【新製品レビュー】;

初のデジタルノイズキャンセリング“イヤフォン”を試す

-ソニー「MDR-NC300D」。新型ヘッドフォンも評価


6月21日発売

標準価格:
 「MDR-NC300D」30,975円
 「MDR-NC600D」49,350円

初のデジタルNCヘッドフォン「MDR-NC500D」
 参入メーカーも増えて、活況な日本のイヤフォン/ヘッドフォン市場。騒音をキャンセルできるノイズキャンセリング製品も5,000円以下のものから、様々なモデルが登場している。その中でも注目株は、ソニーのデジタルノイズキャンセリング製品だ。

 デジタルノイズキャンセリング(以下デジタルNC)は、2008年4月に発売された「MDR-NC500D」(49,350円)において、世界で初めて採用された技術。高価なモデルだが、騒音を約99%低減するという強力なNC機能が話題になった。

 そして6月21日、そのデジタルNC製品に新ラインナップが追加される。デジタルNCでは初のカナル型「MDR-NC300D」(30,975円)と、「MDR-NC500D」のマイナーチェンジモデル「MDR-NC600D」(49,350円)だ。「NC600D」はカラーリングや付属品の変更がメインで本体機能に変更は無いため、「MDR-NC300D」を中心に、音質やNC性能を紹介する。


■ デジタルNCの利点

 マイクで集音した周囲の騒音をもとに、その音が鼓膜に到達する際の音を推定。その逆相の波形をリアルタイムに生成し、ヘッドフォン/イヤフォンで再生。騒音をキャンセルし、静かな空間を生み出すというのがNC機能の原理だ。

ノイズキャンセリング機能の原理図

 そのため、NCの性能は、キャンセリング波形を生成する回路の性能や精度によって大きく左右される。通常のNC回路は、キャンセル波形の生成をアナログ信号処理で作りだしているが、複雑な波形を生み出すのが難しかったり、精度にばらつきがあったり、NC回路が外来の電気ノイズの影響を受けたりといった、諸問題がある。

 そこで、マイクで集めた騒音を一旦A/Dコンバータでデジタル化し、波形の生成もデジタルで行なうのがデジタルNC回路だ。デジタルフィルタで波形を作り出すため、複雑な波形形状も生み出すことができるほか、ばらつきの無い高精度な処理ができ、外来ノイズの影響も原理上受けないというわけだ。こうした処理は、ソニーが開発した「DNC(デジタルノイズキャンセリング)ソフトウェアエンジン」で行なわれている。

 「NC300D」で機能の流れを見てみると、カナル型イヤフォン部の側面上部にマイクが突き出ており、ここで周囲の騒音を収集。デジタルNC回路は、ケーブル途中のコントロールボックスに内蔵されており、ここでキャンセル波を生成。キャンセル波をイヤフォンに送り、鼓膜に向けて放射するという仕組みだ。

NC300D。上にあるのがコントロールボックスNC300Dのイヤフォン部側面上部にマイクが搭載されている

 この「DNCソフトウェアエンジン」は「NC500D」から採用されたものだが、同じ技術をカナル型に投入したのが「NC300D」となる。騒音低減も約98.4%と、NC500/600Dの約99%とほぼ同レベルを実現している。しかし、ハウジングの中に汎用のDSPを搭載し、「DNCソフトウェアエンジン」を走らせているヘッドフォン型と比べ、イヤフォンでは回路を入れるスペースが足りない。

DNCソフトウェアエンジン、S-Master、ADC、デジタルサウンドエンハンサーなども集積
 そこで、新たに専用の「インテグレーテッドDNCプロセッサ」が開発された。ここにDNCソフトウェアエンジンだけでなく、同社のフルデジタルアンプ「S-Master」なども集積。1チップ化することで、小型/省電力を実現し、コントロールボックスに内蔵している。

 コントロールボックスのサイズは、単三電池を2本並べたより一回り大きい程度。電源は単3電池1本で、連続使用時間は約20時間。電池を含めた重量は約53gで、手にすると見た目よりも重く感じる。筐体はアルミ製でひんやりと冷たく、各ボタンのクリック感も上質で、高級感がある。角度によって青味を帯びるシルバーの仕上げも、高級モデルらしい雰囲気を漂わせている。

 電源のON/OFFは、筐体上部のスライドスイッチで行なう。右にスライドさせると電源ONで、左にスライドでホールド。「電源ON→ホールド→ホールド解除→電源OFF」という必要最低限の操作が指先の感覚だけで行なえる。

高級感のあるコントロールボックス上部に操作ボタンを装備下部

電源は単3電池1本
 クリップも取り付けられ、胸ポケットなどに装着できる。ただ、重量があるので外向きに付けると、柔らかな生地だとポケットの口がデロンと引っ張られる。上部には電源に加え、ボリュームとサウンドモード切替を装備。正面にはモニターボタンを供えている。ボリュームと言っても、NC300DのアンプはNC処理を加えた音楽を元の音量に戻す役目をしているので、入力音量をボリュームアップさせるわけではない。ただ、接続するプレーヤー側のボリュームを上げ目にして、NC300Dの方で絞ったり、元に戻したりすることで、ボリューム調整機能として利用することは可能だ。

 サウンドモードは「NORMAL」、「BASS」、「MOVIE」の3種類を用意。BASSは低音を重視したモード、MOVIEは映画などのダイナミックレンジの大きなソース用で、会話などの小さな音を大きく、声の芯となる中音域を若干増強。爆発音などを小さくコンプレッションすることで、映画などを聴きとりやすくするモードだ。NCイヤフォン/ヘッドフォンは、飛行機の長時間フライトなどで利用する事も多いため、専用モードが用意されているのは嬉しい。モニターボタンは、マイクで拾っている音をそのままイヤフォンからスルー出力するもので、駅ホームのアナウンスなど、とっさに聞きたい場合に押すと便利だ。

クリップも付けられる起動画面モニターボタンを押したところ
コードはU型で、NCユニットから左イヤフォンまでが約120cm。NCユニットの縦は約7cm。NCユニットからステレオミニの入力端子までは30cm(合計コード長1.5m)約1mの延長コードやキャリングケース、ポーチ、航空機用アダプタ、クリップ、コード長アジャスターなどを同梱する


■ 「MDR-NC600D」の外観もチェック

 機能や音質はNC500Dから変更無い。ハウジングのカラーが、従来は銀色の細かいラメが見える塗装だったが、600Dは純粋なブラックカラーとなった。また、SONYロゴの下にある「DIGITAL」ロゴマークのカラーがシルバーからゴールドに変更。これに合わせ、ハウジングに貼り付けられているシールのカラーもシルバーからゴールドになっている。ユーザーの要望を受け、付属のキャリングケースの小型化もされている。

MDR-NC600DNC500D(左)とのカラー比較純粋なブラックカラーになり、ロゴマークがゴールドに

 操作部は右ハウジングの側面、下部にあり、マイクで集音した音をスルーで出力する「モニター」ボタン、スライド式の電源ボタン、AI NCモードを切り替えるボタンの3つが並ぶ。

ハウジングを平らにできる装着イメージ

 装着しながら操作する場合は指先の感覚だけでボタンを識別することになるが、中央にある電源ボタンがスライド式、その左右のボタンが押し込み式であるため、押し込みボタン同士が離れることで、誤操作を防止している。また、電源ボタンには細かい溝が掘られており、指先でなぞればボタンが判断できる。1日使っていると迷い無く押せるようになった。

操作部コードの脱着が可能

 左ハウジングには充電用のACアダプタ接続用プラグと、入力ケーブル接続用のステレオミニプラグがある。なお、「NC300D」と「NC600D」のどちらも、音楽を入力しなくてもNC機能のみを使うこともできる。「NC300D」はケーブルを抜くことはできないが、「NC600D」はハウジングからケーブルを抜くことも可能。静かな環境だけを手に入れたいという時はヘッドフォン部のみを持ち出せるのが利点だ。


 

■ 強力なNC能力

 音楽を再生せず、NC機能のみを試してみた。「NC300D」を空調の音がする程度の静かな室内、話し声が充満する喫茶店、地下鉄などで試してみたが、いずれも非常に強力なNC機能が体験できた。

 空調のゴーっという音はほぼゼロになり、冷蔵庫や自販機の「ウー」というモーター音もほとんど聞こえない。他人がキーボードを打つ「カチャカチャ」という打鍵音は、「チャ」の部分が消え、高域が押さえられた「タタッタタッ」という音に聞こえ、不快感は大幅に消える。喫茶店の真横の席で女性客が4人談笑していても、集中力が途切れない。

 電車内で使ってみると、車両が風を切る音、車体の響き、床からの轟音はほとんど気にならなくなる。「クイーン」という加速音、アナウンス、時折「キキッ」と響くブレーキの音が残る程度。中低域のキャンセル能力が高いようだ。トンネルに入ると流石に「ゴー」という音が薄く聞こえるようになるが、煩いと感じるほどではない。地下鉄も同じ傾向だ。

 「NC600D」のNC機能も「NC500D」ゆずりで強力。電車の中ではゴーという中低音が消え、人の話すボソボソという声も聞こえない。室内でこの原稿を書いている時、外でかなり激しい雨が降って来たが、ゴー、ザー、という雨全体の騒音はほぼゼロ。雨樋を水が流れるピチャピチャという繰り返し音も完全に消えて驚かされる。

 雨だとわかるのは、屋根であつまった大きな雨粒が、不規則に地面の岩などに落ちる時のピチャン、パチャンという音のみで、その音も大部分がキャンセル。「チャ!、チャ!」 というわずかな音が時折聞こえるというレベルだ。外を見ていなければ、雨が降っている事に気付かないだろう。

 唯一気になるのが、NCが動作中の「サー」というホワイトノイズ。500Dにもあったが、静かな場所でONにすると、周囲の音が静かになりすぎてヘッドフォンの動作ノイズが耳につく。ただ、屋外や電車の中ではほとんど気にならず、音楽を再生するとかき消される。

 また、個体差もあるのかもしれないが、試用した機体では右のハウジングからのみホワイトノイズが聞こえ、左からはほとんど聞こえなかった。両方から同量のノイズが聞こえていれば気にならないかもしれないが、片方だけなので違和感が残る。“NCが不要なくらい静かな場所で気になる現象”なので、そういった利用を考えている人は事前によく確認したほうがいいだろう。

 気になる「NC300D」と「NC600D」の違いだが、静粛性は「NC300D」の方が高いと感じる。耳栓と同じようなカナル型であるため、そもそもNC機能をONにしない状態で比べても「NC300D」の方が遮音性は高い。また、ホワイトノイズ量も、「NC300D」の方が少なく、耳への圧迫感/違和感も「NC300D」の方が少ないと感じられた。しかし、耳穴への物理的な負担という意味では「NC600D」の方が長時間の使用に適していると言えそうだ。


 

■ 「NC300D」で強化されたNC機能

 「NC500D/600D」は、以下のように3種類のNC動作モードを持っており、それを使い分けることで効果的な動作ができる。具体的には、ハウジングに用意された「AIボタン」を押すこと、騒音を数秒解析し、ヘッドフォンが自動的に3つのNCモードの中から最適なものを選択してくれる。

  • NCモードA:主に航空機内の騒音を低減
  • NCモードB:主に電車やバス車内の騒音を低減
  • NCモードC:オフィスや勉強部屋などのOA機器や空調音を低減

NC300Dのモード解説

  NC300Dでも同様に3つのモードを備えているが、利便性が大きく向上している。NC300Dには「AIボタン」が無く、フルオート動作となっており、常時周囲の騒音に合わせ、A/B/Cモードが切り替わるのだ。

写真撮影中も誰かが喋ったりするとモードが頻繁に変わる

 実際に使ってみると、例えば騒がしい駅改札では「B」、電車が来る前の静かなホームに立つと「C」、通過電車が轟音と共に通り抜けると「A」、到着した電車に乗り込むと「B」という具合に、かなり細かく変化する。環境が変わるたびに「AIボタン」を押せば同じことはできるのだろうが、自動で切り替わる方が格段に便利だ。モードが頻繁に変わるとイライラしそうなイメージもあるがまったく逆で、“静かな環境”に変化は無いわけで、表示を見なければモードが変わったことに気付かないだろう。

ホームに立つと「C」電車が通過すると「A」電車に乗ると「B」

 また、NC300Dではコントロールボックス背面に「NC OPTIMIZE」ボタンを備えており、キャンセル信号の量とスペクトラムを調整できる。通常、カナル型イヤフォンは、耳に合うイヤーピースを選んでも、若干耳穴との隙間ができてしまうもので、そこから騒音が入り込む。それを補うためにキャンセル信号を増減させようという狙いだ。

 イヤフォン側で隙間の大きさを検知できないため、キャンセル量はユーザーが調節する。「NC OPTIMIZE」を押すと音楽がミュートされ、NC機能のみ利用している状態になり、コントロールボックスの画面に調節バーが現れる。これを左右に動かすことで、“より静かになる”ポイントを決めるのだ。NC量を増やしていくと、エレベータで耳がツーンとなる時に似た圧迫感が強くなる。

コントロールボックス背面の「NC OPTIMIZE」ボタンNC機能を調節できる耳穴とイヤーピースの隙間から騒音が入る

 静かな室内や駅のホームで試してみたが、量を増やすと駅のアナウンスの中音域が減少。低域がもとからキャンセルされていたゴーという電車走行音は、より高い音まで消されるようになり、「クイー」という高めの走行音しか残らなくなる。「NC OPTIMIZE」の設定は、前述のNCモードにも反映される。つまり「NC OPTIMIZE」の設定を考慮した上での、NC動作をしてくれるというわけだ。

 また、当然の事なのだが、NC量の調節は騒音のある場所で行なった方が良い。空調の音ぐらいしかない室内でやると、ゴーという空調音はノーマル状態で消えてしまうため、「どの程度騒音が減るのか」を聞きながら調節することができず、調整しても単に鼓膜への圧迫感が増えただけにしか聞こえない。耳に合うイヤーピースを選び、良く利用する場所で「NC OPTIMIZE」を微調整すれば、NC300Dの本領が発揮できるだろう。 

 NC300Dのイヤーピースは種類が豊富、7種類のサイズを同梱しており、ハウジングの高さが高めで、径がノーマルな「ML」、径が太い「LL」と、高さが普通ので径が小さい「S」、普通の「M」、太い「L」、高さが低くて小さい「SS」、通常径の「MS」を用意する。いずれも、音道の形状を変化させない堅めの素材と、耳に触れる部分の軟らかい素材の両方を取り入れたハイブリッドイヤーピースだ

■ 自然な再生音

 DAC/ヘッドフォンアンプの「DR.DAC2」に接続。NC300Dの再生音でまず驚くのは、音質が“自然”なことだ。従来のノイズキャンセリングイヤフォン/ヘッドフォンは、レンジが狭かったり、音場が小さかったり、位相が狂ったような不自然な音が事が多く、比較的バランスの良い再生音のモデルであっても、中低域が過多で高域を多い隠してしまうような機種も多かった。

 しかし、NC300Dはレンジが広く、高音から低音まで非常にバランス良く音が出ている。音だけ聞いたら、普通のカナル型イヤフォンだと思うだろう。これは結構凄い事だ。山下達郎「アトムの子」冒頭のドラム乱打では、ほどよい量感のドラムが音楽を支え、タンバリンのシャンシャンという音もしっかりと分離。音場の広がりも十分にある。

  意外なのは、低域がそれほど主張しない事だ。搭載するユニットのサイズは16mm径と非常に大きく、ソニーのカナル型最上位モデルである「MDR-EX700SL」(36,750円)と同サイズ。人気の「MDR-EX500SL」(オープン/実売1万円前後)の13.5mm径よりも大型だ。両モデルはどちらかというと低域寄りのバランスだが、NC300Dはむしろ控えめで、抜けの良い高域の方が印象に残る。

 JAZZのKenny Barron Trio、「The Moment」から「Fragile」。ルーファスリードの倍音の多いベースもしっかりと解像する。高域寄りの軽やかな音色なのでポップスも良く合い、「坂本真綾/トライアングラー」も心地良い。ただ、1音1音の描写が淡泊なのが気になる。音に表情や味わいを加える中低域が弱いため、ピアノの高音、女声ヴォーカル、ストリングスなど、高めの音が皆同じに聞こえてしまう。そのため打ち込み系の、音の数が多い楽曲はボリュームを上げると、ちょっと“うるさく”感じてしまう。

 試しに、NCではない「MDR-EX500SL」に交換すると、中低域に厚みが出る。ルーファスリードのベースに響きが加わり、音場も若干広がる。「アトムの子」のドラムも一段低音が沈み込み、“シャンシャン”と鳴っていたタンバリンの音も“シャランシャラン”と音色の描写が細かくなる。音楽全体にメリハリが加わったようだ。

左が非NCの「MDR-EX500SL」

 「NC600D」の再生音は、「NC300D」と比べると若干こもったような、NCヘッドフォン的なサウンド。それでもNCヘッドフォンとしては自然な再生音と言って良いだろう。レンジも広く、高域から低域まで良く出ている。傾向としては中低域が張り出した低重心バランスで、ルーファスリードのベースが“ヴオーン”と地鳴りのように襲ってくる。NC300Dとここまでキャラクターが違うのは面白い。ロックやヒップホップが楽しく聴けそうだ。

 シビアに聴き込むと、高域の分解能は及第点だが、中低域の厚みが付き過ぎて分解能が悪い。「キマグレン/LIFE」はアコースティックギターやパーカッションの、パツパツとした音の分離が心地良い1曲だが、ギターのボディが反響する厚みのある中域と、パーカッションの低音がくっついてしまい、“ドンドン”、“ヴォンヴォン”というひとかたまりの音になってしまった。

 「それならば非NCヘッドフォン/イヤフォンの方が良い」と結論付けたくなるが、静かな室内でヘッドフォンアンプに繋いで評価するのはある意味“フェア”でない。騒音の大きい、例えば地下鉄内で「NC300D」と「EX500SL」を比較してみると、音質というレベルを超えた差が生まれる。

 ロックやポップスを大音量で再生している分には、両者の違いはそれほど無いのだが、クラシックやJAZZ、アカペラなど、静かな環境での再生を前提としている楽曲は、騒音に邪魔されて良く聴こえなかったり、十分に聴き取るためにはかなりの音量に上げなくてはならなくなる。NCヘッドフォン/イヤフォンでは周囲が静かになるため、小音量でも十分聴き取れるし、静かな空間にピアノソロや女性ヴォーカルのアカペラが、ゆっくりと広がるような楽曲を地下鉄の中でも楽しむことができる。スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトのアルバム「Getz Gilberto」から「Corcovado」をかけると、アストラッド・ジルベルトのつぶやくようなヴォーカルや、観客席の咳払いなどが地下鉄内でも明瞭に聴き取れる。これは通常のイヤフォン/ヘッドフォンでは難しい事だ。


 

■ 利用スタイルに合わせた選択が重要

 両モデルとも、非常に強力なNC機能を持ち、再生音もNCヘッドフォンとしては音の広がり、レンジ共にトップレベルだ。特に「NC300D」の自然な再生音は、従来のNCヘッドフォン音質のイメージを覆すもので、NC機器の音質に満足がいかなかったユーザーにも一度聴いて欲しい。直接比較するのが難しい「NC300D」と「NC600D」だが、NC機能や音質、コストパフォーマンスから考えると、個人的には「NC300D」を推したい。飛行機での海外旅行など、長時間の使用なら耳への負担軽減に優れる「NC600D」だろう。

 ただ、両モデルに共通して言えるのは「NC300D」が30,975円、「NC600D」が49,350円と、高価な事。NC300Dは実売1万円程度の「EX500SL」の3倍。デジタルNC機能を備えたウォークマンX「NW-X1050」(内蔵メモリ16GB)がイヤフォン込みで実売39,800円なので、製品ジャンルが違うとは言え、ちょっと考えてしまう値段だ。密閉型ヘッドフォンも2万円台後半から3万円台にかけて各社の名機が揃っており、5万円近い「NC600D」の価格はハイエンドと言って良い。競合価格帯非NCヘッドフォン/イヤフォンと純粋な音質比較をした場合、差は依然として存在するというのが正直な所だ。

 非NCのカナル型や密閉型ヘッドフォンでも、地上を走る電車程度ならば装着するだけである程度の騒音を遮断することは出来る。そういった意味でも、NC機器は地下鉄や飛行機に長時間乗る頻度が多い人にマッチした、ある意味で“ニッチ”な製品だ。だからこそ、そうした騒音環境下で、どれだけの頻度で使用するかをじっくり考えた上で選ぶことが重要と言えるだろう。逆に「騒音まみれの音をもう聴きたくない」という人にとっては、間違いなくオススメできる2モデルとなるだろう。


(2009年 6月 12日)