西田宗千佳のRandomTracking

第506回

Androidで“ハイレゾ&空間オーディオ”、アップルのAVサービス強化をチェック

アップルはコンテンツ関連サービスの拡充を急いでいる。特に今年活発なのが「音楽」と「動画」だ。今回は、7月に入ってわかった3つの事象について触れてみたい。

特に音楽については、「アップル製品を使っていない」Android派の人にもご一読いただきたい内容である。

Android版「Apple Music」が「ハイレゾ」「ロスレス」「空間オーディオ」に対応

まず音楽からいこう。

Apple Musicといえば、6月に「ハイレゾ」「ロスレス」および「Dolby Atmosによる空間オーディオ」に対応したことが注目されている。

アップル製品を使っている人なら(契約が必要とはいえ)すぐに対応できるのだが、他の機器では対応が遅れていた。

ようやくだが、7月21日になってAndroid版の「Apple Musicアプリ」が「ハイレゾ」「ロスレス」「Dolby Atmosによる空間オーディオ」に対応し、アップル製品利用者以外でも楽しめるようになってきた。

アプリのアップデートによって、AndroidでもApple Musicの「ハイレゾ」「ロスレス」「Dolby Atmosによる空間オーディオ」が楽しめるようになった

Android版のApple MusicアプリはUIこそ若干異なるものの、本質的な機能や使い勝手はiOS版と変わらなかった。6月以降、「ハイレゾ」「ロスレス」「Dolby Atmosによる空間オーディオ」対応という差が生まれていたが、今回そこもキャッチアップした形となる。

このうち、「ハイレゾ」「ロスレス」についてはシンプルだ。iOS/iPadOS版と同様、どのデータ量のものを聴くかを判断するだけでいい。

「ハイレゾ」「ロスレス」については、アプリの設定内で聴くときにどのデータを使うのかを選択する形式。ここはiOSなどと変わらない

ことBluetoothで聴く場合、実はAndroidの方が有利だとも感じた。今回のテストは主にソニーの「WH-1000XM4」「WF-1000XM4」で行なったが、どちらもLDACに対応しており、その分の音質向上が感じられた。もちろん、有線ケーブル+DACで聴く場合に比べれば違って聴こえるし、AACで聴いた場合との差は、人によっては小さなものだと感じられるだろう。とはいえ、心理的な影響も含め、LDACやaptX HDといったコーデックの存在はプラスであり、「AndroidでApple Musicを使う」利点の一つかと思う。

ハイレゾロスレスの場合には、外部にDACをつけて聴くことを推奨している

では空間オーディオはどうか? こちらは、アップル製品とは対応が少し違う。

Dolby Atmos対応楽曲を再生するには、そもそもスマートフォン側がDolby Atmosに対応している必要がある。非対応のスマホにApple Musicアプリをインストールしても再生はできない。

例えば、筆者の手元にあるスマホの場合、ソニーモバイルの「Xperia 1 II」はDolby Atmos対応なのでApple Musicの空間オーディオを再生できるが、Googleの「Pixel 4a(5G)」はDolby Atmosに対応していないためか、空間オーディオが再生できないだけでなく、設定にも出てこない。

Xperia 1 IIの場合。Dolby Atmosに対応しているので、Apple Musicにも「ドルビーアトモス」設定が出てくる
Pixel 4a(5G)の場合。Dolby Atmosに非対応なので、設定項目が出てこない

対応している場合であっても、やはり挙動はアップル製品で使った時とは異なる。

iOS/iPadOSでの空間オーディオは、AirPods Proなどのアップル製で空間オーディオ対応が保証されているヘッドフォンを使うのが基本。そうでない場合もDolby Atmosの設定を「常にオン」にすれば聴けるのだが、「すべてのスピーカーに対応しているわけではない」という警告が出る。Androidの場合にはヘッドフォンの識別をしないので、オンにすると必ず「すべてのスピーカーに対応しているわけではない」という警告が出るようになっている。

AndroidではDolby Atmosの設定をオンにすると「すべてのスピーカーに対応しているわけではない」という表示が出る

聞いてみた感想としても、ヘッドトラッキング対応を含めた最適化をおこなっているアップル製品同士での空間オーディオ対応に比べ、Androidでの空間オーディオは少々立体感・空間の広がりが小さくなっているように思える。ただ、これは個人によって感じ方が違う可能性がある。

すなわち、「ハイレゾではAndroid有利という部分があるが、空間オーディオではiPhone有利」と考えていただいていいだろう。

アリス=紗良・オットさんが語る「空間オーディオとクラシック」

Apple Musicでの空間オーディオ対応楽曲は日々増加している。効果は楽曲によってまちまちだが、それを確かめるのも一つの楽しみ、という印象がある。

個人的には、立体的に音を動かしている楽曲よりも、その場の広がり・位置関係を活かしている楽曲の方が面白いと感じている。そういう意味では、ジャズやクラシックと相性のいいフォーマット、と言えるかもしれない。

そんな中、7月30日にピアニストのアリス=紗良・オットさんのアルバム「Echoes of Life」が、空間オーディオ対応の形で公開された。彼女と、収録を担当したスタジオエンジニアであるジョナサン・アレン氏のコメントが得られたので、ここでご紹介しておこう。

アリス=紗良・オットさんのアルバム「Echoes of Life」。Dolby Atmos対応で配信されている

アリス=紗良・オット 『Echos of Life』

アリス=紗良・オットさん

私はしばらく前から、クラシック音楽家としての自分の役割は何かと考えるようになりました。社会のニーズや習慣の変化を反映し、現代の文脈の中で概念化し、音楽の遺産を守り続けることが自分の責任だと考えています。

Dolby Atmosによって、音楽がこんなに生き生きと感じられるとは驚きでした。特にヘッドフォンでどう聴こえるかに興味があったのですが、目の前にピアノがあるような驚きの体験でした。

サウンドエンジニアに変更を依頼したところ、突然、ピアノがその位置から消えてしまい、実際にどこから音が出ているのか分からなくなってしまったのです。

これは鳥肌が立つような体験でした。

コンサートホールでは、通常、楽器はステージ上に固定されています。「観客との距離を縮めたい」とか「中央に配置したい」と思っても不可能なんです。

Dolby Atmosは、空間的な感覚で音楽を体験する質を高めるだけでなく、私たちアーティストに、音楽をまったく異なる方法と距離感で提供する能力を与えてくれます。

私たちはこのような慌ただしい時代に生きています。音楽は私たちに逃げ場を与えてくれるものです。電車に乗っていても、忙しいオフィスの中でも、ヘッドフォンをかけるだけで、音楽が身体を包み込んでくれるような空間に連れて行ってくれるとしたら、どんなに素晴らしいことでしょう。

過去を理解することはとても重要ですが、過去にとらわれていてはいけませんし、未来を直視する必要があります。拡張現実が音楽にどんな次元をもたらすのか、待ちきれないほどです。

スタジオエンジニア ジョナサン・アレン氏

私は2012年に初めてDolby Atmosのデモを体験したのですが、瞬時に「これはすごい!」と思いました。単に音を身の回りに置くだけではなく、音のディテールやデシベル単位での微調整が自由にできるという点が重要です。クラシック音楽との相性が非常に良いだけでなく、非常にチャレンジングなものだと思いました。

5.1chでは「やや圧迫感のある音」ではなく、まさに「圧迫感のある音」になってしまうことがありました。人の耳に合うようにダイナミクスを不自然に調理しなければならなかったのですが、Dolby Atmosはそうではありませんでした。「これはクラシック音楽のためになる」と理解できたのです。

プレイリスト 「空間オーディオ:クラシック」

要は「より自然になる」「自由度が上がる」ということだろう。それは楽曲を聴けば確かに納得できる。

「TV」アプリがアップル以外の動画配信アプリと連携、「動画コンテンツのハブ」に

残る話題は「TVアプリ」だ。

アップル製品には、動画配信を見るための「TVアプリ」がプレインストールされている。主にアップルによる動画配信コンテンツを見るために使われていること、以前はそう呼ばれていたことなどから「Apple TVアプリ」と認識している人も多いだろう。

このアプリに最近機能追加があった。他社の動画コンテンツの扱いが変わったのである。

実は以前より、TVアプリ検索で他社の動画配信コンテンツも出てくる時期はあった。だが、あくまで「そのサービスにある」ことがわかるだけだった。

だが今回のアップデートでは、他社の動画配信アプリと連携し、「TVアプリから再生したい動画をタップすると、直接再生が始まる」ようになった。少なくとも再生を開始する時には、アプリの切り替えを意識する必要がなくなったのだ。

アプリ連携の機能が追加され、「TVアプリ」から直接、アップル以外の動画配信アプリを呼び出して再生可能になった

元々TVアプリは「アップル製品内の動画コンテンツのハブになる」ことを目指している。特にアメリカでは、「Apple TV」サービス内に専門チャンネル的なコンテンツが集まり、さらにその中で見たいものを探す……という立て付けになっている。日本では当初、アップルの有料サービスである「Apple TV+」しかなかったためにその辺がみえづらかったが、現在は5つの専門チャンネルが追加されている。

今回の施策は「動画配信のハブ化」に関する強化策だ。

アップルと連携する条件を満たしたいくつかの動画配信サービスはTVアプリと連動し、アップルの動画配信コンテンツと同じように扱われる。すなわち、途中まで見ていた動画は「次に観る」の中に表示され、「新着テレビ番組&映画」などの中でも通知され、作品を「検索」にも出てくる。

「次に見る」に動画が3つ並んでいるが、左端は「バンダイチャンネル」、中央は「Amazon Prime Video」、右端は「Apple TV+」のコンテンツ。だがそれぞれが区別なく並んでいる
作品を検索すると、その作品が見られるサービスも表示される

この連携に対応しているのは現在以下のサービスになる。

  • ABEMA、Amazon Prime Video、FOD、dTV、Paravi、バンダイチャンネル、ビデオマーケット(アイウエオ順)

もちろん、実際に視聴するには、これらのサービスへの加入やアプリのダウンロードが必要になる。

動画配信は「コンテンツの発見」が最大の課題だ。特に、どのサービスにどの作品があるか、ということはなかなか見えづらい。そこでTVアプリを使う、というのはシンプルでわかりやすい施策だ。

Apple TV+やアップルからの都度課金型動画配信を利用していない人は、TVアプリを使ったことがないかもしれない。もし上記のサービスでいくつか利用しているものがあれば、まさに「動画を見るためのハブ」として使ってみてはいかがだろうか。

西田宗千佳