西川善司の大画面☆マニア
第189回
アナログ感あるフルHDの4K化。JVC「DLA-X700R」
熟成のフルHD/4K画質とe-shiftの限界
(2014/4/25 10:50)
今回取り上げるのは4K対応のJVCプロジェクタ「DLA-X700R」。フルHD解像度の映像パネルで疑似的に4K映像を作り出す「e-shift」テクノロジーを採用したJVCプロジェクタの第3世代となる。
ネイティブコントラストの優秀性に自信を見せてきたJVCだったが、今回のDLA-X700Rでは動的絞り機構を搭載。また、従来はフルHD映像を疑似4K表示することに主眼が置かれてきたe-Shiftをネイティブ4K入力にも対応させるなど、今回のDLA-X700Rは進化ポイントが多い。今回は、フルHDソースを4K疑似表示させる性能はもちろんのこと、4Kプロジェクタとしての実力も見ていくことにしたい。
設置性チェック~各メーカーの全106種類のスクリーン製品に対して個別の画調プロファイルを提供
先々代のDLA-X7から筐体デザインの変更はなし。直線基調のシンプルデザインで、光沢塗装がなされ、ハイエンド機らしい風格を備えている。ただ、全モデルがフルHDモデルだったDLA-X3/X5/X7からの買い換え派もそろそろでてくるはずで、そうしたD-ILAファンからすれば、3世代経った4Kモデルでも外見のデザインが変わらないというのは消費者心理からするとちょっと寂しい気もする。
本体寸法は455×472×179mm(幅×奥行き×高さ)。正方形に近い縦長寸法となっている。一般的なプロジェクタと比較すると、相当大きく感じる。重さは約15kg。フルHD機と比較するとやや重いが、4K機としては競合のVPL-VW500ESも同じくらいだ。天吊りで1人で持ち上げるのは難しいが、台置きの際の持ち運び程度であれぱ大人1人で行なえる。
底面側にはネジ式の高さ調整式の脚を4つ備えている。多くのホームシアター機は前側の脚部しか調整できないが、JVCのD-ILA機は、4脚調整できる製品が多い。4脚調整可能だとやや打ち下ろし気味の投射にも対応できるので、設置自由度が増す。地味ながら評価したいポイントだ。なお、横2つの脚部間の距離は33.7cm、縦2つの脚部間の距離は29.0cmだ。ボディはでかいが、"接地"寸法自体はコンパクトだ。
ボディデザインに変更がないので天吊り金具の設定についても変更はなし。DLA-X7から純正オプションとして設定された天吊り設置金具「EF-HT13」(52,000円)がラインナップされているほか、'09年モデルの用の天吊り金具を流用するためのベースプレート「EF-BP2」(22,000円)なども設定されている。最近は多様な機種に対応する格安なサードパーティ製天吊り金具も発売されてきているが、こうした過去の天吊り金具の流用手段まで用意してくれているのはありがたい。
投射レンズは、電動ズーム、電動シフト、電動フォーカスに対応したフル電動制御2.0倍ズームレンズ(f=21.4mm~42.8mm,F=3.2~4)だ。光学仕様的にはDLA-X7から変更はない。
投射レンズは、電動スライド式ドアを採用。エントリクラスからハイエンドまで一貫した電動開閉ドアを採用しているのはJVCのD-ILA機だけだ。プロジェクタの機能の本質とは無関係な部分だが、こうしたこだわりはオーナーシップを掻きたててくれる。
100インチ(16:9)の最短投射距離は3.01m。最長投射距離は6.13m。最短投射距離は最近のホームシアター機の標準スペックで、最長投射距離は長めで、大きめの部屋の後ろの方に設置しても大きさを絞った投射が出来ると言うことだ。
レンズシフト量は上下±80%、左右±34%。今回の筆者のテスト環境では、高さ150cm程度の棚の上に台置き設置して、3.5メートル離れた100インチスクリーンに投射したのだが、問題なく、設置が可能であった。スクリーンの下辺位置は床下から40cm程度上にあるので、下方向へのレンズシフトを活用した相当な打ち下ろし投射となっているわけだが、問題なくスクリーンいっぱいに投射することができた。
実際に設置してみて便利だったのはリモコンによるフォーカス合わせ。最近、筆者はソニーのVPL-HW50ESを使っているが、これのフォーカス調整が手動ダイヤル式なので、相当苦労している。
ちなみに、DLA-X700Rは、疑似4K表示(後述)をキャンセルする機能があるので、リアル・フルHDモードにした方がフォーカス合わせはやりやすかった。疑似4K表示モードでは、ピクセル輪郭がどうもボヤっとしてしまって合わせにくいのだが、リアル・フルHDモードだと細い画素格子の鮮明感を頼りにフォーカス合わせができるのだ。
さて、調整したズーム倍率、フォーカス状態、シフト状態は、「レンズメモリー」機能により2パターンまでユーザーメモリに記憶させることができる。実はこの機能、最近、シネスコサイズ(2.35:1)のスクリーンを設置するホームシアターケースが増えていると言うが、この機能はそうしたユーザーのため。シネスコサイズのスクリーンにシネスココンテンツを全面投射するレンズ調整状態と、16:9コンテンツをシネスコスクリーンで最大表示させるためのレンズ調整状態を、それぞれレンズメモリに記録させておけば、リモコンでその種のコンテンツを見る際に最適設定を一発で呼び出せるというわけだ。
もう一つ、DLA-X700Rにはマニアックな機能が搭載されている。それは「スクリーン補正」機能。これは、JVCが著名スクリーンメーカーの製品ごとに最適な画調プロファイルを制作しており、これをユーザーの意志で呼び出すことができるのだ。
プロファイル番号は3桁の数字指定で呼び出す方式で、各メーカーの各スクリーン製品との対応は公式サイトで調べられるようになっている。2014年4月時点では106種類のプロファイルが設定されている。筆者宅のスクリーンはキクチ科学研究所のホワイトマットアドバンスだったが、ちゃんと対応プロファイル(プロファイル番号32)が用意されていた。
ランプは230Wの超高圧水銀ランプ。交換ランプの型式番は「PK-L2312U」(24,000円)で、先代DLA-X75Rと同じ。4Kプロジェクタの中では群を抜いて光源ランプが安価であり、ランニングコストは安い。公称寿命も「ランプパワー=低」であれば4,000時間と比較的長め。消費電力は360W。ハイエンドプロジェクタとしては平均的な消費電力量だ。
動作時の公称騒音レベルは、「ランプパワー=低」モードで21dB。確かに低モードでは本体から1mも離れれば冷却ファンの騒音は聞こえない。「高」モードでは、やや騒音レベルが高くなるが、2mも離れれば聞こえない。エアーフローは後面吸気・前面排気なので、視聴位置が前面の排気口の軸上からずれるように設置するのもコツだと思う。
接続性チェック~アナログ端子は全廃。HDMI2.0、4K/60Hzに対応
接続端子パネルは、本体後面に集約している。つまり、本体を壁際に寄せすぎて設置すると、ケーブルの抜き差しがやりづらくなる。映像入力系は、HDMIオンリーとなった。HDMI端子は2系統。HDMI 2.0にも対応しており、3,840×2,160ドットの4K入力は最大60Hz(60fps)にまで対応している。また、3D立体視、Deep Color、HDMI-CEC、x.v.Colorにも対応する。
PC入力はHDMI端子が利用でき、HDMI階調レベルの設定も臨機応変に変えられる。具体的には「入力信号」メニューの「入力」設定から「オート」「スタンダード」(16-235に相当)、「エンハンス」(0-255に相当)、「Super White」(16-255に相当)の4つのいずれかを設定することになる。DLA-X70Rの時にはなかった「オート」設定が、DLA-X700Rには備わっているが、筆者の実験では、PC(GeForce GTX780ti)やPS3と接続したときには「オート」機能がうまく働いてくれなかった。手動設定があるので困ることはないが、機器の種類を変えたときには、「オート」に頼らず、テストパターンなどを表示して正しい階調が得られているかを確認した方が良いだろう。VPL-VW500ESでは、同一テスト環境で「オート」設定が正しく機能していたので改善して欲しいポイントではある。
トリガー端子は、外部機器との連動を制御するための端子だが、「機能」メニューの「トリガー」設定でその動作の仕方を細かく設定できる。具体的にはこの機能を使わない「オフ」の他に、「オン(電源)」と「オン(アナモ)」が設定できる。「オン(電源)」はDLA-X70R稼働時に常時12V出力するもので、電動スクリーン、電動シャッター、照明装置などとの連動動作を行なわせるときに使用する。「オン(アナモ)」はアナモフィックレンズを使用する際に12V出力するものになり、「設置」メニューの「アナモフィック」メニューを「A」または「B」に設定することで機能する。ちなみに「A」は2.35:1の映像を縦方向に伸長表示するモードでアナモーフィックレンズ装着状態で2.35:1映像を2.35:1スクリーンに投影するために利用する。「B」は16:9映像を横方向のみ圧縮表示するモードで、16:9映像を2.35:1スクリーンに対しアスペクト比を維持したまま最大表示するために利用する。
EthernetとRS-232C端子も装備。これらはPCなどと接続して本機をリモート制御するためのものになる。3D SYNCHRO端子は、3D立体視時に、左右の眼用の映像表示と3Dメガネのシャッター開閉の同期を取るためのエミッターを接続するための端子だ。DLA-X3/X7/X9時代から発売されている赤外線方式の「PK-EM1」(9,000円)のほか、電波(RF)式の「PK-EM2」(10,000円)も利用できる。今回はPK-EM2を接続して評価を行なった。
RF式の方が遮蔽物に強いので、新規に3D立体視環境を構築するのであればPK-EM2の方をオススメする。RF式にした場合は3Dメガネの方もRF式に対応した「PK-AG3」(15,000円)が必要となる。
操作性~1ピクセル単位の適応型超解像処理ができるようになった新MPC機能
リモコンは「つや消し黒」の縦長形状のリモコンだ。[LIGHT]ボタンを押すことで自照式で橙色に全ボタンが発光する。基本的な操作系は、DLA-X70Rから変更がないので、詳細は本連載DLA-X70R編を参照して欲しい。
DLA-X700Rでも、RGBの各色の画素の色ずれを調整できる「画素調整」機能が搭載されている。画面全体を11×11に分割した121領域に対して、1ピクセルの1/16精度で個別に設定できる。先代までは、この調整結果をオン/オフにすることしか出来なかったが、DLA-X700Rでは、この調整結果を「メモリー1」「メモリー2」の二つのメモリーに保存できるようになった。
これは、二つのレンズメモリーに保存したレンズ状態のそれぞれ対応させて調整結果を記録しておけるように、という配慮だろう。RGB色ずれはレンズの色収差などが主だった原因であり、レンズシフト状態、ズーム状態、フォーカス状態で光学特性が変わると色ずれの具合や場所も変わる。欲を言えば、レンズメモリーの1,2を画素調整1,2と連動させる機能があってもよかったかも知れない。
DLA-X700Rでは、Multiple Pixel Control(MPC)と呼ばれるJVC独自の超解像エンジンが搭載されている。このMPCがDLA-X700Rでは大幅に進化した。
新MPCでは、従来は着目している1ピクセルに対してその周辺の6×6ピクセルの探索範囲だった周波数ヒストグラム解析を21×21ピクセルへと拡大。これにより、テクスチャ表現なのか、階調表現なのかを的確に判別できるようになった。さらに、超解像処理の要であるフィルタリング処理についても従来の2バンドから8バンドの適応型処理へと改善され、前出のヒストグラム解析の結果に基づいて、的確な4K超解像化が行なえるよう進化した。
いわば1ピクセル単位の超解像レベルの自動制御ができるようになったと言うことだ。こうした制御は、東芝のレゾリューションプラスでも実践されており、最近のトレンドである。
MPCが1ピクセル単位の適応型処理に対応したことで、DLA-X700Rの超解像処理は「オート」モードが利用出来るようになったが、「エンハンス」「ダイナミックコントラスト」「スムージング」「ノイズリダクション(NR)」の処理の効き具合は、依然、ユーザーが任意に調整することも出来るようになっている。
そして、ユーザーが、これらの各項目を調整すると、映像中のどこに変化が現れるのかを分かりやすく指し示すために、新たに可視化機能(ビジュアライザ)が搭載された。それが「ピクセルアナライザ」だ。
前出の「エンハンス」、「ダイナミックコントラスト」、「スムージング」、「ノイズリダクション(NR)」といったMPC設定項目のそれぞれにカーソルを合わせた状態でリモコンの[P.ANALYZER]ボタンを押すと、その調整項目が映像中のどこの調整に対応しているのかを着色して示してくれる。これはありそうでなかった機能で、面白い。他メーカー製品もぜひ、真似て欲しい機能だ。
また、調整項目が選択されていないときにこのボタンを押すと、現在表示中の映像のヒストグラムを示してくれる。周波数が低い箇所から高い箇所までを光の波長になぞらえた「赤橙黄緑青藍紫」の7色で表されるので、見慣れてくると直観的で分かりやすい。DLA-X700Rの超解像処理を自分好みに徹底活用したいユーザーには重宝する機能となることだろう。
画質チェック~4K入力に対応したe-shiftの4K表示性能の実力は?
映像パネルはJVC独自の反射型液晶「D-ILA」(Directdrive Image Light Amplifier)を採用する。パネルサイズは先代までと同じ0.7型のフルHD解像度のものだが、製造プロセスに手が入れられ、画素間ギャップが0.5μmから0.3μmへとシュリンクしている。これにより画素間格子筋の面積が、約40%も減少し、さらに画素開口率が向上した。JVC側の発表によれば光反射効率は先代までと比較して10%ほど向上しているそうだ。
疑似4K表示は、このフルHDのD-ILAパネルに「e-shift」デバイスと呼ばれる時分割光学系を組み合わせることで行なう。DLA-X700Rに採用されたこのe-shift機構は三世代目となり「e-shift3」という名称が与えられている。e-shift3では根幹パーツのD-ILAパネル世代が新しくなった以外に、疑似4K表示のアルゴリズムにも改善を施したとJVC側は説明している。
実際に、使ってまず気が付いたのは、従来は行なえなかったe-shift機能のオン/オフが、DLA-X700Rでは可能になったこと。フルHDパネルのリアル表示を楽しみたいときにはオフとすることで、通常のフルHDプロジェクタとしても利用出来るようになったのだ。この機能はドット単位の表現の正確性を重んじるCG系コンテンツや、ゲームなどを楽しむユーザーには嬉しい機能かも知れない。
まず、筆者が行なったのは、DLA-X700Rから可能になったリアル4K入力時の表示品質の評価だ。PCで3,840×2,160ドットのテキストを中心とした画面を作り出し、これをDLA-X700Rに入力した。e-shiftの原理から予想していたが、細部はほとんど潰れてしまっている。リアル4K入力が出来ても、フルHDパネルを用いての時分割シフトによる疑似4K表示では文字コンテンツの表示は難しいようだ。
では、なぜこうなるのか。e-shiftでは、フルHDの1,920×1,080ドット解像度のパネルを120Hz倍速駆動し、時分割で映像を斜め45度に交互にずらして投射することにより、疑似的に3,840×2,160ドット相当程度の映像を得る、というのが基本概念になる。
リアル4K入力が出来るようになったDLA-X700Rでは、まず、映像エンジン側で入力されたリアル4K映像フレームから、2枚分のフルHD(1,920×1,080ドット)映像に分解する処理を行なう。つまり、この時点で800万画素のリアル4K映像フレームが、400万画素(2枚の200万画素のフルHD映像フレームA,B)に削減されることになる。
投射系では、最初の1/120秒の間に映像"A"を投射し、次の1/120秒で同様にもう一枚のフルHDの映像"B"を半ピクセル分の距離を置いて45°ずらして投射し、以後、これの繰り返しとなる。映像エンジン側で800万画素の4K映像が400万画素に圧縮されているので、数理的には1,920×1,080ドットの両辺に√2を掛けた「2,715×1,527ドット」相当の解像度にしかならないのだ。
さて、文字ではなく、実写系のテクスチャ表現はどう見えるのだろうか。下は、4K写真の特定箇所をフルHD表示モードでドットバイドット表示させたときと、疑似4K表示させた時の比較になる。
概要はよく伝わるし、原画像の陰影はよく描写できていると思うが、ディテール部分の欠落はやはり免れていない印象だ。DLA-X700Rは、映像パネルがフルHD解像度なのだから、新機能のリアル4K入力は、おまけという印象だ。
では、フルHD映像はどうか。これは先代までと同様、解像感はそのままに、ジャギーが低減されて、アナログ感たっぷりな味わい深い映像になる。DLA-X700RのメインコンテンツはフルHDなのだと改めて実感させられる。
ただ、今回、1ドット線分で描かれた文字を1ドット単位でスクロールさせたときに(映画のエンドクレジットに相当)、1ドット幅で書かれた線の太さが太くなったり細くなったりして、全体としては文字の輪郭がチラチラと点滅する現象が知覚された。スムーズにスクロールするゲーム映像やCGでも同様の現象が起こる。
これはe-shiftの表示特性が原因だと思われる。入力のフルHD映像が超解像処理して4K化され、その解像度情報を2枚のフルHD映像に分解して半ドット45°ずらしで表示するわけだが、映像内容がスクロールしていると「ある解像度情報」が空間的に連続する「45°ずれた半ドット」を千鳥足のように時間方向に渡り歩いてしまうようなのだ。これが時間方向のチラツキのように感じられるのだろう。
例えば、下は同一文字コンテンツをe-shiftオフ/オンで比較したものだが、e-shiftオンでは曲線が滑らかになっている一方で、直線の太さが一定になっていないことに気が付くだろう。スクロールすると、この直線の太いところと細いところが、時間方向に移り変わるのだ。テクスチャ表現ではほとんど分からないが、文字以外の映像でも、明暗の激しい輪郭線などでは気になるときがある。
光学性能はどうか。これについては一切の不満は無し。さすがはJVC製D-ILA機。ドットドットがくっきりと見えるし、フォーカスむらが少なく、画面全域でクリアな投射が得られていた。
新搭載された動的絞り機構の「レンズアパーチャー」機能は、競合機などと比較すると効き方は弱めで、あまり積極介入してこない。これは悪いことではなく、単純にほとんどの映像シーンにおいて、絞り機構に頼らずとも狙った黒表現、コントラスト性能が出せていると言うことだ。実際、暗部描写力は見事で、プロジェクタ映像であることを時々忘れるほどであった。
公称コントラストは120万:1。これは前述の動的絞り機構を組み合わせての値で、公称ネイティブコントラストは12万:1となっている。
新機能「クリアブラック」の効果についても言及しておこう。特定の画素を「ある色」で光らせた場合、その光は周辺の画素にも多少なりとも影響を及ぼす。それが特に「高輝度で輝く画素」と「暗い色を出す画素」が隣接しているときには、「暗い色を出す画素」にとってはノイズ(というか「色被り」)になりうる。そこで、JVCではDLA-X700Rの投射レンズを含めた光学系の光特性を解析して、その光拡散プロファイルを用いてそうしたケースに対処するアルゴリズムを導入した。これが「クリアブラック」だ。
実際に、色んな映像で試してみたが、もちろん「ドット単位のコントラストの正規化」という直接的な効果も認められたが、超解像処理のような解像感向上の効果や、色ディテールの描写力の向上といった効果も確認できた。個人的には「低」設定くらいは常用してもいいのではないか、と感じた。
テスト映像だけでなく、実際に映画も見てみた。視聴したのは「デッドマン・ダウン」のブルーレイ。この作品はフィルム撮影された映画コンテンツのようで、e-shiftオンとの相性が良い。ジャギー感がなくなりブラウン管で表示しているかのようなしっとりとした画調が、本編の映像表現と妙にマッチしていた。
ただし、画調モードは「フィルム」よりは「シネマ」の方がいい。「シネマ」は、暗部の沈み込みが優秀なだけでなく、陰になっているような暗がりの表現にも情報量が多く、現実世界のようにそこに目を凝らせばそこに置いてある小道具や背景もちゃんと色つきで見えてくる。人肌も赤すぎず、白すぎずいいバランス。人肌の表現力だけを重視する場合は「ナチュラル」もいい。「フィルム」は色味の派手さが押さえられている傾向があるので、ややクラシックな映画向きか。
明るいシーンでも、もちろん発色は良好で、水銀系ランプとは思えないほど純度の高い色が出ている。ランプパワーは「低」設定の低輝度モードでも不満はないが、「高」設定の方が発色が若干艶やかになるようだ。ちなみに、スペック表記の1,300ルーメンは「高」設定時の値である。
倍速駆動は「Clear Motion Drive」という名称。「デッドマン・ダウン」はもちろん、いつもテストしている「ダークナイト」のチャプター1およびチャプター9のビル群の空撮シーンでもピクセル振動のようなアーティファクトは確認されず、良好な補間フレーム生成が行なえているようだ。「Clear Motion Drive」は「オフ-低-高-Film Motion」が選択でき、いずれの設定においても大きな破綻は確認されず。ただ「高」設定はスムーズすぎて「ぬめる」ような動きに見えて違和感を覚えることがあるので、常用するならば「低」設定がオススメだ。
3D画質は、いつも通り「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンで確認。クロストーク(二重映り)はほとんど感じられず。3D時の発色も良好で、3D画質は、近年のプロジェクタ製品の中ではトップクラスだ。ただ、3D立体視時はe-shiftは強制オフとなり、疑似4K表示での3D視聴は行なえない。ここは先代までと同じなのて、改善して欲しかったポイントだ。
表示遅延の測定は、いつも通り、公称表示遅延3ms(60Hz時0.2フレーム)を誇る東芝REGZA 26ZP2をリファレンスに用いて計測。X700Rにはゲームモードがないため、画調モードは「ナチュラル」を選択して計測している。また、e-shiftのオン/オフ、倍速駆動モード(Clear Motion Drive)のオフ/高設定の各状態ごとに測定した。結果は以下の通り。
疑似4K表示モードでは8フレーム(60Hz時)、フルHD表示モードでも6.5フレーム(60Hz時)は、近年のプロジェクタとしてはかなり遅い部類になる。PCに接続してマウスを動かしてみると、実際の操作から遅れてマウスカーソルが動くのが分かるほどに遅い。本機では、リアルタイム性の高いアクションゲームなどをプレイするのは困難と言える。ターン制のシミュレーションやRPGタイプならば問題ないだろう。
アナログ的な画質が魅力。DLA-X500Rは?
e-shift3による疑似4K表示に対応したD-ILA機は今回紹介したDLA-X700Rのほかに、下位モデルDLA-X500Rがある。それぞれ4月時点の実勢価格は75万円前後と48万円前後だ。両者の違いはコントラスト性能(DLA-X500RはDLA-X700Rの半分の動的絞り機構付きで60万:1、ネイティブで6万:1)と、THX認証の有無で、基本的なハードウェア仕様はほぼ同一だ。新MPCやクリアブラック等の機能にも格差はない。
リアル4KプロジェクタとしてソニーのVPL-VW500ESが、ほぼ同価格帯で存在していることを考えると、DLA-X700Rの立ち位置は微妙なところに来ていると感じる。ただ、DLA-X700Rには、VPL-VW500ESにはないTHX認証の強みもあるし、D-ILAならではの圧倒的なコントラスト性能がある。ここに大きな価値や魅力を感じることができればDLA-X700Rを選ぶのはアリだ。
一方で、フルHD解像度のブルーレイ視聴をメインとするユーザーからすれば、DLA-X500Rの価値は高いと思う。リアル4K解像度のコンテンツがPCゲームや静止画写真しかない現状では、フルHD映像のBDコンテンツを超解像化して4Kで楽しむ用途がメインとなるわけで、リアル4Kプロジェクタを購入するのはややオーバースペックという気がしなくもない。
そんな中、「リアルフルHD投射も楽しめて、アナログ感たっぷりで楽しみたいならば2,715×1,527ドット相当の高解像映像に超解像化して楽しめる」というソリューションは、今の4K過渡期にはマッチする。私見だと、今期のJVCプロジェクタでは、コストパフォーマンス的にもDLA-X500Rの方が魅力的に映るのだ。