日沼諭史の体当たりばったり!
第31回
完走なるか!? ツール・ド・フランスに「Wahoo KICKR」バーチャル参戦の結末【後編】
2019年7月22日 08:00
2019年7月6日に開幕したサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」。その過去のレースにおける難所の1つ、「ラルプ・デュエズ」を再現したというコースに挑むべく、「Wahoo KICKR」フルセットを揃えてスタートした“Zwiftチャレンジ”は4日目を迎えた。
7月16日掲載の前編でお伝えしたように、3Dゲーム感覚でサイクルトレーニングができる「Zwift」だが、そのZwiftの世界に用意された「ラルプ・デュエズ」を再現したルート「Alpe du Zwift」を走るには、そもそもプレーヤーのレベル(ライダースコア)が12になっていなければならない。この3日間でレベルは4までアップしたとはいえ、諸々の事情によりタイムリミットまでは残り5日間しかなく、それまでに8のレベルアップが必要だ。果たして「Road to LV12」を完遂することはできるのだろうか。なんかダメっぽい空気が漂ってるけど。
【使用した製品】
KICKR(15万2,550円)
KICKR CLIMB(7万9,250円)
KICKR HEADWIND(3万2,000円)
TICKR FIT(9,299円)
KICKRバイクデスク(3万2,000円)
KICKRトレーナーフロアマット(1万550円)
BLUE SCスピード/ケイデンスセンサー(6,000円/筆者所有物)
自転車(筆者所有物)
PC・モニターなど(筆者所有物)
Zwiftチャレンジ4日目。ここはスキー場か!
4日目の朝、前日の最長距離更新でもそれほど体力を削られなかったのに気を良くして、市街地ではなく、山岳コースを含む「Mountain Route」を選んでみる。獲得標高は682mと、初心者としてはわりとチャレンジングな内容だ。前半はゆるゆるとしたツーリングコースだが、中盤から5~9%程度の勾配がだらだら続き、登頂したと思ったら、今度は“ボーナス”的に10~17%勾配の急坂を上っていく鬼のようなルートをたどる。
最上位モデルであるKICKRが再現可能な最大勾配は20%。下位モデルのKICKR COREは同16%なので、最上位モデルの性能を活かせるコースと言うこともできる。もはやギアを1速(インナーロー)に入れて地道に上っていくことしかできず、周囲が雪景色になっていることもあって、そそり立つような坂を目にすると「ここはスキー場か! 」とツッコみたくもなる。そのうち意識が混濁してきて、なんでスキー場を自転車で上っているのかわけがわかんねえな……などと思うようになってくる。
とはいえ、なんとか登頂を果たし、上空から景色を眺めるアングルに自動で切り替わると、その壮大な景色に達成感がこみ上げてくる。吐きそうだけど。結局この日は26.0km、1時間4分、獲得標高648m、消費カロリー681kcalでレベル5になり、さらに経験値ゲージを半分程度まで上げておくことができた。ボーナス経験値をゲットできると伸びが違う。
Zwift生活5、6日目。山岳コースでレベルアップを図る
5日目の朝。今日も今日とてレベルアップを目指し自転車にまたがる。日曜日ではあるものの昼に仕事があり、長々とライドはできないので、比較的短距離で獲得標高を稼げそうな「Achterbahn」というルートを選んだ。獲得標高は2周して989m。前日に経験値ゲージを半分程度まで稼いでいたので、およそ1周を終えた22.2km、55分30秒、標高448m、消費カロリー568kcalでレベルを6にアップさせフィニッシュした。
ここまで毎日自転車をこいでいるせいで足のだるさは尋常ではないが、1日取材をこなせるだけの体力をちゃんと残せているのは、トレーニングの成果なのだろうか。ただ、よく考えるとあと残り4日、そのうち仕事のスケジュールを考えると3日しか乗れないことがわかったので、3日間で5つレベルアップさせる必要があることに気付く。1日1レベルアップでギリギリなのに果たしてそんなことが可能なのだろうか……。
6日目の朝、4日目と同じ山岳コースを含む「Three Sisters」というルートを走る。しかしペースが上がらない。どのようにこげばパワーが出るのか、ペダリングのコツは少しずつわかってきた気がするが、上りが前回よりキツく感じる。なぜ自分はスキー場みたいなところを走っているのだろう。1km走行ごとの20XPは、画面上だと1mmか2mmくらいしか経験値ゲージが増えず、伸びは明らかに鈍っている。ボーナスXPももらえず、32.1km、1時間16分、標高725m、808kcalを消化しても経験値ゲージは全体の3分の1にしかならなかった。
Zwift生活7日目。2時間以上のライドでついに……
7日目。タイムリミットまであとわずかだ。現在のレベルは6。これを翌日中にレベル12にするには……考えるまでもなく不可能だ。しかしそれでも自転車に乗る。もしかしたらボーナスXPをガンガンもらえるかもしれない。一心不乱にペダルを回し、これまでの最高記録となる50.2km、2時間7分、標高1077m、消費カロリー1,266kcalを達成した。にもかかわらず、なんとレベルアップするどころか1つも上がらなかった!
経験値ゲージは残り4分の1程度だが、そのレベルが上がったところで7にしかならない。今後の経験値ゲージの伸びはさらに鈍くなっていくに違いないし、もしレベル12になったとしても本当はそれからが本番である。そもそもレベルアップが目標なのではなく、「Road to Sky」へのチャレンジが目標なのだから。
まだ残り1日あるけれども、認めなければならないだろう。「Road to LV12」、チャレンジ失敗である。
まだ諦めるのは早い。僕らには「FULGAZ」アプリがある
結局ツール・ド・フランスのコース(を再現した場所)を走ることはかなわないのか……。と諦めるのはまだ早い。Wahoo KICKRを活用できるサイクルトレーニングアプリはZwift以外にもあるのだ。その1つが「FULGAZ」。世界中のユーザーが投稿した、世界中の道路のGPS情報や勾配、走行タイムなどの情報を含む走行動画が多数掲載され、その動画を見ながらトレーニングできるようになっているアプリだ。
もちろん動画をただ見るだけではない。Zwiftと同じようにスマートトレーナーや周辺機器が映像に連動して動作し、ユーザーのペダルの回転に合わせて映像の再生速度も調整される。Zwiftは仮想の世界が舞台だったが、FULGAZは世界のどこかにある本物の道路を走行したときの車載映像を映し出し、しかも路面の勾配も正確に再現するので、よりリアルに近い体験ができるわけ。
そして、それら世界中から集まったコンテンツのなかには、ツール・ド・フランスの舞台となっているコースもある。もちろん「ラルプ・デュエズ」の走行動画も投稿されているのだ。これを見ながら自転車をこげば、ほぼ完璧にツール・ド・フランスを味わえるはず。Zwiftとの違いとして、こちらはレベルによる制限もない。
というわけで、「Road to LV12」のチャレンジ失敗が確定したその日の午後、すでに1,266kcalを消費したわりと満身創痍な状態で、「Alpe d'Huez - Summertime」を選び、登坂を開始した。距離は17.96km、獲得標高は1147m。FULGAZ独自に算定している「タフネススコア」は695で、投稿されているなかではトップクラスの高難度コンテンツだ。
ちなみに、FULGAZを利用するには今のところiPhone/iPadか、Apple TVを用意する必要がある。大画面に映し出すにはApple TVが最も都合が良いわけだが、今回使用したApple TVの調子があまりよくなく、iPhoneから画面出力するアダプターを介してモニターに映し出すことにした。これがまさか後々の悲劇を生むとも知らずに……。
ラルプ・デュエズへの挑戦。iPhoneを使ったがゆえの悲劇
ラルプ・デュエズを走り出すと、初っぱなから10%を超える勾配。あまりのインパクトにラスボス感をひしひしと感じつつ、ギアを一気に落として泣きながら足を動かす。それにしても、これまでの1週間のZwiftトレーニングで、効率よく進むための感覚がつかめてきているようだ。ギアはあまり落としすぎるのは良くない。今の自分にとって最適なパワーを出力できるギアを選ぶことが大切だ。
一定のペースをある程度長く維持できる最大パワーは、筆者はだいたい180~210Wあたり。これを大きく上回るときはギアを落とさないと長続きしないし、下回ると足を休めることになってトレーニングにならず、前に進まない感覚も強くなる。滑らかにペダリングするより、前方に蹴り出すようにした方がパワーが出やすく、疲れも溜まりにくいようだ。
ラルプ・デュエズは急坂が果てしなく続く、まさに「Road to Sky」。ただ、つづら折りを折り返すたびに10%前後と5%前後の勾配が交互に繰り返され、ほどよく足を休めながら登ることのできる絶妙なバランスで成り立っている。特に厳しいのは中盤までで、後半に行くにつれて10%を超える勾配はだんだん少なくなり、全行程の7割ほどを走破できれば、ほぼ完走できたも同然だ。
とはいっても、辛いことは辛い。スタートから1時間たったところで全行程のちょうど半分くらいにしか来ていないのを見ると心が折れそうになる。それでもペダルを回して、あと2割程度の距離を走りさえすれば完走への道も見えてくるのだ。
ところが、悲劇が訪れたのはそんな時だった。突然の画面のブラックアウト。iPhoneのバッテリー切れである。充電しながら画面出力していたが、元々のバッテリー残量が少なかったせいか、高負荷でじりじりとバッテリーが減っていったようだ……。
行程の半分以上を消化し、あと8kmというタイミングでの強制終了。心も体もダメージはデカい。せっかくの1時間のライドが無駄になり、800kcal以上が文字通りただただ失われた。返してほしいとは言わないが、なんとなく返してほしい。
ラルプ・デュエズ、2回目の挑戦の結末は……
ちゃんとiPhoneを充電したうえで臨まなかった筆者の責任なので、この悲しみとも怒りともつかない、やるせない気持ちの持って行き場がない。しかしとにかくラルプ・デュエズ完走というミッションをこなせなければ、気持ち的にツール・ド・フランスの開幕を迎えられそうにないのだ。さすがに1日に2,000kcal消費した後で続けてライドする気力も体力もないので、翌日8日目の朝、再びFULGAZを起動してラルプ・デュエズに挑む。今度はちゃんと100%充電したし、ケイデンスセンサーの電池も念のため交換しておいた。
2回目のラルプ・デュエズ。1週間以上休みなく自転車をこいでいて、それなりに足に来ているせいで調子がいいとは言えない。回しても回しても画面上では一向にゴールまでの距離が縮まらないので、本当に終わりがあるのか疑問に感じるほど。でも顔を伏せ、単なるペダリングロボットと化して足をひたすら動かしてから、ふと画面を見上げたときに行程の3分の1くらいまで来ていてやる気がちょっと戻ってきたりもする。
Zwiftのように他のユーザーとの交流や競い合い、アチーブメントの獲得といったわかりやすい報酬がないので、モチベーションを保つためには「今自分はラルプ・デュエズを走っているんだ! 」という雰囲気を画面から感じ取れるかどうかにかかっている。そういう意味では、FULGAZだとラルプ・デュエズがどんな路面で、どんな景色が見られるかがよくわかる。普段はクルマ通りも多く、同じくらい自転車で走っている人もいて、ここがツール・ド・フランスのある意味聖地の1つになっていることがわかり、常に楽しく走ることができる。
後半に入ってキツい上り坂が減り、これでゴールまで一直線! と思いきや、頂上付近の12%超えの勾配でトドメを刺されながらも、1時間41分、平均出力175W、消費カロリー1,270kcalで登頂に成功した。ついに筆者はツール・ド・フランスのコースを完走した日本人の1人になったのである!
スマートトレーナーなしには毎日のサイクルトレーニングは不可能!
2018年のツール・ド・フランスでは、このラルプ・デュエズを含む170kmくらいのステージを1日で走破していたので、完走とするのは正確ではないのだけれど、そこは置いておこう。1週間以上連続でスマートトレーナーをライドしてみて、最後にラルプ・デュエズをなんとか走りきった筆者としては、改めて選手達の体力お化けっぷりはとんでもないな、とわかっただけでも収穫である。
最初はなんでレベル12にならないと「Road to Sky」にチャレンジできないのかと不満に思っていたが、コースをラルプ・デュエズそっくりに再現しているのだとすれば、初日に挑んだところで簡単に返り討ちにあっていただろうことは想像に難くない。ユーザーのレベル上げが必要なことにはちゃんと理由があったのだ、と今なら思える。
初心者だった筆者が1週間でラルプ・デュエズを完走できるようになったのは、間違いなく、本来は辛いだけのサイクルトレーニングを毎日こなせるモチベーションを与えてくれたWahoo KICKRとZwiftのおかげだ。普通のサイクルトレーナーでもZwiftをプレーすることはできるが、坂道のたびに手動で負荷を変えるのは現実的ではない。本気でトレーニングしたい人、ゲームとして楽しみたい人、そのどちらの場合でも、スマートトレーナーが最適な選択だろう。
KICKR CLIMBやKICKR HEADWIND、もしくはバイクデスクまで導入するとなると、かなりの投資金額になってしまうが、約8万円からのスマートトレーナーだけでも満足度は高いし、レース用ホイールやカーボンホイールを1本諦めればいい程度の値段だ。できるだけ低コストで始めたいなら、ZwiftとFULGAZの表示用としては、実売1万6000円程度のApple TVを選ぶのも良い。
海外ではeスポーツとして大会まで開かれているZwiftと、世界中を走れるFULGAZ。ぜひともこれらのアプリとともにWahoo KICKRシリーズで新鮮なバーチャルサイクリングを楽しんでほしい。