西田宗千佳のRandomTracking

第544回

第2世代HomePodレビュー。時代に合わせた「密かな改良」が美点

第2世代HomePod

2月3日より発売される、新しい「HomePod」のレビューをお届けする。

スマートスピーカーの分野でアップルは後発だ。そのため、特に音質にこだわった製品を初期から提供してきた。モデル数はMacやiPhoneに比べると少なく、今回はHomePodとしては5年ぶり(日本発売でカウントすると4年ぶり)、HomePod miniの発売からでも3年ぶりのリニューアルとなる。価格は4万4,800円。

デザイン的には初代HomePodに非常に近く、差がわかりづらい部分もあるかもしれない。だが、中身は全く新しく作られたものに変わっている。

参考に。こちらは初代HomePod

どう便利なのか、そして音質はどうなっているのかを確認していこう。

デザインは変わらず「電源」が変わった

アップルのスマートスピーカーには2つのモデルがある。大きくオーディオ性能にこだわった「HomePod」と、コンパクトで卓上利用に向く「HomePod mini」だ。それぞれ製品が出た時、本誌でもレビューをしている。

今回レビューするHomePodは「第2世代」にあたる。アップル製品ではよくあることだが、第2世代目HomePodも、デザイン上の違いは非常にわかりづらい。数字で比較するとほんの少し小さくなっているようだが、まあ、誤差と考えていい。箱は、プラスチックや廃棄物を減らした、昨今のアップル基準のものに変更されている。

パッケージは昨今のアップル製品準拠に

ただ、開けてみると1つ大きな違いを発見した。電源ケーブルの取り外しが容易になっているのだ。

以下の写真は、初代モデルの電源周りである。ケーブルは本体に直付け。無理すれば外れなくはないのだが、基本、外れないように設計されている。箱の中にも、ケーブルが巻き取られた形で入っていた。ケーブルは1.8mとかなり長く、それだけ重量もあり、ケーブルと本体で約5kgあった。

初代HomePodのケーブル。本体からは外れない構造だ

ところが、第2世代目ではケーブルが取り外し式になった。それがうまくHomePodの形に収まるよう、プラスチックのアダプターがついている。そのため、本体重量にケーブルの重さは含まれなくなり、「2.3kg」という表記になっている。ただ、長いケーブルが付属することに違いはないので、パッケージ全体は初代モデル同様、重い。歩いて持って帰ると苦労しそうだ。

ケーブルは抜き差し可能に
差し込んでしまうとデザイン上はわからない

ケーブルの長さは1.8mから1.5m(実測値、カタログ上は表記なし)と少し短くなっている。その分、電源までの距離にはご注意を。

なお、HomePod miniもケーブルは外せなかった。第2世代HomePodは、「公式かつ、簡単に電源ケーブルを外せる、初めてのHomePod」でもある。

セットアップの簡便さは従来通り

それ以外に、デザイン上の大きな変更はない。HomePodには外部入力もボタンなどもなく、Wi-Fi環境下でiPhoneなどのアップル製品と連携して使う前提になっている。その辺は第2世代でも変わっていない。

ボタンや外部入力はなく、上面のタッチパネルで音量などを操作する

だからセットアップには、iPhoneもしくはiPadが必要になる。Apple Musicに特化して作られていることもあり、実質的に「アップルのデバイスを持っている人向け」である。この点は他社製品との違いであり、ある意味マイナス点かもしれない。

だが一方、その分設定はびっくりするほど簡単だ。電源を入れ、iPhoneなどから指示に従って本体上部をカメラで枠に捉えるだけでいい。スマホに専用アプリを入れることも、Wi-Fiのアクセスポイントの設定を思い出す必要もない。この点は初代HomePodから同じだが、明確に美点である。

セットアップはiPhoneやiPadから行なう

もはや結論でもあるのだが、

  • iPhoneかiPadを使っている
  • Apple Musicを使っている

場合なら、HomePodはファーストチョイスである。

HomePodは1つの場合、部屋全体に音を広げるような形で働くが、同じモデルを2つ用意し、アプリ上でペアリングすると「ステレオ」になる。ただし、初代と第2世代・HomePod miniと第2世代HomePod、といったように、世代・モデルが異なるものの組み合わせでは使えない。同じ世代同士でのみ使える機能だ。

2つ同じ世代のHomePodを揃えると、ステレオ対応になって音場表現がより良くなる
ステレオペア設定も、iPhoneの指示通りにやれば簡単

また、Apple TVとも連携し、Apple TV上で再生されるコンテンツを楽しむためのワイヤレススピーカーとしても使える。もちろん、Dolby Atmosで供給される空間オーディオコンテンツにも対応しているので、テレビと組み合わせて使うスピーカーとしても選べる、ということになる。

セットアップ途中で同じネットワーク内にApple TVがあれば、それとの連携も設定される

初代からの音質変化は少なめ、低音はっきりでBGMとしての再生向け

さて、では、肝心の音質はどうなっているのだろうか?

まずは1台で聞いてみよう。

印象としては、初代の音に近い。低音がしっかり出ていて、部屋中に自然な音が広がる。

今回のモデルでは初代に比べ、ツイーターの数が7つから5つに、マイクの数が6つから4つに減っているのだが、その差は正直体感できていない。低音の出方が少し穏やかになったかな、と感じるが、弱いわけではなく、チューニングが変わったのかな、という印象だ。集合住宅ではこちらの方がいい、と感じる。

第2世代HomePodの内部構造

HomePodの特徴として、ボリュームを絞った時にはあまり好ましくない音なのだが、少し音を強めにすると良い感触になってくる。低音が強いところも含め、弱くBGMとして流すより、少しだけ大きめにして部屋全体に響かせる感じの方がいい。第2世代も感触としては同じだ。解像感重視で聞く方には向かないが、この辺は「商品としての方向性の違い」と考えるべきだろう。

設置場所での音の反響などを認識して音を自動的にチューニングするのがHomePodの特徴なのだが、その辺の世代による変化も、正直感じられなかった。プロセッサーの進化で相当賢くなっているはずだが、自然なので「聞いただけでわかる」レベルではない。

2台セットにすると、もちろんステレオで音が聞こえてくる。正直、定位感はそこまで鋭くない。部屋全体に音を広げる、という感触だろうか。Apple Musicの空間オーディオ対応楽曲を流した場合には、より音場が広がり、自然な感じで聴ける。

HomePodに近い「高級スマートスピーカー」としては、Amazonの「Echo Studio」がある。どちらも良い音で、音質の差は「好み」の世界ではある。筆者の印象としては、BGMとして再生するような形だと、第2世代HomePodが最も好ましい音だと感じた。ただ、後述する「テレビ連携」を考えると、少し話は変わってくる。

Apple TVとセットで「空間オーディオ」で映画視聴も

というわけで、聴く対象を音楽から映画に変えてみよう。

HomePodはApple TVテレビやゲーム機と連動し、Dolby Atmos対応の映画を楽しめる。

テレビ+Apple TV+HomePod2台で、空間オーディオで映画なども楽しめる

Apple TVでリモコンの「ホーム」ボタン(テレビのマーク)を押して、再生時の音声出力対象を変えればいい。この辺はAirPlay 2で制御しているので、同じWi-Fiネットワーク下にあるMacなども出てくる。鳴らしたいものにチェックマークを入れればいい。テレビのスピーカーとHomePodを同時に鳴らすこともできるが、調停してチューニングされているわけではないので、HomePodのみを鳴らす設定にしておいた方が無難だ。

Apple TVからの再生音をHomePodに流すことも

2台を組み合わせて鳴らした場合にも、1台の場合であっても、Dolby Atmosによる「空間オーディオ」に対応している。前出のように、音楽ではより広く自然な音場になったように感じたのだが、映画でも同様だ。

特に映画の場合、低音の響きの良さもプラスだ。演出効果として音が色々な場所から出ていると感じられるよう作っている場合も多いが、その位置もちゃんと把握できる。この辺は具体的にいうと、映画「TENET テネット」冒頭、コンサートホールでの銃撃シーンで、走る方向や銃弾が飛んできて壁などに当たる表現がちゃんとわかりやすく示されていた。ただし上下方向の分散については、そこまで派手ではないように思う。

ライバルであるEcho Studioと比較した場合、音質は好みのレベルかと思うが、定位感・広がりなどではHomePodの方が良い、と感じた。

ただ、特にテレビと組み合わせた場合を考えると、HomePodにはマイナス点もある。外部入力がないので、AirPlay 2に対応した機器(すなわち、概ねアップル製品)からしか鳴らせない、ということだ。ゲーム機やBDレコーダー、テレビ自身の音を鳴らしたいと思っても難しい。

一方でEcho Studioには外部入力があるので、そちらを使って再生することはできる。だから、Apple TVを「テレビに映る映像の主な供給元」とする人以外だと、ちょっと使いにくい部分がある。なお、対応するのはハードウエア製品としてのApple TVのみで、テレビやゲーム機に供給されるApple TVアプリは未対応だ。

スマートホーム規格「Matter」と室温・湿度の計測に対応

第2世代HomePodの利点としては、新しいスマートホーム規格「Matter」への対応が挙げられる。

MatterはAmazonやGoogleも参加する事実上の統一規格。これまではメーカーごとに対応機器が違っていたが、今後は「Matter対応」とあれば、大手3社どれにも接続が可能になる。

Matterがスタートして間もないため、当方にはまだMatter対応デバイスでの試験ができる環境がない。そのため、Matter自体の使い勝手についての言及はしない。

アップルのHomeKit/Siri対応機器は他のプラットフォームよりも少ない。そのため不利な部分があったわけだが、Matterにより、今後はさが小さくなっていくだろう。そういう意味では、過去に比べ、HomePodを選ぶリスクが1つ減ったと言える。

Matter機器はテストで使っていないのだが、今回のテスト中でも「Matter機器だったならなあ」と思うことはあった。

スマートホーム機器では、Matterを待つまでもなく、Alexa/Googleアシスタント/Siriのそれぞれに対応している製品が多い。ただ、対応の仕方はそれぞれまちまちだ。特にSiri対応の場合、「iPhone内に入っているアプリに依存」「アップルのショートカットアプリを併用」ということもあり、設定が面倒だったりすることもあった。

Matter対応になれば、その辺はさらに容易になると考えられる。

関連してだが、第2世代HomePodの変更点として「温度計」「湿度計」の搭載が挙げられる。初代にはなく、HomePod miniは内蔵であったものの、最新のソフトウエア・アップデートが適応されるまで使えない状態だった。今回から、第2世代HomePodとHomePod miniで活用可能になっている。「ホーム」アプリで表示可能だし、Siriで「室温は?」などと話しかければ教えてくれる。

HomePodで計測した室温・湿度が表示される

この機能、電源をいれた直後は使えず、しばらくの間待ってから使えるようになる。どうやら温度と湿度の計測を内部で行い、校正してから使用可能になるらしい。

「ホーム」アプリからは当然、温度・湿度の変更に合わせて自動的に家電をコントロールできる。

「ホーム」アプリのオートメーションの中で、HomePodの室温・湿度の情報をコントロールのトリガーに設定できる

ただ、ここで「Matter対応だったらな」と思うことが起きた。筆者がエアコンの制御に使っているのは、リモコンを制御する「Nature Remo mini」。こちらはSiriに対応しているが「ショートカット」での連携なので、「ホーム」アプリでの温度計・湿度計連携には使えなかった。

現状、気温・湿度連携は「HomeKitかMatterに対応した機器」でないと使えないので、その点、留意は必要になる。

Wi-Fiが「11n」になったのは2.4GHz対応のためか

最後に、細かい点を指摘しておきたい。

スペック面で見ると第2世代モデルは、Wi-Fiは初代の「802.11ac」から「802.11n」に変更されている。機能的には落ちたことになるが、実際のところ、利用時の変化は感じない。802.11acは5GHz帯のみの対応で、2.4GHz帯に対応していなかった。通信の安定という意味では、混み合うことが多い2.4GHzよりも5GHzの方がいい。

11nにわざわざ変えたのは、2.4GHzしかない環境への対応と思われる。

HomePodは簡単に設定できるが、一方で「どの帯域につなぐのかも、つながっているのかもよくわからない」のが難点である。設定時にiPhoneが接続しているWi-Fiにつなぎにいくはずだから、そこで判断はできるのだが。

世の中には、自宅で導入しているWi-Fiがどのような規格のものかを理解していない人は多い。そうした環境を考えると、今回の変更は理解できる。

まあ、必要帯域的にはさほどマイナスはないので気にする必要はないのだが、現実的には、混み合うことが少ない5GHzの方が良いだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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