樋口真嗣の地獄の怪光線

第18回

“勘違い”からの大逆転劇! さいたまドルビーシネマで「エンドゲーム」したぜ!!

関東初! さいたまMOVIXに「ドルビーシネマ」が上陸

みなさま! 博多に続き、遂に関東地方にもドルビーシネマが上陸しましたよ! 上陸地点は、埼玉県にあるさいたま新都心駅から程近い、松竹系のシネコン「MOVIXさいたま」です。

MOVIXさいたま

さいたま新都心といえば、大宮と浦和の間に位置して、かつては旧国鉄の大宮操車場や片倉工業の製糸工場、某社の原子力実験施設がドーンとあったエリア。そこが再開発されて「さいたまスーパーアリーナ」とか、ショッピングモール「コクーンシティ」とか、県警本部とかが整然と立ち並ぶ、まさにさいたまの新しい都心なのです。

MOVIXさいたまが入るコクーンシティ

そんな新都心に建つMOVIXさいたまに、半年以上の改装期間を経て4月26日にオープンしたのが噂のドルビーシネマなのですが、じつはオープン日のしばらく前に関係者だけの内覧会があると、運営会社からお誘いを受けました。

聞けば、誰もが知る映画シリーズを手がけた巨匠から直々のお誘いだそうで、しかも当日は巨匠自らも来館されて最新の上映システムを体験するとのこと。そのタイミングでお相伴にあずかれるとは、まさに光栄の極み!

そういえば。ちょっと前に某有名グループのコンサートにお邪魔した際、ボックスシートでたまたま巨匠と遭遇し、その時やたらとドルビーシネマについて訊かれてたのはその布石だったのか!

もっとも私如きの拙い説明で全てが伝わるはずもなく、その見たこともない輝度と暗部の織りなすコントラストや圧倒的な包囲感を味わえるアトモスのオブジェクトオーディオの迫力も、監督始めて半世紀を超える映画の神様に一番近い御方にとってなんだというのか?

「それがあると映画が良くなるんですか?」と問われ絶句。ああドルビー博士! 私には修行が足りませぬ!

そんなこんなで内覧会に参加することになったのですが、よく聞いたら、内覧会で上映するのは“アベンジャーズ”というではありませんか!!!

やったぜ! わずか数日だけど、みんなよりも早く観ることができるぜ!! と、喜び勇んでいざ出陣。目的地のさいたま新都心へは、新宿で埼京線に乗り換え赤羽へ。赤羽からは宇都宮線か、高崎線の各駅停車で2駅。思ったよりも近いぞ、さいたま!

さいたま新都心駅の改札

現地に到着すると、畏れ多くも巨匠の隣に席が押さえられているではありませんか! もしかしたら、ご当地でも大ヒット中の「翔んで埼玉」が自社作品でないことに巨匠はおむずかりなのではないだろうか! なんてハラハラ・ドキドキの妄想を勝手に膨らませていると、デモンストレーションがスタートしました。

デモリールは前回紹介したT・ジョイ博多と同様のものでしたが、気のせいかシアターのサイズが若干大きく感じます。というか、多分大きいんじゃないでしょうか。

そしていよいよ本編がスタート。誰よりも先にアベンジャーズの結末を見届けるのです! ドキドキとワクワクと隣にいらっしゃる巨匠に緊張して、もう気絶しそうです!

映像は、アズガルドの民を乗せた宇宙船ステイツマンから始まります。死屍累々の船内に入ってくるスーパーヴィラン・サノス。そしてソーの義弟、ロキがサノスによって無慈悲にも殺されてしまいます……

なるほど、そうか。ここをもう一度被せてくるということは「アベンジャーズ/エンドゲーム」の中でロキが大きな役割を占めるのか? ロキってば、しょっちゅう死んでは生き返るからなぁ。ロキは俺たちの期待を裏切らないんだな、きっと!

トム・ヒドルストン演じる、人気のヴィラン「ロキ」
(C)Marvel Studios 2018

そしてシーンが変わり、地球に戻ってきたハルクは大気圏に突入。そのままニューヨークのドクター・ストレンジの屋敷へ……

ふむ。これも前回見たぞ。というか、前作のあらすじを描くにしては、ずいぶんと丁寧な編集だな。

って、そこで初めて気づきましたよ!!!

公開の3日前に、いくら大巨匠が来館されるとしても、極秘裏に作られて世界中どこでも上映が許されていないであろうマーベルの新作映画が観れるわけないじゃん!! じゃなくて、今ドルビーシネマで上映されているのは、アベンジャーズはアベンジャーズでも「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」だったんだよ! ちゃんと招待状を確認しろよ!

「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」
(C)Marvel Studios 2018

落ち着けオレ! 「インフィニティ・ウォー」をドルシネで観られる機会は少ないぞ!

とりあえず落ち着こう。冷静になって考えてみよう。

みんなは、3日後の公開で「エンドゲーム」を観ることができる。たぶん俺もそうだろう。だけど「インフィニティ・ウォー」をドルビーシネマで観ることができるチャンスはとりあえず今のところ、ごく限られたこけら落としの試写会以外ないはずだ。やったぜ大逆転!

むしろ問題は、昨夜発売になった“国内最速上映”のチケットだ。

日付が変わった深夜0時からの初回上映チケットをめぐるネット上の争奪戦を「俺様はみんなと違って3日早くお先に失礼だから、ガツガツしたりしないもんねー」なんて余裕ぶっこいていたせいで、当然チケット取れてないしオイどうするんだよ、俺のエンドゲーム!! みんなよりも先に観れると思っていたら、一気に最下位のビリですよビリ。気が付けば、またしても大逆転…!

アイアンマンもピンチ。樋口監督はもっとピンチ!
(C)Marvel Studios 2019

上映終了と同時に、SNSは嵐のようなネタバレ感想が吹き荒れて、それを見ないように我慢していてもなぜか耳目に届いて、その結末を見るよりも先に知ってしまい、もう観る気が無くなってしまうのではないか! なんてことを考えながら、巨匠の隣で国内最高品質の「インフィニティ・ウォー」を観て身悶えしまくりです。

が。私の身悶えが影響したのでしょうか。巨匠は途中で席を離れてしまいました……。ああ映画の神様! 私には修行が足りませぬ!

でも「エンドゲーム」の直前に、前作をドルビーシネマで観れて良かった!

正直最初に「インフィニティ・ウォー」を観た時、あまりの鬱展開に見終わったみんながドンヨリ重い足取りで会話も弾まず「明日からどうするんだよ~」って気分で劇場を後にしたものです。けれど冷静に考えれば、半分死んじゃったまんまでアベンジャーズが終わるとお思いか? 否。これは驚天動地のクライマックスに向けた布石に決まってるじゃん!

そういう心づもりをしながらも、ましてやドルビーシネマの超絶画質でラストの全生命体の半分が粉になっちゃう直前のみんなの表情が、もうヤバい!

掴まれます。心動かされます! グワングワン揺すられます!!

圧倒的な強さを誇るサノス
(C)Marvel Studios 2018

できればIMAXやドルビーシネマは2D上映を行なって欲しい

というわけで、上映が終わってすぐに最速上映を行なう劇場を片っ端から探したのですが、どこも売り切れ。

今観たばかりのMOVIXさいたまも、IMAXやドルビーアトモス対応劇場も全部売り切れ。そりゃそうでしょう。誰よりも早く観たくて、どこよりも良い環境で観たくて仕方ない、わたしと同類のモノ好きども(ゴメンナサイ!)が全国にいっぱいいるんですよ。

なんとか見つけたのが、最速上映を終えた26日朝の回。金曜の朝だから何とか席が取れたんだけども、劇場に着くやロビーが人で溢れかえっている。やはりとんでもないお客さんが殺到してる。油断していたらヤバかったところだ。

再び参上、さいたまMOVIX

そして開場して、劇場に入る前に手渡されたのがドルビーの3Dメガネ。内覧会の「インフィニティ・ウォー」は2D上映だったけれど、「エンド・ゲーム」は3D上映なのだ。

ドルビーの3Dは、偏光レンズで左右の映像を分離する一般的な3Dメガネと違って、波長で光を分解するダイクロイックミラーで左右の映像を分離させるので、頭を傾けたりしても像が滲まず、立体感が損なわれることはない。とはいえ、3時間の長尺を“メガネ・オン・メガネ”で鑑賞のはなかなかの苦行。一番良い位置で固定できないストレスは、どうにかならんのだろうか……

ドルビーの3Dメガネ

というか、正直言ってもう3Dはお腹いっぱい。「アバター」の頃の驚きを超える刺激的な演出が20年近く経っても見かけないし、どちらかといえばデフォルトの視聴環境として、ナチュラルで当たり前の空間しか再現しないよう、表現が“丸くなった”ように感じるんですよね。見れるのであれば、飛び出してきたものを思わずよけちゃうような、下品な3D演出が見たいものです。昔の「キャプテンEO」みたいな…!!

できればIMAXやドルビーシネマといった高品位な上映環境では、2D上映の選択肢も用意して欲しいのです。って、AV Watchを見たら、同じようなことがコラムで書いてあった。なんだ、私の新しい担当のあべちゃんが書いてるんじゃん。さもありなんだね。

というわけで、前回予告した“令和の時代にふさわしい日本語字幕ってなんだろう”って話はまた次回に。まだ材料が集まってなくて……すんません!

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。