小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1075回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

3眼ドローン「DJI Mavic 3 Pro」。望遠レンズで小寺家の伝承が明らかに

Mavic 3 Pro

空飛ぶスマホへ

スマートフォンも昨今の上位モデルは3眼カメラを搭載するようになった。2眼時代は、高画素な標準カメラのほか、ワイドを積むか、望遠を積むかで分かれていたものだが、いっそのこと両方積むというのが昨今の傾向になっている。

なぜカメラの数で勝負するかといえば、ズームレンズが搭載できないからだ。ソニーのXperiaシリーズなど、望遠でズームレンズを搭載する例はあるが、全域をカバーするズームレンズは薄型のボディには入らない。

それは小型ドローンも同じ事で、ジンバル付き小型カメラ搭載機でズームを搭載したのは、DJIでは2018年の「Mavic 2 Zoom」ぐらいである。その後2021年にはカメラを2つ搭載したDJI Mavic 3をリリース、ドローンも複数カメラ時代へ突入した。

そして今年4月、ついに3眼カメラを搭載したドローン、「Mavic 3 Pro」が登場した。コントローラや付属品、内蔵SSD容量の違いで、以下のようなバリエーションがある。

  • DJI Mavic 3 Pro(DJI RC 付属) 261,800円
  • DJI Mavic 3 Pro Fly Moreコンボ(DJI RC 付属) 352,000円
  • DJI Mavic 3 Pro Fly Moreコンボ(DJI RC Pro 付属) 471,900円
  • DJI Mavic 3 Pro Cine Premiumコンボ 563,420円

今回はDJI RC Pro 付属のDJI Mavic 3 Pro Fly Moreコンボをお借りした。ドローンにおける3眼の使い勝手を、さっそく検証してみよう。

「空飛ぶスマホ」を体現するボディ

DJIのドローンは、DJI MiniやDJI Airといった小型モデルのバリエーションが多いので複雑だが、Mavicシリーズはプロレベルの空撮に対応できる、中型機のシリーズである。

直系の前作は2021年11月の「DJI Mavic 3」ということになるだろうが、2022年11月には、2眼カメラをシングルカメラに変更した「DJI Mavic 3 Classic」をリリースしている。そして2023年4月に今回の「Mavic 3 Pro」をリリース、という流れになる。

アームを展開した「Mavic 3 Pro」

注目の3つのカメラは蜂の巣のような格好で一塊になっており、全体をジンバルで支えるという構造になっている。スマホの3眼とは違い、メインカメラが一番広角で、ほか2つのカメラは焦点距離違いの望遠である。

3つのカメラを凝縮したカメラヘッド部

一番下のメインカメラは4/3型CMOS搭載の20メガピクセルHasselbladカメラで、焦点距離は35mm換算24mm/F2.8。右上が中望遠で、1/1.3型CMOSの40メガピクセルカメラで、焦点距離は35mm換算70mm/F2.8。左上が望遠で、1/2型CMOSの12メガピクセルカメラで、焦点距離は35mm換算166mm/F3.4となっていいる。

焦点距離
(35mm換算)
絞り画素数静止画サイズ
メイン24mmF2.8~11(可変)20MP5,280×3,956
中望遠70mmF2.8(固定)48MP8,064×6,048
望遠166mmF3.4(固定)12MP4,000×3,000

3カメラのうち、Hasselbladのブランドが付いているのはメインカメラのみである。動画撮影は、5.1K(5,120×2,700)およびDJI 4K(4,096×2,160)に対応するのはメインカメラのみで、中望遠と望遠は4K(3,840×2,160)が最高となる。なおプロ向けの機能として、どのカメラも撮影フォーマットにはApple ProRes 422 HQ/422/422 LTが使えるようになっている。

フォーマットはMOVに対応、HLGやD-Logでの撮影も可能

中望遠と望遠が絞り固定なので、コンボには4種類のNDフィルターも同梱される。標準のカバーガラスと交換するスタイルで、ND8、16、32、64を差し替えて使用する。

コンボに同梱のNDフィルタ
標準のプロテクタを外してNDに付け替える

ボディのサイズは、ほぼ折り畳み時のサイズ(231.1×98×95.4mm)と同じだと思って間違いないだろう。ボディ構造は見た目はMavic 3とほぼ同じだが、サイズが若干違うので、同デザインの別筐体なのだろう。アームがそれほど長くないので、ボディサイズの割には展開してもそれほど大きくならないのがポイントである。

折り畳んだところ。付属のプロテクタも着脱しやすく、よくできている

対物センサーは、前方・後方に2つずつ、上下に2つずつで、全方位ステレオカメラとなっている。最大飛行時間はMavic 3とほぼ同じで、約43分となっている。ただしカメラパラメータが1080/24p設定下での数値なので、4K撮影時はもう少し短くなる。

前方のビジョンセンサー
後方と上方のビジョンセンサー
底面にはセンサーのほか、LEDライトもある

後部にSDカードスロットとUSB-C端子がある。内蔵ストレージも搭載しているが、Mavic 3 Proは8GBで、Mavic 3 Pro Cineのみ1TBを搭載している。

底部のカードスロットとUSB端子

バッテリーは背面から差し込むタイプで、コンボ製品には予備バッテリー2個と急速充電器が同梱される。充電器は3本充電できるタイプで、順番に1つずつ充電していくスタイルだ。付属ACアダプタにはUSB-C端子が2つあり、バッテリーとコントローラを平行して同時に充電できる。

バッテリーは底部から差し込む
三連の充電器が付属
充電器は2出力

DJI RC Proコントローラは、ディスプレイ内蔵型。機体制御の2つのジョイスティックのほか、カメラ機能操作用の小さいジョイスティックがある。左右が露出補正、下がジンバルモードの切り替え、上がAEロックの切り替え、押し込むと設定メニュー表示となっており、画面をタッチしなくてもかなりのコントロールができる。

機能豊富なDJI RC Proコントローラ
ジョイスティックがショートカットキー代わり

底部にはMini HDMI端子があり、ここにディスプレイを繋ぐ事でコントローラーのディスプレイをミラーリングできる。クライアントや監督にも撮影中の絵を見せたいという場合に便利だろう。ミラーリングだとステータスパラメータまで全部見えてしまうが、映像だけの出力にも切り替えることができる。

底部に底部にはMini HDMI端子

今回もコンボにはキャリングバッグが同梱されている。DJI Mavic 3の同梱バッグはリュックにもウエストポーチにもなるという優れものだったが、今回付属のものはそうした機能はなく、シンプルなスタイルになっている。そのぶん小型になり、軽量化されている。

新設計されたキャリングバッグ

つまり製品に合わせて、毎回バッグもデザインし直しているということである。このあたりは、なかなか他社には追従できない部分であろう。

超安定のホバリング

では早速撮影してみよう。今回撮影しているのは、宮崎県高鍋町に筆者が所有している山林の上空である。

まず一番気になるのは、3つのカメラの扱いだろう。操作画面の横には、スマートフォン同様に録画ボタンがあるが、その横に3つのカメラの切り替えがある。1x、3x、7xと書いてある部分をタップすると、カメラが切り替わる。

カメラの切り替え方法はスマホカメラと同じ

ただしタップして実際にカメラが切り替わるまで、2秒ぐらいかかる。また録画中はカメラを変更できないのが残念なところだ。というのも、カメラを切り替えるためにいったん録画を止めると、切り替えた後に録画を再開するのを忘れるという事故が起こるからである。カメラの切り替え中は動画の間にブランクが入ってもいいから、撮影を止めずにカメラを切り替えられるようにするべきだろう。

今回は晴天で光量もあったので、ND64を装着して撮影した。

3カメラを使ったサンプル動画

カメラ画質を比較すると、メインカメラは20MPながらレンズの良さもあり、かなりキレのいい高精細な映像となっている。ただホワイトバランスとしては、若干マゼンタ寄りの感じがある。

中望遠に切り替えると、若干緑が強いバランスとなる。海や空の青はかなり色味が後退するため、編集時にはカラー調整が必要になるだろう。レンズ、センサーのバランスがよく、細部もかなりはっきりしている。引き絵から3倍でポンと寄るには十分な画質だ。

望遠に切り替えると、さすが166mmだけあって、空撮ながらかなり寄れることが確認できる。あまり近づけない野生動物の撮影などには強力な武器になりそうだ。ただ、センサーが12MPということもあり、解像感はそれほどない。今回は4Kで撮影し、編集でHDにシュリンクしているが、それでもこれぐらいの解像感である。色のトーンとしては青みが強い。一般のカメラでも望遠レンズでは青に寄る傾向が見られるところだが、3つのカメラの色味を合わせるのはなかなか面倒だ。

驚くべきは、カメラの安定度である。撮影日は多少風がある状態だったが、静止状態の機体とジンバルの安定性度は、目を見張るものがある。機体を使ってPANしているわけだが、等速で綺麗に動く。高台に登って、三脚でPANしたのと変わらないクオリティである。こうした姿勢制御系も、かなり良好だ。

位置が安定しているので、静止画のパノラマ撮影においても良好な結果が得られる。以下の写真は角度を変えた9枚の写真を貼り合わせたものだが、ステッチング位置がわからないレベルで合成できている。

9枚の静止画によるパノラマ撮影

全方位障害物検知とAPAS 5.0の強み

Mavicシリーズは撮影用の中級機ということで、ビジョンセンサーが非常に充実しており、隙間のないセンシングが可能になっている。これらの情報を用いて全方向の障害物を検知し、最適な飛行ルートを自動で計算するのがAPAS 5.0だ。

この強みは、マニュアルによる操縦においても発揮されるが、ActiveTrack 5.0による人物の自動フォローにも有用だ。今回は横幅1.5m程度の山道を、筆者の全身を自動フォローさせるという撮影方法でテストしてみた。筆者はコントローラは持っているが、操作はしていない。

全方位障害物検知とAPAS 5.0による自動フォロー
回避アクションは「迂回」を選択

最初は正面からなので、ドローン自体は一定の距離を保ちつつ後向きに後退飛行している。場所はご覧のように、竹の葉が上に覆い被さり、ドーム状となっているが、後向きにもビジョンセンサーがあるので、こうした障害物を避けながら自動飛行できる。

次は後ろ姿をフォローさせてみた。人間の姿全体を認識しているので、顔が見えなくてもフォローできる。動画を見ていただければお分かりのように、障害物があるときはいったん上の方へ逃れようとするクセがあるようだ。通常であれば上空はあいているものなので、アルゴリズム的には正しい。だが今回の環境は上に抜けられないので、しばらくすると下をくぐってフォローしているのがわかる。これを全部ドローンが自分で考えて、自動で動いているというのがスゴい。

山道でも問題なく追従飛行してくる

ドローンが上り坂で付いていく場合は、地面までの距離がかなりあるので、下へ抜けるという動きになりやすい。一方下り坂で付いていく場合は、地面までの距離があまりないので、特に上に抜けようとするクセが大きく働くようだ。

今回のようなケースでは、人の後をくっついていけば問題なく通れるわけだが、この上に抜けようとするクセのために、ときおりどこにも行けずに立ち往生するというケースがみられた。この場合はマニュアルでコントロールしようとしても、障害物回避機能のためにドローンが動かないので、いったん回避機能が効かないスポーツモードに切り替えて、マニュアル操縦で抜ける必要があった。

ただスポーツモードはコントローラで細かい動きができないので、操縦の難易度は上がる。シネマモードやノーマルモードの時に、一時的に回避機能がOFFにできたり、マニュアル操縦を優先するショートカットが欲しい。ドローンがハマッてる時にはそこから目が離せないので、メニュー操作に入ってOFFにするのは無理だろう。

望遠カメラで小寺家の伝承を確認

数年前に父が亡くなり、宮崎県高鍋町にある数カ所の山林を相続した。その中で最も大きな土地が、山の尾根から谷底にかけての斜面全域である。

この領域の左半分ぐらいが筆者所有の山林

以前は斜面に杉の木が植えられており、近くの高鍋農業高校の森林保全実習に貸与していたが、実習がなくなってからはあまり人の手が入っていない。父の話では、この一番谷底のところに湧き水が出ている場所があると言うことだった。

とはいえ、父も祖父に聞いた話だとして、実際に見たことはないという。筆者が小学生ぐらいの頃だから、父もまだ50代だっただろう。一度本当にあるのか、意を決して父が1人で降りていったことがある。だが小一時間して、「どこだかわからん」と戻ってきた。そもそも道があるわけでもなく、かなりの急斜面なので、降りるのはともかく、再び登るのは大変である。当時は携帯電話もなければGPSもないので、自分の土地で遭難したらシャレにならない。

そんなわけで、筆者も自分の土地ながら知識として知っているだけで、実際に湧き水は見たことはなかった。だが今はドローンがある。これだけ倍率の高いカメラを積んでいるのなら、何かわかるのではないか。

まずは人が歩けそうなルートを探ろうと思って、上空から真下をみていたのだが、どうやら道路側から分け入っていけそうなルートがありそうなのがわかった。カメラは中望遠、NDフィルタは1/8で撮影している。

道筋らしきところを追っていくと、なにやらぽっかり空いている場所を見つけた。望遠レンズに切り替えると、水の流れが見える。さらにデジタルズームしてみると、水たまりではなく、一定方向の水の流れが存在する事が確認できた。湧水地点は、もう少し画面方向下側にあるはずだ。ちょっと長い動画だが、ご覧いただきたい。

上空から湧水の流れを確認

これまでは父と同じように、尾根から下に降りていくことばかり考えていたのだが、おそらく道路側から入っていけば、湧水池点までは100m以内で到達できそうだ。これがわかっただけでも、大収穫である。祖父はここまで行ったことがあるのかわからないが、父の代から誰も行ったことがないとすれば、およそ100年近く、地権者が一度も見たことがない湧き水の存在を確認する事ができた。

このときは上空およそ50mぐらいのところを飛んでいるが、166mmレンズがあれば、こうした人が行けないポイントも確認できる。バッテリー1本で40分程度飛行でき、コンボにはバッテリーが3本付いているので、合計2時間飛行できる。これだけ飛べれば、単にエンターテインメント用の撮影だけでなく、境界や地勢の確認などにも使えるのではないだろうか。あるいは山に分け入る際に、上空から自分を捉えておき、この先どの方向へ進めそうかといったアタリも付けられる。

総論

メイン、中望遠、望遠の3カメラになったことで、エンターテインメントとしては単なる広い空撮だけでなく、本来ならば人が近づいて撮影しなければならないところもドローンで代用できる、という用途は見えてくる。撮影者の安全を考えれば、人が行くべきではないところもあり、撮影を断念するケースも多かったと思う。

だが一度のフライトで3カメラが切り替えられることで、ファーストトライからそれなりの収穫が得られるのは大きい。レンズ交換式カメラが積める機体なら、一度ドローンを降ろしてレンズを付け替えてもう1回飛ぶことも考えられるが、画角が変わってしまうことで同じ場所が見つけられなかったり、その時間帯でしかみられない現象だったりすると、撮影できないこともある。

また機体の全方位障害物検知とAPAS 5.0はかなり強力だ。竹の枝は細いのでなかなか検知が難しいものだが、問題なく検知して回避してくれた。前後のビジョンセンサーはハの字に付けられており、真横方向の障害物もきちんと検知できる。マニュアル操縦はもちろん、自動フォローによる自撮りも可能になっている。

コントローラへの映像伝送も、フルHD/60fpsでかなり遅延も少ないので、飛行しながら何かを探すといったケースでは有用だ。また最大15kmまで伝送できる点も、安心感に繋がる。

前作のMavic 3やMavic 3 Classicからすれば、価格的にはかなりの値上がりになるが、ホビーユースを超える機能を搭載していると考えれば、納得できる価格である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。