ミニレビュー

iOS 15のヘッドトラッキング×空間オーディオで“イスくるくる”が楽しい

iOS/iPadOS 15で利用可能な「ダイナミックヘッドトラッキング」を試してみた

アップルが9月21日に配信を開始したOSのメジャーアップデートの「iOS 15」と「iPadOS 15」では、同社の完全ワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」、もしくはワイヤレスヘッドフォン「AirPods Max」で、空間オーディオを「ダイナミックヘッドトラッキング」を使って楽しめるようになった。さっそく試聴してみたら、時間を忘れてゲーミングチェアで“くるくる”回り続けてしまった。

ダイナミックヘッドトラッキングは、イヤフォン/ヘッドフォンで頭の動きを追跡し、頭の向きを変えると、それに合わせて音の向き(定位)も変わるもの。これにより「ステレオよりも広く、より鮮明で、豊かで臨場感が増す音楽体験」という空間オーディオの臨場感がさらに増すという。

ダイナミックヘッドトラッキングにはAirPods Max(左)もしくはAirPods Pro(右)が必要

利用するにはiPhone 7以降のiOS/iPadOS 15をインストールした端末とAirPods Pro/Max、そしてApple Musicでの契約が必要。これらの環境が用意できれば、AirPods Pro/Maxを使用している場合、デフォルトで、Apple Musicはダイナミックヘッドトラッキングで空間オーディオを再生する。

今回はiPadOS 15にアップデートした12.9インチiPad Pro(2021年モデル)を使って、AirPods Pro、AirPods Maxの両方でダイナミックヘッドトラッキングを試してみた。

「空間オーディオ」のオン/オフはコントロールセンターから操作できる。AirPods Pro/Maxで対応曲を再生すると自動でオンに

上述したとおり、AirPods Pro/MaxでApple Musicの空間オーディオ楽曲を再生すると、自動的にダイナミックヘッドトラッキングもオンになるので、別途設定などは不要。イヤフォン/ヘッドフォンを装着して空間オーディオ対応楽曲を再生するだけでいい。空間オーディオ自体をオフにしたい場合はコントロールセンターで音量バーを長押しした後、「空間オーディオ」をタップすればオフにできる。

試聴には同社のDolby Atmosによる空間オーディオの広告キャンペーンにも起用されたOfficial髭男dismのアルバム「Editorial」を使用。iPad Proに机に置いて、イスに座って正対した状態で再生を始めると、まずは空間オーディオならではの奥行き感のある音が広がる。ボーカル・藤原聡の歌声を含め、サウンドは正面から響いてくる。

そして、そのまま頭を右に向けると、動きに合わせてサウンドはiPad Proに近い左耳から聴こえてくるようになる。反対にiPad Proから遠くなった右耳からはボーカルやピアノ、ギターなどの反響音だけが届いてくる。そのままさらに右を向き、iPad Proに背中を向けると、今度はサウンドが後頭部から響き渡ってきた。

ダイナミックヘッドトラッキングを使った空間オーディオは、明確かつ、正確に音の定位が変わっていくので、まるで音楽ホールでライブを楽しみながら身体の向きを変えているような気分。試聴時はオフィスチェアのように360度回転できるゲーミングチェアに座っていたので、つい時間を忘れてくるくると回り続けてしまった。ちなみにAirPods ProとAirPods Maxでトラッキング精度に大きな差は感じられなかった。

驚かされたのは、正面以外の方向を一定時間向き続けていたとき。同じ方向を一定時間向き続けていると、デバイス側で“正面”と認識すべき場所が変わったと判断するようで、音の定位が今自分が向いている正面に移動してきた。膝の上で操作していたiPad Proを、左側にあった机に置いたときも同様で、数秒は定位が左に移るものの、すぐに正面へリセットされた。体勢やデバイスを置く位置を変えるたびに“キャリブレーション”のようなことをしなくて済むので、気軽に音楽に没頭できたのも、ゲーミングチェア“くるくる”をやめられない要因だった。

iPad Proを脇に抱えたまま家の中を歩いてみると、身体ごと方向を変えると聴こえ方に変化はないものの、身体は動かさず頭だけを左右に動かすと、定位が変化する。iPhoneなどポケットに入れて持ち歩くデバイスでも、問題なくダイナミックヘッドトラッキングを利用できそうだった。

空間オーディオ非対応の楽曲では「ステレオを空間化」の項目が表示される

このダイナミックヘッドトラッキングは、空間オーディオに対応していないステレオ楽曲でも利用可能。コントロールセンターで音量バーを長押ししたあと、「ステレオを空間化」をオンにすれば、非空間オーディオ楽曲でも「空間的な体験」が楽しめる。

空間オーディオに対応していないYOASOBIの最新曲「大正浪漫」で試してみたところ、頭の動きに合わせて定位が変わる点は空間オーディオ対応楽曲と変わらず。iPad Proを正面に置き、そのまま右を向けば左から、左を向けば右からサウンドが聴こえてくる。

ただ擬似的に空間化されているためか、デバイスから遠い方の耳に届くサウンドに、空間オーディオのような残響感はなく、全体的な音の広がりも感じられなかった。

AirPods Pro/Max以外のイヤフォンやヘッドフォンでは、コントロールセンター内に「空間オーディオ」や「ステレオを空間化」の項目は表示されない

AirPods Pro/Max以外のイヤフォンやヘッドフォン(今回はAnkerの完全ワイヤレス「Soundcore Life A2 NC」)を接続した場合は、設定からドルビーアトモスはオンにできるものの、コントロールセンターには「空間オーディオ」の項目が表示されない。もちろんヘッドトラッキングも利用できなかった。

アップルによれば、Apple Musicの空間オーディオはすでに4,000万人以上が体験し、再生回数も数十億回を突破。日本でも空間オーディオの再生が急成長しており、対応コンテンツの再生では上位3カ国に名を連ねるほど人気。ダイナミックヘッドトラッキングの「頭の動きに合わせて音の聴こえる位置が変わる」という仕組みは、体験すると効果が明確で分かりやすく、「空間オーディオで『臨場感が増す音楽体験』と言われてもピンと来ない」と思っていた人でも実感できるはず。対応デバイスがあれば、OSをアップデートするだけで利用できるようになるので、ぜひ一度試してほしい。

酒井隆文