レビュー

パナソニックとソニーの注目サウンドバー聴き比べ。映画&ゲームがもっと楽しい!

テレビの音を良くして、映像コンテンツをもっと楽しめるようにしたい。しかし、スペースや手軽さの点で、据え置き型スピーカーを複数導入するのはハードルが高いと思う人もいるだろう。そんな悩みを持つ人の強い味方が、「サウンドバー」または「シアターバー」と呼ばれるジャンルの製品だ。

試用したサウンドバーのパナソニック「SC-HTB01」(手前)とソニー「HT-X8500」(奥)

サウンドバーとは、薄型テレビとの組み合わせを主眼とする細長い“棒”もしくは“板”のような形状をしたアンプ一体型のスピーカー。テレビの前の空きスペースに置くだけで基本的に設置は終わり、ケーブルの結線も最小限で済む。

手軽にテレビの音を強化できるとあってサウンドバーは根強い人気があり、各社から様々なタイプの製品が投入されている。また現在では、テレビだけでなく、PC用のモニターと組み合わせやすいサイズの製品も数多く登場している。

2000年代後半から急激に普及していった薄型/大型テレビは、薄型化と狭額縁化によりスピーカーを内蔵するためのスペースが減少するという側面も持つ。そして薄型テレビが大画面の迫力に負けない音を提供することが難しくなったという事情もまた、サウンドバーの価値を高めることになった。テレビ番組であれ、映画であれ、ゲームであれ、「いい音」はコンテンツの楽しみを大きく増幅する。サウンドバーは薄型テレビ時代のニーズにぴたりと合致する製品というわけだ。

そこで今回は、パナソニックの「SC-HTB01」とソニーの「HT-X8500」をとり上げ、サウンドバーを使うとゲームや映画を中心に、映像コンテンツの楽しみがどのように増すのかを探っていく。

低価格でも立体音響対応のサウンドバーが登場

SC-HTB01とHT-X8500は、2機種ともサブウーファーを内蔵する2.1chタイプのサウンドバー。オープン価格ながら、実際の販売価格はどちらも4万円前後で、細かな差はあるものの機能的にもほぼ同じ。入出力は1系統のHDMI入力と光デジタル音声入力、ARC対応のHDMI出力を持つ。HDMIは、立体音響を実現する最新のオブジェクトオーディオフォーマット「Dolby Atmos」と「DTS:X」に対応し、4K/HDR信号もサポートするので、UHD BDをはじめとする最新の映像コンテンツの実力を活かすことができる。また、両機ともにBluetoothに対応し、スマートフォンなどの音声出力先としても利用可能。一台で最新の音声フォーマットと映像フォーマットの両方に対するアンプとスピーカーがセットで手に入ると思えば、納得のいく投資ではないだろうか。

SC-HTB01(手前)とHT-X8500(奥)

SC-HTB01は横幅43cmと、サウンドバーとしてはコンパクトながら、先述の通りフルスペックともいえる機能を備えている。フルレンジユニットに加え、50kHzまでの高域再生が可能なツイーター、豊かな低域を実現するためのサブウーファーとパッシブラジエーターを搭載し、スピーカーとしての設計も充実している。コンパクトなサイズは小さなスペースへの設置はもちろん、PCモニターとの組み合わせにも好適だ。

パナソニック「SC-HTB01」は横幅がコンパクトな筐体

また、SC-HTB01は楽しむコンテンツとしてゲームを前面に押し出していることも特徴と言える。本機はスクウェア・エニックスと共同開発した3つの「ゲーム」モードを搭載し、オンラインゲーム「ファイナルファンタジーXIV」の推奨製品にもなっている。

サウンドモードは「ゲーム」を含む4種類。そのほかに、高さ方向の音を表現して立体的な音響効果を実現する「3Dサラウンド」機能、セリフを聴き取りやすくする「明瞭ボイス」機能を搭載する。

SC-HTB01の付属リモコン

一方、HT-X8500の横幅は89cmで、サウンドバーとしては標準的なサイズ。サイズに余裕があることから、スピーカーユニットはフルレンジ・サブウーファーともに、SC-HTB01と比べて大型のものが使われている。それなりの大きさがあるので、本機は薄型テレビと一緒にテレビラックに置く使い方が多くなるだろう。

ソニー「HT-X8500」は大型スピーカーユニットを内蔵

サウンドモードは「シネマ」、「ゲーム」、「ミュージック」など6種類。立体的な音響効果を実現する「Vertical Surround」機能、セリフを聴き取りやすくする「ボイス」機能のほか、ダイナミックレンジを抑えて小音量時でも良好なサウンドを実現する「ナイトモード」も搭載する。

HT-X8500のリモコン

試聴は両機を筆者宅のPC/ゲーム環境に持ち込んで行なった。そして試聴用コンテンツには、SC-HTB01がゲームとの組み合わせを前面に出していること、また筆者自身「ゲーム×シアター」を全力で推していることもあり、以下の作品を用いた。

【映画コンテンツ】 (PS4 ProをBDプレーヤーとして使用)
「ピクセル」

【ゲームコンテンツ】
「エースコンバット7」
「モンスターハンター:ワールド」
「ホライゾン ゼロ ドーン」

一応、試聴に先立って今回使った液晶モニターの内蔵スピーカーの音も聴いてみたのだが、「とりあえず音は出る」以上の感情を持つものではなかった。そもそも十分な音量を得ることさえ難しいという有様であり、この状態で映像コンテンツを楽しむのはさすがにもったいない。

横幅160cmのPCデスクと、27型のPCモニターの前にSC-HTB01とHT-X8500を置いた様子。ちなみに普段はマランツの薄型AVアンプ「NR1608」とMonitor Audioのスピーカー「MASS」シリーズの5.0chシステムを構築している
サイズの目安として、筆者所有のiPhone8と並べて撮影。横幅はSC-HTB01の方が小さいが、奥行きはHT-X8500の方が小さい

SC-HTB01はサイズを超える音の広がり。声の再生も優秀

まずはパナソニックのSC-HTB01から試聴を行なった。

映画「ピクセル」では、中盤の「センティピード」のシーンを試聴。なんやかんやあって、宇宙人が1980年に登場したアーケードゲーム「センティピード」をリアルに再現して人類に襲い掛かる。ゲームの通り上空からやってくるムカデ(センティピード)と、それを下から光線砲で迎え撃つ人類の攻防は上下を含む激しい音の移動感を生み、数あるDolby Atmos収録タイトルの中でも筆者一押しのシーンである。

SC-HTB01とPCモニターを組み合わせて使用
Dolby Atmos収録のBD版「ピクセル」。往年のゲームキャラクターが現実世界で大暴れする、ゲーム好きなら必見のタイトルだ!

「3Dサラウンド」をオンにした状態の音は、43cmという横幅からはにわかに信じられないほど豊かに音が広がり、左右の音の動きも明確に感じられる。もうこの時点で、モニター内蔵スピーカーの音とは次元が違う。闇夜を切り裂く光線砲の鋭さ、地上に降りて暴れ回るムカデの重低音も十分に満足できるものだ。光線砲を食らったムカデが光になって弾ける細かい炸裂音も曇ることはなく、特定の帯域が突出しないまとまりの良さが感じられる。

「3Dサラウンド」はオンオフで音の広がりがまったく違い、オフにすると急に音が寂しくなってしまう。これはBluetooth入力で音楽を聴く際も同様の印象であり、SC-HTB01の「3Dサラウンド」は常時オンで使うのがよいだろう。

「明瞭ボイス」の効果も大きく、オンにするといっそう中域に厚みが増し、声以外の音もくっきりと前に出てくるようになる。声の明瞭さを上げたい時だけでなく、全体的に元気な音が好みならば常用してもよさそうだ。

「エースコンバット7」では、Mission 3を通してプレイ。大量の無人機とドッグファイトを行なうステージで、ここでも「鋭い音」がしっかりと出ることに感心した。猛スピードですれ違う戦闘機の轟音、放たれたミサイルが長い尾を引いて敵機に着弾・爆発する様子など、様々な効果音が音楽に埋もれることなく再生できている。

効果音以上に感心したのが声の再生能力だ。本作はゲーム中に敵味方の無線音声が飛び交い、それによってストーリーが語られることになるので、声をはっきりと聴かせることはゲームの楽しさに直結する。SC-HTB01の声の聴き取りやすさは大きな美点であり、ゲームとの相性の良さを感じた。

「モンスターハンター:ワールド」では、一通り拠点を歩き回った後、古龍「テオ・テスカトル」の討伐クエストをプレイ。やはり音の広がりに優れ、タイトル画面やロード画面で聴こえる環境音でさえ強い印象を残す。テオ・テスカトルとの戦いでは、効果音よりも激しいリズムを刻む音楽が強く印象に残った。噴き上がる獄炎や舞い散る粉塵の灼熱感もおおいに感じられ、おおいに死闘を盛り上げてくれた。

「ホライゾン」では、ワールドマップの南西端、キリン型の巨大な機械獣「トールネック」が闊歩する一帯を歩いて回った。極めて濃密に作り込まれた本作の環境音をSC-HTB01はよく再現し、主人公の目の前を通り過ぎるトールネックの足音も、薄く小さな筐体から出ているとは思えないほど重厚に再生できている。

試聴中で気になった点があるとすれば、インジケーター類が少なく、「現在どんなモード/設定なのか」を判断するのが困難なこと。インジケーターのオンオフや色の組み合わせによって各種設定状態を確認することになるのだが、複数の組み合わせを正確に覚えるのはなかなか大変に思えた。様々なコンテンツで試して最適な設定を見つけたら、あとはその状態で固定して音量調整のみ行なうというのもひとつの手かもしれない。

総じて、SC-HTB01は「サイズが小さいから再生音もそれなりだろう」という当初の予想を覆すハイレベルな再生音を聴かせてくれた。さすがに複数のスピーカーを用いるシステムのようなサラウンド感はないとはいえ、音の広がりは素晴らしく、「いい音で映画やゲームを楽しむ」という目的は完璧に果たされる。

SC-HTB01のインジケーター

ゲームの豊かな音声を余さず再生するHT-X8500。大画面で本領発揮

続いて、ソニーのHT-X8500を試す。

HT-X8500とPCモニターの組み合わせ

「ピクセル」では、純粋なスピーカーとしての実力の高さが際立ち、細かい音の表現力、高音の切れ味や低音の沈み込み、ダイナミックレンジの広さにおいてSC-HTB01の上を行く。物理的に左右のスピーカーが離れているおかげで、「Vertical Surround」はオフの状態でも豊かなステレオ感があり、音の広がりや移動感で特に不満はないが、オンにした時の効果は絶大。目の前のサウンドバーから音が出ているということをまったく意識させないレベルで空間が拡大し、個々の音の優れた描写力もあいまって、映画を見るという体験の質が著しく高まる。

ただ、スピーカーから1メートル程度という今回の試聴環境の問題か、見事な空間表現や効果音の描写に対し、相対的に声が薄く感じられてしまった。この印象は「ボイス」をオンにすることやサウンドモードの変更でいくらか改善されるものの、SC-HTB01で感じられたような声の存在感には到らなかった。

ゲームコンテンツで特に素晴らしかったのが「ホライゾン ゼロ ドーン」。大地を駆ける主人公アーロイの足音、しぶきを立てながら流れる水音、一帯に充満する生きものの声や風で揺れる木々のざわめきなど、膨大な量の音が鮮やかに空間を覆い、「この世界に居る」という感覚を強烈なものとする。深さと量感を両立した低音はトールネックの足音にさらなる重量感と実体感を与え、トールネックが移動する方向や、主人公との距離感も精緻に描かれる。「ゲームにはこんなにも豊かな音が込められていたのか……」と感動すること請け合いだ。

HT-X8500の純粋なスピーカーとしての素性の良さ、ステレオ感の豊かさは音楽再生においても存分に発揮される。iPhone経由で様々な曲を聴いてみたが、高音低音ともによく伸び、中域はクリアで、ジャンルを問わず満足度は高い。Bluetooth入力を上手に使って、音楽再生でも積極的に活用したいところだ。

Spotifyアプリで音楽を再生し、それをBluetoothでHT-X8500に飛ばしている様子

余裕のある本体サイズから来る様々な優位性により、純粋なスピーカーとしての実力という点で、HT-X8500は明らかにSC-HTB01を上回っている。単に「大きな音が出せる」というレベルのスピーカーとは完全に一線を画す、作品に込められた様々な音をしっかりと再生することで本質的な体験の向上をもたらす製品だと言える。

HT-X8500の再生音のスケールは27型のモニターを完全に超越しており、より大きな画面、より大きな視聴環境でこそ、本機は真価を発揮するとも感じた。実際に場所を筆者のメインのオーディオルームに移し、2メートルほどの距離でHT-X8500を試聴したところ、声の薄さが気になることはなく、バランスのよい再生音が得られたことも伝えておきたい。

簡単な追加で、コンテンツの良さがもっと活きる

SC-HTB01とHT-X8500は機能的にほぼ同等、価格的にもほぼ同等だ。しかし、SC-HTB01は「コンパクトサイズながら豊かな広がり」、HT-X8500は「サウンドバーの枠を越えた本格的な再生音」というように、音の印象はだいぶ異なる。

両機の音の違いは、クオリティの違いというよりは「用途の違い」と表現すべきだろう。例えば、純粋なスピーカーとしての能力はHT-X8500に軍配が上がるが、その性能を活かすためにはある程度広い空間が必要とも感じる。そしてコンパクトな空間であれば、SC-HTB01は十分な音の広がりを実現し、声の明瞭さも魅力となる。大切なのは、今回試したSC-HTB01とHT-X8500は、いずれもPCモニターの内蔵スピーカーとは次元の異なる再生音で、映像コンテンツの楽しさを大きく引き出してくれたということだ。

映像コンテンツをもっと楽しみたいと思っても、いきなり複数のスピーカーを導入・配置することが現実的には困難なことが多い。だからこそ、ごく手軽に設置できるサウンドバーの価値は大きい。

映画にせよ、ゲームにせよ、音楽にせよ、「いい音」はコンテンツの楽しみを大きく増幅する。大好きな作品から、より深い感動や鮮烈な体験を引き出してくれる。それを実感するうえで、「まずはサウンドバーから」という選択肢はおおいにアリだ。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。ブログ:「言の葉の穴」