西田宗千佳の
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E3で公開された「Wii U」をチェックする

~1年で大きく変わった操作性~


 E3からの最後のレポートは、任天堂 Wii Uの体験レポートだ。

 昨年のE3でも、発表されたばかりのWii Uを体験、そのレポートを掲載した。それから1年が経過し、任天堂は様々なフィードバックを経て、Wii Uの中身と操作感をかなり変えてきたようだ。最終製品に近いWii Uは、どのような感触の製品になったのだろうか。

E3 任天堂ブース。今回の主役は完全にWii Uで、大量の実機を用意し、可能な限り並ばずに体験できるよう配慮されていた

■ 操作感・機能も変化、「最初に見る」ことを意識した作りに

 使い勝手・仕様の点で、昨年から大きな変化があったのがGamePadである。

 写真で見比べていただいてもわかるように、コントロール用のスティック・ボタンの配置や感触がまったく違うものになった。重量や握り心地は、そう変わった印象はない。だが、以前は3DSに採用されているものに似た「スライドスティック」であったものが、据え置き型ではおなじみのスティック式に変わったことで、ぐっと「普通にゲームができそう」な雰囲気になった。親指の位置に、操作しやすいスティックがきたことで、全体のホールド感も増しているような気になってくるから不思議だ。GamePad自体は約500gと、そんなに重くはない。手のひら全体で支える感じになるので、同じサイズのタブレットを持つよりは軽く感じるだろう。

昨年公開された時のWii U GamePad。今年のものとはデザイン・ボタン配置が違う製品版GamePad。コントローラーが「スティック状」になり、ボタン配置も違う。右下にリモコン呼び出し用の「TV Control」ボタンが登場している点に注目。左の十字キーの下には、NFCポートがある本体背面。持ちやすいようなめらかなグリップ形状になっていて、そこにはZL・ZRのトリガーがある

 GamePadは単体で動作する機能もいくつか備えている。会場で聞けた話としては、カンファレンスでも語られた「テレビのリモコンになる」という部分があった。上面(素直に持つと、そちらはテレビの方向を自然に向けることになる)には赤外線の発信部があり、リモコン信号はここから送られることになるだろう。電源コネクタが、下面のだけでなく上面にもあったのが意外だった。タッチ用のペンも上部に収納できる。使い勝手を考えた洗練が行き届いている印象だ。以前の任天堂側のコメントによれば、GamePadでは本体と連携しない状態でも、ウェブブラウザが使えるようになっているという。

GamePad上面。左にスタイラスの収納場所、中央右よりにIR発光部、右側にヘッドホン端子と電源端子があるGamePad下面。充電用端子が見える。周辺機器にクレードルはあるのだろうか。ストラップもつけられるGamePad側面。アナログコントローラーが3DS的な「パッド」形状から、立体的な「スティック形状」になっているのがよくわかる
Wii U用ソフト「Wii Fit U」のデモ。基本的には、Wiiのものと同じリソースを使う。本体はテレビの下にちょっとあるだけで、はっきりいって目立たない

 カンファレンスで任天堂 宮本茂氏は、「部屋に入ってきた時に、テレビよりも先に見るモニターに」という表現をした。冷静に考えると、部屋に入ってテレビを点けるとき、我々が最初に見るのはリモコンか携帯電話(人によってはパソコン)だ。携帯は自分に来たメールなどを見るために、リモコンはもちろんテレビの電源を入れるために見る。そう考えると、GamePadは実に考えて作られていることがわかる。

 その一方で、Wii U本体の方は実に目立たない。元々コンパクトであることもあるが、今回のデモでも、ひっそりとディスプレイの近くに固定されていただけで、背面などは見られなかった。Wiiとの互換性があり、Wii用コントローラーがそのまま使えることなど、性能は大幅に向上してはいるものの、任天堂の意識としては「よりテレビの近くにあって、普段は気にしない存在」になってもらいたいのだろう、と感じる。据え置き型ゲーム機にとって最大の敵は、「使わないから片づけよう」と言い出す家人(たいていはお母さん)だ。その攻撃をかわすためにも、本体の存在感は薄いに越したことはない。Wiiと異なり、目立つライトなどが本体から消えているのも、そのせいかも知れない。


■ GamePadは最大で2台まで接続可能、「画面なしコントローラー」との併用も

 ディスプレイ解像度については、今回もコメントが得られなかった。ただし、SDであることは任天堂側から発表されている。発色などは「良くなっているのかな」という気もしたが、ショーフロアの照明は、それを判断するにはあまりに劣悪な環境なので、判断は下さないでおこう。

GamePadとPro Controrllerで同時にプレイすることも。GamePadを2つ買う家庭は多くないだろうが、このパターンなら出費も少なくて済む

 技術的な大きな変化としては、非接触通信用のNFCが搭載されたこと、そして、従来は「本体:GamePad」が1:1であったものが、1:2(すなわち、GamePad2台の同時表示)に対応したことだ。ただし、デモの中で2台接続を行なっているものはなく、そういった使い方をするゲームは、発売と同時には出ない可能性もある(もしかすると、後日のアップデートで対応なのかも知れない)。

 同様に、新たに登場したのが「Wii U Pro Controller」だ。まるでXbox 360やPS3のコントローラーのようだが、もちろん、「他のゲーム機のような古典的なゲーム」をするために用意されたものだ。もちろんGamePadと同時に使える。

 Wiiでは、Wiiリモコンを横に持ったり、Wiiリモコンからケーブルでつなぐ「クラシックコントローラ」を使ったが、操作性に問題があったり、かさばったりであまり評判は良くなかった。「普通にゲームができる」ようにしておくことが、やはり求められたのだろう。

 任天堂の展示の特徴は、いつも来場者が楽しそうであることだ。同社のゲームを存分に楽しませる、という発想が行き届いているからだろう。今回も、「ピクミン3」や「NintendoLand」を中心に、その方針は貫かれていた。

会場では、コアゲーマーには「ピクミン3」、そうでない層には「NintendoLand」のプレイが人気。どちらも来場者はとても楽しそうだった

 他方で、E3前々日に発表した「Miiverse」の姿は会場にはなかった。まだ明かす時期ではないと考えているのか、それとも、別の事情があるのか。Wii Uのコンセプトに関わるものだけに、そこが気にかかる。

 「テレビから独立する」ゲーム機、テレビとの関係を問い直すゲーム機としての本質は、そういった部分が公開になってから、もう一度考えることとしたい。


(2012年 6月 8日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

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[Reported by 西田宗千佳]