西田宗千佳のRandomTracking
第658回
ワールドカップを支えるテクノロジー。現地取材とキーパーソンに聞くその価値とは
2026年7月9日 11:37
サッカーファンにとって、ワールドカップ(以下、W杯)の期間は夢のような時間だ。実際、睡眠不足で夢と戦う期間でもあるが。
すでに日本は敗退しており、世間的には「もうそんなに」かもしれないが、サッカーオタクにとっては「いやいや、こっからっすよ、こっから」という気分ではある。
そんな中、筆者は、7月3日・4日に米・マイアミへ取材に向かった。マイアミで開催される「アルゼンチン対カーボベルデ」戦を観戦しつつ、同じくマイアミにある、FIFA(国際サッカー連盟)の「テクノロジー・コマンドセンター(TCC)」と「トーナメント・オペレーションセンター(TOC)」を取材するためだ。
今回の「FIFAワールドカップ26」では、レノボが公式テクノロジーパートナーを務めている。スタジアムのビルボードやテレビCMで知った人も多そうだ。実はかなり深く連携しており、今回はその取材がメインでもある。
ただ、今回の取材の中では、FIFA・審判委員会会長のピエルルイジ・コッリーナ氏に取材することもできた。数々の国際試合で審判を担当し、2002年の日韓W杯でも審判を担当したので、見覚えがあるという方もいるのではないだろうか。テクノロジーと審判技術に関しての、彼へのグループインタビューの内容もお届けする。
盛り上がる現地で試合を観戦
まずは、今回のW杯で試合がどのように行なわれているかをお伝えしよう。
冒頭で述べたように、今回観たのは、米・フロリダ州マイアミにある「マイアミ・スタジアム」だ。正確に言えば、「W杯中はマイアミ・スタジアムと呼ばれているハードロック・スタジアム」と言うべきなのだろう。
昨今はネーミングライツが設定されているスタジアムが多いが、FIFAのスポンサー規約により、W杯中は名称が変更されている場合が多いためだ。W杯開催中は、すべてのスタジアム名が都市名や地域名に変更される。
実は、今回のW杯で筆者が試合を現地観戦するのは2試合目になる。前回はカリフォルニア州・サンタクララにある「リーバイス・スタジアム」で観たものの、名称は「サンフランシスコ・ベイエリア・スタジアム」となり、特徴的なロゴも隠されていた。
ちょっと皮肉な話ではあるが、それはそれ。どのスタジアムも思い切り盛り上がっていた。アメリカの試合でなくても、ファンは世界中からやってくる。しかもアメリカには、もともと多様な地域をオリジンとする人々がいる。だからどの試合も満員で、6万人以上の観客がやってくる。
特にマイアミでは、アルゼンチン人気、というかリオネル・メッシ人気がものすごい。メッシが特別な選手だから……ということもあるが、現在はメッシが、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)のインテル・マイアミCFに所属しているから、という話もありそうだ。スタジアムで見たアルゼンチン・ジャージも、ほとんどがメッシのもの。時々別のジャージがいたと思ったらマラドーナだったりした。
それはともかく、会場は大盛り上がり。ほとんどアルゼンチンのホーム状態の中、カーボベルデがギリギリまでアルゼンチンを追いつめ、延長戦までもつれ込み、3対2でアルゼンチンが勝利した。素晴らしい試合であり、現地で観戦できたことを心から感謝した。
なお以下は、6月23日に観たヨルダン・アルジェリア戦を観戦した時のもの。こちらも素晴らしい試合だった。
ちなみに、試合中のスタジアムには大きな荷物は持ち込めない。透明なバッグにスマートフォンや身分証明を入れておくくらいがせいぜいだ。前出の試合もすべて、スマホ(iPhone 17 Pro MaxとXiaomi 17 Ultra)で撮影したものである。
デジタルに支えられるW杯
W杯のようなイベントは、デジタル技術によるサポートが欠かせない。
例えばチケットはすべて、スマホによるデジタル方式。試合開始の48時間前に、専用のアプリへと送られてくる。QRコードを見せて入場するか、NFCのタップで入場するか……という形になっている。席がどのあたりになるかなどの確認も、スマホアプリを見て行なうのが楽だ。会場内での買い物もクレジットカードが基本なので、スマホで決済するのが簡単である。
専用アプリを含めたデジタル技術面のパートナーとなっているのがレノボだ。アプリの開発にもレノボが参加している。
W杯の中継自体にも、テクノロジーの導入は目立つ。
特にわかりやすいのは、審判が耳につけたカメラの映像が中継内で使われていることだ。通常、こうしたカメラでは「ブレの補正」が問題になる。しかし今回の中継では、ブレをできる限り抑え、テレビのような大画面で見ていても酔わない・見づらくない映像になっている。
実際にどのような補正が行なわれたのかは、以下の動画をご覧いただきたい。かなり変化しているのがお分かりいただけるだろう。
判定にもVAR(Video Assistant Referee)が多用される。特に試合中継では、オフサイド判定の映像を見ることが多いだろう。判定結果については審判が試合中に解説するようになっている。
テクノロジーの存在が前提の大会、という印象は強くなっている。
毎日5億回のサイバー攻撃。厳格管理されたコントロール施設を見学
そして今回は、現地に試合を見に来ただけではない。
マイアミには、W杯を技術面から支える施設である「テクノロジー・コマンドセンター(TCC)」と「トーナメント・オペレーションセンター(TOC)」がある。今回の取材は、この拠点を見ることが1つの目的でもある。
入り口には大きなサッカーボールのモニュメントがあり、いかにもW杯のための拠点らしい。だが、場所は非公開。関係者以外は入ることができない。今回の取材も、厳格に人数を定めた上で、内部での撮影・録音は禁止された。PCやカメラの持ち込みは認められず、スマホも入口で関係者に預ける……という厳戒態勢だ。そのため、以下のTCC・TOC内部の写真については、FIFAが提供しているものを使っている。
今回の「テクノロジー・コマンドセンター(TCC)」は、前回のカタール大会に比べても巨大なものになっているという。テクノロジー関係だけで1,200名から1,300名のスタッフが関わり、マイアミのTCCも、60名が3交代制で運営されているという。
理由は「規模が拡大した」ためだ。今回のW杯は、3か国16の都市、4つのタイムゾーンという、広大な領域で開催されている。
各地域の間では大量の情報がやり取りされているのだが、その規模が大きくなっているのだ。
やり取りされる情報は多岐にわたる。試合の映像はもちろん、各スタジアムのピッチ状況や会場への観客の入場状況、VARの情報など、W杯を運営するために必要なものすべてが、TCCのコントロールのもとで扱われている。
中継映像は、ダラスにあるIBC(国際放送センター)を介して各国に届けられる。基本的には4Kの映像だとか。その状況はTCCでさらに管理されているのだが、TCCではIBC向けの映像に加え、もう1つの映像がチェックされているという。
一般の放送向けは、現地に比べ20秒から50秒の遅延がある。それに加え、TCCでは特別に開発した、内部運用の「超低遅延映像」が伝送されている。レノボと共同開発した仕組みを使っており、こちらの遅延は2秒しかない。すなわち、TCCでは2つのズレた映像が表示されるようになっていて、判定リプレイなどを、実質的に「2回確認」して運用する仕組みになっているのだとか。
同じ建物の別の場所には「トーナメント・オペレーションセンター(TOC)」もある。TOCは各スタジアムやボランティア拠点・記者会見場・関係者の宿泊施設など、それぞれの会場に関する情報をすべて管理する。TCCがネットワークを管理する施設だとすれば、TOCは現場を管理する施設といえる。
FIFAでテクノロジー・ディレクターを務めるナチョ・フレスコ氏は「数えきれない関係者がいる。それだけでなく、観戦チケットを持つすべての人がこのシステムを使っている」と話す。もちろん、これだけのネットワークなので、サイバー攻撃の類も多い。
フレスコ氏は指を交差する「グッドラック」のしぐさをしながら、「幸いなことに、なんの被害も起きていない。今後も、なにも起こらないことを願っている」と話す。
フレスコ氏によれば、W杯を狙ったサイバー攻撃だけでも「1日あたり、3億件から5億件ある」という。
「前回のカタール大会では、合計110億件の攻撃があった。今回は大会期間も長く、地政学的な緊張も高まっているので、これを上回る回数の攻撃になるだろう」とのことだ。
もちろん、それだけの攻撃や障害を想定したシステムにはなっている。「だから、注意しながらもちゃんと睡眠はとれている」とフレスコ氏は笑う。現状、可用性は「99.999%を維持している」(フレスコ氏)とか。
サッカー用AIを48チームすべてに提供
表に出ることは少ないが、大きなテクノロジー面での変化は「FIFA AI Pro」と呼ばれる技術の導入にある。
これはFIFAとレノボが共同開発したサッカー専用の「AI参謀アシスタント」といえるものだ。詳しくは以下の動画を見ていただくのがわかりやすい。
FIFA AI Proでは、数億件規模の試合データを記憶させた上で、さらに2,000を超える「試合を評価するための指標」を組み込んでいる。FIFA側は「サッカー版のChatGPTのようなもの」とも表現している。
文章でサッカーの戦術などについて質問することもできるし、攻守の切り替えやプレスをかけるタイミングなどを理解した上で、次の対戦相手に応じた戦術やチームオーダーについての助言を受けることもできる。
要はデータ解析ツールである。チャットで教えてくれるかどうかはともかくとして、データ分析自体は、日本を含め、有力チームならばどこもやっていることで、特別なものではない、とも言える。
では、予算が限られたチームならどうだろう? W杯のように「各国の代表」が集まる場所であっても、国やチームの規模によってできることはまちまちだ。
そこでFIFAは、ある種の公平性担保を目的に、FIFA AI Proを48チームすべてに提供している。
現状、どのチームでどれだけFIFA AI Proが有効に使われたのか、というデータは開示されていない。FIFAも、プライバシーとセキュリティの観点から「どのような戦術分析が行なわれているか、詳細な中身には関与していない」という。
ただし「利用量は右肩上がりに増えている」というコメントは得た。詳細は大会後に明かされることになるだろう。
テクノロジーはどうサッカーの審判を変えるのか。審判委員会会長のピエルルイジ・コッリーナ氏が語る
さて、ここからは、審判委員会会長のピエルルイジ・コッリーナ氏へのグループインタビューの内容をお伝えしたい。
コッリーナ氏はテクノロジーの導入にはかなり積極的だ。それは自身の長い審判経験からくるものでもあるようだ。
コッリーナ氏(以下敬称略):「FIFA AI Pro」のようなチーム分析サポートシステムが導入されると聞いた時、本当に感動しました。これは出場する48チームのためだけのものではありません。私たちの「審判分析チーム(マッチアナリスト)」もこのシステムの恩恵を受けているからです。
試合に向けた準備の中では、対戦するチームの戦術、選手の特徴、癖をあらかじめ把握しておく必要があります。
私が2002年日韓W杯決勝(ドイツ対ブラジル)の審判を務めた際には、VHSのビデオテープを何本も部屋に持ち込み、丸一日、巻き戻しや早送りを繰り返して分析していました。
現代の審判たちが最新技術を使って試合の準備をできることは、本当に羨ましくて仕方がありませんよ(笑)。分析スタッフも、AI Proを使って審判が判定を下すために必要な戦術データを抽出し、試合に向けた最高のシミュレーションを行なっています。
今大会中、私は基本的にはベースキャンプのコントロールルームに座り、多くのテレビ画面を見ながら、審判たちの通信を聞いて状況を把握しています。もちろん、生で直接スタジアムで観戦することもあります。
ですが、生の場合、「人間の目」には限界があります。
現地で観戦していると、隣に座っているFIFA会長から「今のプレーは何だったんだ?」と聞かれることがあります。私はその場で会長に正確な説明をしなければなりません。
そのために、今回のワールドカップで私が受け取った最高のプレゼントがタブレットです。これがあれば、メガネをかけていなくても(笑)、ピッチ上で起きた微妙なインシデントの映像を即座にリプレイで確認し、会長に対して「今起きたのはこういうことです」と瞬時に説明できます。このサポートには本当に感謝しています。
とはいえ、こうした技術は審判を不要にする方向のものではない、とも強調する。
コッリーナ:私たちが直面している課題は、むしろ「テクノロジーが下した正しい判定が、人々にどのように受け止められるか」という点。これは「人」の問題です。
テクノロジーを導入する目的は、ピッチ上で「正しい判定、事実に基づく判定」を下すことです。
しかし残念ながら、人々は時に、事実よりも、自分たちの「感情的な判定」を優先してしまいがちです。これが、私たちが直面している最大の課題かもしれません。
ファンが抱く最大の誤解は、「テクノロジーを使えば、サッカーにおけるすべての問題に完璧な答えを出せる」と思い込んでいることです。
でも、実際はそうではありません。
他のスポーツ、例えば自転車レースなどであれば、ゴールラインを数ミリ越えたかどうかをテクノロジーで簡単に判定し、答えを出せます。しかし、サッカーは「フィジカルコンタクト」のスポーツです。
ピッチ上で選手同士が「押した」「引っ張った」という行為、あるいは「ハンドの反則が意図的なものであったかどうか」といった主観的な事象は、どんな高度なテクノロジーを使っても判定することはできません。
そこには必ず、人間による解釈が必要になります。
「テクノロジーがあるのだから、すべての疑問に答えを出せるはずだ」という誤解は確かにありますが、それでも私たちは大きな一歩を踏み出しました。過去に何十年も議論を巻き起こし、問題となってきた重要な事実判定の多くを、テクノロジーによって解決できるようになったからです。
例えば、1966年のワールドカップ決勝(イングランド対ドイツ)のゴール判定について、人々は60年経った今でも議論を続けています。
今後はそのようなことは起こり得ません。
私たちは今や、ボールがラインを越えたかどうか、選手が体のどの部分でボールに触れたかといった物理的な事実を、テクノロジーによって100%正確に知ることができるのです。
少し時間がかかったとしても、誤った判定を下すよりは、正しい判定を下す方がはるかに重要です。判定のために1〜2分待つ方が、60年間にわたって議論と不満が残り続けるよりはるかに良いはずです。
一方で、VARのような技術でも、判定には時間がかかる。過去のように検証に何時間もかかるようなことはなくなったが、今大会のVARでも、いったんプレイが止まり、数分前のプレーの判定が取り下げられることがある。これは、どういう意味を持っているのだろうか?
コッリーナ:私たちは「2つの感情」のバランスを保証しなければなりません。
誤審によってファンが喜ぶ「ポジティブな感情」の裏には、同時にその誤審によって不当な不利益を被り、苦しんでいるもう一方のチームの「ネガティブな感情」が必ず存在します。
だからこそ、私たちは公平性のために、正しい「事実」を保証しなければならないのです。
また、「テクノロジーの導入(VARチェックなど)が、ゴールが決まった瞬間の感情を台無しにしている」という誤解がよく聞かれます。
しかし、それは事実ではありません。
ゴールが決まった瞬間、選手はチェックを待つことなく、すぐに爆発的な喜びを表現します。
その直後、VARによる検証が行なわれる瞬間に、スタジアムには独特の「緊張感」が漂います。
そして、VARチェックが終わり、正式にゴールが認められた瞬間、スタジアムでは「2回目の喜び」が生まれます。
つまり、テクノロジーによって感情が失われるどころか、実際には「感情が2倍」になっているのです。
もちろん、私たちは試合の流れを極力止めないよう、判定プロセスをできる限りスピードアップさせるための努力を続けています。
審判と技術の関係はどうなるのだろうか? コッリーナ氏は審判委員会会長の立場から、今後の可能性を考え続けていると話す。
コッリーナ:2014年、私たちはベルファストのホテルの狭い一室で、「どうすれば審判をテクノロジーでサポートできるか」をゼロから話し合っていました。当時は12年後のW杯で、これほど高度なテクノロジーを日常的に使っているとは、夢にも想像できませんでしたが。
テクノロジーは人間に対して非常に優れたサポートを提供しますが、最終的な決定を下す権利を持つのは、あくまで「人間」です。
矛盾して聞こえるかもしれませんが、私の究極の目標は、テクノロジーのサポートを「不要」にすることです。審判のピッチ上での能力を高め、完璧に準備させ、すべての判定を完璧に下せるようにすることで、テクノロジーの出番をなくすことです。
ただもちろん、人間の能力には限界があり、現実的ではないことは理解しています。
だからこそ、テクノロジーは審判を「置き換える」ためではなく、彼らを「サポートする」ために存在しているのです。
私たちはすでに、本当に多くのツールを手に入れています。FIFAのイノベーション部門が提案してくる次のステップには、いつも驚嘆させられています。
強いて挙げるならば、私たちは、審判の「準備」。要は育成やトレーニングの側面をさらに強化したいと考えています。
トレーニングや事前サポート、および試合後のデブリーフィングに、より多くのテクノロジーを導入しています。先ほどお話しした「AI Pro」もその一環として、審判のスカウティングやシミュレーションに活用されています。
前出のように、今回の大会では、審判の役割に変化が生まれている。カメラをつけ、VARなどの後には結果を自ら伝える形になっている。サッカーの審判の在り方を変えるものだ。こうした部分についてはどう見ていたのだろうか?
コッリーナ:カメラの導入初期段階では、審判からいくつかの懸念が寄せられました。
最初の懸念は、やはり「機材の重さ」についてでした。審判はピッチの上を90分間、時にはそれ以上走り回らなければならないからです。
開発段階で、システム全体の重量が「400グラム」になると聞いた時、さすがに私も「これは重すぎるのではないか」と心配しました。そこで開発チームに、限界まで軽量化するよう強く要請しました。彼らは見事にそれに応え、重量の問題をクリアしてくれました。
もう一つの懸念は、カメラの「装着感」でした。当初は審判のヘッドセット音声システムに直接連結されていましたが、現在は頭の後ろで機材をしっかり支えるサポートシステムを開発しました。
これによって、審判の見た目はまるで「ロボコップ」のようになってしまいましたが(笑)、装着時の快適性は劇的に向上しました。現在、審判たちからクレームは一切受けていません。
もしカメラが頭部ではなく、胸の位置に装着されていたら、装着感はさらに悪く、映像のクオリティも極めて低いものになっていたでしょう。
頭部に装着しているからこそ、「審判の視線」を正確に追うことができるのです。人間は目を動かして周囲を見ますが、カメラが胸に固定されていた場合、審判が首を振ってもカメラは正面を向いたままで、実用的な映像にはなり得ませんでした。
さらに、ニュージャージーのような35度を超える猛暑の中で、審判がいつものウェアの上にさらにカメラ固定用の重いベストを着用しなければならないとしたら、それ自体が過酷な負担になります。
今回のヘッドマウントシステムは非常に軽快で快適であり、選手たちの過酷なプレーにも完全に追従できています。
実は、審判用カメラにはブレ補正などの機能が内蔵されていない。処理はすべて、外部のソフトウェアで行なわれている。できるだけカメラを軽いものにし、審判の負担を下げるためだ。
記者から「現役時代にこの技術があって、審判結果をマイクで説明する機会があったとしたらどうか?」と問われると、コッリーナ氏は「私は話すことが大好きなので、もしそんな機会があったなら、喜んでマイクを持ったでしょう」と笑う。
ただし、このことには課題も存在する、とも話す。
コッリーナ:しかし、審判が説明することは、決して簡単なことではありません。
今大会の開幕戦で、ブラジルの審判がVAR判定の内容をスタジアムのアナウンスで英語で説明した際、一部の人々から「あまり上手な英語ではない」と皮肉交じりに批判されたことに、私は非常に胸を痛めました。
高プレッシャーの極限状態の中、8万人の観衆と全世界の視聴者を前にマイクを開いて話すことがどれほど恐ろしく、難しいことか。
批判した人々にもぜひ一度試してみてほしいと思います。彼らが同じ状況に立たされたなら、もっとひどい説明になっていたはずです。
スタジアムやテレビの前のファンに対して、「ペナルティキックが与えられた」という結果だけでなく、「なぜその判定に至ったのかというプロセス」を説明しようとする取り組みは、判定の透明性を高め、受け入れられるために非常に価値のある素晴らしい挑戦です。ですが、超一流の審判であっても、必ずしも英語が母国語であるとは限りません。
もし私の現役時代にこの技術があったなら、間違いなく使いたかったですね。
私は、自分の審判人生で一度もミスをしなかったと言い張るほど、愚かな人間ではありません。人間である以上、ミスは避けることができないものです。
最も重要なのは、「一つの審判のミスによって、自分自身のこれまでの努力や、両チームの選手たちが何年もかけて積み上げてきた努力がすべて台無しになってしまうのを防ぐこと」です。
なぜなら、誤審が起きた際にその代償を最初に払うのは審判であり、次にチームだからです。テクノロジーによってそのような悲劇を防ぐことができるのは、サッカーにとって本当に素晴らしいことなのです。
今回のW杯では「公平性」が話題に上ることは多い。トランプ大統領が、審判が下したレッドカード判定に電話で「介入」すると言った話もあった。この「介入」は9月5日のことで、取材が行なわれたのは9月4日。だからこの件は取材で扱われていない。また、個々の試合における判定の疑義については扱わない、という取材上のルールもあった。
ただその上で、公平性の問題について、コッリーナ氏は次のようにも語っている。
コッリーナ:組織のトップや審判長がイタリア人であるにもかかわらず、イタリア代表が出場していないということは、ある意味で「FIFAの公平性と中立性」を証明しているとも言えます(笑)。
まあ冗談はともかくとして、サポーターやファンから「あなたは普段、どこのチームを応援しているのか?」という質問を本当によく受けます。
これに対して「私はどこのチームも応援したことがない」と答える人がいますが、それは最も愚かな回答です。
なぜなら、それは「嘘」であるか、あるいは「サッカーに対する愛情や知識が全くない状態で審判になった」ということの証明だからです。
もしサッカーに全く興味のない人間が、突然プロの審判になったとしたら、私はその人物の能力を疑います。
選手が若い頃に応援していたチームがあるのと同じで、審判にだって若い頃に応援していたクラブはあります。プロになれば、かつて応援していたクラブの試合を裁くこともあります。
私がワールドカップや欧州選手権といった大舞台の審判に選ばれるたびに、周囲から「イタリア代表が決勝に進むのと、あなた自身が決勝の主審を務めるのと、どちらが嬉しいか?」と何度も聞かれました。
これは非常に愚かな質問です。
なぜなら、私自身が信じられないほどの努力を重ね、多くの犠牲を払い、私の家族も同様に私を支え続けてくれたのです。そんな自分が、自国のためとはいえ「自分ではなく、他人が決勝のピッチに立つ方が良い」などと言うはずがありません。
私は非常に愛国心が強く、自分の国を心から誇りに思っています。
しかし、それでも私は「自分自身が決勝のピッチに立つこと」を選びます。だからこそ、本大会にイタリアが出場していようがいまいが、私の仕事に対する情熱や中立性に何の影響もありません。
私の唯一のチームは「チーム1」、すなわち審判たちのチームです。彼らがすべての試合で正しい判定を下し、成功を収めることだけに関心があります。これが私の偽らざる、本心の答えです。



















