小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第984回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

1型センサー搭載ドローンで手軽に本格撮影「DJI Air 2S」

すでに販売を開始したDJI Air 2S

変わるドローン撮影のイメージ

ドローンによる空撮が一般の方にも認知されるようになったのは、DJI Phantom 3 Proぐらいの時だろうから、おそらく2015年頃からと思う。

当初はいかにもドローン、いかにも空撮といったショットがもてはやされたものだが、最近は普通のカメラのように見せかけて、実際これどうやって撮ってるの? といった使われ方に変わってきているように思う。

例えば先日、Appleがイベントで沢山の製品を発表したが、ティム・クックCEOの歩きのショットの一部は、ドローンで撮影されたものだろう。カメラの揺れ方からもドローンっぽいのがわかるが、AirTagの担当者の説明に入る直前、カメラが空に舞い上がるシーンがある。

そんな具合に今ドローン撮影は、ビュンビュン空を飛んだり航空写真代わりに使ったりするものから、高解像度かつ安定したドリーショットを撮影するツールとして使われるようになった。

DJIでは4月上旬から、「1」をモチーフにしたティザーを展開していたが、15日に発表された「DJI Air 2S」は、1インチセンサーを搭載した中級機であった。価格はスタンダード版が119,900円、アクセサリー類が同梱のFly More コンボが165,000円。

業務モデルまでご存じの方ならこのぐらいで中級機はないだろうというご意見もあろうかと思うが、今DJIの小型機は200g以下モデルなので、フライト重量が約600gの本機はコンシューマ機の中では中級機、ということにさせていただく。

過去DJIでは、2018年に1インチセンサーを搭載した「Mavic 2 Pro」というモデルがあった。2倍ズームレンズ搭載の「Mavic 2 Zoom」と同時発表だったので、覚えている方も多いだろう。その後2020年に同クラスの「Mavic Air 2」が登場したが、カメラ解像度はアップしたものの、センサーサイズは1/2インチであった。

今回のDJI Air 2Sではどんな絵が撮れるのだろうか。さっそく試してみよう。

変化点は地味ながら安全性能アップ

まずボディから見てみよう。サイズ感やアームの折り畳み構造はMavic Air 2とよく似ている。展開時の対角線長は302mmで変わらず。重量は595gと、25gほど重くなった。

顔つきとして一番目に付くのが、前方のセンサーの増加だ。正面だけでなく斜め上に向いたセンサーが追加されたため、「四ツ目」になった。前向きに飛ぶときには前傾するので、上センサーは正面やや上のあたりを向くことになるが、前方のカバーエリアが拡がったのは、安全性の面でもプラスに働くはずだ。

前方のセンサーが増えて四つ目に
底部のセンサー
後方センサーはMavic Air 2同様

付属ローターは先端のカラーがオレンジになり、若干見た目が派手になった。ボディ右サイドにmicroSDカードスロット、左側にUSB-C端子がある。

ボディ横にMicroSDカードスロット
反対側にUSB-TypeC端子
新搭載となった1インチセンサーカメラ

肝心のカメラ部は、ジンバル、カメラボディともにシルバーになった。センサーサイズは1インチになり、有効画素数としては20Mピクセルだ。Mavic Air 2のセンサー解像度は48Mピクセルだったが、この解像度では静止画しか撮れず、動画撮影時は12Mピクセルとなっていた。Mavic Air 2との違いは一覧表にしておく。

またFly Moreコンボには、ND 4/8/16/32のNDフィルターが同梱されている。カメラ前方に付いているフレームは横にねじることで外れるので、そこに付け替える格好だ。別売でND 64/128/256/512のフィルタもある。

Fly Moreコンボには、ND 4/8/16/32のNDフィルターが同梱
カメラフレームはひねると外れるようになっている

映像伝送システムはOcuSync 3.0にアップされ、最大動画伝送距離は日本では最大8kmまで。伝送解像度は1080p、2.4GHz/5.8GHzのデュアル周波数対応となっている。ただ日本では5GHzの利用可能周波数と利用レギュレーションが違うので、日本国内では2.4GHzのみ利用できる。

映像伝送解像度にHDが選択できる

新しく搭載された安全性能としては、ADS-Bシステムがある。これは飛行中の航空機やヘリコプターから発せられるADS-B(放送型自動位置情報伝送)信号で飛行位置情報を受信し、近くに航空機があることをアプリ上で知らせてくれる機能だ。

右前アームにADS-Bロゴ

バッテリー容量は3,500mAhで、Mavic Air 2と同型だ。最大飛行時間は31分と、十分なフライト時間である。DJIの機体は、フライトしてからでないと設定もできないという機能が多い。フライト時間が短いと、設定をいろいろ試してたら1本終わりということになりがちだが、30分あれば設定からリハーサル、本番1~2回ぐらいは行ける。

バッテリーはMavic Air 2と同型
Fly Moreコンボには3連のバッテリーチャージャが付属する

コントローラもMavic Air 2と同型だ。アプリもDJI Flyで、こちらも同じである。

コントローラもMavic Air 2と同型

コントロールしやすい機体

では早速フライトしてみよう。本機のポイントは1インチセンサーによる5.4K撮影という事になる。センサーが大きくなれば、その分被写界深度によるボケ幅を期待するところだが、あいにく焦点距離が35mm換算で22mmとかなり広角なので、期待するほど被写界深度が浅い絵が撮れるわけではない。

レンズがワイドなので、被写界深度はそれほど浅くならない

一方解像度の面でも、4Kと比較して劇的に画質が向上するというわけでもない。ただ、5.4Kから4Kに切り出せば、劣化を気にせず1.4倍には拡大できるので、広い絵で撮ってあとでクロップしてサイズを詰めたいという場合には便利である。

5.4K撮影と4K撮影の比較

画像合成によるパノラマの静止画撮影は、ジンバルと機体を自動的に動かして複数枚撮影することで、さらに広角のショットを得ることができる。この機能を使えば、最大で7,200×4,608解像度で撮影できるカメラとなる。

オリジナルショット
同じ位置でパノラマ撮影した結果

新しく加わった撮影機能としては、「マスターショット」がある。これは従来からあった自動撮影機能「クイックショット」の各モードを自動的に連続で実行し、さらにそれを自動的に動画編集してくれるというものだ。中心となるものをマーキングして実行すると、およそ2分間かけてさまざまなショットを自動的に撮影する。撮影終了後にスタート地点へ帰還する。

マスターショット動作画面

自動編集には20パターンがあり、雰囲気に合わせて選択する。テロップや音楽などは自動的に追加される。今回はNDなしとND32で同じ撮影をし、同じパターンで自動編集してみる。

自動編集は20パターンから選択できる
マスターショットで撮影。前半はNDなし、後半はND32

撮影時刻は夕方4時半ごろだが、ND32の方が色味がしっかりしている。本機のカメラには絞りがないため、露出はシャッタースピードで調整することになる。NDなしではシャッタースピードが上がるため、それが発色に影響するのかもしれない。なお、この自動編集はスマートフォン上で行なわれるため、ドローン内のSDカードには撮影時の元素材しか収録されない。

見方が変われば使い方も変わる

冒頭でも述べたように、昨今ドローンを使った撮影は、空撮に限らなくなった。例えばターゲットに対して自動的に付いていくトラッキング機能を利用して、滑らかな歩きのショットを撮影したりと、普通のカメラとしての利用も広まっている。これまでは大型カメラでレールを敷くか、ジンバルを用意するかしかなかった大掛かりな撮影も、小型のドローンで十分になった。

例えば海の中、波にの動き合わせてカメラを下げるといった撮影では、そもそも海中にレールを敷けないし、カメラマンもずぶ濡れの覚悟が必要だった。しかしドローンなら、こうした撮影でも誰もずぶ濡れにならない。

波の動きに合わせてスロー撮影

本機のトラッキング機能は、画面上にあるターゲットをドラッグして囲むだけでスタートする。画面下に「アクティブトラック」と「POI」の2パターンが出てきて、どちらかを選んで「Go」をタップするとスタートだ。POIはアイコンが示す通り、被写体をセンターに円を描く。アクティブトラックのトレースは、期待は静止したままで被写体をフォロー、平行は動きに合わせて平行移動する。

アクティブトラック動作画面
本機に搭載の2種類のトラッキングモード。前半はPOI、後半はアクティブトラックの「平行」

例えば次のショットを見ていただこう。最初の歩きは、アクティブトラックの「平行」を使って撮影したものだ。ドローンに向かって歩くと、自動的に等間隔で後ろに下がってくれる。あと2カットは、海岸で流木をターゲットに撮影したものだ。これらのショットは、ドローンでしか撮れないのだが、その理由はお気づきだろうか。

ドローンでしか撮影できないショット。その理由は……

その理由は、カメラが後ろに下がっているのに、カメラマンの足跡がないことである。砂浜は、誰かが歩けば必ず跡が残る。リテイクのたびに元通りに足跡を消して自然に見せるのもまた、大変な手間だ。だがドローンなら、何度撮り直しても足跡が付かないわけである。

カメラ片手に誰でも撮れるショットだが、人の痕跡を残さず撮影したい、環境を壊さずに撮影したいという場合は、ドローンは有効な撮影手段という事になる。こうした撮影の場合は、ビュンビュン飛び回る必要はない。人が歩くような速度で撮影できるかがポイントになる。

DJIのコントローラにはCINEモードがあり、スイッチをこれに設定するとジョイスティックの動きが遅くなり、低速移動が可能になる。空撮など興味がないという人でも、撮影者の安全を確保したり、環境に触らずに撮影できるカメラとして、ドローンを見直す時期に来ているのではないだろうか。

障害物検知には、迂回とブレーキの2パターンがある。

障害物回避アクションの設定画面

ブレーキは安全な距離で自動停止する機能で、被写体に接近した絵が欲しい場合はこちらを選択する。一方迂回の場合は、かなり距離がある段階からすでに回避動作に入ってしまうので、対象物に近づけない事になる。これは移動や通り抜けショットを撮影する際に使うといいだろう。

「ブレーキ」では対象物に向かってまっすぐ進行できるが、「迂回」だと近づけない

総論

すでにMavicという製品がついた新製品は出なくなって久しいが、サイトを見るとDJI Air 2SはMavicシリーズの1つということになっており、なんだかややこしい。さらに末尾に「S」が付いたモデルも初めてで、どういう意味があるのかよくわからないが、2018年の「Mavic 2 Pro」で実現した1インチカメラと、2020年に登場した「Mavic Air 2」の運動性能を合体させ、さらに1ランク上の安全性能を搭載した機体、ということである。

1インチセンサー搭載、NDフィルターも提供ということで、本格的な撮影に対応するスペシャルモデル、ということは言えるだろう。5.4K撮影も、広角レンズで広めに撮影しておいてトリミングで使うといったことを想定してのことだろう。障害物回避機能がONの場合は、被写体に接近しようとしても近づけないので、必然的にトリミングは必要になる。4Kに対して1.4倍拡大できれば、構図としてもかなりいいところを切り取れる。

新搭載されたADS-Bシステムは、なかなか優秀だ。実際に今回のテスト撮影中にも、近くに航空機があるので安全な高度で飛行するよう、警告アナウンスを聴く事ができた。近くといっても接触が懸念されるような距離ではなく、音はすれどもどこに? え、あそこ? ぐらいの距離でも警告が発せられる。こちらとしても警告が出たら高度を下げると言った配慮は必要だろう。

もっとも今回の撮影はほとんど空撮をしておらず、いかに人の目線の高さで人のように撮影できるかに時間を割いた。細かい操作はトレーニングが必要だが、トラッキングやCINEモードを上手く使えば、かなり自然な撮影ができることがわかった。

さらにD-Logでも撮影できるので、後処理でカラーグレーディングも可能になっている。ただし「マスターショット」はLogでは撮影できないようだ。

本機はプロ向けではなく一般向けカテゴリーの商品だが、撮影動画を見ればかなりクオリティが高いことがわかる。ただジンバルの稼働範囲が狭いために機体ごと動かさないと撮れないところがあるので、その辺の自由度はプロ機に軍配が上がる。ただプロ機はデカくて持ち運びが大変なので、比較的近い距離からの人物撮影には本機ぐらいのサイズが最適なんじゃないかと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。