鳥居一豊の「良作×良品」

第70回

5.1ch化した「ガルパン総集編」とともに3万円以下サウンドバーでシアター入門!

 今回の良作は「ガールズ&パンツァー 第63回戦車道全国高校生大会総集編」(以下「ガルパン総集編」)。タイトル通り、TVシリーズとOVAで描かれた戦車道全国大会を中心に約2時間にまとめたもの。こうした総集編は他のTVシリーズでもよくあるが、たいていは劇場公開されることが多い。しかし、本作は劇場にて「ガルパン最終章」の第1話を上映中というタイミングでもあり、劇場公開はしていない。劇場公開作という箔付けをして、BD/DVDを通常の価格で販売するどころか、価格は3,800円というお手頃価格。どちらかというと、まだガルパンをよく知らない人のために、総集編と劇場版を見れば、最終章がより楽しめますよ。というさらなるファン層の拡大が狙いと思われる。

ガールズ&パンツァー 第63回戦車道全国高校生大会総集編

 しかし、「ガルパン総集編」では、音声は5.1chにリニューアル。TV放映はステレオ音声で、BD版は2.1ch、OVAは4.1chだったので、一気に劇場版と同等のグレードになった。これも総集編と劇場版をまとめて見て、違和感を覚えないようにするための配慮だろう。音声のリニューアルを行なった、音響監督の岩浪美和、録音調整の山口貴之、音響効果の小山恭正の3人による音響チームコメンタリーも収録。さらに、いつもの面々によるミリタリーコメンタリーもある。

 本編も、TV版とOVA版を素材とした再編集で済むところを、あんこうチームの5人が振り返っていく形式として、要所でストーリーなどを補足するナレーションを新規に収録している。これだけ手間のかかった作りをしながら、劇場公開もせず、(繰り返すが)価格は3,800円。これはもう、絶大な応援をしてくれたファンへの感謝の表れとしか言いようがない。

 ポイントはリニューアルされた音声だが、TVシリーズのイメージを引き継ぎながらも、サラウンド化のチャンネルの振り分けや迫力を増した砲撃音などは最新作である「ガルパン最終章」に近い感触になっており、放送当時からファンを魅了してきたガチな戦車戦のガチさが劇場版グレードにまで高まっている。

 実は映像的にもグレードが上がっている(ような気がする)。新作カットもないし、作画修正なども行なわれていないし、映像については、特に新しい要素があるとはアナウンスされていない。だが、再編集を行なった映像のエンコードの質が向上していることがわかる。おそらく720pでの制作だったTVシリーズやOVAは、細部のカットなどでディテールの潰れやジャギーが生じていて、4Kテレビでそれをアップコンバート表示すると映像の細かな乱れが気になった。それが今回ほとんど目に付かないスムーズな映像に仕上がっていた。フルHDへのアップコンバートなどを含め、使用機材が更新されているだけかもしれないが、4Kテレビの普及が加速しつつある今、旧作もより見やすい画質で楽しめるのは実にありがたい。ここまでやっていて、価格は(略)。

せっかくの5.1ch音声の作品を、2.0/2.1ch再生のサウンドバーで聴く

 今回、「ガルパン総集編」をどんな製品と組み合わせて紹介するかについては、少々頭を悩ませた。AVアンプは「ガルパン劇場版」でやった(しかも2回)。本格的な5.1chシステムということも考えたのだが、次に「ガルパン最終章」が控えている。

 「ガルパン総集編」は、どちらかというとコアなファンというよりは、あまり詳しくは知らないライトなファンのためのものなので、組み合わせる製品も身近なものが良いと考えた。そこで選んだのが、コンパクトなサウンドバータイプのスピーカー。しかも、ローエンドの価格帯のモデル。バーチャルサラウンド機能は持っているとはいえ、2.0/2.1chのスピーカーで本格的な5.1ch制作のサラウンドを聴くとなると、サラウンド感などについては物足りなさがあることは十分に予想できる。

 筆者がガルパンの音に要求するレベルはかなり高いので、紹介する製品についてはかなり荷が重いのだが、それでもお手軽なサウンドバーがどこまで健闘するかをじっくりとチェックしてみたい。

 今回テストしたのは、JBLの「BAR STUDIO」(実売価格19,200円)とソニーの「HT-S200F」(同28,620円)の2モデル。実売2~3万円のエントリークラスのモデル。サイズもコンパクトで、薄型テレビとも組み合わせられるし、プライベートルームなどあまり広くない部屋でも使えるサイズだ。

左がソニー「HT-S200F」、右がJBL「BAR STUDIO」。どちらもサイズ感は同じ位のコンパクトなシステムだ
手前側がJBLで、奥がソニー。ソニーの方が奥行きがあり、やや大きく見えるが、横幅はJBLの方がやや長い
横から見たところ。右がJBLで、左がソニー。ソニーは両サイドにバスレフポートの開口部がある

 まずはそれぞれをじっくりと見ていこう。JBLの「BAR STUDIO」は、2.0chのシステムで、左右それぞれにツィータとウーファを備えた2way構成。HDMIのARC機能に対応しており、薄型テレビとHDMIケーブル1本で接続するだけでテレビの音をスピーカーから出力できる。

JBL BAR STUDIOの外観。前面がパンチングメタルに覆われ、やや無骨な外観になっている

 薄型テレビにゲーム機やBDプレーヤーなどをつないでいる場合も、テレビ側の入力を切り替えるだけで、音声を外部スピーカーから出力できるので便利だ。

 サブウーファを持たない2.0chシステムなので、ボディも1つ。コンパクトなサイズなので、薄型テレビのスタンドの手前に置いて邪魔にならない。

 デザインは角を丸めた角材のようなシンプルなデザインで、ボディ全体はパンチングメタルで覆っている。前面にはスピーカーが内蔵され、バスレフポートの開口部は中央付近にあるようだ。操作ボタンは天面に電源/入力切り替え/音量調整の4つがある。

天面の中央にある操作ボタン。左から電源/音量ダウン/音量アップ/入力切替
JBLのスピーカー部分をクローズアップ。パンチングメタルごしにユニットが見える。ユニットは円形のユニットであることも確認できる

 背面には、HDMI(ARC)や光デジタル音声入力などがある。USB端子はUSBメモリに保存した楽曲の再生用だ。HDMI(ARC)を持たない薄型テレビでも使えるように、光デジタル音声入力も備えている。必要十分な装備だ。

 Bluetoothも内蔵しており、スマホのなどの音楽をワイヤレスで楽しむことも可能。コンパクトなスピーカーとはいえ、機能も充実している。

背面にある入力端子。ACアダプタ端子、光デジタル音声入力、音声入力(ステレオミニ)、USB、HDMI(ARC)
本体と付属のリモコン。リモコンはコンパクトなカードタイプ。入力や音量の切替のほか、音声モードの切替もできる

 今度はソニーの「HT-S200F」。見た目のフォルムは共通だが、ほんの少し背が高く、奥行きもある。JBLよりも横幅は短いのだが、やや大きめな印象だ。外観はスピーカーのある前面にパンチングメタルのカバーがあり、天面は革のようなイメージの加工を施したものとなっており、質のよい仕上がりになっている。操作ボタンはタッチセンサー式で見た目もすっきりとしている。

ソニーのHT-S200Fの外観。角を丸めたシンプルな外観

 スピーカーは、前面のフルレンジが口径46mm、底面のウーファが口径70mmでともに円形のユニットを使用している。

 HT-S200Fは、カラバリが選べるのも特徴だ。取材に使ったモデルはブラックで、このほかに白に近い色のチャコールグレーがある。部屋や設置する家具に合わせて選ぶといいだろう。

中央の操作ボタン部分。ボタンはタッチセンサー式で、アイコンを触れて操作。左から電源、入力切替、Bluetooth、音量ダウン、音量アップ。
底面にあるサブウーファ。振動板の素材は発泡マイカ。口径は70mmだ。

 スピーカーは、前面に配置された左右それぞれ1個のフルレンジユニットと、本体の底面に配置されたサブウーファによる2.1ch構成。ワンボディのシステムという点では共通だが、より低音再生を重視したユニット構成になっている。

 接続はこちらもHDMIのARC機能を採用するため、HDMIケーブル1本で接続が可能。このほかに光デジタル入力、USB端子がある。Bluetoothのワイヤレス接続に対応するためか、JBLと異なり、アナログ入力端子はない。

背面の接続端子部分。左にACアダプタ端子があり、横向きの配置でHDMI(ARC)、光デジタル入力端子がある。一番奥にあるのがUSB端子
付属のリモコン。細長いスティック状のリモコンで、音声モードの切替のほか、音量や入力端子、USBメモリ再生時の楽曲再生ボタンもある

いよいよ「ガルパン総集編」を上映!

 どちらもコンパクトなので、薄型テレビを置いたラックの手前にスピーカーを配置。接続も簡単なので準備は非常に簡単だった。というわけで、さっそく上映開始といこう。こうした2モデルの比較では、JBLとソニーでそれぞれ上映しているが、記事では同じ場面を交互に比較しながら聴いたように書いている。ちなみに音量は、一般的な家庭と同じ位かやや大きいくらいとしている。

 まずはイントロダクションとして、あんこうチームの面々が自己紹介をしながら、第63回戦車道全国高校生大会の思い出を振り返る趣向のトークが用意されている。基本的に内容は各校との戦車戦を中心としており、主人公の西住みほが転校した当初や、生徒会によって無理矢理に戦車道を選択させられるといったストーリーは、あんこうチームのトークでダイジェストで追っている。

 こうした構成としたことで、実はガルパンがガチの戦車戦だけが魅力の作品ではなかったと改めて感じる。戦車戦ばかりを中心とした総集編というのは、美味しいところだけを集めた理想的なものと思えるが、実はそれだけ見ると、改めてTVシリーズとOVAの全話を見返したくなる。総集編は一度は戦車道を諦めた西住みほが自分の戦車道を再発見するまでを軸としているが、大洗女子学園個性豊かでしかも膨大な数のキャラクターがきちんとクローズアップされ、それぞれに目的を持って戦車道に邁進していく様子があって、はじめてガルパンだとわかる。総集編が初見という人は、その後で改めてBD/DVDで全話購入あるいは、動画配信などで全話を見るというのもアリだろう。

 本格的な試聴は、まずオープニング曲で行なった。これはTVシリーズ、OVAと共通のスタイルだ。映像的にはまったく同じだが、こちらも5.1ch化されていて、しかも戦車の砲撃や走行音などのSEが追加されていて、ちょっと新鮮な印象だ。

 JBLは、歌声がクリアーで声に厚みがあってパワフルな印象だ。ベースやリズムも力強く、それでいて電気的に増強したようなこもった感じがなく、リズムのよく弾む躍動感のある音でなかなか気持ちがよい。SEも細かな音まできちんと描き分けている。

JBL BAR STUDIOを設置した状態。後方の55V型テレビと比べると、サイズのコンパクトさがわかるだろう

 JBLの音質モードは、スタンダード/ムービー/ミュージック/ボイス/スポーツがあり、サラウンド感がしっかりと出るのはムービーだったので、これを選んだ。スタンダードを標準的なものとすると、ムービーは低音もぐっと力を増しており、音の広がり感も豊かに鳴る。どのモードも鳴りっぷりの良さは共通で、名称のジャンルに合わせて低域や高域のバランスを変化させたもののようだ。

 なお、本機にはディスプレイはなく、操作に対する反応は、ボディの左側にあるLEDの点灯で確認できる。LEDはタテに5つ並んでいて、音量調整は5段階でおおよその音量が示されるし、入力を切り替えるとLEDの発光色が変わる。それほど多機能な製品ではないので、LEDの点灯だけでも動作状態はきちんと確認できる。

 音声としてはダウンミックスされたステレオ音声を受け取り、それをバーチャルサラウンド化しているようで、本格的な5.1ch再生と比べると前後の音の広がりは乏しい。しかし、横の広がりは豊かで55型の薄型テレビよりも広いくらいの音場が展開する。サイズがコンパクトだから、小~中画面向きと思いがちだが、大画面テレビと組み合わせてもスケール感が不足するようなことはない。

リモコン操作に対するLEDの表示。左は音量を最大にした状態。真ん中は音量が最小の状態。右はBluetoothを選んだ状態で、発光色が緑色になっている

 ソニーHT-S200Fは、JBLの躍動感のある鳴り方からすると、やや落ち着いた印象に感じる。音のクリアさや細かな音の再現性は優秀で、聴きやすいし、整った良い音に感じる。サブウーファの鳴り方もやや大人しいくらいだったので、少し低音増強している。

ソニーHT-S200Fを設置した状態。比べるとサイズは微妙に違いがあるが、55V型テレビの前に置いた時の状態はほぼ同じ印象だ

 サラウンド再生については、こちらも音声はステレオ信号を受け取り、バーチャルのサラウンド再生を行なっている。とはいえ、他のホームシアター機器と同様の「S-FORCE PRO フロントサラウンド」が採用されており、左右の広がりだけでなく、前方の奥行き感なども表現できている。価格が高いこともあるが、サラウンド再生の実力はソニーの方が優秀だ。

 音質モードは、スタンダード/シネマ/ミュージック/ボイス/ナイトモードで、サラウンド感がもっとも豊かになるのがシネマ。ミュージックやボイスはテレビ放送向きのもののようで、ステレオ再生に近い感触の再現だ。

 HT-S200Fもディスプレイは無く、入力ソースを示す3つのLEDの表示で操作に対する反応を示す。例えば音量を上げると、白、青、白と点灯するLEDが増えていく。入力切替はそれぞれ選んだ入力に対応する部分のLEDが光る。

操作ボタンの手前にある入力表示のLED。左は入力を切り替えた状態。テレビとの接続を示す「TV」の白いLEDが点灯している。右は音量を最大にした場合。3段階でおおまかに音量を示している

 次は、大洗女子学園での初めての戦車戦、聖グロリアーナ女学院との練習試合で、本格的なサラウンド再生を確認していこう。JBLはムービーで聴いたが、横方向の広がりが豊かでスケール感は十分。ただし、前後の広がりは前方手前と奥の再現がなんとかわかる程度で、後方への音の回り込みもやや物足りない。

 ソニーはシネマで聴いたが、横方向だけでなく後方への音の回り込みもがんばっていて、感覚としては自分の視聴位置までは音が迫ってくる感じ。真後ろはさすがに希薄になるが、音に包まれている感じも十分にある。

 このようにサラウンドに対して厳しく評価してしまうのは、「ガルパン総集編」のサラウンドの音の配分が絶妙だから。サラウンドの音の配置などのデザインは、「ガルパン総集編」に近いものとなっていて、本来はセンターに固定されているはずの声も、そのキャラクターが画面から姿を消すと、音も右または左に振り分けられ、画面外にいる人が話していることがわかる。

 だからといって、画面の外でぐるぐると歩き回っている人の声を音もサラウンドでぐるぐる回すような極端なことはしないが、画面への集中力を邪魔しない範囲でうまく音を振り分け、サラウンドの面白さがよく味わえるようになっている。

 サラウンド感では分が悪かったJBLだが、戦車の砲撃はかなりの大迫力。初めての戦車戦でIV号戦車が砲撃を行なった場面は、TVシリーズ版の2.1ch音声での痺れるような音を覚えている人でも、本格的なシステムでしかもそれなりの音量で再生していると、腰を抜かすような音が入っているのだが、このときの目の覚めるような迫力ある音の感触がしっかりと伝わった。これはやはり中高域の反応がよく、スパッと音が立ち上がる良さ。低域ももたつくことなくついてきて、しかも力強く鳴るので、実際の音量以上に大音量と感じる(このあたりは、音響チームコメンタリーでタネ明かしされているが、ダイナミックレンジを広くするだけでなく、SEのエンベロープ[波形]を調整し、迫力があって、しかも耳に負担が少ない音を模索しているようだ)。

 一方のソニーは、特に低域の底力はJBLよりもあり、深く伸びる響きまでしっかりと出るのだが、ニュートラルな音のバランスのせいもあり、音の立ち上がりが緩やかで、迫力はあるがびっくりするほどの威力とは感じにくい。あくまでも比較しての印象なので、ソニーが物足りなさを感じるほど落ち着いた再現というわけではないのだが、JBLのスピードの速い音の出方との差を感じる。

 反面、前後左右に飛び交う砲撃の感じはサランド感に優れるソニーが良い。聖グロリアーナとの練習試合で、大洗側は住宅地に逃げ込んでの攪乱作戦に入るが、道路を走りながら一発砲撃して画面の左へ姿を消し、敵戦車が足を止めたところで、Uターンして左から姿を現して砲撃するという場面がある。ここは、画面の奥から迫る敵戦車、最初の砲撃(画面中央)、Uターンして再び砲撃(画面手前)の3つの場所の前後関係がきちんと音で表現されている恐るべきシーン。イメージとしては、画面の奥の走行音がだんだんと近くなってきて、画面中央の砲撃でフロントスピーカーが鳴り、画面手前の砲撃でフロントとサラウンドスピーカーが鳴るという感じ。つまり、画面手前の砲撃はほとんど自分の真横で砲弾が撃ち出されたような印象になる。平面である映像の動きを前後5本のスピーカーを使って、実に立体的に描いているのだ。

 この感じは、さすがにリアルに5本スピーカーを置いたシステムには及ばないが、ソニーは音が自分の居るところまでは迫ってくるので、この前後感はしっかりと味わえる。

広い場所の開放的な音の広がりがよくわかるサンダース大学付属高校戦

 次はいよいよ戦車道全国高校生大会のはじまりだ。緒戦の相手であるサンダース大学付属高校は、広い平原と森林のある場所で、音の響きや広がり感がよくわかる。解放感のある音の広がりはJBLもしっかりと再現できていて、圧倒的な物量を誇るサンダースのシャーマン戦車軍団の砲撃も迫力満点。ファイアフライの17ポンド砲はことさら迫力のある音で、思わずイスから飛び上がるような音が出る。砲撃の後の残響などで低音の伸びが足りていないことはわかるのだが、それがあまり不満に感じない。ヘタに中低域を盛り上げたような低音感でもなく、しっかりと力のある低音に仕上げているのは見事だ。

 ソニーはより広々とした広がりがあり、後方から追撃され砲撃にさらされる場面も前後感も含めて奥行きのある表現になる。オーディオコメンタリーによると、砲撃音のライブラリーは戦車ごとにきちんと用意されているわけではなく、場面に合わせて最適な音を当てはめているようだ。それが手抜きというわけではなく、むしろ、遠くからの砲撃、至近距離での砲撃、距離による音の響きの違いを画面に合わせてきちんと変えて配置しているのだから、むしろ手間がかかっていると感じるほど。こうした距離による砲撃の音の違い、あるいは戦車内の場面で砲撃をしたときの車内での音の響きなどが、それぞれに響き方を変えているのがよくわかる。細かな音の描写、正確さという点ではソニーの音はなかなかの実力だ。

 ちなみに、キャラクターの声もなかなか芸が細かく、画面外の声をセンター以外に配分するだけでなく、ナレーションとしてのあんこうチームのトークは音量感や定位感が変えられていて、画面のキャラクターがしゃべった声とは感触が違う。膨大な数のキャラクターの声の描き分けを含めて、声の再現性の多彩さもソニーの方が表現力が豊かだ。これに比べるとJBLは元気はいいのだが、一様に元気一杯の声に感じてしまうこともある。

疾走感たっぷりのアンツィオ高校戦&大雪のなかで展開するプラウダ高校戦

 続くアンツィオ高校との戦いは舞台が山岳地帯。しかも豆戦車が大活躍の楽しい戦いだ。ここではWRCのラリー競技を思わせるような軽快かつハイスピードな戦いと、2台の戦車がぶつかり合いながら超接近戦を繰り広げる豪快な戦車戦が見物。ここはOVA編のパートということもあり、作画もかなり充実しているので見応えもある。

 JBLは豆戦車のスピーディーな動きをキビキビとした音で聴かせてくれるし、ノリの良さが身上のハイテンションなアンツィオ高校の面々ににぎやかさも実に楽しく描いてくれる。山岳地帯の道を戦車で走るということで、砂利が飛ぶ音や路面を滑る感じの音も入っているが、これらの音がキビキビと出るので、スピード感が一層増す。

 ソニーは、プラウダ戦での雪上での戦車の音をきめ細かく描いている。今年は関東圏でも4年ぶりの積雪があったが、大量に積もった雪は音を吸うので本来音は静かになる。そこをリアルに再現すると迫力不足となるので、雪が潰れる感じやエンジン音や走行音がやや籠もった音になるようにして、雪上の感じを表現したという。こうした目立ちにくい音の演出もソニーはしっかりと描いている。

 また、プラウダ高校の包囲網を突破するときの、大洗生徒会の3人の操る38(t)戦車の活躍では、周囲で飛び交う砲撃にさらされる車内を描いているが、そのときの音がすごく、ただ漠然と車外で砲撃音がするというだけでなく、きちんと音に前後左右の響きの違いがあることがわかる。こうしたなかなか再現しにくい微妙な響きの違いも、前後左右の定位感を含めて、ソニーはなかなか上手く再現できており、後方の音の物足りなさを別とすればサラウンド感もなかなかのものだとわかる。

決勝の黒森峰女学園では、超重戦車マウスの砲撃に身体が震える

 いよいよ、黒森峰との決勝戦。全編見どころと言える場面で、語り出すと止まらないのだが、あえてここは超重戦車マウスの場面だけを紹介。マウスはわりと走行音の音も印象が変わっていて、初登場の場面はまさに体育館などに鉄の引き扉を開いているような鉄のこすれる感じ主体だったのが、それに加えて鉄の軋む感じや路面の砕ける感じと情報量が増していて、さらに重量感のある音に仕上がっている。ソニーはそうした細かな音を明瞭に描き分けるし、JBLは重量感たっぷりの重みをよく伝えてくれる。方向性こそ違うものの、どちらもなかなかの実力だ。

 砲撃音もかなりの迫力だが、これだけバンバン砲撃音が鳴り渡る作品で、ひときわ音量的にも大きくなったと感じさせるテクニックは見事だ(オーディオコメンタリーで、その秘密が少しだけ明かされている)。ダイナミックレンジの広い音作りは、ある程度の音量で鳴らす必要はあるが、音作りの自由度という点でも魅力が大きい。JBLとソニーも、絶対的な音量は映画館どころか大型スピーカーにもおよばないが、作品で表現している音量感をきちんと描いている。

サウンドバーはいいぞ!

 今回、5.1ch音声が大きな魅力である「ガルパン総集編」で、2.0/2.1chのスピーカーで聴いたというのは物足りなさを感じることになるかと心配したが、案外期待した以上に作品の魅力ある音を再現できていたと思う。

 今回の印象としては、砲撃音の迫力やエネルギー感、戦車戦の臨場感を重視するならばJBLが優位。2.1chとはいえサラウンド感も重視したいという点ではソニーが優位と感じた。もしも、この2つのモデルから選ぶならば、このあたりが選択の決め手になるだろう。

 こうしたモデルは、本来の役割がステレオ音声中心であるテレビ放送の音をより良い音で楽しむことが主要な目的となるが、その点でもなかなか満足度の高いシステムだと感じた。アニメはもちろん、テレビドラマをたくさん見るという人ならば、こうしたスピーカーがあれば、さらに作品に熱中できると思う。

 サラウンドの本格的な表現力となると決して十分ではない。だが、本作の音の良さはしっかりと味わえる基本的な実力の高さは十分だ。「ガルパン総集編」に限らないが、本作の音は実に巧みに作られていて、しっかりとしたシステムで再生すると、同じ作品とは思えないほどに面白さが増す。そんなことを教えてくれる本格的なホームシアター用のスピーカーの入り口として、多くの人におすすめしたいモデルだ。

 さて、次回は「ガルパン最終章」の第1話を予定している。現在、どんな製品を組み合わせようかと思案中。本格的なサラウンドシステム、あるいは映像機器など、ご要望があれば、Twitter( #鳥居ガルパン )やメールなどでお教えください。すべての要望には応えられませんが、次回の記事の参考にさせていただきます。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。