鳥居一豊の「良作×良品」

「ガルパン劇場版」の極上の爆音を家庭で。ヤマハとソニー 6万円 AVアンプで体験

 今回の良作は「ガールズパンツァー劇場版」。昨年11月末の劇場公開以来、今もロングラン上映が続いている人気作だ。

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 半年におよぶロングラン公開自体が異例だが、すでに5月末にBD/DVDが発売されているというのに、劇場公開が続いているという点に注目したい。一般的に、映画館でのロードショー公開は客足が鈍り始めたところで公開が終了していき、しばらく待つとBD/DVDの発売(動画配信の開始を含む)となる。この理由はわざわざ説明する必要はないだろう。何十回でも劇場に足を運びたくなる映画は決して多くはないし、何十回も見るならばBD/DVDを買う方がコスト負担が少ない。そういう一般的な現象とまったく逆のことが起こっているのが「ガールズ&パンツァー劇場版」だ。

 BD/DVDが売れているにも関わらず、今もまだ何度となく劇場に足を運ぶ人が絶えない。特に極上爆音上映で知られる東京・立川にあるシネマシティは、9月1日までの公開を決定したほか、音声を6.1chの「センシャラウンド・ファイナル・エクストラ6.1ch」にバージョンアップしている。こんな異例尽くしの作品を筆者は他に知らない。

 この理由は「音」に尽きるだろう。ガルパンの戦車戦がガチなのはTVシリーズ時代からだが、音もそれ以上と言っていいほどにガチであり、劇場版の音はハリウッド作品級の轟音が収録されている。それなりに自宅の視聴ルームにコストを投じた筆者でさえ、シネマシティの極上爆音上映は「こんな音は家庭のシアターで鳴らすのは無理」と思ったほど。そんな劇場の音でガルパン劇場版を体験したユーザーの多くは、BD/DVDを購入した後、自分が覚えている音が家庭での再生では再現されないことに気付いたと思う。だから、BD/DVDの発売後も劇場へ足を運ぶことをやめられないのではないか。ガルパン劇場版の低音は麻薬だと筆者も実感しているが、つくづく恐ろしい映画だと思う。

 こうした多くの家庭では実現できない極上の大音量を楽しむための映画館は素晴らしいと思うし、家庭でできないことをやるからこそ映画館に足を運ぶ理由になる。だが、こちらも家庭で楽しむホームシアターのプロのはしくれなので、そうそう簡単に白旗を振るわけにもいかない。自宅の環境であの音を再現すること、そのためのノウハウを多くの人に伝えることこそ我が使命と考えている。

 そのためには、少なからず資本その他を投入する必要はある。簡単に言えば、AVアンプと複数のスピーカー、サブウーファを使った本格的なホームシアターシステムが必要だ。かと言って非現実的な投資を強要するわけでもない。実際問題として、無尽蔵にお金が使えるならば家庭でもあの音は再現できる。ぶっちゃけシネマシティのスタジオを個人が自分のために建築すればいい。非現実的なコストを投入するのではなく、現実的なところでどこまであの音に迫れるかが重要。単なる縮小コピーでなく、あの音の感動をそのままに一般的な家庭のサイズにデフォルメしてスケールダウンするわけだ。

 そこでまずはシステムの核となるAVアンプを選んでみる。AVアンプも実売5万円ほどから数十万円まで幅があるが、今回は比較的手の届く価格帯からソニーのSTR-DN1070(実売価格:65,350円)、ヤマハのRX-V581(実売価格:53,580円)を試してみることにした。このクラスのモデルで、果たしてガルパン劇場版はどこまで極上な再生ができるだろうか?

今回の良品。ヤマハ RX-V581(左)とソニー STR-DN1070(右)

Dolby Atmos対応か非対応か? それが問題だ

 まずはそれぞれの概要を紹介しよう。エントリークラスに近いお手頃な価格のふたつのモデルだが、ソニーはDolby Atmosなどのオブジェクトオーディオには非対応。ヤマハは5.1.2chのDolby Atmos対応で、DTS:Xにも対応する。内蔵するパワーアンプのch数はどちらも7.1chだし、ネットワークオーディオ再生機能では、どちらもリニアPCM最大192kHz/24ビット、DSD最大5.6MHzに対応するなど、細かな違いはあるが機能的には同等。オブジェクトオーディオ対応かどうかが、選択の決め手のひとつといえる。

 今後ますます増えていくであろうDolby Atmos対応機を選ぶ方が将来性では有利だ。しかし、オブジェクトオーディオで必要になる天井へのスピーカーの配置のハードルの高さを考えると、無理にDolby Atmosにこだわる必要はないとも言える。しかも、「ガールズ&パンツァー劇場版」はDTS-HDマスターオーディオ5.1ch収録なので、Dolby AtmosもDTS:Xも必須ではない。将来性は大事だが、実際にオブジェクトオーディオを自宅で構築するかどうかで選ぶといいだろう。

 まずはソニーのSTR-DN1070から紹介していこう。Dolby Atmos対応は見送ったものの、そのぶん、肝心な音質にコストを集中したモデルで、ジッターの影響を受けにくいスイッチド・キャパシタ方式のD/Aコンバーターの採用、高音質表面実装コンデンサー、表面実装抵抗「ファインサウンドレジスター」、高速応答性、高S/Nを実現したプリアンプ専用IC「CXD90035」の搭載など、高音質パーツをぜいたくに投入し、音質を磨きあげている。

STR-DN1070の外観。2つのアンテナはWi-Fi用でダイバーシティ動作により安定した受信を実現している。外観のデザインは前モデルを踏襲しており、大きく変わった部分は少ない
上部から見たところ。奥側に入出力回路やデジタル信号処理部があり、手前側に電源部やパワーアンプ部がある。パワーアンプは同社独自の「広帯域パワーアンプ」だ
背面。HDMI入力は5系統、HDMI出力は2系統を備える。4K/60p、HDCP2.2などの最新の映像信号フォーマットにも対応する。サブウーファ出力は2系統、スピーカー出力は9系統用意されている

 一方のヤマハRX-V581は、アンプの基本設計は下位モデルのRX-V481(Dolby Atmos非対応の5.1chモデル)と共通としてコストダウンを図っている。さらに電源部を強化し、ルビコン社と共同開発したヤマハオリジナルのPMLコンデンサー、バーブラウン製の192kHz/24bit DAC、ロージッターPLLの採用などで音質をチューンアップしているわけだ。

RX-V581の外観。よく使う設定を4つまで登録しておける「SCENE」ボタンを備えたデザインだ。Wi-Fiアンテナは1本だが、接続機器と1対1で接続するダイレクト接続にも対応している
RX-V581を上部から覗いてみる。手前側にはパワーアンプ部と電源部があり、後ろ側に入出力部、信号処理部がある。パワーアンプは全チャンネルがフルディスクリート構成を採用
RX-V581の背面。HDMI入力は4系統、HDMI出力は1系統となっている。アナログ入出力はこちらも削減される傾向にある。サブウーファ出力は2系統で、スピーカー出力は7系統

GUIによる設定はどちらも簡単で、自動音場補正の計測時間も短く使いやすい

 早速、設置や接続を行なっていこう。実際の取材ではそれぞれのモデルで、設置・設定→ネットワーク機能などのチェックと音楽の試聴→ガルパン劇場版上映をしているが、記事中ではくどくなるので、2台を同時に接続して随時切り換えながら聴いているかのような紹介にさせていただきたい。

 スピーカーとの接続は自宅のシステムを使用したので、ソニーは4.2ch。ヤマハは4.2.2chの接続を行なった。プレーヤーとはHDMI接続としている。センタースピーカーレスの運用はそれぞれにメリットとデメリットがあるが、センターレス派の自分は20畳以下の広さで多くても3人程度での視聴ならばセンターなしのデメリットはあまり感じないと思っている。一番の理由はフロントとセンターは同じスピーカーを使うべきであり、そうするとスクリーンに重なって視聴の邪魔になるからだ。

STR-DN1070のメニュー画面。画面全体を使ったグラフィカルな操作メニューだ。ソース切り換えのほか、設定などもここからメニューを選ぶ
RX-V581のメニュー画面。テキスト主体のシンプルなメニュー画面となっている。ソース選択などはなく、基本的に設定を行なうためのメニューだ

 続いて、自動音場補正機能を使って、各スピーカーのレベルや距離の測定、周波数特性の補正などを行なう。ソニーは「アドバンストD.C.A.C.」を採用しており、周波数特性の補正に加えて、位相特性の補正も行なう。計測時間は30秒ほどと短時間。ただし、7.1chなどスピーカーの数が増えると測定時間もやや増える。測定自体は1回で完了する。周波数特性の補正は3種あり、「フルフラット」、「エンジニア」、「フロントリファレンス」があるが、今回は聴感上好ましかった「エンジニア」を選んでいる。補正値のカスタマイズ機能はない。

STR-DN1070のスピーカー設定の画面。自動音場補正もここから行なう。スピーカー接続の設定などはマニュアルで個別に設定することも可能だ

 ヤマハは「YPAO」による測定。こちらも測定は1回で、測定時間も30秒程度とほぼ変わらない。ヤマハの場合は上級機になるとスピーカーの高さと角度を測る3D測定を行なうため4回の測定を行なうがRX-V581はその機能は省略されている。いずれにしても、測定自体は非常に短く、誰でも手軽に行なえる。周波数特性の補正は「PEQ」を選ぶとYPAOの測定に従った補正値が適用される。この補正値のカスタマイズはできない。このほか、EQ補正をオフにしたり、自由に周波数特性を調整できる「GEQ」も選べる。

スピーカー設定のための設定画面。個別に使用するスピーカーのサイズなどを設定できる。YPAOはマイクをつなぐと自動で測定画面で切り替わる

 GUIの操作は、ソニーは画面全体を使ったグラフィカルなメニューで、設定だけでなくソース切り換えや音場プログラムの切り換えなども親しみやすい操作ができる。

STR-DN1070のWatchソース切り換え画面・映像機器の入力選択が行なえる

 ヤマハは逆にメニューは設定を中心としたもので、表示もテキスト主体のシンプルなものだ。こうした操作メニューは好き嫌いが分かれるが、ソニーのメニューは映像ソフトの視聴中に画面がメニューに切り替わるのでわかりやすいが煩雑になる(画面にメニューを表示せずAVアンプのデイスプレイ表示でのみ操作することも可能)。ヤマハは視聴中でもオーバーレイ表示になるので、煩雑な印象は少ない。ソース切り換えや音場プログラムの選択などはAVアンプのディスプレイ表示で行なう方式のみとなる。音量や音場プログラム変更時には、画面にもテキストで小さく表示が行なわれる。

STR-DN1070の音場効果についての設定項目。サウンドフィールド(音場プログラム)の選択、イコライザ設定、サウンド・オプティマイザーなどの機能の設定ができる
RX-V581の音場プログラムの変更は、画面の隅にテキストで表示されるシンプルなもの。ボリューム表示もほぼ同様だ
STR-DN1070のサウンドフィールドの選択画面。独自のHD-D.C.S.では、ダイナミック/シアター/スタジオの3つのモードがある
RX-V581のDSPパラメーター(音場効果)の設定画面。シネマDSP 3Dモードのオン/オフ、センターチャンネルに関する設定などができる
STR-DN1070のネットワーク設定画面
RX-V581のネットワーク設定画面。こちらもスマホなどの外部機器からの操作や設定が行なえる

厚みのある音でパワフルなヤマハ、穏やかだがリアルな音のソニー。その音は好対照

 まずは手始めにネットワーク再生やUSBメモリー再生でステレオ再生の実力を試してみた。使用した楽曲はガルパン劇場版のオリジナルサウンドトラックだ。ソニーSTR-DN1070で聴いてみると、「劇場版・戦車道行進曲! パンツァーフォー!」のドラムの深い響きがしっかりとしている。低音楽器の音の伸びも優秀だ。ただし低音がモリモリとするようなパワフル型ではなく、フラットな音調で力はあるが上品で落ち着いた再現になる。残響を多く含んだ音の響きの消え際や豊かなステレオ感など音楽再生の質はかなり高いと感じた。

 ヤマハRX-V581の方は、中低域に厚みのある音で、ドラムの刻むリズムもパワフルだ。また管楽器の高音域の伸びに艶があり、聴いていて楽しい音楽になる。音の勢いがよく力強いメロディがよく伝わってくる再現だ。ソニーとの比較ではメリハリ型に感じるが、派手すぎるようなことはない。微小音の再現やステレオ空間の再現性では、わずかにソニーの方が優っていると感じるが、その差はごくわずかだ。

STR-DN1070のUSBメモリ再生時の楽曲リスト画面。ネットワーク再生でもほぼ同様の表示だ
RX-V581のUSBメモリ再生での再生中の画面。画面全体を使うのではなく、オーバレイ表示も意識した小サイズでの表示だ

 いずれにしても、5~6万円ほどのAVアンプとは思えない優秀さだ。10万円を超える上級機になると、さらに音の緻密さや情報量が増えてくるのも確かだが、価格ほどの差はないと感じる。これだけ実力が高く、しかも音質傾向としては大きく異なっているのだから、じっくり吟味することが大事になりそうだ。

ガルパン劇場版の音を存分に味わうにはサブウーファが重要!!

 ガルパン劇場版の上映といきたいところだが、その前にちょっとした調整を行なう。サブウーファのレベル調整だ。ガルパン劇場版を見るために何度も通った映画館の音を自宅で再現しようとするなら、サブウーファのレベル調整は自動音場補正任せにはできない。サブウーファ用のLFE信号のレベルが明らかに標準的な設定よりも大きめになっていることに気付いている人は多いだろう。これに合わせてサブウーファの音量も上げていく。

 サブウーファの音量を上げすぎると、不要な中高域の音が出てしまって、セリフが不明瞭になったり、中低音が濁ったりするので要注意。低音だけに注目するのではなく、セリフなど全体の音を聴きながら、サブウーファの音量を上げていこう。

 また、小型のサブウーファの場合、中低音の音が突出しやすいので、ローパスフィルターで80Hz以上の音をばっさりとカットする方法も試してみよう。ローパスフィルターを使うと低音の遅れの原因になるが、中低音の突出を嫌ってサブウーファの音量を絞ってしまっては、ガルパンの低音は出ない。真面目に測定したわけではないが、ガルパン劇場版では20~30Hzの低音成分がもの凄く多い。しかもこの帯域が出ないとかなり印象が変わってしまう。サブウーファによっては限界を超える低域だが、可能な限り最低域への伸びにこだわりたいところだ。

 調整にあたって実際にどのくらいレベルを上げたかをお知らせしたいところだが、アンプによっても変わったし、サブウーファによっても変わるし、何より部屋のサイズによって変わるので具体的な数値は公開しない。少なくとも自動音場補正の測定値よりも6~10dBくらいはレベルを上げているというのがヒントだ。

 当然ながら20Hzの低音がリアルに鳴っているとわかるレベルで再生すると、近隣への影響が大きくなるので要注意。夜間を避けるのはもちろんだし、ご近所の迷惑にならないように十分に気をつけたい。我が家では生活雑音が大きな昼間のみ、ガルパン上映をするようにしている。

いよいよ、ガルパン劇場版の音を大音量で再生!

 ようやく上映。ちなみにスピーカーは、フロントとサラウンドがB&Wのマトリクス801S3が4台。ウーファのサイズは30cm。サブウーファはこのために導入したと言っても過言ではないイクリプスのTD725SWMK2を2台。ウーファは25cmユニット×2。この構成で鳴らしているが、AVアンプ側のボリュームはどちらのモデルもほぼ全開だった。

ガルパン劇場版の爆音上映をホームシアターで再現

 作品や場面について細かく語っていくと、軽く一冊の本になると思うので、説明はほぼ省略する。まずチェックしたのは、大洗でのエキシビジョンマッチ冒頭のゴルフ場の場面。砲撃音もさることながら、フェアウェイの起伏を乗り越えて行くときの戦車のズシンとした重みのある音。ここで空気の揺れを体で感じるかどうかがポイント。

 ヤマハの場合、その重量感はちょっと軽く感じる。砲撃音の迫力は満足できるレベルなのだが、少し小粒な印象になってしまう。ソニーはかなり健闘していて、ズシンと響く感じまで力強く再現した。全体的な印象ではやや細身に感じるくらい上品な音なのだが、低音域の伸びではヤマハを上回る実力を発揮した。

 戦車の砲撃音は、車種ごとに違うどころかシーン(の広さや環境)によっても調整されているようで同じ音が繰り返し聴こえることがないと言えるほどの多彩さだが、これらの砲撃音の迫力はヤマハが上回った。これは、砲撃音が低音成分だけでなく、火薬の爆発する音などさまざまな音が混在しているため。基本的に中低音域に厚みのあるヤマハの方が砲撃音をより力強く迫力ある音で再現した。ソニーの場合はやや力強さには欠けるものの、前述したようなさまざまな音が含まれていることがよくわかる。重戦車KV-2がホテルを豪快に破壊するが、ホテルが破壊されていくときの音には外壁が壊れる音、内壁が次々に貫通し、反対側へ抜けていく音、それにともなって窓ガラスが割れる音が重なっていくが、こうした細かな音をかなり精密に再現する。入魂の作画で描かれていることもあって、実写の戦車映画の一場面を見ているようなリアルな感触が味わえる。ヤマハも細かい音の再現やサラウンド空間の描写はかなりのレベルなのだが、迫真性というかリアルな再現では今ひとつ及ばない。

大洗女子学園廃校! 学園艦を離れての静かな日々

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 続いては、TVシリーズでその危機を乗り越えたはずの大洗女子学園の廃校が決定してしまった場面。戦車戦なしの日常生活の場面を中心に聴いていく。ヤマハの音はキャラクターの声も厚みがあってしっかりとしているし、中高域に艶のある音色もあってとても声が可愛い。それぞれの声色の違いもよく出ているし、大勢のキャラクターが一斉にしゃべるような場面でも、声のひとつひとつを粒立ち良く描き分ける。とにかくキャラクターの多い作品で、人気声優も数多く参加しているので、爆音よりも声の再現を重視したい人もいるだろう。そんな人にはヤマハが向いている。

 ソニーの場合は、声の再現性や粒立ちの良さは非常に優れているのだが、フラットなトーンの再現になるので、キャラクターの感情の盛り上がりという点ではやや差を感じた。あくまでの2モデルの比較なので、ソニーの音が盛り上がりに欠ける音というわけではない。主人公の西住みほが九州の実家に戻り、姉のまほとの子供時代を思い出す場面などは、音楽の鳴り方も郷愁たっぷりだし、淡々とした会話や静かな街に聞こえる環境音などもきめ細やかに再現され、豊かな表現力と言える。この場合、ヤマハは可愛らしく魅力的な音ではあるが、情報量の多いことが逆に災いして少々にぎやかな印象に感じがちだ。

再び爆音無双!! 大学選抜チームとの30対30の殲滅戦

 生徒会長らの活躍で、大学選抜チームに勝利すれば大洗女子学園の廃校は撤回される。あとは壮絶な戦車戦へと突入していく。まずチェックしたいのは、カール自走臼砲の600mm砲弾の再現だろう。ここの轟音は他の映画でもあまり出会えるものではなく、この夏に控えている怪獣映画や母艦の大きさが大幅にデカくなるらしい宇宙人との戦争映画あたりが記録を更新するのではないかと期待している。

 さておき、発射音から着弾音まで強烈な音が詰まった600mm砲弾だが、じっくりと聴いてみると単に低音が出ていれば良いというものでもない。プラウダ高校のカチューシャの声に合わせるように着弾する1発目は、声を埋もれさせるような轟音でいて、しかし声はきちんと聴こえているバランスであることが重要。こうした鮮明な再現は両者とも合格点。どちらも聴かせ方こそ異なるが、解像感の高さや音の描き分けは優秀で、収録された音を混濁させずに再現できる。

 これだけのきめ細かな再現ができるからこその大音量だということを理解してほしい。分解能が低く、音が混濁しがちになるシステムの大音量はただうるさいだけなので、自然に音量が下がっていく。大音量なのにうるさくない。むしろ明瞭であるということは重要だ。

 カール自走臼砲は、イタリアの豆戦車をはじめとする軽量級の戦車で攻略することになるが、フィンランドのラリードライバーのような運転技量を見せつけるBT-42の活躍も素晴らしい。カンテレを加えた音楽に合わせて軽快に戦闘が繰り広げられるが、このリズム感の良さにも注目したい。スピーカーでも言えることだが低音の鳴りを意識したアンプは、案外低音は出るが鈍重な低音となって、リズム感を損なうことが少なくない。瞬間的な大電力を必要とする低音を素早く鳴らし、スパッと止めるような音楽が続くこの場面は、アンプの基礎体力が求められる。どちらも低音の弾力のある鳴り方に不満はないが、ソニーの方が出音の勢いの良さ、エネルギー感はよく出る。ヤマハも決して悪くはないのだが、ソニーに比べるとスピード感は足りずキレ味が鈍ると感じた。

 話は変わってカール自走臼砲に突撃する89式中戦車と豆戦車CV33は、発射された600mm砲弾を掠めながら接近していくが、この時の音の移動感も聴き逃せないポイントだ。まずは前方から割れ鐘を叩いたような音とともに砲弾が撃ち出され、前方から後方へ爆発音と砲弾が飛び去る音が移動していく。目の前に迫る音の圧力感ではヤマハ、爆発音が周囲に響いていくような空間の広がり感ではソニーが優勢だった。

 音の移動感は、激しく展開する戦車戦のあちこちで四方から飛び交う砲弾の移動感や、四方からの砲撃などでもよくわかるが、これに関してはソニー、ヤマハともに十分に優秀だ。ただし、どちらも音の粒立ちの良さ、定位の良さが目立ちすぎ、もう少しスピーカーとスピーカーの間の空間を埋めるようなつながりの良さが欲しいと感じた。これに関しては、ソニーならばHD-D.C.S.、ヤマハならばシネマDSPで響き感や空間感を補助するといいだろう。どちらでも出来は優秀で、かつての低価格AVアンプのような“浴室で聴いている”ような、ぼやけた残響の付加を感じることはない。好みにもよるが積極的に使っていった方が楽しいと思う。

 プラウダ高校の面々が主体となる撤退戦も、大きな見どころのひとつだ。大学選抜チームに包囲され激しい追撃を受ける場面だが、いつの間にか雨が降り出しており、周囲を雨音が埋め尽くし、激しい砲撃音の間に悲愴なセリフが交わされていく。さまざまな音を粒立ちよく再現することも重要だし、雨音の包囲感の再現も重要だ。ここもAVアンプの実力がよくわかるポイントだろう。

 ヤマハは健闘し、「これって安全に配慮したスポーツ競技だよね?」と確認したくなるくらいのドラマチックな雰囲気がよく伝わる。だが、ソニーはそれ以上。まさに次々と部下が倒れていく中の隊長の悲愴な想いが伝わる。飾り気のないストレートな音ということもあり、シーンの深刻さがよく伝わる。実写の戦車映画のようなリアルさを感じる音には脱帽した(作品としては深刻すぎるのかもしれないが)。派手さは少ないが、音その物の力感や芯の通った強さなど、基本的な実力が高いので、シリアスな場面での表現力はかなりのものだ。

 最後のチェックポイントは、大学選抜チームの大隊長が乗るセンチュリオンMk.1と、西住みほのIV号戦車、西住まほのティーガー Iとの最終対決だ。この戦いではセリフも音楽もなく、効果音だけで展開するカットがある。後から音楽が重なり、ほんのわずかなセリフのやり取りがあって、戦いが決着するという流れは見事。

 この轟音が鳴り響いていながらも「静かな」シーンでは、S/Nが重要。音量はフルボリュームに近いので、残留ノイズの影響などがあると、静かな緊張感が損なわれてしまう。筆者はこのシーンが近づくとエアコンも止めて、室内のS/Nを可能な限り高めるようにしている。結果はソニー、ヤマハともにS/Nは十分に優秀。残留ノイズが耳に付くような製品はAVアンプではほとんどないが、砲撃と砲撃の間の静寂感はモデルによって差が付きやすいが、今回のテストではどちらも息詰まるような静けさをしっかりと再現してくれた。

ガルパン劇場版には音質チェックに大切なすべてのことが詰まっているんだよ

 ガルパン劇場版は視聴テストでよく使っているが、要所を聴けばだいたいのチェックができるし、テスト結果が良かったモデルはその他の映画、音楽を聴いてもかなり優秀なことが多い。可愛い女の子が活躍するアニメということで色モノ扱いされがちだが、かなり音質が優れたソフトだと言っていい。

 面白かったのは、質は高いもののやや細身で落ち着いた印象のソニーが劇場版本編でも何度も唸らされるような豊かな表現力を発揮したこと。視聴前はヤマハの力強さと適度な華やかさがガルパンにはフィットすると予想していただけに、これは意外な結果だった。爆発音の迫力などはちょっとタイトになるのでもう少し量感が欲しいと感じるところもあるが、これは組み合わせるスピーカーなどで十分にカバーできる。Dolby Atmosなどのオブジェクトオーディオは、信号処理のためのDSPの負荷も大きいので、コスト的には厳しくなる。そこを潔く諦めて音に注力した結果だろう。

ソニー「STN-DN1070」

 しかし、総合的に遜色のない実力を発揮してオブジェクトオーディオに対応しているヤマハのコストパフォーマンスの高さも決してあなどれない。そのオブジェクトオーディオの実力にもぜひ注目してほしい。テストでは条件を揃えるために、どちらもDTS-HDマスターオーディオのストレードデコードで聴いているが、ここで、ヤマハのRX-V581によるドルビーサラウンドのアップミックス再生の印象についても紹介しよう。ドルビーサラウンドのアップミックスとは、ソースの5.1chをDolby Atmos再生用の5.1.2chに拡張して再生すること。実はこの効果が非常に優秀で、今までの多くの5.1ch/7.1ch音声の作品が立体的な空間を楽しめる。天井スピーカーは、トップフロント側に設置したイクリプスのTD508MK3を2本使用している。

ヤマハ「RX-V581」

 ガルパン劇場版の場合、ドルビーサラウンドで再生したときの一番の違いは空間感がさらに向上することだ。気付いている人は多いと思うが、戦車戦の場面で車長が体を外に出しているときの声と、車内にいるときの声で、車内にいるときだけ戦車内を思わせるエコーが付加されている。声にエコーを加えると不明瞭に感じやすいのでその効果はかなり小さめだ。このごくわずかなエコー成分をドルビーサラウンドが拾い出し、天井スピーカーおよび各スピーカーに分配(レンダリング)する。一番よくわかるのが、砲塔から身を乗り出して無線で連絡をしているダージリンが、砲撃に気付いて砲塔内に身を潜めながら連絡を続けているシーン。会話をしている場所の違いによる声の響きの違いがはっきりとわかるようになる。このほかにも、冒頭のゴルフ場で聞こえる虫や鳥の声、砲撃や着弾音が空間に響くときの音の広がりなどが豊かになり、スピーカー間のつながりが劇的に向上する。ソニーとのテストでも、DSPによる音場効果を使うといいと書いたが、ヤマハの場合はドルビーサラウンドを使うことでシームレスな空間のつながりを再現できる。こうした空間感の広がりが向上することで臨場感は大幅に高まる。この点を加味すると、結果としてはヤマハの方が優秀ということになるほどだ。

 いずれにしても、両方ともアニメのソフトとは思えないほど再生機器に厳しいソースであるガルパン劇場版をしっかりと鳴らしてくれた。これに、質の高いスピーカーとサブウーファを吟味して組み合わせれば、きっと映画館で聴いた音を自宅でも楽しめるはず。劇場に足を運ぶのはもちろんだが、ガルパン劇場版の音で自らのシステムの音を厳しくチェックして、ぜひともシステムのグレードアップに挑戦してもらいたい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。