西田宗千佳のRandomTracking

第392回:

HomePodをテスト。自動音質調整するAppleスマートスピーカーはシンプル&音質に魅力

 アップルは2月から、アメリカ・イギリス・オーストラリアで、スマートスピーカー「HomePod」を販売している。HomePodは現在、日本語には対応しておらず、日本では発売されていない。だが、日本語への対応は予定されており、今後、日本で発売される可能性は高い。ということで、筆者は3月末の渡米時にHomePodを購入した。HomePodがどういう機器になっているのか、そして、どのような可能性を秘めているのかを検証した。

HomePod。今回は白のモデルをチョイスしたが、黒のモデルもある。アメリカでの売価は349ドル(税別)で、スマートスピーカーとしてはかなり高価だ

 ただし、現在は「技適」(技術基準適合証明)を通っていないため、日本国内では通信を行なえない。そのため、アメリカ滞在中にホテルでテストした。また、音声認識は全て英語のため、連携する家電の準備が行なえなかったため、その辺りのテストはあまりできていない。その点をご了承いただきたい。

HomePodの「スペースブラック」モデル。写真はAppleシカゴの店頭にて撮影。色以外に違いはない

パッケージ内容はアップルらしく「シンプル」

 スマートスピーカーは音声アシスタントのプラットフォームに連携した機器だが、HomePodは、アップルの「Siri」を使う機器になる。昨年6月の開発者会議「WWDC 2017」で発表され、2017年内に英語圏(アメリカ・イギリス・オーストラリア)で発売……という予定だったが、発売が延期になり、2018年2月初週に流通が開始された。価格は349ドル(税別)で、低価格化が著しいスマートスピーカーの中ではかなり高価なものになる。

 高音質を謳うこともあってか、パッケージはかなり大柄だ。高さは約17cm、幅が約14cmで、重量は2.5kgある。アップル製品らしいシンプルな包装にシンプルな同梱物なのだが、逆にシンプルすぎて不安になるくらいだ。同梱マニュアルも、ほんのちょっとしか情報が書かれていない。

パッケージ。シンプルな「白い箱」だが、重量は3kg近くある。
箱の上にiPhone Xを置いてみた。箱のサイズがイメージできるだろうか。
箱を引き抜くように開けると、中からHomePodが出てくる。
内容物。電源ケーブルは本体に直付け。1.8mあり、巻き取った形で収納されている。あとはごくごくシンプルなマニュアルのみ

 電源ケーブルは後ろから直に出ており、基本的には脱着しない。無理すれば外れるようだが、外れるだけで、ケーブルは専用。入れ替える意味がないので、「外さない・外れないもの」と思った方がいい。ケーブルは約1.8mと長めで、太さもかなりしっかりしたものだ。

電源ケーブル。本体の後ろから出ている。

設定は「他にないほど簡単」、しかしiOSでしか設定できない

 スマートスピーカーは、基本的にどれもスマホアプリから設定するようになっている。イメージとしてはHomePodも同様だ。だが、HomePodの場合には、iOS11が備えている「標準の機能」を使ってセットアップするようになっている。

 セットアップに際し、まずやることはひとつ。HomePodを電源につなぎ、iPhoneもしくはiPadをHomePodに近づけることだ。すると画面下部から「設定」と書かれたダイヤログが飛び出してくる。

HomePodを電源につなぎ、iPhoneを近づけると「設定」メニューが現れる

 あとは非常に簡単だ。「設定」をタップした後、画面に従ってタップしていくだけ。自宅にHomePodがひとつしかないなら、デフォルトで選択されている項目を選んでいくだけでもOKだ。Wi-Fiのアクセスポイントすら選ぶ必要がない。すべてのスマートスピーカーの中で、ずば抜けて設定が簡単である。途中、HomePodの設置位置を選択する項目があること、使用言語の選択があるが、それも「選ぶだけ」である。UIもすべて日本語化済みだ。設定終了まではアップデートの時間もあるのでまちまちだと思うが、トラブルがなければ数分以上の時間はかからないだろう。この簡単さは特筆に値する。

(1)「設定」ボタンをタップして設定を開始-(2)設置する部屋の名前を選択-(3)使用する言語を選択。今は英語のみだが、「日本語に対応した時にお伝えします」という文言がある点に注目-(4)iPhoneが同じネットワークにあるとき、リマインダーなどを音声から使えるようにする設定。基本「有効」でOKだ
(5)利用規約の許諾。一応のお約束だ-(6)iPhoneに設定されているApple IDの情報を転送。これで手持ちの機器とHomePodが連携する-(7)設定完了。ここまで数分もかからない

 注目してほしいのは、言語設定に「日本語に対応した時にお伝えします」という文言があることだ。現状の製品は英語版であり、技適もないので購入をお勧めしないが、アップルとしてHomePodを日本語化する意思があり、いつか、そう遠くない時期に日本語版が出ると考えられるわけで、ちょっと安心である。

 認識が終わると、iOSのスマートホーム連携アプリである「ホーム」の中にHomePodの姿が現れる。別にHomePod用アプリはなく、管理はこちらから行う。

 ただ、設置後の設定変更の呼び出し方はかなりわかりづらい。「ホーム」の中にあるHomePodのアイコンをタップし、さらにその後に出る画面の「詳細」をタップする必要がある。アップルとしては「あまり設定は変更しない」と思っているのだろうか。設定内容は言語や位置情報サービスの利用許諾など、基本的な内容に限られていて、確かに頻繁に呼び出すことはなさそうだ。

「ホーム」アプリの中にHomePodが現れる。HomePod以外の機器との連動設定もできるが、米国滞在中のテストでは細かくはチェックできていない
HomePodの設定。呼び出し方が面倒な割に内容はシンプル

 設定が「iOSに特化している」ことでおわかりのように、AndroidやWindowsなど、アップル製品以外からのセットアップ方法は用意されていない。それどころか、Macからもセットアップできない。後で述べるように、アップル以外のサービスには基本的に対応していないので、「iPhoneかiPadを持っていて、Apple Musicを使っている人」専用の製品である。他のスマートスピーカーも比較的「閉じた」製品なのだが、それでも、音楽サービスなどには選択肢があるし、デバイスの選択肢もある。そこはかなり性質が異なるものになっている。

Apple Musicと完全連携、リッピング済み・購入済み楽曲の再生にも対応

 使い方は非常にシンプルだ。というか、他のスマートスピーカーと変わらない。音声で命令するだけだ。今回は英語版なので、当然英語しか聞き取らない。アメリカ英語設定の場合、筆者の拙い英語でもそこそこ聞き取ってくれたので、認識率はそんなに悪くないと感じた。

 本体上部はタッチセンサーになっていて、Siriの呼び出しや音量調節などに使う。普段はなにも表示されていない。ちなみに、設定をリセットする時などは、電源オン直後にこのタッチセンサーを5秒間長押しする……という操作を行なう。

上面はタッチセンサーになっていて、Siriの呼び出しや音量調整に使う

 音楽を再生する場合には、もちろん「Hey Siri, Play <曲名>」的な使い方をする。対応しているサービスは、基本的にApple Musicだけである。他のストリーミング・ミュージックをHomePodだけで聞くことはできない。その分連携は密接で、アーティストのプレイリストや新曲など、Apple Musicに登録されているものが適宜呼び出されるようになっている。自分が「Love(ハートマーク)」を付けた曲だけを連続再生したりもできるし、自分がCDなどからリッピングした曲をアップロードし、Apple Musicのライブラリと連携させて聞く「iTunes Match」の楽曲や、iTunesから単品でダウンロード購入した楽曲も聴ける。

 現在は英語版であるため、日本語のアーティストの扱いに難がある。まったく再生されないわけではない。英語でのアーティスト名などが登録されているものは音声認識からも再生されるが、そうでない場合、認識されないので再生が難しかった。もちろん、アーティスト名を「日本語的発音」ではなく「英語的発音」にする必要がある、という問題もあるが。アーティスト名・楽曲名の読み上げも英語準拠だ。ただ、これは現在のHomePodが日本語に対応していないがゆえの問題で、日本語版が出る時には解決されるだろう。

状況に合わせて音を自動チューニング、ただし「設定」はできず

 なにより重要なのは音質だ。

 率直にいって悪くない。モノラルなので定位感はないし、左右分離が持ち味の楽曲はちょっと寂しい印象になる。ハイレゾ的な高音質、というわけでもない。だが、ずいぶん低音がしっかりしていて、「カジュアルで聴き疲れしない音」だと思う。

 ただし、箱をあけ、セットアップしてすぐに「いい音」かというとそうではない。最初はどこか不自然な音に聞こえる。だが、しばらくすると「あれ?」と思うくらい音の性質が変わり、いい感じになる。これは、いわゆる「エイジング」などとは全く異なる。他のスピーカーでは体験したことのない現象だ。

 理由は、HomePodの機能にある。HomePodは自分が発する音とその反響から、「聴く人にとって好ましいであろう音質」にチューニングを行なって音を出す。この過程が自動化されているため、ちょっと置いておくと「音が変わる」と感じるのだ。

アップルのホームページより。HomePodは、周囲の反響を考慮した上で音の自動チューニングを行なう

 これを簡単に検証するには、HomePodをわざと壁にくっつけるように置いてみるのがいい。スピーカーから出た音は壁に反響するので、どうしても妙な音になる。これは他のスピーカーでも起きることだ。HomePodも最初は反響音の影響が目立つが、しばらくするとそれが収まり、気にならなくなる。「どこに置いても最適な音になる」というのは、面白い考え方だ。

 ちなみに、Googleがアメリカで販売中の「Google Home Max」には、HomePodと同じように、音質を自動チューニングする「Smart Sound」という機能が搭載されている。筆者はGoogle Home Maxをテストしていないため、HomePodとの違いについては言及できないが、「自動調整」の機能を持つのがHomePodだけではなくなりつつある、ということは指摘しておかなくてはならない。

 一方で、この自動調整プロセスがあまりに自然に行なわれるため、特質を理解していないと気付かない可能性もある。また、音の特性をいじりたい、音の届く場所をチューニングしたい、と思ってもそれはできない。本当は、HomePod専用アプリがあって、その辺を簡単にいじれるようになっているべきではないか、とも思う。

 このシンプルさがアップルの狙い、と見ることもできるが、あまりにシンプルすぎる、とも思える。

 筆者としては、「実はHomePodは、まだ実力を出し切れていないのではないか」と疑っている。複数のスピーカーを使った「ステレオ再生」「マルチルーム再生」が可能、という触れ込みだったのだが、それらの機能は現状搭載されておらず、アップデートによって追加されることになっている。その他にもいくつか機能はあるが、今はアップルがオフにしている、もしくは実装途中なのではないか……と思えるのだ。

 なお、音量はかなり大きい。部屋の中なら、最低音量から3段目くらいまでで十分だろう。最大にすると、かなり広く、うるさい部屋全体にBGMを鳴り響かせるくらいの能力がある。実は、先週開かれたアップルのプレスイベントの控え室(100人近くのプレスが待つ、学校の廊下)の音楽も、一台のHomePodで再生されていた。HomePodを見つけるまで、筆者はそのことに気付かなかったほどだ。

 また、低音はHomePod底面から出るようで、机の上にHomePodを置いていると、机が振動しているのがわかる。この点は、ちょっと気になる人もいるだろう。振動が気にならない場所に置くことをお勧めする。

AirPlay対応スピーカーとして動作可能

 HomePodはスマートスピーカーなので、単体でネットに接続し、Apple Musicから音楽を鳴らす。では、他の機器から連携できないか、というとそういうわけではない。iPhoneやMacから見ると、「AirPlayに対応したスピーカー」として見える他、別枠で領域がHomePod専用の領域が設けられ、機器で再生中の音楽とは別に、「HomePodで再生中の音楽」もわかるようになっている。

iPhoneで再生中、Musicアプリの再生ボタンの下(Bluetoothヘッドホンの切り換えなどに使うところ)をタップするとこの画面に。上部では「AirPlay対応スピーカー」としての扱いが、下部に「HomePod」としての扱いが見える
Mac上のiTunesからも、「AirPlay対応スピーカー」として見える他、HomePodとしての特別枠が出てくる

 AirPlay対応スピーカーとして使うと、iPhoneなどで再生している音楽をHomePodに転送し、再生できる。当然、曲送りなども可能だ。HomePod側で独立再生している場合でも、曲名などの確認とスキップ再生、ボリューム調整などができる。言葉で書くとわかりにくいが、操作してみればさほど難しくはない。だが、HomePodを操作するなら、声でやった方が手早いだろう。

 すでに述べたように、HomePodはApple Musicにしか対応していないが、AirPlay対応スピーカーとして使う場合ならば、Spotifyなどの楽曲を再生することもできる。HomePodならではの価値はあまりないが、「再生できないことはない」ので、おぼえておきたい。

AirPlay対応スピーカーとして動作可能なので、Spotifyから音楽を再生することも一応可能だ

プライバシー重視のポリシーは消費者にどう評価されるのか

 スマートスピーカーは、声でカジュアルにアクセスできてこその価値がある。そういう意味で、他社の音楽サービスに対応しないのは、HomePodを選ぶ上での大きな制約といえる。音質はなかなかだし特質も面白いが、「音質がいい」スマートスピーカーは他にもあるし、それこそ、Bluetoothスピーカーでもいい。それらはHomePodより1~2万円の単位で安い。

 HomePodが価値を高めるには、やはり「スマートスピーカー」としての使い勝手を上げる必要がある。英語での連携は、筆者には「そこそこなレベル」に思えた。母国語ではないので正確な評価とは言い難いが、機能的に、AmazonのAlexaやGoogleアシスタントに劣る、と感じた。おそらく、日本語で他社製品とSiriを比べた時の差に近いだろう。やはりアップルは、音声アシスタントの「賢さ」「利便性」で一歩劣る。

 だが、賢さ以外に大きな違いもある。プライバシーに対する考え方だ。

 他社は、コマンドワード(「Alexa」や「ねぇGoogle」だ)を発した後の音声データと行動について、すべてクラウド上に送り、ネット上で処理した上で蓄積する。

 アップルのSiriもクラウドは活用するものおの、匿名化した上で、さらに「音声認識の向上のため」に6カ月蓄積した後、完全に削除する。HomePod上で行なった行動履歴が他社に共有されることも、利用することもない、とアップルは明言している。

 Facebookの情報流出もあり、アメリカでは「行動履歴データのプライバシー性」について注目が集まり、センシティブに考える人々が増えている。アップルは以前から厳格なプライバシーポリシーを設定していて、AmazonともGoogleとも違うやり方をしている。

 AmazonやGoogleのやり方が間違っている、とまで指摘することは、筆者にはできない。その分、他社より「賢さ」で先んじているからだ。だが、アップルが機能的に追いついてきたら、消費者はどう評価するだろうか?

 今後は音質や機能だけでなく、そうした点も考える必要があるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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