西川善司の大画面☆マニア

第268回

ミニLED×量子ドット搭載のハイコスパ4K襲来! TCL「C825」の実力とは!?

TCLの4K液晶テレビ「55C825」。約20万円

外国製の製品に警戒心を抱く特質が我々日本人には少なからずあるが、一度、慣れ親しんでしまうと不思議なもので、むしろ歓迎ムードで迎え入れる柔軟性もある。思えば、スマートフォンや自動車は、海外製のものを受け入れるような雰囲気になっている。

では、テレビはどうだろう? 実のところテレビについては、まだそこまでの受け入れ体勢には完全になりきれていない感がある。

韓国LGでさえ、2010年に日本テレビ市場に参入したが、近年になってようやく広く認知されるようになった。特に2020年モデルのテレビ製品群は、新世代ゲーム機への徹底対応戦略が功を奏し、けっこう売れたと聞く。また、最近はユニークなコンセプトの製品ラインナップがウケていて、PC向けディスプレイの分野でもLGの人気が上がっているようだ。やはり、舶来モノへの警戒心の強い我々日本人の心の鍵をこじ開けるには、辛抱強く、よい製品の継続的な投入が大切なのかもしれない……。

さて、今回取り上げるのは、まだ日本市場へ参入して間もない中国TCLの製品だ。

中国メーカーでテレビを製造してグローバルに販売している有名所としては、TCLのほかに、ハイセンス(Hisense)、スカイワース(Skyworth)などがある。

スカイワースはまだ日本市場に対して大きな動きを見せていないが、ハイセンスについては、けっこう「聞いたことある」「名前を見かけるようになった」と感じている人もいるだろう。なにしろ2018年には東芝のレグザブランドを手中に収めたし、2020年には俳優の綾野剛が出演するテレビCMを展開するなど話題を集めた。ハイセンスは2015年から日本市場にテレビ製品を投入しているが、当時と比べれば、かなり認知度を上げたといっていい。

で、今回のTCLである。

実は2020年度のテレビ製品世界シェアでは、4位のハイセンスに次いで、TCLは5位をマークしている。つまりワールドワイドでは、パナソニックやシャープを凌ぐ人気ブランドなのだ。

そんなわけで、ついに無視出来ない存在となってきたTCLのテレビを、大画面☆マニアでも取り上げるときが来たわけである。

C825シリーズは、65型と55型をラインナップ。今回は55型をセレクトした

TCLはコスパ重視のモデルが多いので、格安モデルを取り上げてもよかったのだが、今回は、日本市場ではまだ珍しい「ミニLEDバックライト」×「量子ドット」のダブル新技術採用機の4K液晶テレビ「C825」シリーズを選択した。

画面サイズは65型と55型があるが、小さい方の55型「55C825」を選択している。発表時の店頭予想価格は20万円前後だったが、実勢はもっと安くなっており、新技術盛りだくさんの割には、なかなか安価なのがTCLの恐ろしいところである。

外観:重量級で、スピーカー性能は良好。消費電力は一般よりは高め

ディスプレイ部のサイズは、1,227×76×750mm(幅×奥行き×高さ)。ミニLEDバックライトシステム採用機ということで、放熱機構の関係から“分厚い”ことを想像していたのだが、普通の液晶テレビとほぼ変わらない寸法だった。長時間稼働させてもほんのり暖かいという程度だったことも付け加えておく。

ただ、重量は約21.6kgと最近の55型液晶テレビと比較すると重い。今回は編集スタッフと2人で設置を行なった。

決して薄型ではないが、思ったよりも厚みは普通。ディスプレイ上部の側面は薄くなっている(奥にあるテレビは筆者宅の常設品)

スタンドの重量は800g程度。本体中央下部に合体させる方式だ。

スタンド部の占有面積は実測で横43×縦25cm。画面がはみ出ていいならば、このサイズの設置台に置くことができる。スタンド部は完全リジッド固定で、角度調整などはできない。スタンドと設置台の隙間は実測で約2cm。ブルーレイパッケージで例えれば、ぎりぎり2枚分は入らない程度の隙間で、結構な低背状態の設置だ。

スタンド部は底面にリジッドで組み付けるタイプ
スタンドは中央に鎮座する方式。画面がはみ出ていいならば設置台の大きさは小さめでもOK
ブルーレイパッケージが2枚分入らない程度の隙間。設置状態は低背となる

ディスプレイとスタンドの総重量は22.4kg。重いことは重いが、設置台からテーブルへの移動など、ちょっとした移動ならば、筆者一人で行なえた。

ベゼルは上部、左右部が実測で約1cm。下はスピーカー部があるのでこれを含めると、約6.3cm。ディスプレイ部の最外周には幅3mm程度の金属枠が画面を覆っており、見た目的にはここがベゼルという感じだが、本稿で実測したのは画面端から表示エリアまでの幅だ。

金属枠は3mm程度
表示領域までは画面端から約1cm程度はある感じ。

表示面は低反射加工になっていて、室内情景の写りこみはわずか。画面の端を斜めから見ると、表示“界面”パネルの奥側に液晶パネルがあることが見て取れ、画面が二重構造であることが分かる。

しかし、映像自体は表示“界面”パネルにちゃんと映って見えることから、この二枚パネルの隙間は光学樹脂で埋めてあるものと考察される。画面保護の役割も果たしているのだろうが、その影響か、最外周3mmくらいの幅でわずかに暗い。あくまで接近すると分かる程度で、普段の視聴位置からは気にならないのだが、一応気が付いたので書き留めておく。

低反射加工の効果はそれなりのに良好
液晶パネルの実態は奥まったところにあるようだ。しかし、樹脂系光学材の効果もあって、映像自体はちゃんと表示面の界面上にあるように見える

内蔵スピーカーは、本体下部左右に実装されたステレオスピーカー(15W+15W)と、背面のサブウーファー(20W)からなる2.1chシステム。総出力は50Wと、なかなか贅沢だ。

サブウーファーユニットは背面に搭載
フロントスピーカーはディスプレイ下部に搭載。サウンドデザインにはオンキヨーが協力しているようだ

オンキヨーブランドと冠してあるだけあって、音質は良好。ツイーターはないものの、ハイハットなどの高音域も聞きやすく、低音のパワー感もいい。音量を上げてもビビることがない。定位感は、“素”の状態だと若干下側にある感じが否めないが、左右のステレオ感はかなり出ている。

音声設定>サラウンドバーチャライザーの「低/中/高」のいずれかを選ぶと、幾分か音像の定位感が画面中央に上がる効果がある。「低/中」であれば、わざとらしさも少なく、常用するのもありかもしれない。

本機はこの2.1chシステムを活かした“バーチャルDolby Atmos機能”が搭載されている。UHD BD「クルエラ」のDolby Atmos音声を試したが、それなりに没入感のあるサウンドが楽しめた。音像の上下移動感や、背後への周り込み感までは実感できないが、それでも、画面枠外に音像が定位して移動する感触は得られる。この手のバーチャルサラウンドシステムとしては、及第点だろう。

HDR形式や各種サウンドフォーマットを認識すると、画面左上に該当のロゴが出現
USBメモリー内に保存した映像コンテンツを再生した場合でも、ちゃんとDolby Atmos形式を認識した

消費電力は250Wで、年間消費電力量は15kWh/年。同画面サイズの標準的な液晶テレビと比較するとやや高めだ。これはミニLEDベースのバックライトシステムによる影響だろう。総LED個数こそ非公開としているが、それでも「一般的な液晶テレビの数十倍のLED数」であることを謳っている。ただ、同画面サイズの有機ELテレビよりは低い。

インターフェース:HDMI2.1はeARCのみ対応

インターフェースは、正面向かって右側の側面にある。国内メーカーのモデルとは位置が逆である点に留意したい。

端子は側面に固められているが、やや内側にあるので配線は視聴位置から隠すことはできる。

側面の端子部

HDMI入力は3系統で、HDMI2.1対応はHDMI 1のみ。HDMI 2/3はHDMI2.0までのサポート。

ただ、HDMI2.1対応のHDMI 1も、取扱説明書を読むと「HDMI2.1要素対応はeARC対応のみ」とある。つまり、新世代ゲーム機などが要求する4K/120Hz(fps)入力には対応していない。カタログのスペック表には「HDMI2.1対応」とだけ書かれているので勘違いしやすい。

なお、筆者が調べたところ、一部海外の同型機C825では4K/120Hz入力が可能だという記述も散見した。もしかするとファームウェア等で可能になるのかもしれないが、今回の評価機は少なくとも対応はしていなかった。詳細については、ゲーム関連機能チェックのところで触れる。

eARC機能をオフにすることは可能
「HDMI設定」>「接続機器操作」の「通常」「拡張」が、ちょっと分かりにくい。どうやら「拡張」とすると、HDMI接続された機器に対して、テレビリモコンで「チャプター検索」といった、より高度なCEC操作が行なえる

アナログビデオ入力は、4極の3.5mmミニジャック端子を装備。付属の変換アダプタを使えば、赤白黄のRCAピンプラグからなるコンポジットビデオ端子、アナログステレオ音声が入力できる。このほか音声端子として、光デジタル入力を1系統、3.5mmのヘッドフォン端子を1系統用意する。

有線LAN端子も配備。無線LANは、WiーFi5(802.11ac/2.4GHz+5GHz)に対応。2系統のアンテナ端子(地デジ、4Kを含む衛星デジタル)と、2系統のUSB-A端子を備える。

2系統のUSB端子は、USB2.0とUSB3.0が1つずつ。USB2.0の方は汎用機器接続用、USB3.0は録画用ストレージデバイス接続用となる。USB2.0の方はキーボード、マウス、USBメモリー、カメラ機器などの接続に対応。マウスはプリインストール済みのYouTubeなどのAndroidアプリはもちろん、本機のメニュー対しても操作ができた。キーボードはアルファベット入力は可能だったが、日本語入力には未対応。

USBメモリーはJPG/PNG/BMPなどの静止画、H.264までのMPEG系動画、MP3/AACなどのオーディオファイルの再生に対応。Dolby AtmosのH.264動画を再生してみたところ、Dolby Atmos信号としてきちんと認識し、再生することができた。

ゲーム関連機能:入力遅延は60fps換算で1フレーム強。120Hz入力には未対応

今回もLeo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて入力遅延を計測した。

しばしば「なぜ画面上端で遅延を計測するのか」といった質問を受けることがある。4K Lag Testerは、テスト映像の左端のピクセル情報の伝送が開始されたタイミングで計測が始まるため、「映像エンジン側の処理に起因した遅延」の測定を重んじるのであれば、映像機器の左端の表示が開始されたタイミングで計測するのが最適ではないか、と判断しているためだ。

むろん計測結果は光学的な計測になるため、画素の応答速度も加味された測定値となることは間違いない。しかし、画面中央や画面下部で計測すると、そうした箇所までの「映像データの伝送時間」までが計測結果に含まれてしまうことになる。対して、画面左上で計測すれば、そうした時間を排除した「映像エンジン側の処理時間」が支配的な計測結果が得られる。

余談になるが、以前取材した某台湾大手メーカーの担当者は「我々の製品開発時では、映像が画面全体に表示し終わる画面最下部の右端で計測した総遅延量(映像エンジンの処理時間+映像データ伝送時間+映像パネルの応答速度の全ての合算値)を目安にしている」と述べていた。つまり、計測者の思惑によって色々な測定があるということだ。

いずれにせよ「同条件で測定した結果の相対評価」で比較しないと意味がないことに変わりはない。というわけで、ここでの測定値は、本連載の測定値同士で比較して頂きたい。

測定時の様子

話が逸れたが、測定は画質モードの「標準」「映画」「ゲーム」「PC」で行なった。

前回から4K/60Hzに加えて、フルHD映像の120Hzの測定も開始したのだが、本機においては、フルHD/120Hz映像は表示こそできるものの、正しい120fps表示にならず、計測値がランダムになってしまう現象に見舞われた。実際、PS5やXbox Series Xを接続した際も、本機では120Hz表示は行えないと診断された。よってフルHD/120Hzの入力遅延については「測定不可」と判断している。

4K/60Hzの入力遅延

  • 標準 60.7ms
  • 映画 34.8ms
  • ゲーム 18.0ms
  • PC 18.0ms

計測結果で最も低遅延なのは「ゲーム」と「PC」の18.0ms。これは60fps換算で約1.1フレームの遅延に相当する。まあ、最近のトレンドからすると「あまり低遅延とはいえない」という感じだ。

映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」から「A/V Sync」を再生して、音声の遅延も確かめてみる。ソニーのデジカメ「DSC-RX100M6」で120fps撮影したのが下記の動画である。なお、画質モード、サウンドモードも「ゲーム」とし、サラウンド系の処理は全て「オフ」設定としている。

TCL「55C825」の音ズレチェック

YouTube設定で0.25倍スロー再生などを行なうと分かるが、本機ではドンピシャのポイントから遅れて+125.1msあたりで発音しているのが分かる。これは60fps換算でいうと約7.5フレーム分の遅延に相当する(テスト映像は24fpsなので、ここでの換算はあくまで目安として考えて頂きたい)。0.1秒以上の遅延はかなり大きい。リアルタイム性の高いゲームをプレイするのはやや辛いようだ。

HDMI2.1の対応度を測るために、PlayStation 5の「映像出力情報」、Xbox Series Xの「4Kディスプレイ詳細」をチェックしてみた。画質モードは「ゲーム」を選択。結果は下記の写真になる。ちなみに、全てのHDMI端子で計測したが全て同じだった。

PS5の「映像出力情報」
Xbox Series Xの「4Kディスプレイ詳細」

これを見ると、4K/HDRは60Hzまでで、4K/120Hz信号には対応していないことがわかる。やはり本機のHDMI2.1機能はeARC対応のみのようだ。

少し気になるのが、Xbox Series Xの「4Kディスプレイ詳細」で表示された「お使いのテレビ設定はゲームではHDR10に対応していません。ゲームはHDRで表示されません」や「お使いのテレビ設定はHDR10のすべてのモードには対応していません。一部のコンテンツはHDRで表示されない可能性があります」というメッセージ。

PlayStation 5では「HDR対応」となっているのになぜ? と思うかもしれない。

どうやらXbox Series Xが言いたいのは「C825は、RGB出力モードのHDR10には対応していない」という事のようだ。もし、本機のHDR映像表示で何かおかしくなった際には、色差信号YUVフォーマットを選択することをオススメする。ゲーム機やPCと組み合わせて遊ぶことを想定するユーザーは、このあたりの特性を気に留めておく必要がありそうだ。

リモコン操作:レスポンスはまずまず。アプリの起動は遅いが、動作は軽快

リモコンは、他社でもよく見かけるシンプルな縦長デザイン。上の方に放送種別切換やチャンネルの数字ボタンがあり、中央付近に音量上下や十字ボタン、そして下側に録画再生関連のボタンや動画配信サービスのダイレクトボタンが列ぶ。

リモコンはオーソドックスなデザイン。質感は普通

電源投入後、地デジ放送画面が表示されるまでの所要時間は実測で約4.0秒。HDMI間の切り換え所要時間は約2.5秒と、まずまずな速さと言ったところ。

HDMIの入力を切り替えるには、リモコン最上部の[入力切換]ボタンを押し、入力端子リストから十字ボタンで選ぶ方式。不便なのは、一般的なテレビの操作と違って、入力端子リストが開いたあと、[入力切換]ボタンの連打でカーソルを下に送れないこと。

メニューが開いたあと、リモコン最上部にある[入力切換]ボタンから指をリモコン中央部にある十字キーに持ち替えなければならない。しかも、一般的な操作系に慣れていて、[入力切換]ボタンを再度押してしまうとメニューが閉じてしまう……。色々な機器を接続した状態で、入力系統を頻繁に切り換える場合は、この操作体系は少々不便だ。

入力切換メニュー。[入力切換]ボタンの連打で、順送りに選択できないのが不便

リモコンの中央やや上寄りには、Googleアシスタントのボタンがあり、ここを押すと、音声入力で本機を操作することができる。

中央やや上寄りにあるGoogleアシスタントボタン

リモコンのペアリングがけっこう難しく、メイン基板のありそうな本体右側に目一杯近づいてやっと行なうことができた。その後、Googleアシスタントのボタンを押しながらしゃべると、画面下にリアルタイム入力された音声が表示されるのだが、これが妙に遅く、異常に精度が低い。結局、音声入力をうまく試すことが出来なかった。

初期化したり、電池を替えたりいろいろ試したが改善されず。色々な編集部を回ってきた評価機のため、リモコン側のマイクが不調だったのかもしれない。ともあれ、今回は音声入力の評価を行なうことができなかった。

本機はAndroid TVなので、様々な動画配信サービスがアプリで楽しめる。これらの使用感も試してみた。

AndroidTVとしてのホーム画面。見慣れた動画配信サービスのアイコンが列ぶ

まず最初に、プロ棋士・藤井聡太氏の活躍を見るべく最近頻繁に利用しているAbemaTVで検証。アプリ自体の起動は、スマートフォンと比べるとかなり遅いが、一度起動してしまえば動作は軽快で、チャンネル切り換えもスムーズ。視聴時の操作感も特に不満はない。

YouTubeも同様。リモコンの不調により音声検索が出来なくて辛かったが、キーボードのアルファベット入力でも、日本語コンテンツが検索できることに気が付き、なんとか利用することができた。タイムラインのスキップ操作など、レスポンスは悪くない。

番組表に関しては、文字の大きさや一度に表示するチャンネル数などは変更できない様子。また、番組検索も「映画」「スポーツ」「アニメ/特撮」といったジャンル検索のみで、フリーワード検索に対応していなかった。このあたりの利便性・使い勝手は、国産メーカーに軍配が上がる。

電子番組表。表示するチャンネル数や時間、文字サイズなどのカスタマイズはできない

画質チェック:UHD BD映画やネット動画はまずまず。放送は今後に期待

本機はVA型液晶パネルで、広色域化に寄与する量子ドット(Quantum Dot Technology)技術を採用している。

量子ドットとは、ナノサイズの半導体結晶物質を用いて、入射してきた光を別の波長(色)の光に変換する用途に応用される素材のこと。なぜ量子(Quantum)の名が出てくるかというと、光の波長変換を量子力学レベルで行なうため、と説明されることが多い。

ディスプレイでの活用としては、光源である青色LEDから発せられた青色光を緑色や赤色に変換することに用いられる。太陽光発電においては、光電効果材質の働きを高める用途で使われる。

量子ドット技術をパネルに採用する

液晶パネルの顕微鏡写真を下に示すが、とてもユニークなサブピクセル構造をしていて近年の評価では筆者がお見かけしたことのない新顔の画素構造であった。

1サブピクセルあたり8個のドメインに分かれていて、うち上端4つのドメインは“田”の字のような正方形で細かく分割されている。対して下側4つのドメインは、縦長の長方形が2×2に並んだ構成。暗い色は上端の“田”の字ドメインを個別駆動し、明るい色は下側のドメインまでを動員するアルゴリズムになっているようだ。開口率も高めで、液晶パネルの素性としては良さそうだ。

光学30倍の拡大顕微鏡写真
光学300倍の拡大顕微鏡写真

いつものスペクトラム測定は以下の通り。

ダイナミック
標準
スポーツ
映画
ゲーム
PC

量子ドット技術が採用されたことで、赤緑青の各スペクトラムピークが非常に鋭く立ち上がっており、互いのスペクトラムにほとんど重なっていない。まさに「量子ドット技術のなせる技」といったところか。ここまで理想的な赤緑青の純色が得られているのであれば、混色した際に余計な色が混じらないため、理想的な発色を再現できることを期待させてくれる。

さらに本機は、バックライトとして、最新技術のミニLEDを直下に配置している。

ミニLEDといえば、アップルが販売している12.9インチのiPad Proに採用されたことで一気に認知度を上げたバックライト技術。ミニLEDという名の通り、発光するLEDチップのサイズがμm(マイクロメートル)級という小型LEDチップが使われている。

LEDチップサイズが小さい故に、配線分のスペースを確保してもLEDチップを数mm間隔で配置できる利点がある。従来の直下型LEDバックライトでは、LED同士の間隔が数cm以上だったのに対し、ミニLEDはより緻密かつ高精度に、映像の明暗に連動した制御ができる。必然的にLEDチップの数も多くなるため、高輝度、ハイコントラストな映像表現も期待できるわけだ。

本機に搭載されているLED数は公開されていないが、Webサイトでは「数千個」という表現があるため、少なくとも1,000個よりは多そうだ。

数千個のミニLEDバックライトを搭載
映像の明暗に連動した光源制御が可能

バックライトシステムの検証には、評価用のUHD BDソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」から「FALD ZONE counter TEST」を使った。

小さく高輝度な白色四辺形が漆黒画面の端を移動して回るもので、その際にどの程度HALO(ヘイローまたはハロー:光芒)現象が画面に起きるか、あるいはその高輝度表現領域以外において暗部の揺らぎがないかどうかをチェックすることができる。

UHD BD「The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark」
EDIPITの直販サイトに限り、クーポンコード「avw01」を入力すると1,500円引きで購入可能。クーポン期限は2021年10月15日まで

実機を観察すると、たしかにHALO現象はほとんど起きていない。ただ、完全暗部となるべき黒背景全体には、やや黒浮きがあり、有機ELディスプレイのような完全な漆黒表現にはなっていない。

意外だったのは、ごく一般的なLEDを用いた直下型バックライトにおける黒表現と同程度といったところ。とはいえ、そうした黒浮きと比較しても「高輝度な白色四辺形」の明るさは目立つので、ミニLEDによる局所的な高輝度が生み出す超ハイコントラスト感はそれなりに感じることができる。

「FALD ZONE counter TEST」を使った評価の様子(AV Watch連載「西川善司の大画面☆マニア」 第268回~TCL 55C825編より)

明るさ方向の表現力については、前述のUHD BDソフトから「Stimulus」を再生。様々な色において、漆黒の0nitからHDR10規格上の最大輝度10,000nitまでのグラデーションバーを表示し、実際にどの程度の階調まで描けているかが確認できる。

本機では、白は10,000nit、赤が200nit、青が100nit、緑は5,000nitあたりまでが階調が潰れずに表現できていた。毎回述べているが、この測定結果は「上記輝度で発光している」のではなく、あくまで「上記の輝度信号を描き分けることができている」ことを示しているに過ぎない。

とはいえ、さすがミニLEDを数千個実装しているだけのことはあり、白階調を10,000nitまで描けるのは立派。対して純色系は、一般的な直下型LEDバックライトシステムの値と変わらない印象だ。

輝度均一性(ユニフォーミティ)は良好

今回も、定点観測的に見ている4K Ultra HD Blu-rayの映画「マリアンヌ」から、冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーンや、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴した。使用した画質モードは「映画」だ。

夜の街のシーン(チャプター2)は、やや全体的に明るく描かれていることに気が付く。ただし、階調表現のバランスはそれほどおかしくはないので、前述したわずかな黒浮きを最暗部の基準として階調を作っているのかもしれない。

ネオンや街灯、行き交う車の赤いブレーキランプなどの自発光表現については、自慢のミニLEDの高輝度パワーで鋭い輝きを表現する。ただ、高輝度表現はやや白に飽和している感があり、彩度は失われ気味だ。

たとえば、チャプター3の冒頭。マリオン・コティヤールが開いた窓から見える屋外のソテツらしき植物に注目すると、その陽光に照らされた葉々は若干彩度が低く見える。本来はもう少し緑が濃く見えていい。

一方、社交場に入ってからシャンデリアを見上げるシーンは、そのシャンデリア自体が元々白っぽい光を放つものなので、1つ1つのクリスタルの微妙な輝きの違いがミニLEDの高輝度パワーで正確に描き出せていて美しい。

偽装ロマンスシーンは、本機特有の「わずかな黒浮き」を漆黒としてみなせば、違和感のない夜景が描けている。暗い屋上に佇むブラッド・ピットとマリオン・コーティヤールの肌の質感も悪くない。暗闇の中でもそれなりに血の気のある肌色が表現できている。

UHD BD「マリアンヌ」

本機採用のVA型液晶パネルは若干、視野角依存の色調と階調の変移が大きいようだ。画面に視距離1m未満で見ていると、同一シーン・同一照明下のブラッド・ピットが画面の中央に来たときと、画面の端寄りに来たときとで彼の肌の色が違って見える。このことに気が付いてから、筆者の顔面を画面の中央に近づけて、そこから顔を前後左右上下に動かしてみたところ、画面内の正対した箇所については理想に近い色が出ているものの、ずれた箇所は彩度が低くなる現象に気が付く。

この現象を低減させるのに一番よいのは、視距離を十分にとって画面中央の正面に相対する場所に座って見ること。そうすることで、画面中央に対する視線の角度と、画面端に対する視線の角度の違いは小さくなるので、視線の角度依存による色変移がだいぶ低減できる。

こうした特性(クセ?)を把握して、ユーザー側がよい視聴位置を見つけ出せれば、本機は映画内容に終始集中して見ていられるほどの描写力は持っていると感じる。実際、今回、新作UHD BDの「クルエラ」を本機で全編視聴してみたが、違和感なく普通に楽しむことができた。

UHD BD「クルエラ」

続いて、デジタル放送を視聴。地デジはバラエティ番組などを中心に、4K放送は相撲中継などを見たが、UHD BDのときとは違い、画作りが少々粗い印象を持った。

まずは発色。最初、画質モードを「標準」で見ていたのだが、画面が全体的に蛍光色っぽく見えたので「映画」を選択したところ、だいぶ自然になった。ただ、それでも全体的に人肌が黄色っぽく、コントラスト感も甘い。純色の発色も、本来出すべき色からずれている印象を受けた。

たとえば、4Kの相撲中継で映った行司の鮮やかな緑の着物。何だか色が褪せて見えたので、筆者宅にある国産メーカーの55型液晶テレビで確認すると、深緑のサテン生地のような質感が確認できた。力士の肩の部分に当たっているハイライトも、本機では黄味を感じた。

対して、解像感については4K放送は不満がない。4K放送はもともと高品位なHEVC(H.265)で伝送されているので、特に処理をしなくても高品位に見られてしまうので当然といえば当然。

しかし、MPEG2伝送されている地デジでは、モスキートノイズが散見され、時間方向のノイズ低減が不充分と感じる。特に、動体表現で解像感が失われることがしばしばだった。

UHD BD視聴時は「画作り、なかなか頑張ってるな!」という印象だったのだが、テレビ放送は「もう少し頑張りましょう」という印象に。地デジ放送の高画質化技術については、やはり国産メーカーの画作りに圧倒的なアドバンテージがある。LGなどは肉迫しているので、TCLも今後の改善に期待したい。

YouTubeも視聴してみたが、こちらはデジタル放送のような色褪せ感や肌色の黄色変移は特に感じられず、UHD BD映画の時とほぼ変わらない視聴体験である。

ここまでを踏まえると、どうやらデジタル放送の画質に関してのみ、チューニングの甘さが残っているようだ。

総括:テレビとしての完成度は? ディスプレイ装置としての満足度は?

この製品は、いくつかの視点で評価を述べることとしたい。

まず、最新技術であるミニLED×量子ドットを採用した“未だ日本では珍しい最新技術搭載液晶テレビ”という視点で見ると、実勢価格も18万円前後だし、最安値だと16万円前後になっているところもあるのでお買い得感はある。ちなみに、65型モデル「65C825」は、今回取り扱った55型に対して約4万円高となる。

コントラスト性能の面では、たしかにミニLEDの恩恵はあるなと感じる。が、量子ドットの恩恵は、スペクトラム測定結果には表れたものの、表示映像からはそこまで圧倒的な色再現性を感じることはできなかった。最新技術だけに、まだこれから改善に挑んでいく道半ば、といったところだろうか。

「テレビ放送を見るためのテレビ」としてはどうか。

これについては、本文でも述べたように、本質的にあまり高画質ではないMPEG2ベースの日本の地デジ放送に対する画質最適化が、まだ不充分と感じた。色彩や階調の設計が、本来見えるべき映像からけっこうずれているので、もう少し追い込むべきだろう。

一方で、YouTubeやAmazon Prime Videoなどの動画配信サービスの画質に関しては、特に大きな不満はない。恐らく「グローバルモデルとしての機能設計は十分だが、日本市場に向けた最適化がまだ未成熟」ということではないだろうか。

「ディスプレイ装置」としてはどうか。この視点の評価については、場合分けをしたい。

まず、「ゲームを楽しむ目的のディスプレイ装置」として見た場合、前述したテスト結果からもわかるように、入力遅延がそれなりにあり、また4K/120Hzへの対応も不充分。しかもPCやゲーム機と接続したときのHDR信号の表示対応力が芳しくないということで、積極的に本機を選択せよ、という理由は見当たらない。

一方で「一般的なビデオコンテンツを愉しむ目的のディスプレイ装置」として見た場合は、及第点が与えられる。

前述した話と同様で「HDMI入力された映像を表示する」という、グローバルモデルとしての機能設計は及第点の性能を発揮できている。今回行なったUHD BD映画の視聴では、本機特有の「画質の個性」「自分なりの最適な視距離の必要性」という要件があるものの、デジタル放送を見たときのような、違和感はない。ユーザーを映画コンテンツに引き込むだけの性能はあった。

以上のことを踏まえれば、本機は「ビデオコンテンツの視聴用ディスプレイ装置」、または「動画配信サービスの視聴」を目的とすれば、価格相応の満足度は得られるのではないかと思う。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
YouTube: https://www.youtube.com/zenjinishikawa