日沼諭史の体当たりばったり!
第33回
デスクトップPCにこそサウンドバー! 接続にクセはあるけどイイ音すぎる
2020年1月23日 08:00
デスクの上にはできるだけ余計なモノを置きたくない派である。キーボードとマウスとディスプレイだけにして、常にすっきりさせておきたい。が、時にはイイ音でPCのサウンドを響かせたいこともある。ヘッドフォンもいいけれど、開放感のあるスピーカーでNetflixとかの動画コンテンツをじっくり楽しみたいのだ。
ところが、PC用のスピーカーと言えば、モニターの両サイドにデンと置くタイプばかり。そしてイイ音を目指すほどスピーカーのサイズは大きくなり、存在感を主張し出す。デスクをすっきりさせておきたい筆者としては困りものだ。そこでふと思った。ほとんどデッドスペースとなっているモニター下ならいいんじゃない? と。
アームで宙に浮かせているモニター下の高さ10cmくらいのスペースに、ちょうどうまくハマるスピーカーとは? そう、サウンドバーである! だいたいはリビングの大画面テレビの下とか(壁)に設置するあの細長いサウンドバー、もしかしたらデスクトップPCのモニターにもぴったりハマるのでは!?
というわけで、さっそく2種類のサウンドバータイプのスピーカーをお借りして、どれくらいイイ感じに使えるのか試してみた。
小型スピーカー「SRS-HG10」はパーフェクトなデジタル再生も可能
今回お借りしたのは、いずれもソニーのスピーカー製品。1つは大画面テレビ向けのサウンドバーである「HT-X8500」(実売32,000円前後)で、もう1つは正確にはサウンドバーではないけれど、それっぽい見た目の、小型・高機能なワイヤレススピーカー「SRS-HG10(h.ear go 2)」(実売価格2万円前後)だ。大型サウンドバーと小型スピーカー、それぞれデスクトップPC用としてはどんな使い勝手になるのだろうか。
まずは小さい方、SRS-HG10から。こちらは「ワイヤレスポータブルスピーカー」と銘打っている通り、基本的にはワイヤレスなスピーカーとして使えるのがウリの製品となっている。
スマートフォンなどとBluetoothで接続すれば、音楽を再生できるのはもちろんのこと、内蔵マイクも使って通話に使うこともできる。(けっこうずっしりとした重さを感じるが)片手で持てるコンパクトなボディに約12時間動作するバッテリーを内蔵し、場所を問わず音楽を楽しめるようにもなっている。
自宅のWi-Fiに直接接続することも可能で、スマートフォンなどからオーディオコンテンツをキャストして再生する使い方ができるのも特徴だ。この場合、Wi-Fi圏内であればプレーヤー機器とSRS-HG10を遠ざけても通信が途切れないので、宅内であればBluetooth接続時よりも自由に配置できる。音質面でもBluetoothより有利だ。
肝心のPCと組み合わせるときはどう使うかというと、もちろんBluetoothやWi-Fiで接続してもいいし、PCのオーディオ出力からSRS-HG10のステレオミニジャックに音声入力するオーソドックスなやり方もある。ただ、個人的におすすめなのはUSBポートを使ったオーディオ入力だ。
SRS-HG10が備えるmicroUSBポートは2つあり、1つは給電用、1つはオーディオ入力用となっている。後者のUSBポートをPCと接続すると、なんとSRS-HG10をUSB DAC内蔵のスピーカーとして扱える。ワイヤレスやアナログ音声入力のような遅延・劣化を心配せず、パーフェクトなデジタル再生が可能になるわけだ。
このオーディオ入力用USBポートでは給電しないので、もう一方の給電用USBポートに他から給電しておかないとバッテリー駆動になってしまう点だけ注意したい。が、USBケーブル1本か2本でシンプルに接続でき、PCモニター(25インチ)の下にちょこんと置けて、まったく邪魔にならずにそこそこイイ音が聞けるのはわりと理想的なスタイル。
12W+12Wのフルレンジスピーカーを搭載し、ソニー独自のClearAudio+やS-Master HX、DSEE HXといった高音質化技術も採用しているので、小さなボディにもかかわらずクリアでキレのあるステレオサウンドを聞かせてくれる。
ただ、若干低音が物足りないのも事実。「EXTRA BASS」ボタンで低域を強調し、それなりに迫力を増すこともできるが、PCモニターで映画を見たときは「もっと重低音や音の広がりが欲しいなあ」と感じてしまう。SRS-HG10を同時に2台使うことで広がりのあるステレオサウンドにすることもできるけれど、低音の物足りなさはいかんともしがたい。モニターの左右に置いたら結局普通のPC用スピーカーと変わらない状況になってしまうし……。
とはいえ、手軽さはピカイチのスピーカーなので、あるときはPC用スピーカーとして使い、あるときはスマートフォンやタブレットと組み合わせてカジュアルな音楽鑑賞に、またあるときは車内やお出かけ先で少しリッチなサウンド体験をしたいときに、といった感じで、マルチな用途で活用するのに適したスピーカーだろう。
Dolby Atmosにも対応する「HT-X8500」。デカいけど気にしない!
でもって、次は本命のサウンドバー「HT-X8500」。890×64×96mm(幅×高さ×奥行き)と、大型テレビと一緒に使うサウンドバーとしては一般的なサイズ。そういう通常の用途だと細長く、スタイリッシュに見えるサウンドバーだが、PCモニター(25インチ)の下に置くとどうなるか。
設置してみると、想像していた通り、デカい。PCを使っていると常に視界に入り、圧迫感を覚える。黒いモニターやデスクに溶け込むボディカラーではあるものの、視界一杯に広がるスピーカーグリルが自己主張を抑えきれていない。通常なら2メートル以上は離れて使うものが数十cmの距離にあるのだ、仕方がない。
まあ、モニター下のデッドスペースをきれいに埋めることには成功している。のだが、モニターの幅を優にはみ出しているから、普通にPC用のステレオスピーカーを置くのと占有度合いは変わらないのではないだろうか。
見た目こそ残念な感じではあるけれども、しかし、なんといってもサウンドの迫力は最高すぎる。40W+40Wのフロントスピーカーに80Wのサブウーファーを搭載した2.1chのサウンドバーであり、地響きのような低音だけでなく、ソニー独自のバーチャルサラウンド技術「Vertical Surround Engine」により、これ1台で臨場感の高い本格的なサラウンドサウンドを体感できるのだ。
HDMIで接続した場合、Dolby AtmosやDTS:Xにも対応し、NetflixのAtmos対応コンテンツを試したところでは自宅ではこれまで体験したことのない立体的な音場空間を確かに実感できた。スピーカーと近すぎることでサラウンド感が薄れたり、違和感が出るのではないかとも思ったのだが、全くそんなことはない。モニターの左右に置くコンパクトなステレオスピーカーでは到底出せない深みのあるサウンド。視界を圧迫するくらい、もしくは多少モニターの左右にはみ出るくらい、何の問題もない。全然許す!
スピーカーからの距離が近いので必然的に音量は絞る方向になるけれども、本体に表示されるボリュームインジケーターが1つか2つの小音量でもディティールが損なわれることはなかった。音量を小さくしても音質を最適なバランスにして聞ける「ナイトモード」も併用すれば、集合住宅で使っても迷惑にならないだろう。
音声出力されないことも!? HT-X8500を接続するときの注意点
PCと組み合わせてもDolby Atmosなどのサラウンドサウンドをしっかり堪能できるHT-X8500だが、安定して使うためには接続方法にクセがあるというか、注意しておくべきところがある。結論から言えば、HT-X8500にはHDMIケーブル1本だけ接続するのがベストだ。
HT-X8500は、HDMI入力×1と、ARC/eARC(オーディオリターンチャンネル/エンハンスド オーディオリターンチャンネル)対応のHDMI出力×1、それと光デジタル入力×1を備えている。たとえばARC/eARC対応テレビと接続するときは、ARC/eARC対応のHDMI出力端子にケーブルを1本接続するだけでよく、ARC/eARC非対応のテレビなら光デジタル入力を使うことになる(Dolby AtmosやDTS:Xに対応するのはeARC対応のHDMI接続時のみ)。
また、もしBlu-rayレコーダーなどと組み合わせたいときは、レコーダーからHT-X8500のHDMI入力端子に接続し、さらにARC/eARC対応のHDMI出力端子とテレビを接続して、HDMIスルーの形で接続する方法も考えられる。
一方、PC専用モニターはほとんどの場合ARC/eARCに対応していないので、たいていはレコーダーと組み合わせるときと同じように、PCのHDMI出力とHT-X8500のHDMI入力を接続し、さらにHT-X8500のHDMI出力端子とPCモニターを接続することになるはずだ(PCの光デジタル出力と接続してもいいが、その場合はDolby AtmosやDTS:Xには対応しない)。
ところがPCとHDMI 1系統でスルー接続すると、ちょっと面倒なことになった。なぜなら、PCの画面を表示するには必ずHT-X8500の電源を入れておかなければならないからだ。スピーカーを使うか使わないかに関わらず常に電源をオンにしなければならず、ARC/eARC対応テレビでテレビ側の電源を切ったらスピーカーもオフになる、みたいな連携もPCやPCモニターではできないのでただ操作の手間が増える。
だから、PC側でHDMI(やDisplayPort)出力が2つ以上あるグラフィックカードを装備しているのが理想。1つを映像出力用として直接モニターに接続し、もう1つを音声出力用としてHT-X8500と接続するわけだ。これならHT-X8500を使わないときに電源をオフにしていても、モニターはきちんと表示される。Windowsではマルチモニター環境として認識されてしまうが、ディスプレイ設定で「表示画面を複製する」ようにしておけば問題ない。
ただ、この場合も気を付けておきたい部分がある。HT-X8500のHDMI入力に接続し、さらにHDMI出力端子からPCモニターにスルーさせるとまた問題が発生するのだ。人によってはスルーさせてもう1画面分の映像も出力させたいと思うかもしれないが、筆者が確認した限りでは、スルーさせるとWindowsの通常の音声が出力されなくなった(1台のモニターに2系統入力したパターンのみ確認。マルチモニター接続は未確認)。
Netflixアプリで動画コンテンツを再生する場合は、そのようなHDMIスルー状態でもきちんと音声出力されるのだが、なぜかWindowsのシステム音やメディアプレーヤーで再生する音楽は無音になってしまった。HT-X8500のHDMI出力端子に何も接続しない状態であれば全ての音が聞こえるので、シングルモニター環境ならHDMI入力1つにだけ接続しておくのが正解だろう。
マルチモニター環境のためにスルーさせる必要があり、そうした時にシステム音などが聞こえない現象が発生するなら、別途光デジタルも接続すると良い。普段はPC側の音声出力を光デジタルにしておき、Dolby Atmosなどに対応する動画コンテンツを見たいときはHDMIの音声出力に切り替える、というやり方だ。いちいち操作するのが面倒ではあるが。
サウンドバーでPCも簡単にサラウンドサウンドに!
それなりにイイ音を出しつつデスクを広く使いたい、という目的であれば、コンパクトなSRS-HG10を選べば間違いはない。PCやデスクから離れても、スマートフォンなどと組み合わせて幅広い楽しみ方ができるのがメリットだ。USB DAC内蔵によるデジタル再生が可能なスピーカーとしても貴重な存在で、ちょっとしたマニアック心もくすぐってくれる。
一方、PCモニターで映画も見たい、ゲームサウンドの迫力も感じたいというユーザーには、やはりサウンドバーのHT-X8500を強くおすすめしたいところ。大げさなサラウンド環境を整えることなく、目の前にドンと1台設置するだけで、書斎があっという間に立体音場のエンタメ空間に早変わりする。視界を覆うスピーカーグリルが気にならず、HDMI接続回りのクセさえクリアできれば、という条件付きではあるけれど。
HT-X8500は4K HDRとDolby Atmos、DTS:Xに対応するほか、Bluetooth接続によるサウンド再生にも対応し、それでいて実売価格が3万2,000円前後とコストパフォーマンスはかなり高い。正統的な使い方はリビングのテレビ用だろうけれど、その前に試しにPCモニター前に置いてみてほしい。筆者はリビング用とPC用に2台欲しくなった。