小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1032回
MiniだけどPro? “縦撮り”もできる「DJI Mini 3 Pro」を飛ばす
2022年5月18日 08:00
動き出す新ルールの下で
ドローン利用を巡ってもっとも動きの激しいのが、航空法の改正である。これまでは200g未満のドローンについては航空法適用外として運用が続いてきたが、また改正され、100g以上のドローンの所有者は国交省に機体を登録し、IDの発行を受けることが必要になる。12月からすでに事前登録受付が開始されており、6月20日からは義務化されることとなった。
これは100g未満のおもちゃ以外は全てドローンの登録が必要になったということであり、実質200g未満というお目こぼしラインが100gまで下がったという事である。
100g以上のドローン、登録義務化。未登録は飛行禁止(Impress Watch)
さすがに100g未満でGPSとカメラも搭載した本格的なドローンは実現が難しいこともあり、200g未満というラインに挑戦してきたメーカーも、そこはもう諦めたという格好になってきている。
DJIの動きもそのようだ。2019年には200gを切る「Mavic Mini」を登場させて世の中をあっと言わせたが、100gを切ることに集中するよりは、むしろ登録することを前提に、ちゃんとした安全なドローンを提供した方がいいというふうに舵を切った。
DJIの小型・超軽量ドローンとしては「Mavic Mini」、「DJI Mini 2」と続いたが、今回の「DJI Mini 3 Pro」は、小型・軽量ではあるものの、「Pro」という名称が付いているとおり、上位モデルに負けない性能を持たせた新設計となっている。
価格は、送信機なしのドローン単体が92,400円、従来型のコントローラ「DJI RC-N1」とのセットが106,700円、新型コントローラ「DJI RC」とのセットが119,900円。
機体は249gと200gを超えるが、飛行時間が大幅に長時間化するなど、新機軸を見せている。記事執筆時点ではまだ発売が開始されておらず、ファームウェアも最終ではないが、今回は新型コントローラーの使い勝手とともに、 DJI Mini 3 Proの基本性能をテストしてみたい。
手足が長い機体
DJI Mini 3 Proは、前モデルがDJI Mini 2という事になるが、機体設計がまったく新規となっている。ボディは相変わらず小型だが、アームが長くなるとともにプロペラも長くなっており、より効率のよい飛行が可能になっている。
前方の対物センサーは、カメラの仰角を避けるように左右を離して取り付けられている。またそのすぐ後ろにも後方向け対物センサーを備えた。下方にも同様にセンサーがあり、Miniシリーズでありながら、かなり多くのセンサーを搭載している。障害物回避システムはAPAS 4.0搭載。
カメラはイメージセンサーは1/1.3インチとなり、動画4K/60p、静止画4,800万画素の撮影が可能になっている。以前は1/2.3インチで動画4K/30p、静止画1,200万画素だったので、カメラの進化はかなり大きい。画角は35mm換算で24mm/F1.7となっている。
動画記録フォーマットはMP4とMOVの選択式。コーデックはH.264とH.265が選択できる。最大ビットレートは150Mbps。カラープロファイルはノーマルとD-Cinelikeから選択できる。
カメラ用ジンバルも新設計だ。ブランコの上にカメラに乗っかるようなスタイルで、上下角の可動範囲が大きくなっている。
また今回面白い機能として、ジンバルの水平軸を90度回転させることで、「縦撮り」にも対応した。スマートフォンの映像と合わせる、あるいはスマートフォン向けのコンテンツを作る際に重宝しそうだ。
バッテリーは、249gを維持する標準タイプで約30分のフライトが可能。250g未満にこだわる理由は、250g未満なら規制対象外の国があるからだ。日本はどのみち関係ないので、ワールドワイドモデルが日本に投入。さらに別売の「インテリジェント フライトバッテリー Plus」では、約47分の飛行が可能だ。アクセサリとして「DJI Mini 3 Pro Fly Moreキット Plus(29,480円)」もあるが、これにはPlusバッテリー2個と、一気に3個のバッテリーが充電できる充電ハブ、ショルダーバックが同梱される。
新型コントローラ「DJI RC」も見ておこう。一目でわかるのは、対角14cmのディスプレイが内蔵されている点だ。従来のコントローラはスマートフォンをケーブルで接続し、専用アプリを起動してモニターとして使用する。新コントローラはそうした段取りなくすぐに使用できる。
左右のジョイスティックの前に動画と静止画の撮影ボタン、その下にカメラコントロール用のホイールがある。また裏側の2つのボタンは、キャリブレーションなどの機能を割り当てることができる。
機能的には、Android端末に近い。画面を上から下にスワイプすると、機能設定画面にアクセスできる。ここでWi-FiやBluetoothの設定が可能だ。現状ではいわゆるOS画面のようなものはなく、コントロール用のアプリとこの設定画面を行き来するだけである。
DJI Mini 3 Pro Fly Moreキットに付属の充電ハブもお借りしている。バッテリー3つを差し込み、USB-TypeC端子に接続すると、1つずつ順番に充電していく。基本は充電器だが、USB-A端子の出力もあり、モバイルバッテリーとして給電側に回すこともできる。
多彩な撮影機能をサポート
では早速フライトしてみよう。機体とコントローラが接続され、GPSが受信可能になると、「ホームポイントが更新されました」というアナウンスが流れる。これがなぜか関西弁のイントネーションになっていて、びっくりする。
撮影モードは写真、動画、マスターショット、クイックショット、ハイパーラプス、パノラマの6種類。クイックショットは飛行パターンを選んで自動撮影する、お馴染みの機能だ。一方マスターショットは、2分間で様々なフライトの撮影を行ない、あとでそれをいくつかのパターンで自動編集してくれる機能だ。
撮影は機体の内蔵メモリーかMicroSDカードに記録されるが、新型コントローラには低解像度のプレビュー画像が転送される。これを使って、マスターショットのパターンを選択して、編集結果を確認できる。
現時点でのファームウェアは、コントローラにオリジナル解像度の映像を転送できないので、今のところコントローラ側ではプレビューで見るだけである。製品版では、コントローラ内でオリジナル解像度の映像を扱えるようになるものと思われる。
今回注目機能の縦撮りは、写真と動画モード内で使う事ができる。縦に切り出すわけではなく、本当にカメラが縦向きになるので、解像度や画角は横方向と同じものが単純に90度倒れるだけである。
ただ、もともと水平維持のためのロール角を90度使ってしまうので、縦撮り時の水平維持角は横撮り時よりも小さくなる。また縦撮り時にはトラッキング機能が使えなくなるので、被写体のフォローはマニュアル操作となる。
スローモーションは、1,920×1,080に解像度が落ちるが、120fpsで撮影できる。30p再生では4倍スローとなる。
小型機ながら十分な追従性
本機は小型ドローンの部類に入るわけだが、前後と下方に対物センサーを備えており、自動的に障害物を避けながら飛行することができる。またこの障害物検知はアクティブトラックと併用できるので、障害物回避アクションを「迂回」に設定しておけば、人の動きを追わせながら、かつ自動的に障害物を避けるという撮影が可能だ。
ただ、横方向にはセンサーがないので、アクティブトラックで横方向にフォローさせた際には、自動的に障害物検知できないということになる。実際に横方向の障害物はどれぐらい検知できるのかをテストしてみた。
当たっても大丈夫そうな植物で試してみたところ、障害物はだいたい地面に設置されているものなので、前後および下方センサーのカバー範囲で検知できるのであれば、避けられるようだ。ただ、枝が張りだしている状態など、前後・下向きセンサーでは情報が拾えない場合、ぶつかる可能性はある。横方向にフォローさせる場合は、機体の進行方向に障害物がない場所で行なう必要がある。
松林の中で筆者をアクティブトラックさせた状態で、障害物回避と併用してみた。コントローラは念のために持っているだけで、操作はしていない。ドローンに向かって近づいていくと、一定の間隔を保ちつつ後退している。後方にはセンサーがあるので、後方の障害物を避けながら、かつトラッキングは外さないようにするという、異なる2つのアクションを両方同時にこなしているのがわかる。
障害物の多い場所では小型の機体のほうが有利になるわけだが、さらにこうした高度な機能が使えることによって、撮影のバリエーションは大きく拡大することになる。
横方向のフォローについては、ドローンと被写体の間に障害物が入る可能性があるわけだが、それでもトラッキングが外れることなく、追従できている。横方向のセンサーがないので撮影場所は限られるが、今回のようにドローンは遊歩道を、被写体は林の中を、といった具合に分けられれば、森を歩くシーンなども自動で撮影できるだろう。
ただアクティブトラックは、被写体の全身が写っていないと動作しないので、ウエストショットぐらいを撮影したい場合は、4Kで撮影してHDで切り出しといった工夫が必要になる。
総論
DJI Mini 3 Proは、小型ボディでありながら、上位モデルに匹敵するセンサーを搭載したことで、多彩な撮影を可能にしたモデルである。カメラもユニット自体が大きくなっているわけではないが、センサーを大型化し、最大4K/60pに対応した事で、テレビ系のコンテンツ制作との相性も良くなっている。
横方向にセンサーがないのがほぼ唯一の弱点となるが、横方向のドリー撮影だけ気をつければ、撮影のバリエーションはかなり広い。
飛行時間は、大容量「インテリジェントフライトバッテリーPlus」を使う事で、1本で40分以上を確保する。例えばクイックショットで飛行するとしても、従来機では飛行ルートを決めるだけでバッテリー1本使い果たしてしまうケースもあり、「飛ばしながら決める」ということもなかなか落ち着いてできなかった。
だが1本40分あれば、色々試行錯誤もできるし、テイクも複数回撮影できる。さらにはタイムラプスなど、撮影時間が長くかかる撮影にも対応できるので、より実用的になったと言える。加えて農地や山林など所有地の見回りといった、時間のかかる用途にも使いやすい。
十分な撮影機能を小型の機体に凝縮したことで、番組内にアクセントが欲しいといった、ちょっとした使い方により気軽に対応できる機器になったと言えるだろう。