西田宗千佳のRandomTracking
第580回
誰でも使える“100g未満”自撮りドローン「HOVERAir X1 Smart」を試す
2024年3月7日 11:00
ドローンには色々な使い道がある。
その中でももっとも一般的であり、多くの人に影響しているのは「カメラ」としての価値だろう。産業や軍事などの用途が注目されているが、本来は個人にとっての「移動するカメラ」としても価値があるものだ。
大型のドローンはレンズ径・センサーサイズの大きなカメラを搭載して本格的な撮影に活用されている。
では小型のものはどこで活用されているのか? 答えは「セルフィー」。
今回紹介する「HOVERAir X1 Smart」は、まさにそのために作られたドローンだ。普通に飛ばすこともできるが、「撮る」ことを含めた手軽さが圧倒的に優れている。「空を飛ばすんだから難しいのだろう」と考える人が多いが、ことこの製品については、そうした難しさが排除され、本当に誰にでもドローンでセルフィー動画が撮れる。
一般販売価格は、本体のみの場合で5万9,980円から。バッテリーなどのセットが準備されており、今回は充電器とバックアップバッテリー2本などがセットされた「オールインワンセット」(7万4,980円)に相当する試用機材の提供を受けて執筆している。
なお、本日3月7日から4月20日まで、Makuakeで先行予約販売が行なわれる。最大30%のディスカウント価格での「応援購入」が可能。先着順に価格が変わる仕組みで、例えば、先着100人限定で、オールインワンセットが通常7万4,980円から5万9,980円(20%OFF)になるという。製品の発送は5月からを予定。
日本はドローンにとって非常に厳しい市場である。HOVERAir X1 Smartは、航空法規制の対象外とするため、重量を100g未満に抑えているのが特徴だ。
その辺の事情も含め、チェックしていこう。
日本の法規に合わせて99gの専用モデルを準備
HOVERAir X1 Smartは小型のドローンだ。写真でわかるように、手のひらに乗ってしまうほどのサイズでしかない。
重量は前述のように100g未満。スペック上は、バッテリーを含めて99gとなっている。
日本の場合、100gを超えるドローンを屋外で飛ばす場合、登録の上、航空法の定めるルールのもとで運用する必要がある。だから、個人が気軽に使うというわけにはいかない。
HOVERAir X1 Smartには海外版である「HOVERAir X1」がある。こちらは125gで、二つ折りにしてさらにコンパクトになるのが特徴だ。
ただ、そのままでは100g未満という日本国内の規制下では使いづらいので、「折りたたみ機構のカット」「若干の小型化」「バッテリー容量を若干減量」といったダイエットを行なった。もちろん、電波周りのルール(いわゆる技適)にも適合している。
デザインを見ればお分かりのように、折りたたみ機構がなくてもかなりコンパクトで本当に軽い。プロペラはフレームで覆われており、隙間に指を突っ込まない限りは触れることができない。質量が軽いことも含め、事故などにはかなり気をつかって作られているのがわかる。
セルフィーに特化、人を追尾して自動でフライト
この製品の特徴は、なんといっても「扱いが非常に簡単」であることだ。
ドローンは飛ばすのが難しい。大型のものはスピードも出るし、気をつかう部分がある。ちゃんと講習を受けて使うのが基本だ。
講習や登録が不要なトイドローンでも、やってみると意外と難しいものだ。
だが、HOVERAir X1 Smartの場合、難しさはほとんどない。なぜなら、「操縦する」という要素が付加的なものと位置付けられており、「撮影」に紐づいた自動操縦が基本だからだ。
一番簡単な「ホバー撮影」(自分の目の前に一定時間浮いて撮影)をやってみよう。
まず電源を入れる。次にモードボタンを押して「ホバリングモード」にする。今どのモードかは声で教えてくれるので、間違えることはない。
次に、手のひらにHOVERAir X1 Smartをのせ、顔の前に持ってくる。そして、電源ボタンを軽く押す。
するとカウントダウンが始まり、顔が映る位置にHOVERAir X1 Smartが浮き、撮影がスタート。LEDが赤い間は撮影中だ。
この後は、自分は好きに動いていい。顔を認識してHOVERAir X1 Smartが自動的に向きを変え、こちらを撮影し続けてくれる。
撮影は一定時間(30秒など)で終了。LEDが緑色に点滅したら、手をHOVERAir X1 Smartの下にかざす。すると、手のひらの上へと自動的に降りてくる。もちろん安全に。
いわゆる「ドローンの操縦」はしなくても、セルフィーの撮影は自動で行なえるようになっているわけだ。
HOVERAir X1 Smartには自分や風景を撮影するためのカメラの他に、下を向いたカメラも搭載されている。これを距離センサーとしても使い、手のひらを持っていくといつでも安全にその上に着陸する……という形になっている。
モードは以下の5つが用意されている。
・ホバリング:固定位置でホバリングし、こちらの顔を追尾しながら撮影
・フォロー:撮影者の動きに追従し、常についてくるように移動。HOVERAir X1 Smartは時速25kmで移動できるので、自転車などにもついて来られる
・ズームアウト:自分を中心に斜め上方に飛び、撮影後にまた戻ってくる
オービット:一定の距離まで後退したのち、撮影者の周囲を自動で回りながら撮影
俯瞰撮影:カメラが垂直に、または螺旋状に上昇し、自分を俯瞰するように撮影
セルフィー的な撮影としては、なかなかしっかりしたバリエーションではないだろうか。これらの操作が、ドローンの飛ばし方を意識することなくシャッターボタンを押すだけでできるのは驚嘆に値する。
安定性もバッチリで、多少の風にも耐える。スペック上は毎秒7.9mの風にも耐えて安定する、とされている。
なお、カメラは12メガピクセル。静止画(JEPG)は4,000×3,000ドット、動画は2,704×1,520ドット/30fps、1,920×1,080ドット/30fpsもしくは60fpsでの撮影が可能だ。なお、1,920×1,080ドット/30fpsの場合のみ、HDR撮影が可能となっている。
スマホアプリも含めて丁寧な作りに好感
スマートフォンアプリ(iOSとAndroidに対応)ももちろんある。
といっても、前述のように撮影はHOVERAir X1 Smart本体だけで行なえるので、主に設定とデータの転送用だ。撮影データはHOVERAir X1 Smartの内蔵ストレージ(32GB)に記録され、Wi-Fi経由でスマホへと転送して使う。
このアプリもなかなかよくできている。
実は前述の5つの他に、3つの「アドバンスドモード」が用意されている。これらは基本、スマホアプリから操作して行なう付加機能。そのうちの1つが、スマホをコントローラーのようにして飛ばす「手動制御」モードになっている。自由に飛ばして風景を撮影する場合や、飛ばすこと自体を楽しみたい場合には「手動制御」を使うわけだ。
このモード、「アドバンスド」な扱いなので、最初は使えない。5つの基本モードを何回かこなして、製品に慣れたと判断されると「アンロック」される。この辺も優しい作りかと思う。
とにかく製品の作りが丁寧で、非常に好感が持てる。アプリの日本語化もしっかりしているし、誰もがすぐに使えるだろう。
同様に、パッケージもかなりしっかりしている。
本体の他、交換式のバッテリーが3本付属し、2本を同時に充電できるようにもなっている。本体にバッテリーをつけたままでももちろん充電できるので、バッテリー3本分の撮影ができるわけだ。
ちなみに、バッテリー1本では、実測(30秒、ホバリングでの動画撮影の繰り返し)で6、7分というところ。長尺の動画を撮ると短いかな……とも思うが、セルフィー的な使い方なら十分だ。予備バッテリーを付け替えながら使う想定である。
課題は「ドローンを飛ばせる環境」にある
非常に丁寧な作りなのだが、この製品には大きな問題がある。
それは「100g以下であっても、飛ばせる場所は非常に限られている」ということだ。
確かに航空法の規制には引っかからないが、だからといって自由に飛ばせるわけではない。
東京都内の場合、条例で、ほとんどの公園が「すべてのドローンの利用」を禁止している。公道も、安全性などを考慮するとドローンを飛ばすのは難しい。河川敷なども、事前の許可が必要となる場合が多い。また、私有地はその場所の持ち主の許可を得て利用する必要も出てくる。
この製品は安全性にかなり配慮しており、事故はかなり起きづらいだろう。
とはいえ、人混みの中では飛ばすべきではない。観光地などで使いたくなるが、それはやめておいたほうがいい。
公式アプリでシェアされている動画のほとんどが、人の少ない山谷の中でのものであるところからも、その性質が見えてくるだろう。
今回も、都市部から離れて自然の中でなら撮影も大丈夫だろうが、スケジュールの関係でそれも難しいとなると、「さて、サンプルはどこで撮るべきなのか」で苦慮してしまった。なお、今回は天井が高い新オフィスに移ったばかりの株式会社ホロラボさんにご協力いただき、そのオフィス内で撮影を行なった。
楽しく思い出を残すという意味で、これは非常に可能性の大きな製品だ。
一方、日常生活の中での同居という面では、いろいろな考え方があるだろう。「街中や観光地で使えないなら買っても……」と考えてしまう人もいそうだ。
正直、ドローンを悪者にする「無条件禁止」はどうだろう……と考えてしまうし、ドローンについて事故ばかりが報道される点にも異論はある。人が周囲にいなければ問題は発生しないことの方が多いだろう。
とはいうものの、撮影している人だけではなく「その周囲にいる人々との関係」なども考慮し、同居可能なルールやコンセンサスは必要だ。海外・日本双方で、そうした部分をどう考えるのか、建設的な議論が求められる。