【新製品レビュー】

業界最大70mmユニットが生む重低音を体感

-ソニー、XBシリーズ最上位「MDR-XB1000」


まさに「タイヤ」と言う感じの最上位モデル、「MDR-XB1000」

 ソニーのXB(EXTRA BASS)シリーズと言えば、その強烈な低音再生能力と、一目見たら忘れない個性的なフォルムで独自の存在感を放つモデルだ。巨大で分厚いキングサイズイヤークッションを指して、「タイヤ」と呼ぶ人もいるようだ。

 シリーズが誕生したのは2008年の11月。当時ヘッドフォン&イヤフォンのシリーズをまとめてレビューしたが、実物を目にした第一印象は「デカイ!」の一言。シリーズのコンセプトは、「ヒップホップやダンスミュージックなどのクラブミュージックを楽しむために、重低音とダイナミック感溢れるサウンドを追求した」というものだが、「誰がこれをつけるの!?」というのが正直な感想だった。

 しかし、発売から1、2週間後に新宿駅を歩いていると第一装着者を発見。「XBだ!」と思って、思わず少しついていってしまった。その後も度々見かけるようになり、女の子が装着している場面にも遭遇。小柄な体と大きくて無骨なヘッドフォンのギャップに大いに萌え、スキンヘッドの外国人が“サングラス + MDR-XB700”で歩いていた時はあまりにハマっていて2回くらい振り返ってしまった。インパクトが大きいからこそ、ファッションアイテムとしてもコーディネートのし甲斐があるのかもしれない。

 そんなXBのヘッドフォンシリーズに2月10日、最上位モデル「MDR-XB1000」(30,975円)が追加された。これまでのXBシリーズの路線をさらに進化させた、"王者”の風格漂うモデルで、搭載ユニットはなんと業界最大の70mm(!)というバケモノだ。どんな低音を聴かせてくれるのか、さっそく体験してみた。




■XBシリーズのラインナップ

左がXB700、右がXB1000

 XB1000の詳細の前に、まずラインナップをおさらいしたい。ラインナップはユニットの口径と一緒に覚えるとわかりやすく、今回の最上位「MDR-XB1000」が70mmで30,975円。50mm径の「MDR-XB700」が12,390円、30mm径の「MDR-XB500」が8,715円、30mm径でオンイヤータイプの「MDR-XB300」が4,935円となる。

 最上位以外は2008年から発売されているもので、XB1000登場後も併売される。なお、イヤフォンも2008年から「MDR-EX40EX」「MDR-XB20EX」がラインナップされていたが、これらの販売は終了。今回のXB1000投入に合わせて、それぞれ「MDR-XB41EX」、「MDR-XB21EX」というマイナーチェンジモデルに置き換わる。


70mmの大型ユニットを搭載する

 それにしてもXB1000の70mm径というユニットサイズは大きい。ちょっとしたPCスピーカーのウーファ並である。この大型ユニットにより、低音の再生能力はXB700よりさらに向上し、再生周波数帯域はXB700が3Hz~28kHzのところ、XB1000では2Hz~30kHzという超低域再生能力を実現している。

 直接ユニットを見る事はできないが、外観を見ただけでも70mmの大きさが実感できる。XB700と並べると、ハウジング部分が一回り大きく、さらにイヤークッションで比べても一回り大きい。

 また、XB700では、イヤーカップがシルバーで、クッションがブラックであったため黒いクッション部の大きさが目立っていたが、XB1000の場合やイヤーカップも黒になったことで、“巨大な黒いカタマリ”に見えるようになった。ただ、柔らかなクッションや、金属の光沢のあるアーム部分など、黒は黒でもパーツによって質感が異なるため、単調な印象は受けない。


左がXB700、右がXB1000左がXB700、右がXB1000。イヤークッションも一回り大きい
XB700XB1000
XB700XB1000

 注意深く見ると、スライダー部分にXBのロゴをアレンジしたデザインがあしらわれている。“闇に響く規則的かつうねるようなグルーヴ感”を表現したというもので、エッチング加工のグラフィックとなっている。イヤーカップ部分にも細かなヘアライン加工が施されているのがわかる。デザインの好みは人それぞれだが、XB1000には"オレは下位モデルとは一味ちがうぜ”という風格が漂っているように感じる。

 最大入力は3,000mWまで対応。インピーダンスは24Ω。ケーブルは両出しで、長さは2mの平型タイプ。入力プラグはステレオミニとなっている。なお、ヘッドフォンとケーブルの付け根は“いかにも回りそう”なネジっぽいデザインになっているが、実際は回らず、ケーブル着脱はできない。

スライダー部分にXBのロゴをアレンジしたデザインいかにも回りそう”なネジっぽいデザインだが、ケーブルは外れないケーブルは平型で2m


■重低音再生のための技術

耳の周囲にピッタリと密着する

 機構的な特徴は重低音再生を実現するための「ダイレクトバイブストラクチャー」技術にある。これはXB700などから引き続き採用されているもので、端的に言えばユニットと耳(鼓膜)の間にある空間の気密を高めるための技術だ。具体的にはキングサイズのイヤークッションで耳の周囲をぴったり密閉し、空気が漏れないようにして、大口径ユニットの低音のパワーを鼓膜に届けている。見た目だけでなく、このイヤークッションにこそ重低音を出す秘密があるわけだ。なお、XB1000ではさらに、部品同士の隙間を充填する密閉リングなども採用し、ヘッドフォン内部の気密も確保している。

 イヤークッションには低反発ウレタンが使われており、外側は高伸縮のウレタンレザーで包まれている。高級ソファーのようにフカフカで、指で押すとどこまでも沈み込む柔らかさがある。同時に、指を離すとすぐに元の厚さに戻る。この特性を活かして細かい凹凸に追従し、耳の周囲への密着度を高めているわけだ。


イヤークッションには低反発ウレタンが使われており、フカフカ。指を離すとすぐに元に戻る

 なお、XBシリーズのヘッドフォンと言えば、下位モデルから音漏れが結構激しかった。前述のようにクッション自体の密着度は高いのだが、クッションそのものを透過してくる音も少しあるのに加え、イヤーカップの上部に大きめのポートが空いており、ここから音がかなり漏れるのだ。XB1000でもその傾向は変わらず、XB700と形状は異なるものの、大きめのポートが空いている。

XB700のハウジングにあるスリット状のポートXB1000のポートは、形状は異なるが大きめだ

 装着し、同程度の音量でXB700と音漏れを比べると、XB1000の方がより音が漏れる。XBシリーズの特性上、迫力のある低音が楽しみたくてボリュームを上げ目にしてしまうが、その状態での音漏れはかなり激しく、静かなオフィスではもとより、電車内でも使うのは厳しいだろう。

頬を包まれるような装着感だ

 重量はXB1000が約375g、XB700が約295gと当然XB1000の方が重いが、サイズから受ける印象よりも軽いため、手で持ち比べてみてもそれほど重くなったとは感じない。装着感もXB1000の方が良好で、特に大型化したイヤークッションの肌触りが心地良い。XB700は"柔らかい物に耳が包まれる”ような感触で、これもこれで気持ち良いが、XB1000はその感触がもはや"ほっぺた”に及ぶ大きさで、ヘッドフォンの装着感と言うよりも、上着のフードファーをかぶった時のような感覚だ。冬は暖かくて良いし、音楽を聴かずに集中したい時に着けても良さそうだ。


アーム部分は上下に動くものの、左右には動かない。しかし、イヤークッションが肉厚なので、密着度と安定感は高い


■高い基本性能+迫力重低音

XB700は直接音がメイン

 試聴は、ポータブル環境としてウォークマン「NW-A855」や、iPhone 3GSの直接再生、「第6世代iPod nano」+「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D12 Hj」を使用。据え置き環境は、Windows 7(64bit)のPCと、ラトックのヘッドフォンアンプ内蔵USBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」を使用。ソフトは「foobar2000 v1.0.3」で、プラグインを追加し、ロスレスの音楽を中心にOSのカーネルミキサーをバイパスするWASAPIモードで24bit出力している。

 試聴曲として、いつものJAZZやアニソンではなく、クラブ系という事で「DJ Tiesto /Siberia」(Deep Trance Mix)を再生してみる。まずXB700で聴いてみると、強烈な低音は健在。刻みこむような鋭いビートが直接鼓膜に飛び込む感覚。量感があるだけでなく、解像感も伴った低域になっているのがXBシリーズの特徴であるため、音量を上げていっても情報量が落ちずに迫力が増すため、純粋に心地が良い。

 延々とループされるビートを聴いていると、頭の芯がジーンとしびれるような、独特のトリップ感が味わえる。また、この低域の中でも固くて鋭い高音、キンキン、チンチンという音はマスキングされず、鋭く突き抜けるのも良く出来ている。

XB1000では空間表現が加わる

 XB1000に変えると、より強烈な音になるだろうと覚悟しながら装着すると、良い意味で予想を裏切られた。再生するとフワッと音場の広がりを感じるのだ。XB700の場合は「音場? なんですかそれは」というような勢いで直接音が耳に飛び込んでくるが、XB1000は音楽が鳴っている空間が出現し、音像そのものはXB700よりもむしろ遠のき、音像が空間に放出する音を、空間を介して聴いていると言う感覚だ。

 普通のヘッドフォンならば「コンサートホール」と例えるところだが、XB1000の場合は「クラブで聴いているような音になった」と言える。そのため、頭内定位はXB700よりも改善され、むしろXB1000の方が聴きやすい音とすら感じる。

 では低域が大人しくなったのかと言うと、そんな事はなく、沈み込むビートは一段深く、音の輪郭も太く、力強くなる。音場が生まれた事に意識をとられると低域が“甘く”なったように思うのだが、意識を集中させると解像感は落ちておらず、空間に充満する響きを味方につけて、“力強い低音”から"雄大な低音”に変化したように感じる。直接音が頭を貫くようなXB700の音にも独自の魅力があるが、長時間聴いていると疲れてくる。XB1000には余裕と空間が感じられ、心地良いクラブにいつまでも浸かっていたいような感覚だ。

 面白いのはXB1000の音場表現だ。普通のヘッドフォンでは、音場のクリアさを追求し、音の”こもり”を排除する傾向にあるが、XB1000の場合はあえてその逆を行き、ある程度の“こもり”を感じさせる。低音の響きや壁に反響する感覚、高域の頭が若干抑えつけられる感覚などで、地下のクラブの密度感や凝縮感を感じさせる音になっている。製品コンセプトもそのままで、「クラブフロアの音場を迫力の重低音で再現する事が目的。真夜中にクラブでかかる大音響、分厚いコンクリートに囲まれた密閉度の高い空間を再現した」という。

 恐らく、この方向性は“やり過ぎ”てしまうと、音の解像感が低下し、低音がボンついて、派手なだけのナローな音になってしまうだろう。XB1000では低域、高域共に解像感が低下しないギリギリのレベルで反響音を出しているように聴こえる。このバランスが絶妙だ。つまり、ヘッドフォンとしての再生レンジの広さや、分解能の高さなど、基本的な再生能力の高さを持った上で、味付けの音作りとして独特の音場を再現している所に最上位機種のポテンシャルを感じさせる。

 そのため、クラブミュージック以外を再生してもなかなかイケる。いつも再生テストに使っている「藤田恵美/camomile Best Audio」から、「Best of My Love」を再生すると、確かに音場の広さの限界は感じるが、ヴォーカルの音そのものはクリアで聴きとりやすい。

 アコースティックベースの中低域の盛り上がりは、今までのヘッドフォンレビューでは聴いたことがないほどボリュームがあり、ベースの音というよりも「ヴォーン」という音の大砲が耳に打ち込まれたようなパワーがある。あまりに強烈なので、響きが頭の中を通って、口の中に降りてきて、食道を通って肺に響く感覚すら覚える。

 「坂本真綾/トライアングラー」の後半は、ヌケの良い、きらびやかな中高域が主体となる楽曲だが、XB1000で聴くとゴリゴリと低域のラインを描写するベースが意識の7割ぐらいをしめる、今まで聴いた事がない音だ。それでも高域の抜けの良さは損なわれておらず、基本再生能力の高さをここでも感じさせてくれる。聴きなれた楽曲でも、新しい魅力発見できるサウンドと言えるだろう。

 思いきってクラブミュージックとは真逆の、広い空間にヴォーカルのみが広がるような「手嶌葵/テルーの唄」を再生すると、伸びやかな歌声がコンクリートの壁にぶつかって戻ってきて、本当に地下室で歌っているようで面白い。透き通る歌声も低域がボリュームアップし、マッチョになり、熱気が感じられるようになる。面白い音だが、流石にこれはミスマッチだ。



■まとめ

 XBシリーズの良さは、単に低域をボンボン言わせるヘッドフォンではなく、しっかりと沈み込む超低域の再生音を持ち、高域の抜けの良さなど、ヘッドフォンの基本的な再生能力の高さを持った上の、個性として低域を強めた点にあり、それが"こけおどし”ではない迫力と情報量を両立させて再生音となって聴こえるところにある。

 XB1000はその特徴を進化させつつ、さらに"クラブの音場”も取り入れた点が新しい。単に低音の力強さを感じるだけでなく、狭いクラブの中で、巨大なウーファの前に立って浴びるように低音を体感しているような感覚が得られる所が特徴であり、他の製品にはない強い個性になっている。

 そのため、下位モデルのXB700と比べると、目指す方向が若干異なるサウンドであり、単なる上位機種ではない。音場よりも抜けの良さや、音の1つ1つのクリアさ、素直な描写などを求める人にはXB700の方がマッチする事もあるだろう。購入前にはぜひ聴き比べをして欲しい。既にXB700を愛用しているという人にも、新しさを感じさせてくれるサウンドだ。

 なお、ソニーではXBシリーズのキャンペーンサイトを開設しており、3月13日にはライブストリーミングサイト&スタジオの「DOMMUNE」(ドミューン)とコラボしたストリーミングライブも実施される。ロンドンにある、サウンドクオリティで定評のあるクラブ「fabric」を会場に、Craig Richards、Ramadanman、Ben UFO、Pangaeaらが出演。日本では、DOMMUNEでKEN ISHII、DJ KENTARO、DJ AKiが競演するという。XBシリーズを手に、アクセスしてみるのも面白いだろう。



(2011年 2月 25日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]