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第545回

PS VR2レビュー。簡単・快適。だが“ゲーム向け”でAV面では不満も

PlayStation VR2。発売日は2月22日

2月22日発売となる「PlayStation VR2」(PS VR2/74,980円)のレビューをお届けする。外観についてはすでにお伝えしているが、ここからは実際に使った上で、より深い部分を解説していく。

PS VR2はいうまでもなく、ゲーム機であるPlayStation 5(PS5)の周辺機器である。一方で、VR機器は「巨大な個人向けディスプレイ」としても使えるAV機器、とも言える。

筆者のレビューでは、そういう部分も含めてチェックしていく。

セットアップの簡単さが魅力。外界認識もスムーズ

PS VR2、最大の変化はやはり「簡単さ」だ。USB Type-CケーブルをPS5の正面のコネクターにつなげばいい。

PS VR1はPS4の処理能力不足を補うために「プロセッサーユニット」を必要としたが、PS VR2にはない。位置認識はインサイド・アウト方式なので、PS5に別途センサーをつける必要もない。

PS VR1がどうだったかは、こちらの記事をご確認いただきたい。当時のSIEも、非常に複雑なものを整理して使わせよう、と相当努力していたのはよくわかったが、大変なのは間違いない。1回セットアップするのはまあいいが、「使う時だけ出してくる」使い方は難しかった。

別の言い方をすれば「最近のVR用HMDのトレンド」にようやく追いついた、とも言える。

PCでVRをセットアップするよりは、もちろんはるかに簡単。ケーブルをつなぎ、PS5の指示に従っていけばいい。周辺機器なので新たにアカウントの設定をする必要もないから、そういう意味では、スタンドアローン型のVR機器より簡単ではある。

設定は、指示される通り進めていくだけでOK。PCなどに比べるとハードルは非常に低い

システムソフトウェアは、記事公開段階で最新の「22.02-06.50.00」にアップデートされていれば、特に問題なく利用できた。PS VR1の時には本体やプロセッサーユニットのアップデートがあったことを思えば、こちらも簡単。少し前からすでにOSを含めた準備はおおむねできており、生産体制が揃うのを待っていたのではないか……と思える。

公表されていることではあるが、PS VR1用のゲームはPS VR2では遊べない。PS VR1をPS5につないで遊ぶことはできるため、システムソフトウェア上も、PS VR1とPS VR2は明確に区別されている。

上がPS VR2向けの、下がPS VR1向けのゲーム。PS4かPS5かという点に加え、HMDアイコンの形でも判別ができる
同じゲームがPS VR1とPS VR2両方に対応している場合、それぞれインストールできるようにはなっている

なお、PS VR2をPCやMacにつないでもディスプレイとしては認識されないし、利用もできない。特別な方法があるかもしれないが、現状では、「相手がPS5である」ことを認識して動作しているようだ。

モノクロだが周囲の状況は見やすい。視線追尾も快適

セットアップの終盤では、インサイド・アウト方式で床や周囲の障害物を認識するためのスキャンも途中で行なうが、これも、HMDをかぶって部屋を見回すだけだ。この辺は他のHMDとあまり変わらないのだが、他のHMD製品を持っていない人にはかなり新鮮なものに感じられるかもしれない。

セットアップ中には、周囲のプレイゾーンを設定するために「スキャン」が行なわれる

HMDをかぶったまま、映像で周囲の確認もちゃんとできる。

最近のHMDでは、インサイド・アウト用のセンサーで外界を認識し、安全にHMDを使えるように配慮しているものが増えた。PS VR2も同様。モノクロではあるが、ビデオシースルーで、いつでも周囲を確認できる。

この機能はかなりレベルが高い。

「カラーじゃないから他社に比べ遅れている」と思われそうだが、そういう話でもない。周囲を実際に見回してみると、それなりの解像感があり、立体感も自然だ。顔のごく近くにものを持ってくると歪みが大きくなって不快に感じるが、歩き回っても酔いを感じることはない。モノクロでの確認画面越しでも、スマホの通知画面くらいなら読める。

シースルーの実際の画質。スマホの文字も、通知程度ならそこそこ読める
実際のレンズ越しの映像をカメラで撮影したのがこちら。映像のキャプチャより少し滑らかに見えるはず

周囲の確認はHMDの底面にある「ファンクションボタン」を押せばいつでも呼び出せて、この辺も使い勝手がいい。

周囲確認はメニューからでも、ファンクションボタンを押すことでも可能

ただし、こうしたビデオシースルーの機能は、現状、設定や周囲の確認にだけ使われている。ビデオシースルーを使いながら遊べるゲームなどは、現時点で確認できていない。

他のHMDではまだあまりない要素として、「視線認識」がある。ゲームでの方向指示や、視野外縁の解像度を下げて計算負荷を最適化する「Foveated Rendering」に活用されるものだ。

ただこの機能、セットアップ中には2つの要素で使われる。

まずは「IPD(瞳孔間距離)」の調整。左側の上にあるダイヤルで調整するのだが、視線認識センサーを組み合わせて、「現状適切な状態にあるか」を示してくれる。

IPD調整にも視線認識を使う。これはかなり便利。青になれば正しい間隔という意味だ

次に、まさに「視線誘導」。セットアップ中、画面内の点を追いかけてキャリブレーションする。見ている方向をちゃんと認識してくれるので、これ自体もなかなか面白い。

視線を追尾する機能を設定で確認。意外なほど正確

解像感拡大・視野拡大でゲームの体験改善

では、実際に使ってみた感想を述べていこう。

ゲームプレイ時の様子については以前にも記事にしているので、そちらもご参照いただきたい。

ゲームについては、今回、以下のタイトルが評価用として提供された。

  • Horizon Call of the Mountain(SIE)
    Horizon Call of the Mountain(SIE)
  • Kyayak VR:Mirage(Better Than Life B.V.)
    Kyayak VR:Mirage(Better Than Life B.V.)
  • Townsmen VR(THQ Nordic Japan)
    Townsmen VR(THQ Nordic Japan)
  • Rez Infinite(Enhance)
    Rez Infinite(Enhance)
  • テトリス エフェクト・コネクテッド(Enhance)
  • THUMPER(Drool LLC)
    THUMPER(Drool LLC)
  • Song in the Smoke Rekindled(Prep Games)
    Song in the Smoke Rekindled(Prep Games)
  • Demeo(Resolution Games)
    Demeo(Resolution Games)

すべてを長時間プレイできたわけではないが、共通して言えるのは「解像感の高さ」から来る自然さと「視野の広さ」だ。

ゲームの規模としては「Horizon Call of the Mountain」が最も大きく、PS VR2の機能も存分に活かしている。

Horizon Call of the Mountain (C)Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Guerrilla.“Horizon Call of the Mountain”is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.
「Horizon Call of the Mountain」のごくごく冒頭の場面。グラフィッククオリティと「主観視点ゆえの驚き」はトップクラス
Horizon Call of the Mountain (C)Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Guerrilla.“Horizon Call of the Mountain”is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

例えば操作。写真のように、手を自然に動かせる。これは、各ボタンの表面がタッチセンサーになっていて、押し込み以外に「触れる」ことも認識しているからだ。

ボタン表面の「タッチ」機能を使って、自然な手の動きを再現。これはすべてのゲームで採用されているわけではない
Horizon Call of the Mountain (C)Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Guerrilla.“Horizon Call of the Mountain”is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

グラフィックが素晴らしいのはもちろんだが、酔いへの対策もかなり慎重に行なわれている点もポイントが高い。

また、意外なほど「PS VR2らしさ」を感じたのが「Rez Infinite」と「テトリス エフェクト・コネクテッド」だ。どちらもシンプルですっきりとした画面構成が特徴だが、PS VR1でプレイした時や、Meta Quest 2などでプレイした時に比べ、目が良くなったように感じるほど「すっきり」見える。特に「Rez Infinite」は、コントローラーへの最適化と視線誘導の活用もあって、別のゲームのように新鮮で良い体験ができる。

視覚以外の面で効果的だと感じたのが、HMDの「振動」だ。DualSenseコントローラーほど細やかな振動ではないのだが、プレイ中に顔も振動する、というのは実に効果的だ。

細かい点だが、PS VR2の電源が入った時にも「振動」がある。これは、とりあえず被ってしまっても、画面などを見ずに振動だけで動作状況がわかる、という意味で便利だった。

なお、後述のように「シネマティックモード」もあるので、PS VR2使用中にはディスプレイやテレビを点灯しておく必要はない。テレビの電源は入れず、PS VR2だけでPS5を使うことも十分に可能である。

当然のことだが、逆にPS VR2専用のゲームの場合には、PS VR2の電源を入れておく必要がある。

PS VR2専用ゲームは、PS VR2の電源を入れないと起動できない
Horizon Call of the Mountain (C)Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Guerrilla.“Horizon Call of the Mountain”is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

ゲームについて、これ以上1つ1つ詳細を説明するのは避けるが、PS VR1と比較しても、そしてスタンドアローン型のVR機器と比較しても「無理をしていない」感じがする。それだけ余裕を持って遊べている、ということだろう。この辺はハイエンドPCでのVRに近い。

ゲーム中のメニューなどもVR環境で快適になるよう工夫されていて、この辺も「専用機らしい」感覚である。

ゲーム中にPSボタンを押すと、VR向けに小さくしたホームメニューが、VR画面を邪魔しないように現れる

2K/HDRの大画面として機能。3D映像への対応が不満

では、AV機器として見るとどうだろうか?

PS VR2は、VR特化のゲーム以外を楽しむ場合、空中に大きな「PS5の2Dスクリーン」が表示される形になる。この使い方は「シネマティックモード」と呼ばれている。

シネマティックモードでは、PS5上で動作するすべてのPS4/PS5用ゲームと、動画配信・音楽再生などの「メディア」アプリケーションが動作する。UHD BDやBDの再生、torneでのテレビ視聴も同様だ。

シネマティックモードの画面サイズは、映画館の2列目か3列目くらいの大きさから、数メートル先の40インチディスプレイくらいまで、12段階で変更できる。かなり間隔が細かいので、サイズと解像感が好みの範囲で選ぶのがいいだろう。

ただし、制約が1つある。

それは、表示解像度が1,920×1,080ドットに制限される、ということだ。

PS VR2の使っているディスプレイユニットの解像度は片目あたり2,000×2,040ドット。その中に空間を生成し、巨大なスクリーンを配置する形で表示するため、ディスプレイとしては「1,920×1,080ドット」として扱う……ということになるわけだ。

ただし、フレームレートは最大120Hzであり、HDRにも対応する。

PS VR2が120Hz・HDR対応なので、接続されたテレビやディスプレイの性能に依存せず、120Hz・HDRの映像が楽しめる

だから「1,920×1,080ドット・120Hz・HDR」のディスプレイ、ということになる。フレームレートは、映画などの場合24pでも再生できる。24p・60p・120p対応、と考えてもらえばいいだろうか。

では画質はどうか? 正直、純粋な解像感で言えば、4Kで近くのテレビ/ディスプレイを見るのに比べ劣る。また、レンズの特性からか、若干のざらつきも感じられる時がある。

この辺、現状筆者の手元にある機器では「Meta Quest Pro」が一番優れているのだが、PS VR2は解像感では劣る印象を受けた。

とはいえ、片方は22万円を超える機器。差があるのはしょうがない。また、視野の広さではPS VR2の方が優っているし、HDRや発色の状況もPS VR2の方が良い。

レンズ越しの映像をカメラで撮影。発色などはかなりいい

だからPS VR2では、4Kの解像度はないがHDRのためにUHD BDを再生した方がいいし、配信系もHDR対応のものを再生した方が楽しい。「HDRで大画面を気軽に楽しむ環境」というのが相応しいかもしれない。

以下参考に、レンズの接写写真を掲載する。

一番上はPS VR2、次がPS VR1。3番目がフレネルレンズの代表格としてMeta Quest2、次にパンケーキレンズの代表格としてPICO 4のものを掲載しておく。PS VR2はフレネルレンズだが、段の細やかさではQuest 2に勝り、結果として、色にじみや不自然な乱反射(ゴッドレイ)は減っている。ただし、色にじみもゴッドレイも「皆無」というわけではなく、場合によっては出てしまう。

PS VR2のレンズ
PS VR1のレンズ
参考に。Meta Quest 2のフレネルレンズ
参考に。PICO 4のパンケーキレンズ

とはいうものの、個人的には、PS VR2のAV機能には不満がある。

立体や360度映像などへの対応が弱いからだ。

PS5はBlu-ray 3Dに対応していない。せっかく、3Dが快適に楽しめるHMDなのにもったいない。同時に、YouTubeの3Dコンテンツも見られない。これは、YouTubeのVR向けアプリがないからだ。他のHMDが「3D/VR映像」もちゃんと視野に入れて展開しているのに対し、PS VR2での対応が非常に弱いのは気に掛かる。

他の環境では、ウェブブラウザーから動画関連サービスを呼び出したり、ウェブのVR規格である「WebXR」ベースのサービスを使ったり、という選択肢もあるが、自由に使えるブラウザーがないPS5では、それも難しい。

ライブ配信も含め、HMDはエンタメのためのツールにもなってきている。そうした領域への対応は、現状のPS VR2に欠けた部分だ。

柔らかくなったがズレやすくなった? 頭への安定度に個人差も

基本的に、PS VR2は良いHMDだ。

前述のように、ゲーム体験はとても良いし、2Dに限定されるが、映像を見る上での画質も悪くない。3D系の映像への対応がなされていないのが非常にもったいない。この辺はぜひ検討を願いたい。

メインの利用者をゲームとして、他社のHMDよりもシンプルなプラットフォームを構成する、という狙いはわからなくはないし、その結果としてゲームの体験が素晴らしいのも事実である。

その上で気になるのが、「PS VR1や他のHMDに比べ、ズレやすいのではないか」という点だ。

PS VR2は本体がPS VR1より柔らかくなり、顔の横からの圧迫も小さくなっている。これは快適さに寄与しているのだが、一方でどうも、フロント部が下にズレてきやすくなった印象がある。後ろのバンドをかなりキツめに締めないと安定しづらいのだ。HMDにおいて、ズレは画質劣化になって感じられやすいので、この点は快適さに直結する。

PS VR1。左右が固く、あまり歪まない。額のパッドの摩擦も大きめ
PS VR2。左右にもしなやかに動くので締め付け感は減った。一方で、額のパッドは柔らかく、摩擦も少なくなってこれは良し悪しかも

これは頭の形や髪型の影響もあるので、全員に対してこうである、とは言えない。筆者の場合には、パッドと当たる額の部分にタオルを挟むと、摩擦が大きくなってズレにくくなった。パッドの表面処理が変わり、摩擦が少なくなったせいかもしれない。

最近のHMDは前後に重量バランスを均等にすることで、弱い締め付けでも安定させるものが増えてきた。Meta Quest ProやPICO 4、HTC VIVE XR Eliteなど、海外の最新デバイスはその設計になっている。そちらを使う機会が多いから余計に感じるのかもしれない。

PS VR2を快適に使うには、自分なりに快適な「付け方」を身につける必要はありそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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