西川善司の大画面☆マニア

第281回

どうすりゃいい? Switchのサラウンド問題。ゼルダを5.1chで遊ぶ方法~前編

あまり活用されていない? Switchのサラウンド出力

え。Nintedo Switchって、サラウンドに対応してたんですか?

2017年に発売された任天堂のゲーム機「Nintendo Switch」(以下Switch)は、今発売されている最新ゲーム機・ゲーミングPCの性能水準と比較すればだいぶ低い。Switchのグラフィックス(GPU)性能は0.5TFLOPSくらいなので、PlayStation 4の3分の1以下、PS5の20分の1程度しかない。

しかし、その「限られた性能の範囲」を負い目として感じさせずに「奥深い遊び」を提供する名作ゲーム群を定期的に送り出せている企画力・開発力には「凄い」と言わざるを得ないのも事実だ。

今年は特に注目の人気作が目白押しで、5月には「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下ティアキン)、そして7月21日には「ピクミン4」が発売された。

Nintendo Switchソフト「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」
7,920円(パッケージ版)/7,900円(ダウンロード版)
Nintendo Switchソフト「ピクミン4」
6,578円(パッケージ版)/6,500円(ダウンロード版)

筆者は、Switch本体と同時に発売された「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下ブレワイ)で、全900匹のコログ(隠しアイテム要素)を集めきるくらいに夢中になった同シリーズのファンなので、当然、その続編でシリーズ最新作となるティアキンの発売を楽しみにしていた一人なのであった。

ただ正直、ブレワイを完全クリアして以降、PSやXbox、そしてPCなどの卓越した3Dグラフィックス表現を駆使したゲームの方に傾倒してしまったので、筆者のSwitchの稼働率は激減してしまっていた。その意味では、ティアキンは「筆者が久々に手を出したSwitchタイトル」となった。

かつて、ブレワイの壮大なスケールの描写に強い感銘を受けた筆者は、没入感を高めようと、所有しているプロジェクターを駆使して110インチの大型スクリーンにブレワイのゲーム画面を出力して楽しんでいたことを思い出す。今作のティアキンにおいても、同じようにプレイしようと、最近買い替えたばかりの有機ELモデルのSwitchをプロジェクタに繋いだところで、ふと手が止まる。

「あれ? ブレワイをプレイしてた時、サウンドってどう出力してたっけ? 確かサラウンド出力に対応してたはずだけど……?」

そう。Switch本体は、サラウンド出力に対応しているが、発売年度が古いこともあって、最新のサラウンドフォーマットには対応しておらず、意外とサラウンドを鳴らすためのノウハウが分かりにくいのだ。

ちなみに、発売されたSwitch用タイトルがサラウンド出力に対応しているかについては、目的のタイトルのダウンロード版購入サイトの「本ソフトは以下の機能に対応しています」の記述欄に「サラウンド(リニアPCM)と書かれていればそのタイトルは「対応している」ことを表している。7月21日に発売された「ピクミン4」は残念ながら非対応のようである。

サラウンド対応化を確認したいタイトルのダウンロード版のページの仕様表を見てサラウンド対応かどうかを確認しよう
対応ゲームでは、このような記述がある

過去を振り返れば「スーパーマリオ オデッセイ」(2017年)、「Splatoon(スプラトゥーン) 2」(2017年)、「マリオカート8 デラックス」(2017年)、「Splatoon 3」(2022年)など、多くの任天堂自社開発の主要タイトルが5.1chサラウンドに対応している。もちろん、カプコンの「モンスターハンターライズ」(2021年)など、サードパーティ作品にもサラウンド対応作品は少なくない。

主要タイトルは、5.1chサラウンドに対応している

2年ほど前、本連載で、PS5やXbox Series X|S向けのサラウンド事情を整理した記事を掲載した際、比較的好評だった。恐らく自分のように、ティアキンなどをきっかけに、Switchでサラウンドを楽しみたいと考えるゲームファンはそれなりに出てくるかもしれない。

というわけで今回は、本来は6年前にやっておくべきだった「Switchでのサラウンド音声出力講座」を行なうことにしたので、お付き合い願いたい。

Switchの5.1chサラウンドは「リニアPCM」のみ

まずSwitchだが、工場出荷状態では、サウンド出力が「サラウンド」設定になっていない。サラウンドを楽しみたい場合は、Switch起動後に歯車アイコンの「設定」メニュー内にある「テレビ出力」-「テレビのサウンド」の設定項目を「サラウンド」にしよう。

ここの設定が「自動」になっていた場合も、初めてサラウンド機器に接続する際には、改めて「サラウンド」を選択して「テストする」の実行を推奨する。

Switchのサウンド関連の設定は歯車アイコンの「設定」メニューの「テレビ出力」のところにある
工場出荷状態では「自動」になっているので、ここを「サラウンド」に明示設定してあげよう
「テストする」を実行すると、サラウンド環境が正しく動作しているかどうかをチェックできる

Switchが出力できるサラウンドフォーマットは「リニアPCM」の「5.1ch」だ。Switchは、これ以外の形式には対応していない。詳細は後述するが、5.1chサラウンドの代名詞であるDolby Digitalには対応していない。

リニアPCMは「非圧縮オーディオ」とも呼ばれる。では逆に「“非”の付かない圧縮オーディオは何ですか?」となるが、それはAACやMP3、Dolby Digitalなどが該当する。

細かい事を話すと、圧縮オーディオにはDolby TrueHD、DTS-HD MasterAudioなどに代表される“可逆圧縮”(=ロスレス:Lossless)と、前出のAAC、MP3、Dolby Digitalに代表される“不可逆圧縮”(=ロッシー:Lossy)の2種類に分けられるが、この部分はSwitchと関係ないため、今回は深掘りはしない。

とにかく、Switchは“非圧縮オーディオ”の出力にしか対応していない。そして5.1chサラウンドとは、前方左右(FL+FR)と中央(C)の3ch、後方左右(SL+SR)の2ch、そして重低音(0.1ch)で構成されるものだ。

サラウンドとしては、BDなどに採用例の多い7.1chや7.1.4chなどのフォーマットも存在するが、こちらも本稿では深掘りはしない。

5.1chサラウンドの基本的なスピーカー配置(ヤマハの5.1chシアターシステム「NS-PA41」の説明書より)

さて、前述した「テストする」を実行した際には、5.1ch出力分の6回のテスト音が「前方左右(FL+FR)」→「後方左右(SL+SR)」→「中央(C)」→「重低音(0.1ch)」の順番で音が鳴るので、これを全て聴くことができれば、その再生環境は5.1chサラウンドの出力が行なえている可能性が高い。

しかし、手持ちのオーディオ機器が、5.1ch分のサウンドを2ch(ステレオ)にミックスダウンして音を鳴らしている場合は、“サラウンドに対応していなくても、6回分のテスト音が聞こえる”こともある。

そのため、サラウンド出力が正常か否かを確認する場合は、テスト音の3番目と4番目の「後方左右(SL+SR)」の音が、自分(聴者)の後方付近から聴こえてくるかどうかを確認するのがよい。

もし、音が鳴ったとしても、テスト音の1番目と2番目の「前方左右(FL+FR)」の音が鳴った場所と違いが感じられない場合は、サラウンド出力が正常に行なわれていないと疑ってみるべきだろう。

手持ちのテレビ製品がSwitchのサラウンドに対応しているか

Switchの5.1chサラウンド音声は、HDMI端子から映像信号と共に出力されている。そのため、これを聴くための最もシンプルな機器の構成は、5.1chサラウンドに対応した「テレビ製品」を使うことだ。

しかし、テレビ製品が「サラウンド対応」だとしても、Switchが出力する「リニアPCMの5.1ch」方式に対応していなければ、正常に鳴らすことはできない。

つまり、5.1chサラウンド対応のテレビやオーディオ機器だとしても、Dolby DigitalやDTSといった圧縮オーディオ方式しか対応していない場合、Switchの非圧縮オーディオ方式のサラウンドを鳴らすことはできない、というわけだ。

繰り返しにはなるが、Switchは「5.1chサラウンド出力は可能」だが、5.1chサラウンドのメジャーどころである「Dolby DigitalやDTS方式には対応していない」ことは心に留めておこう。

家電量販店の店員に「Switchで5.1chサラウンドを楽しみたい」という相談をしたら、「Dolby Digital関連機器を勧められた」というケースも聞いたことがあるので、この点は注意したい。

Switchは、Dolbyやdtsの音声フォーマットには対応していない

ところで最近は、バーチャルサラウンド技術を音響システムに組み込んだテレビ製品が増えている。その最たる例が「Dolby Atmos対応」を謳うテレビ群だ。

ただ、Dolby Atmos信号はオブジェクトベースオーディオ方式であるため、Switchの非圧縮オーディオ方式とは別モノだ。

今回の記事を執筆するにあたり、筆者がソニー、パナソニック、レグザなどのDolby Atmos対応テレビをざっと調べてみた感じでは、Dolby Atmosのバーチャルサラウンド再生に対応しているものの、非圧縮オーディオの5.1chサラウンドに対応しているという記述にはたどり着けなかった。

繰り返しになるが、手持ちのテレビやオーディオ機器が「サラウンド対応」していたとしても、Switchの「非圧縮オーディオ方式の5.1ch」に対応しているか否かを確かめるのは、前述した「テストする」モードの実行で判断するしかないのだ。

Dolby AtmosとリニアPCMは別の音声フォーマット。Dolby Atmos対応テレビ=リニアPCM 5.1ch対応テレビとは限らないので注意

Switchのサラウンドをマルチスピーカーで構築する?

テレビ単体で、Switchの「非圧縮オーディオ(リニアPCM)×5.1ch」を鳴らすのが難しいということならば、どのような機器ならば確実に対応しているのか? というと、それはホームシアター向けのAVアンプだ。

AVアンプであれば、4万円台のエントリークラスでも、直近10年以内の製品であれば「非圧縮オーディオ(リニアPCM)×5.1ch」には、ほぼ間違いなく対応している。

対応かどうかを確実に知るには、スペック表などの「対応音声フォーマット」のところに「リニアPCM 5.1ch/7.1ch」とか「PCM 2ch-8ch」のような記載があれば間違いない。

ヤマハのエントリーAVアンプ「RX-V385」(53,900円)
デノンのエントリーAVアンプ「AVR-X580BT」(58,300円)

ただ、AVアンプを使った5.1chサラウンドでは、5基のスピーカーと1基のサブウーファーを設置しなければならず、金銭的なコストはもちろん、設置の手法や配線の取り回し、スペースなど様々な問題が発生し、導入の敷居が途端に高くなる。

筆者も、製品評価用に7.2.2ch(11スピーカー)のサラウンドシステムを自宅に構築しているが、サラウンドの品質を追求するならば、このアプローチが最良なのは間違いないだろう。

AVアンプを使ったサラウンドの構築手法については他の記事に譲るが、機能を最小限に絞ったプロセッサモジュールと、5.1ch分のスピーカーをパッケージングした「5.1chサラウンド入門者向け商品」は、現状あまり新モデルが出ていない。

比較的低コストで5.1chサラウンドシステムを構築したい方には、そうした入門セットを選択するのも良いかと思ったが、今はこの製品ジャンルは廃れつつあるようだ。

2014年8月発売のパイオニアの5.1chサラウンドシステム「HTP-S767」(生産完了品・当時の価格は57,000円前後)。約10年前は、入門クラスのサラウンドパッケージが多く販売されていた
ヤマハでは、入門向けの5.1chスピーカーセットを今も販売している(写真は「NS-P41」。価格は30,800円)

お手軽サウンドバーの罠。Switchのサラウンドが鳴らせない

それでは、最近流行りの「サウンドバー」は、Switchのサラウンドが鳴らせるのだろうか?

AV Watch読者であれば百も承知だろうが、ゲーマーなど「オーディオとかよく分かりません」という方に向けて念のため説明しておくと、サウンドバーとはテレビのスピーカー機能に満足できない「高音質志向のユーザー」が導入することが多い、バー(棒)状のオーディオ機器(アクティブスピーカー)だ。

テレビ内蔵スピーカーよりも、だいぶ迫力のある音響が楽しめることもあって、サウンドバーはゲームファンからも関心が高まりつつある。

室内にスピーカーを複数本設置する方法と比べれば、サウンドバーは、テレビの前方・直下に置くだけでよいため導入が楽ちんだ。大きな部屋でなくとも、気軽に自室のサウンド環境をグレードアップできるので若年世代でも導入しやすい。

製品のグレードもピンキリで、入門者向け製品は「安価で音質はそれなり」だが、上位製品は「価格も高いが性能も高い」。ただ、一度導入すれば、テレビを買い替えても、サウンドバーは流用できるので、長く付き合うことを想定し、頑張って1ランク上の製品を導入するのもありだろう。

そして、最近のサウンドバー製品で、特に人気が高まっているのが、1本でサラウンドが楽しめるサウンドバーだ。

“1本でサラウンドが楽しめる”とはいっても、あくまでサウンドバーなので、実際にスピーカーがあるのはテレビ画面のある前方だけで、後方には何も設置しない。後方から再生される音像は、正面に設置したサウンドバー内の実体スピーカーから発せられる。つまり、いわゆる「仮想音源技術を使ったバーチャル再生」となる。

ただ、安価なサウンドバーは、5.1chサラウンド再生に対応していたとしても、対応するフォーマットはDolby Digitalなどの圧縮オーディオ形式で、Switchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドには対応していない製品が多い。

では、Switchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドに対応できるサウンドバーは、どうやって探せばよいか。理由や解説は後回しにして、大前提の要件だけをまず記そう。それは――

HDMI入力に対応している ことだ。

「何を当たり前のことを!」と言われそうだが、実際のところ、安価なサウンドバーは、HDMI入力端子を持っていない機種が多い。

例えば、ヤマハの現行モデル「SR-C20A」は、“ARC対応のHDMI出力端子”を搭載してはいるものの、“HDMI入力端子は非搭載”。入力端子として実装されているのは、光デジタル音声入力端子のみである。

ヤマハの現行サウンドバー「SR-C20A」。“ARC対応のHDMI出力端子”は搭載するが、入力端子は“光デジタル音声入力端子”しかない

というか、現在のサウンドバーは――

  • HDMI入力端子は非搭載
  • 入力端子は光デジタル音声端子
  • ARC対応のHDMI出力端子を搭載

――という製品の方が多いのだ。

「光デジタル音声入力端子」にまつわる複雑な事情についての詳細は、後編で扱うとして、ここでは、Switchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドに対応できるサウンドバー製品の選び方にポイントを絞ろう。

HDMI端子は、機器に実装するごとにHDMIの特許料等を管理する団体、HDMI Licensing Administratorにライセンス料を支払わなければならない。しかも、実装するHDMI端子を増やすごとに従量制で課金される仕組みであるため、昨今のサウンドバー(特に入門クラスの安価な製品)は、実装するHDMI端子をなるべく減らしたいという事情がある。

最近のグラフィックス(GPU)カードに搭載されるHDMI端子が少ない理由についても、そんな事情が見え隠れするわけだが、サウンドバーの場合は、搭載するHDMI端子を少なくするテクニックとして、ARC対応のHDMI出力端子を“1つ”だけ搭載する手法が採られている。

ARCは「オーディオ・リターン・チャンネル」(Audio Return Channel)の略で、簡単に説明すると、接続されたARC対応のHDMI機器間でサウンドデータをやりとりする仕組みのことだ。

具体的には、サウンドバー側の「ARC対応のHDMI出力端子」と、テレビ側の「ARC対応のHDMI入力端子」を接続することで、この機能を使うことができる。

HDMIの伝送的には“サウンドバーからテレビに向かっての接続”と思えるが、実際にはテレビで鳴らすべき音声を、サウンドバーに向かって“逆”伝送している。つまり、HDMIの音声信号だけを逆流させる仕組みだから“ARC”という名前が付いているのだ。

例えば、ゲーム機(ブルーレイ機器でもいいが)のサウンドを、ARCで鳴らす場合には、テレビとサウンドバーをARC対応HDMI端子同士で接続した上で、ゲーム機をそのテレビの別のHDMI入力端子に接続すればいい。その上で、テレビ側の入力切換で、そのゲーム機が接続されたHDMI系統に切り換えて、ゲーム映像を画面に出すと、そのゲームサウンドは、ARCの機能が働いて、テレビ内蔵のスピーカーからではなく、サウンドバーから鳴ることになる。

HDMIの「オーディオ・リターン・チャンネル」(Audio Return Channel)利用時の映像信号と音声信号の流れ。テレビ側のHDMI端子はHDMI"入力"端子にもかかわらず、サウンドバーに音声信号を出力(逆流)させるところに「リターン」の意が込められている

この仕組みを利用すれば、Switchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドも再生出来るのではないか!? と思えるのだが「そうは問屋が卸さない」のだ。

上で引き合いに出した、ヤマハ「SR-C20A」もARC対応のHDMI出力端子を備えているが、Switchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドの再生は行なえない。

その理由は、ARCの仕組みでは、非圧縮オーディオ(リニアPCM)を2ch(ステレオ)分までしか伝送できないためだ。

そう。ARCは1Mbps程度の帯域しかなく、サラウンドサウンドを伝送するためにはDolby Digital/DTS/AACといった圧縮オーディオ形式を利用することが前提となっているのである。事実、ヤマハ「SR-C20A」のスペック表を確認すると、非圧縮オーディオ(リニアPCM)を2ch(ステレオ)分までしか対応していないことが明記されている。

打つ手はないのか……というと、そんなことはない。

実は、HDMI2.1規格化の時点で、ARCの帯域上限が37Mbpsにまで大幅に拡大されており、この仕組みを活用することで、非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドの伝送が行なえるようになる。HDMI2.1規格で拡張された新しいARCは「eARC」(拡張版ARC:Enhanced ARC)と命名されている。

つまりまとめると、Switchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドの再生に対応できるサウンドバーは――

  • (1)eARC対応であること
  • (2)非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドに対応していること

――を要件として探すといい、というわけだ。

価格.comの「絞り込み条件の一括設定」で「サウンドバー製品」を「eARC」対応で検索すると、デノン「DHT-S217」が最もコスパがよさそう。入力信号として非圧縮オーディオ(リニアPCM)の7.1chサラウンドまで対応しており、仮想音源技術を使ってバーチャルサラウンド再生ができる。7.1ch対応は、5.1ch対応を内包しているので問題ないだろう。

価格.comの「絞り込み条件の一括設定」で「サウンドバー製品」を「eARC」対応で検索した結果
デノンのサウンドバー「DHT-S217」。仕様表を確認したところ、「リニアPCM(最大7.1ch)」となっていたのでSwitchが出力する非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドに対応できそうだ

ただ、両方を満たしていても、機能や性能的な問題で、5.1chを3.1ch以下にダウンミックスして再生するなど、5.1chの情報をバーチャルサラウンド再生に活かしていない製品があるかもしれない。

そこで念のため、上の条件(1)(2)に当てはまる製品が多そうなデノンとソニーに問い合わせたところ、「5.1chの入力信号を(情報を間引くことなく)バーチャルサラウンドに活かしている」と確認が取れたのが、以下のモデルだった。

・ソニー「HT-A7000」「HT-A5000」「HT-X8500」「HT-A3000」「HT-S2000」「HT-G700」
・デノン「DHT-S217」

ソニーによれば、サウンドバーのエントリークラス「HT-X8500」「HT-A3000」「HT-S2000」「HT-G700」は全て、非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chや7.1chのサラウンド入力をデコードし、垂直方向をソニーの独自技術「Vertical Surround Engine」で、水平方向を「S-Force PRO Front Surround」技術でバーチャル再生してくれるとのこと。

リア方向からの音像表現にこだわりたいユーザーは、2.1ch再生や3.1ch再生に対応したモデルよりは5.1ch以上の再生用の専任スピーカーがあるクラスのモデルを選ぶのがいいだろう。

ちなみに、ソニーのサウンドバーでは「HT-A5000」以上のモデルでは、5.1ch以上の再生用の専任スピーカーが搭載されている。HT-A5000については、今回メーカーから実機を借りることができたので、実際に試してみたインプレッションを後述する。

ともあれ、Switchが圧縮オーディオ形式の5.1chサラウンド出力に対応していてくれれば、もう少し製品も挙がってくるだろう。

eARC対応HDMI入力端子搭載のテレビと、eARC対応HDMI出力端子搭載のサウンドバーの接続様式。基本的には前出のARCの図解と同じ接続様式となる

Switch対応のサウンドバー「HT-A5000」の実力は?

実際に、Switchに適合できるサウンドバー製品としてソニーの「HT-A5000」を試してみることにした。

ソニーのサウンドバー「HT-A5000」

バーチャルサラウンド対応のサウンドバー製品は、リアスピーカーの音像生成のために、本体から発音した音を、その部屋の壁や床に反射させる仕組みを利用するため、このタイプの製品であるHT-A5000も、「音場最適化」の実行を初回セットアップ時に要求される。

最初、この「音場最適化」処理を、PCモニターの適当なHDMI入力(eARC/ARC非対応)に接続しただけで実践したところ、進捗度37%あたりで「音場最適化が失敗しました」の旨を告げるエラーが出て先に進めなくなってしまった。これは筆者の想像になるが、この初期化フェーズに、eARC/ARCなどの機能対応チェックなども行なっているのかもしれない。

ということで、ARC/eARC対応テレビを用意し、ARC/eARC対応HDMI端子同士でHT-A5000を接続したところ、ちゃんと音場最適化処理を最後まで実行できた。なので、皆さんも、横着しないように(笑)。

音場最適化の様子

HT-A5000自体の音質は良好だ。テレビの内蔵スピーカーよりは圧倒的に良好で、音量を上げた時の音圧も高まり、迫力が増す。音楽の再生にも不満がないレベルだ。

では、ゲームをプレイしたときの定位感や聴感はどうか。実際にティアキンをプレイしたり、あるいはサラウンドサウンドのテスト音声などを試してみたが、フロント左右チャンネルは、HT-A5000本体の左右両端から数十センチ離れたあたりから再生されるような印象で、強いワイド感が得られた。

センターチャンネルは、HT-A5000本体の中央から聴こえてくる感じで、左右にワイドに広がっていくフロント左右チャンネルの音像とは対照的だ。あえて音像の広がりを抑えている印象で、セリフ音声は明瞭で聴きやすい。

リア左右チャンネルは、真後ろから聴こえるというよりは、正面を向いている筆者の真横よりもやや前あたりに聴こえる印象だ。ただ、明確に、フロント左右チャンネルの音像よりは、聴者たる筆者に近い位置で鳴っている印象はある。つまり、フロント左右チャンネルとリア左右チャンネルは分離して鳴っている聴感はある。

今回の筆者宅の環境で、リア左右チャンネルが、「後ろから聴こえてくる」という聴感が得られなかったのは、恐らく、筆者宅の「左右の壁のあり方」に起因したものだと推察する。

前述したように、こうした前置き型サウンドバーでバーチャルなリアチャンネルの音像の理想的に再生するためには、前に置かれた本体から発せられた音像を、壁を使って理想通りに反射できることが要求される。

今回の筆者宅の設置環境では、正面向かって左側の壁一面に柔らかい布製のカーテンが敷かれており、右側はキッチンが広がっているため開放状態の空間となっていた。つまり、反射すべき音波の多くが、左側では吸収され、右側では発散してしまったのだろう。それ故、理想通りのリアチャンネルのバーチャル再生が奮わなかったのではないか。

バーチャルサラウンド対応のサウンドバーにて、理想通りのサラウンド感を獲得したいと考えるユーザーは、視聴位置から見た、左右の壁(場合によっては、奥の壁や天井)が、音波を反射しやすいかどうか、事前に見極めておくことが必要かもしれない。

ちなみに、HT-A5000には、無線接続できるオプションのリアスピーカー製品「SA-RS5」「SA-RS3S」が用意されているので、HT-A5000本体のみの設置で、理想的なサラウンド考えられなかった場合は、こうしたオプション製品を活用するという手もあるだろう。

音場プログラムはソニー独自の「Sony Vertical Surround Engine」「ドルビー・スピーカー・バーチャライザー」「DTS Neural:X」の3つが用意されているが、今回、筆者がティアキンのプレイでテストした範囲では、「Sony Vertical Surround Engine」「DTS Neural:X」がしっくり来ていた。理由は、これら2つの音場プログラムは、再生音が空間全体に浸透しているような空間の広がりを感じさせてくれる聴感だったため。ティアキンの広大なオープンワールドなフィールド表現にとてもマッチしていたのだ。

「ドルビー・スピーカー・バーチャライザー」は「Dolbyフォーマット以外の音像に対して効果がない」と説明書に記載されているので、Switchと組み合わせる範囲では選択する意味はないということになる。ちなみに、Switch接続時、無理矢理選択すると、2chステレオ再生に近い聴感となっていた。

音場プログラムは3つを用意する

ゲームファンからの関心が強いと思われるHT-A5000のHDMI入出力端子のパススルー性能についても調査してみた。

まず、入力遅延について。

遅延計測機器を評価対象のディスプレイ機器に直結した際と、HT-A5000のパススルー接続した場合との遅延速度を比較してみたところ、全く変わらなかった。つまり「パススルーによる追加遅延はなし」と断言できるということだ。

評価に用いたディスプレイは、HDMI2.1規格対応でHDMI接続で4K/120Hzの入力が可能な、LGの「27GP950-B」。写真下側が遅延計測器直結状態での計測。写真上側が「HT-A5000」からパススルー接続した状態での計測。計測値に変わりなし

続いて、HDMI2.1規格の帯域の上限に近い4K/HDR10/120Hzの映像がパススルー出来るかをチェックしてみたところ、以下のような結果になった。

GeForce RTX 4090でチェック。ディスプレイはLGの「27GP950-B」だ。ちゃんと4K/HDR10/120Hzのパススルーが行なえた

問題なくパススルーが行なえた。さすがはPS5を有するソニーグループの製品といったところか。Switchと接続する場合には無関係なテストだが、PS5、Xbox Series X、ゲーミングPCにおいても、HT-A5000を活用したいと考えているゲームファンには朗報だろう。

というわけで、後編では、冒頭で述べたように、Switchの5.1chサラウンドが再生できるヘッドフォン、光デジタル音声信号の話題などを取り上げる。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
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