIポート3/4はHDMI2.0までの対応だ。HDMIポート1/2は、4K/120Hz入力ほか、VRR(Variable Refresh Rate)、AMD FreeSync Premiumをサポートする。HDMIポート2は、ARC/eARCにも対応する。

背面の接続端子
側面の接続端子

HDMIポート3/4は、HDMI2.0対応止まりだが、UHD BDプレーヤーなどの一般的な4K信号を伝送するには事足りる。HDMIポート1/2は、PlayStation 5やXbox Series X、あるいはHDMI2.1対応のPCなどとの接続に利用することになるだろう。

HDMIの信号帯域設定(≒HDMIのバージョン設定)は、「機器設定」-「HDMIオート設定」で行なうことができ、設定範囲はモード1/2/3から選ぶ。HDMIポート1/2は、モード1/2/3が選択可能。またHDMIポート3/4は、モード1/2が設定できる。モード1がHDMI1.4相当(規格上限10.2Gbps)、モード2がHDMI2.0相当(同18Gbps)、モード3がHDMI2.1相当(同48Gbps)となっているようだ。

各HDMI端子の動作モード(≒伝送速度切換)は「HDMIオート設定」から行なう

最近の機種にしては珍しく、アナログビデオ入力端子を1系統装備している。4極ミニジャック端子で、利用には市販の対応ケーブルが必要。いわゆる赤/白/黄のコンポジットビデオ端子とアナログステレオ音声端子を接続するもので、クラシックなAV機器を接続する際に利用する。

音声関連の端子としては、背面に光デジタル音声出力が、側面に3.5mmミニジャックのヘッドフォン端子を用意する。この端子はサブウーファー端子も兼ねており、「ヘッドホン端子」設定で出力モードを選択できるようになっている。

USB端子は3系統。側面はUSB3.0で、ハードディスク録画専用に割り当てられている。背面側はUSB2.0で汎用用途という位置付けで、USBメモリーに記録したHEVCやH.264圧縮の4K動画ファイルも再生できた。

また、USBキーボード/マウスを接続したが、これらもちゃんと認識した。ただし、キーボードはアルファベットしか入力できず、マウスはカーソル移動こそできるものの、画面内のメニューアイテムをクリック選択することはできなかった。マウスを右クリックするとソフトウェアリモコンが出現し、ここのボタンは押すことはできた。このあたりの振る舞いは、55HZ2000と同じだったので、特に進化はしていないようだ。

総合出力30Wのステレオスピーカーを内蔵する

リモコンは、ビエラ伝統の左右非対称デザインから、がらりと見た目が変わり、モダンで細身なバータイプとなった。

十字ボタンは、上部から中央付近に移動し、チャンネル数字ボタンも、下部から上部に移動。包み隠さず言えば、他社のリモコンデザインに合わせてきた印象である。リモコン最下部には、VODサービスのダイレクトボタンが6つ並んでいる。

新デザインとなったリモコン

電源を入れてから、地デジ放送画面が表示されるまでの所要時間は実測で約5.0秒。HDMI間の切り換え所要時間は約1.0秒。そこそこに高速だ。

リモコンにはマイクボタンがあり、Googleアシスタントによる音声操作が行なえる。「フジテレビに切り換えて」、「テレビ朝日に切り換え」は通ったが、「テレビ東京に切り換え」は通じなかった。またソニーやLGテレビでは可能だった「HDMI 2に切り換えて」もダメ。「西川善司をYouTubeで検索」については漢字表記まで完璧で正しい検索結果が表示されたので、筆者個人の心証は悪くないが(笑)。より精度の高い音声操作ができるようになることを期待したい。

「西川善司をYouTubeで検索」がきちんと通じた

番組表だが、文字サイズの変更は非対応。1画面の情報量は表示するチャンネルの数を、3/5/7/9/11/15/19の中から選ぶことが可能。数を多くすると、番組欄は番組名すら略記となり、かなり見にくい。できれば他社が採用しているような、表示チャンネル数を固定させた状態で、文字サイズの変更も併用できるようなUXに対応して欲しいところだ。

7チャンネル表示の番組表
7チャンネル表示が、文字量と一望性のバランスが一番取れている?
19チャンネル表示は一望性には優れるが、情報量が少ない
3チャンネル表示では、文字が大きく表示時間帯も狭いため、情報量も一望性も乏しい。電子番組表の文字サイズを柔軟に決められると助かるだろう

メニューの操作感やVODサービスの操作感は、かなりキビキビしていて快適。メニュー選択時のカーソル移動も即座に反応してくれる。YouTubeなどもスムーズで、ストレスなく楽しむことができた。

[ホーム]ボタンを押せば、各種映像配信系アプリのアイコンが列んだメイン画面が表示される

最近のテレビとしては珍しく、「2画面」機能に対応していた。

HDMI入力などの外部入力同士は組み合わせることができないが、外部入力と放送番組は同時表示が可能。音声出力は2画面のうちの片方だが、PC画面でチャットをしながらテレビ放送を楽しむ、といった“ながら活用”には重宝しそうな機能である。

今となっては珍しい「2画面機能」。写真左がHDMI入力、右がテレビ番組。2画面表示モードは、必ず片方が放送番組でなければならない。HDMIの2画面表示に対応していないのは残念

ゲーム関連機能:映像遅延は1フレーム未満だが、音ズレは約7フレーム

ビエラは「オプション機能」設定で「ゲームモード:オン」とすることで、任意の映像モードで低遅延動作をさせることが出来るようになっている。これはなかなかよい考え方で、映画っぽいアドベンチャー系のゲームであればシネマ系の映像モードを選択しつつ、ゲームに適した低遅延モードを併用できるわけだ。

ゲームモードは、映像モードではなく、「オプション機能」のところにある
HDMI EOTFはHDRのカーブを設定するもの。通常はオートでよい
HDMI RGBレンジは、いわゆるHDMI階調レベルに相当し、エンハンスが0-255範囲、スタンダードが16-235範囲となる。最近の機器同士の接続ではオートでOK。PS3などの古いゲーム機やPCなどはエンハンス設定をした方がよい場合がある

というわけで、今回もLeo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて遅延を計測した。今回から入力映像は4K/60Hz(60fps)に加えて、1080p(フルHD)/120Hzについても計測して見ることにした。昨今のeSportsブームの影響で、ハイフレームレート表示への関心が一際高まっていることを考慮したものだ。

計測したのは「スタンダード」と「シネマプロ」の2つ。それぞれをゲームモードオン/オフの状態で測定している。

ゲームモードONFHD/120Hz4K/60Hz
スタンダード2.8ms11.5ms
シネマプロ2.8ms11.5ms
ゲームモードOFFFHD/120Hz4K/60Hz
スタンダード58.5ms99.0ms
シネマプロ58.5ms99.0ms

入力遅延値は、映像モードの種類に関わらず、ゲームモードON/OFF状態に依存する結果となった。ゲームモードON時の1080p/120Hz時の2.8msは、120fps換算で0.3フレームの遅延。そして4K/60Hz時の11.5msは、60fps換算で0.69フレームの遅延となる。

120Hz時の2.8msは、本機の映像エンジンで発生している遅延と考えられる。というのも、4K/60Hz入力時の11.5msが、この2.8msと、倍速120Hz駆動液晶パネルが60Hz入力時に避けられない0.5フレーム遅延の8.3msを合算した11.1msに極めて近いからである。

LGの有機ELテレビは、PCディスプレイのように、60Hz入力時と120Hz入力時でリフレッシュレートのモードチェンジを行なって、遅延を低減する機構が備わっているようだが、本機はそこまでの対応は行なわれていないようだ。

1080p/120Hz入力時の遅延測定の様子

前回取り上げたソニー・ブラビア「XRJ-50X90J」は、ゲームモード時の4K/60Hz入力は13.0msの遅延だった。その意味では、本機の11.5msは「多少マシ」といったところなのだが、まだまだゲーミングディスプレイほどのレスポンスには及ばない。

前回から行なっている、ゲームモード時における音ズレも計測した。

映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の中から「A/V Sync」テストを実践。ソニーのデジカメ「DSC-RX100M6」で120fps撮影したのが下記の動画である。なお、現状YouTubeでは、120fps動画は60fpsにコンバートされてしまうので、その点は了承頂きたい。

パナソニック・4K液晶ビエラ「TH-43JX850」の音ズレチェック(ゲームモード時)

映像としては、右に高速移動するグレーのバーが、中央の緑色のポイント(「0」のところ)に入ったタイミングで、発音するだけのシンプルなもの。

YouTubeの設定で0.25倍のスロー再生などを行なうと分かるが、本機ではドンピシャのポイントから遅れて+125.1msあたりで発音しているのが分かる。これは60fps換算でいうと約7.5フレーム分の遅延に相当する。0.1秒以上の遅延はかなり大きい。音楽リズムゲームなどのプレイに関してはかなり厳しい数字だ。

ブラビアの50X90Jは、83.4ms(60fps換算で約5フレーム)の遅延だったので、本機の方がさらに音ズレが大きいということになる。

最後に、ゲーム機Xbox Series Xの「4Kテレビ詳細」にて、映像フォーマット対応度チェックを行なった結果が下記の画像だ。

Xbox Series Xの「4Kテレビ詳細」の画面より

4K/120Hz入力、4KのDolby Vision入力など、ひととおりの形式に対応していることがわかる。Xbox Series X側のファームウェアアップデートのためか、ブラビア50X90Jチェック時に出ていた「4K/Dolby Vision/120Hz」形式のチェック項目がなくなっているが、本機は「4K/Dolby Vision/120Hz」形式には対応していない。

画質チェック:優秀なHDR表現力で色再現性も良好。視野角はやや狭い

本機の映像パネルは、4K/3,840×2,160ピクセルの43型VA液晶である。

光学30倍の拡大顕微鏡写真
光学300倍の拡大顕微鏡写真

上記写真を見ると、RGB(赤緑青)の各サブピクセルは縦長構造で、それぞれが横2×縦4の8ドメインに分かれていることが分かる。よく観察すると上ドメインと下ドメインのそれぞれが「田」の字に分割されていて、中央の「+」字状の格子筋を中心に、放射状に液晶を配向させている。これは、広視野角を実現するための配慮だと思われる。

VA液晶パネルはコントラスト性能に優れるが、視線角度依存の色変移が多いとされる。実際、注意深く視野角を意識して表示面を観察すると、画面中央付近から大きくずれると色変移を感じる。

最近のVA液晶にしてはやや視野角が狭い印象はあるので、設置する際は、設置台の高さと視聴位置を慎重に決めた方が良いだろう。なお、1サイズ上の49型モデルはIPS液晶なので視野角を重視したい場合はそちらを選ぶといい。

本機のバックライトはエッジ型LEDで、「Wエリア制御」と呼ばれる独自制御によるハイコントラストな映像表現を目指している。パナソニック側の図解を見る限り、本機は縦帯状でバックライトをエリア駆動しており、同時に、この縦帯状のエリア駆動に最適化した変調を映像信号にも行なっている。

このような制御に対して「Wエリア制御」という技術名が付けられているわけだが、もともとエリア駆動対応の液晶ディスプレイは、必然的に「Wエリア制御」的なコントロールが不可欠なので、他社でも似たような制御は行まっている。ただ、その制御品質について「他社に劣らぬ実力がある」という自信を見せているのだろう。

ということで、今回は、そうしたエリア駆動品質を診るために、映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「FALD ZONE counter TEST」を使った。

これは小さく高輝度な白色四辺形が漆黒画面の端を移動して回るもので、その際にどの程度HALO(ヘイローまたはハロー:光芒)現象が起きるのか、あるいは、その高輝度表現領域以外において明暗の揺らぎがないかどうかをチェックできるテストパターンだ。

本機でその振る舞いを診た感じでは、たしかにエッジ型バックライト特有の黒浮きはあるが「高輝度な白色四辺形」に着目するとHALOは驚くほど少なかった。なんというか、たとえそこに「高輝度な白色四辺形」がやってきても、その周辺において「元々あった黒浮き」が明るさを増したり減退したりしない。なるほど、高精度な制御はおみごと。パナソニックが自信を見せるだけはある。

「Wエリア制御」のイメージ

今回も4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の映画「マリアンヌ」から、冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーンや、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴した。使用した画質モードは「シネマプロ」。

チャプター2の夜の街のシーン。まず目が行く社交クラブのネオンサインや街灯については、輝きに派手さはないものの、周囲のオブジェクトよりも数段高い輝度で描画できていることもあり、HDRというキーワードに対する期待相応の輝き感は表現できていると思う。

続く、ブラッド・ピットが古い車から降り立つ場面では、古い車の艶のない黒いボディに付着した汚れやホコリが鮮明に見えることに気がついた。色でいうならば黒とグレーで構成される非常に暗い描写物だが、そこからはちゃんと微細な凹凸感が感じられる。

階調チューニングが甘く黒浮きの強い低グレードな液晶テレビだと、黒浮きに押しつぶされて黒とグレーの見分けも付かなくなる領域だが、本機では、エッジ型バックライトながら、Wエリア制御が効果的に働き高いパフォーマンスを発揮できていると思う。

偽装ロマンスシーンも、エッジ型バックライト採用機と言うことを考えるとかなり優秀。階下から漏れ届く照明と、星空・街明かりしか光源のない、とても暗い屋上で展開するシーンだが、その薄暗い屋上の石壁の凹凸群が、(本機にとって避けることのできない)黒浮きに沈まず、絶妙な陰影で描けている。どういうことかというと、喩えるならば「黒浮きの迷光も陰影表現に活かしているような巧妙さ」といったイメージだ。

主役のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの二人の暗闇における肌の質感も見どころ(チェック項目)だが、本機では、この暗がりにおける人肌の表現も優秀。かなり暗い人肌にちゃんと暖かみが残っている。細やかなカラーボリューム設計は暗色にまで及んでいるようだ。

エッジ型液晶機なので、明部で輝度を稼ぐ画作りかと思いきや、どうしてどうして。暗部階調のチューニングも優れていた。

UHD BD「マリアンヌ」

明るさ方向の表現力については、映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「Stimulus」テストを実践。これは、様々な色において、漆黒の0nitからHDR10規格上の最大輝度10,000nitまでのグラデーションバーを表示し、実際にどの程度の階調まで描けているかを確認するものだ。

本機では、白は1,000nit、赤/青系は200nit、緑系は600nitあたりまでが階調が潰れずに表現できていそうだ。まあ、このクラスの液晶テレビでは標準的な明部表現能力と思う。

UHD BD「The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark」
EDIPITの直販サイトに限り、クーポンコード「avw01」を入力すると1,500円引きで購入可能。クーポン期限は2021年10月15日まで

デジタル放送の表示品質も、画質に不満はない。

日本メーカーのテレビは、MPEG2ベースのブロックノイズやモスキートノイズにまみれた地デジ放送の映像を、高度な高画質化処理で美しく表示してくれるが、本機もご多分に漏れず美しかった。これは、本機の搭載する「微細ブロック階調補正」によるノイズ低減や、「4Kファインリマスターエンジン」による超解像エンジンによる合わせ技の効果なのだろう。

「微細ブロック階調補正」イメージ
「4Kファインリマスターエンジン」イメージ

ネット動画では、YouTubeを結構な本数視聴した。ブラビア50X90Jでもそうだったが、非HDR(SDR)ベースのYouTubeに対しても、HDR映像に肉迫した表示となっていたのが印象的だった。

43JX850には、SDR映像を疑似HDR化する機械学習技術ベースの「AI HDRリマスター」エンジンが搭載されており、これが威力を発揮しているようだ。数段見応えが増した状態でYouTubeを楽しめるのであれば、タブレットやスマートフォンで見るよりもテレビで楽しむ動機になりうるだろう。

「AI HDRリマスター」イメージ

最後に、本連載恒例の映像モード毎の白色光のカラースペクトラム計測結果を掲載する。

スタンダード。標準画質モードで迷ったらこれ
リビング。比較的明るい部屋でもハイコントラスト感が楽しめるモード
シネマ。シネマ系にしては色温度が高めでハイコントラストな画作り。テレビドラマ/ビデオ系映画向け
フィルムシネマ。UHD Allianceが推進中の映画視聴向け画質“Filmmaker Mode”に相当するモード。本機の映像エンジンの一部機能が無効化される。映画視聴で悩んだら、このモード
シネマプロ。本機の映像エンジンを活用しつつ映画視聴に最適化したモード。本機の高画質化機能を活かしつつ映画を楽しみたい際に奨励

最近の高画質液晶モデルで見られる、特有のスペクトラムとなった。

ご存じの人も多いと思うが、液晶テレビのバックライトの実光源は青色LEDであるため、本機も青色光のスペクトラムピークが鋭い。エントリークラスの液晶機だと青色光から波長変換して作る緑と赤のスペクトラムが鈍ってしまいがちだが、本機はピークが鋭く、なおかつ各波長の谷もえぐれているので混色時の色深度の深さがうかがえる。

ちなみに、赤色のピークに、ブラビア50X90Jと同様のKSF赤色蛍光体の特徴が出ている。近年の広色域バックライト採用機には、この蛍光体を採用するものが多くなっているようだ。

総括:丁度よいサイズと価格、必要十分な画質。優等生的な液晶ビエラ

パーソナル用途、かつ多目的に活用するには丁度よいサイズ感と価格帯、そして必要十分な画質性能とコストパフォーマンス。一言で表すなら、本機は“優等生的な液晶ビエラ”ということになるかと思う。決して尖った機能はないのだが、2021年の現在において、様々なユーザーが求める機能が一通り網羅されている。

映画好きにとっては、FilmmakerMode相当のフィルムシネマモードが搭載されているし、表示能力はバッチリ。サウンドについても標準搭載のスピーカーでDolby Atmosの簡易サラウンドが楽しめるので抜かりはないだろう。

ゲームファンにとっても、新世代ゲーム機が要求するHDMI2.1ベースの4K/120Hz入力、VRR、ALLMに対応。低遅延性能こそゲーミングディスプレイに及ばないが、カジュアルにゲームを楽しむ層には必要十分だ。

デジタル放送の画質も良好だし、リアルタイム視聴している番組以外の2番組を同時録画できる3チューナー性能もテレビ好きにも不満はない。またネット動画も卓越した映像エンジンの恩恵により「改めてテレビという装置で動画を見る」という気にさせてくれる。

43JX850のような、43型サイズ、そして実勢価格12万円前後のパーソナル向け4K液晶テレビは競合も多い。ソニーだとブラビア「KJ-43X85J」(下位機のX80JはHDMI2.1非対応)があるし、レグザには「43Z570K」、シャープにはアクオス「4T-C43DN2」(下位機のDL2はHDMI2.1非対応)あたりが、本機と競合しそうだ。

購入を検討をしている方は、店頭でこれらの機種などと見比べて、じっくり検討して決断するといいだろう。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
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