鳥居一豊の「良作×良品」

第69回

ハイレゾでオーケストラ! 「ドラクエXI」の冒険がティアック「UD-505」で蘇る

 ティアックはミドルクラスのHiFiコンポーネントを横幅290mmほどのA4サイズで展開している。ミニコンポよりは一回り大きいが、ちょっと横幅の広いデスクならば机上でシステムを置くこともできるサイズ感で、パーソナルルーム用として、リビングスペースに置く高品位なシステムとして使いやすいものになっている。

UD-505

 コンパクトというとお手軽に使えるものをイメージしがちだが、作りは本格的なもので、業務用機ライクなハンドルのついたサイドパネルにヘアライン加工されたアルミのフロントパネルなど、堅牢な作りのシャーシを採用。内部的にもこだわった回路構成を採用しており、音質を含めて実力にこだわりたい人にはうってつけの製品だ。

 今回紹介するのは、新USB DAC/ヘッドフォンアンプの「UD-505」(実売159,840円)。

UD-505と付属のリモコン

 兄弟モデルとしてUSB DAC回路などが共通したUSB DAC/ネットワークプレーヤー「NT-505」もある。両者の違いはカテゴリー名の通りヘッドフォンアンプか、ネットワークプレーヤーかの違いで、UD-505は6.3mmの標準プラグ×2、4.4mmのバランス端子を備え、ヘッドフォンのバランス接続に対応。NT-505はNASやPCのHDD内にある音楽のネットワーク再生や、定額制音楽配信サービスなどに対応している。

 ヘッドフォン出力も備えるが、3.5mmのステレオミニ端子のみとなる。PCなどとの接続がメインとし、こだわったヘッドフォン再生も行なうならばUD-505、PCとの接続はメインではなく、ネットワーク接続で一般的なオーディオプレーヤーとして使うことが多いならばNT-505という使い分けになるだろう。

 今回はスピーカー再生、ヘッドフォン再生の両方の実力をしっかり確認したかったこと、自宅のハイレゾ再生環境が基本的にPC(Mac mini)を使っているので、UD-505を試した。

コンパクトなモデルでも作りは本格派。堅牢な作りのシャーシ

 天板まで含めてアルミパネルで構成されたUD-505のボディは堅牢で、サイズのコンパクトさもあって金属の塊のような剛性感がある。フロントパネルを見ると、ヘッドフォン出力端子が標準プラグ×2だけでなく、新規に4.4mmのバランス出力を備えたことが特徴。ステレオミニ端子については、別売の変換アダプタを組み合わせて標準プラグとして接続する必要がある。

UD-505のフロントパネル。中央付近のディスプレイの下に合計3つのヘッドフォン出力がある。ポータブルプレーヤーなどを接続できるステレオミニの光/同軸デジタル入力も
サイドパネル。厚みのあるアルミ製となっており、フロント部分はハンドル風のデザインとなっている。これもシリーズ共通

 背面には、USB入力、光/同軸入力があり、外部クロック入力も備える。オーディオ入出力はアンバランス入力(RCA)が1系統、バランス/アンバランス出力(XLR)が各1系統となる。このサイズのモデルとしては十分に立派な装備だ。

背面の入出力端子群。写真の左側にライン入出力があり、右側がUSB端子とデジタル入力、外部クロック入力、電源コネクターがある。デジタル部とアナログ部が分離された内部構造がわかる
MENUからの設定では、バランス出力端子の極性の切り替えも行える。組み合わせるアンプなどの極性に合わせて使用する

 底面にあるスパイク式のインシュレータは手前が2つ、後方が1つの3点支持となっている。このあたりは、シリーズの作りを踏襲したものだ。ティアックはスパイク式のインシュレータを採用することが多く、以前使っていたCDプレーヤーのVRDS-25は尖ったスパイクと別体のスパイク受けがセットになっていて、設置時にスパイク受けを置くのが難しくて難儀したのだが、UD-505などの現行モデルは、スパイクとスパイク受けが一体となっているので、設置がかなり楽になった。

底面のスパイク式のインシュレータ。スパイク受けがガタついているように見えるが、脱落防止の構造で一体化されているため。設置時は点接触となる
インシュレータをズームアップしたところ。スパイク部とスパイク受け部の二重構造になっていることがわかる。点接触と3点支持で安定した設置を追求している

AK4497を2基搭載など一新されたデジタル信号処理部

 外観からでは、前作から大きな変化のないUD-505だが、内部は大きく変わっている。DAコンバータ部には、旭化成エレクトロニクス社のフラッグシップDAC「VERITA AK4497」を左右独立で2基搭載。本来は1基でステレオ出力が可能な2chDACなのだが、贅沢にもモノラルモードで使用している。左右それぞれで2つのDACで同じ信号処理を行ない、後で加算する。信号出力は2倍となるが、2つのDACに流入する非相関なノイズは2倍とはならないので結果的にS/Nが向上するというわけだ。

 このDACチップの採用により、USB入力時にはリニアPCM最大768kHz/32bit、DSD最大22.5MHzのネイティブ再生に対応する。現時点においては最高スペックで、音源がほとんど流通していないことを考えると、オーバースペックとも言えるが、このハイスペックはアップコンバート機能などにより、96kHz/24bitなどの一般的なハイレゾ音源でもその実力を試すことができる。

 アナログオーディオ回路は、ティアック独自の電流伝送強化型バッファーアンプ「TEAC HCLD回路」を4回路搭載したデュアルモノーラル構成となっている。デュアルモノーラルとは、モノーラル信号処理回路を左右それぞれ独立した構成ということ。左右の信号が回路ごと独立しているので左右の信号の混入の少ないステレオセパレーションに優れた信号処理が可能だ。

 この回路を、バランス出力時はフルバランス駆動、アンバランス出力時には左右合計で4回路を使ったパラレル駆動で使用し、さらなる高音質を追求している。

 このほか、Bluetoothレシーバ機能を採用。対応するコーデックは、SBCに加えて、LDACやaptX HD、AACに対応。高音質な携帯音楽プレーヤーとのワイヤレス再生でもより優れた音質で音楽を楽しめる。

壮大な冒険をオーケストラ演奏で楽しめる「交響組曲ドラクエXI」

 試聴する良作は、「交響組曲ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」。昨年発売されたシリーズ最新作の音楽を、作曲のすぎやまこういちが指揮し、東京都交響楽団が演奏している。CDでも発売されているが、ここで使ったのはe-onkyo musicなどで配信されているハイレゾ版(96kHz/24bit、FLAC版とWAV版が配信中)。

「交響組曲ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」

 筆者はゲームの「ドラクエXI」をPS4版でプレイしたが、オープニングでいきなり感激した記憶がある。なぜならば、オープニングのムービーで演奏がフルオーケストラによる壮大なものだったから。しっかりと東京都交響楽団とクレジットされているし、この時点でサントラ盤の購入を確信していた。ちなみに、オープニングムービーの演奏は、「交響組曲ドラクエXI」では、1曲目の「序曲」として収録されている。

 さっそくUD-505で聴いてみよう。UD-505自体でボリューム調整が可能なので、プリアンプを使わずにパワーアンプのアキュフェーズ「A-46」に直接バランス接続している。本機のデュアルモノーラル構成とバランス駆動を活かし、パワーアンプまでフルバランス駆動としている。スピーカーは、いつものB&W Matrix801 S3だ。

 その音は、ダイナミックレンジの広い躍動感の豊かな音で、金管楽器群が一斉に音を鳴らす目の覚めるような導入を鮮やかに描いた。当然ながら、ゲームで何度も聞いたオープニングムービーとは演奏は同じでも音質の良さがまるで違う。むしろ同じ演奏だからこそ、その音質の良さがよくわかる。各楽器の音の粒立ち、オーケストラの雄大なスケール感や音の広がりが見事で、このクオリティならば映像なしでも十分に「ドラクエXI」の冒険が鮮やかに蘇る。

 UD-505ならではの印象としては、芯の通った低音のエネルギー感の力強さや、情報量がたっぷりで華やかな感触も豊かな中高域という、メリハリの効いた鳴り方。これは、従来モデルと近い傾向ではあるが、DACチップが変わったことでトータルの音質チューニングも変わったのか、メリハリは効いているが不自然な強調感は抑えられ、音色の美しさや個々の音の質感まできめ細かく描き出す表現力の向上が得られている。

 続いて2曲目「冒険のはじまり〜勇者は征く」を聴くと、フィールド移動時の音楽を中心に、序盤での旅立ちの場面で使われた曲を集めて再構成した曲になっていることがわかる。だから、どれも聴き慣れた音楽なのだが、テンポ感が変わっていることに気付く。この曲ではタイトル通りに旅立ちを描く雄壮なマーチ風のアレンジとなっていて、スネアドラムなどによる打楽器のリズムが勇ましい。なにより、音のひとつひとつが生き生きとしていて、まさしく生演奏のライブ感を感じさせてくれる。

 UD-505も鮮度の高い生き生きとした音を描くのにぴったりで、音の立ち上がりの勢いの良さ、リズムの生み出すグルーブ感がよく出る。中高域のエネルギーがたっぷりで実に若々しい印象の曲になる。朝の出勤前などに聴けば、「よし、今日もがんばるぞ!」という気持ちになるはず。

新搭載のUSB伝送技術「Bulk Pet」を試す

 ここで一度再生を中断し、PC側の設定を変更した。Mac miniとAudirvana 3.1.2による再生の場合、ドライバのインストールは不要で、ここまでの再生もドライバなしのままで再生している。この状態でもDSD音源のネイティブ再生などスペック的な差異は生じない。

 改めてMac用に用意されたドライバ(TEAC ASIO USB DRIVER V1.0.0 for Mac)をインストールしたのは、新たに採用されたUSB伝送技術「Bulk Pet」を試すためだ。一般的なPCとUSB DACとの接続はアイソクロナス転送で行なわれる。これは、周期的に決まった量のデータを転送する方式で、間欠的にデータを最速で転送する。USBでのデータ転送の方式としてはUSB DACなどのオーディオ機器でも標準的に使われるもので、決して悪い転送方式ではないが、データ転送時にPC側、受信するUSB DAC側ともに定期的に高い負荷がかかり負荷変動が大きい、これが音質に影響するという。

 Bulk Petが採用するBulk転送方式は、大規模なデータを正確に転送する方式で、転送するデータ量と転送サイクルを任意にコントロール可能となっている。Bulk Petでは、転送するデータをできるだけ少なくし、かつ連続的なデータ転送にすることで、PC側、受信するUSB DAC側の負荷の変動を安定させることができる。この結果、音質改善の効果があるというわけだ。

「TEAC USB AUDIO」のコントロールパネルを表示したところ。ボタン風のアイコンをクリックすることで、アイソクロナス/Bulk Pet1〜4を切り替え可能

 ちなみに、Windows PCではドライバのインストールが必須だが、UD-505などのBulk Pet対応機の場合、自動的にBulk Pet転送になるわけではなく、コントロールパネルなどの設定で、アイソクロナス転送とBulk Pet転送(モード1〜4)を切り替え可能。聴き比べも行なえる。これはMacでドライバをインストールした場合も同様。

 理屈はさておき、音質に影響があるというならば聴き比べてみよう。まずは、ドライバをインストールし、Bulk Petが有効になっていることが確認できた状態で、もう一度、1曲目と2曲目を聴き直してみた。

 見違えるような音の差というわけではないが、個々の音のエネルギー感が増し、出音の勢いがよくなったと感じる。音の鮮度がさらに増し、UD-505の音の出方との相性の良さもあって、確かにBulk Pet転送の方が良好だと感じた。

 そして、Bulk Pet転送では、用意されている4つのモードを切り替えることも可能。これは、信号を送り出すPC側の処理負荷を2パターン(低負荷/高負荷)、データ転送パターンを2パターン(A/B)を組み合わせたもの。モード1が低負荷+A、モード2が低負荷+B、モード3が高負荷+A、モード4が高負荷+Bとなる。

 これらは、Macの場合はドライバをインストールすると、「システム環境設定」に「TEAC USB AUDIO」の設定が表示されるようになるので、ここで選択を行う。

Mac miniの「システム環境設定」の一覧画面。写真の一番下の段に「TEAC USB AUDIO」のアイコンがある

 これについても、一通り聴き比べてみた。モード1〜4の差異はさらに微妙なもので、違いはわかりにくい。原因としては、Mac miniはハイレゾ再生専用なので、起動しているソフトウェアはAudirvanaのみとし、PC側のCPU負荷をなるべく少なくした状態で運用していることもあるだろう。Mac miniも現行モデルでCPUスペックも決して劣るものではないので、モード1/2とモード3/4のPC側の負荷の違いが影響しにくいと思われる。転送パターン2種の違いも正直なところその差は微妙だ。

 というわけで、聴き所を絞って直感的な第一印象だけを紹介する。ちなみにセッティングによる音質の変化を聴き比べる場合などでも、この方法は効果がある。要するに聴き所(ここでは金管楽器の音色や出音の勢い)を絞り、ピンポイントで音の違いを聴き分けるということ。弱点としては他の要素での音の変化を検証できないことや、翌日同じ条件で試しても同じ結果になるとは限らない点。セッティングなどで行なう場合は、異なる曲で(聴き所を変えて)チェックしたり、翌日など時間を置いてから再度チェックを行なうといいだろう。

 試聴では、「序曲」の冒頭のほか、村や町で流れる曲を主体とした3曲目「にぎわいの街並〜」などでも試し、翌日にも同様の比較をしている。試行回数が少ないので、あまり信頼性の高いデータではないので参考としてほしい。

 モード1(初期設定)は、すでに触れているように出音の勢いがよく、音がシャープになる印象。モード2は音のアタックが少し穏やかになり、少し優しい感触になる。音がスムーズで、細かな音の粒立ちもよいと感じた。モード3は勢いの良さとシャープな音の傾向。ごくわずかであるが、細かい音がもやついた印象になるなど、SN感にも差があった。モード4はなめらかで聴きやすいが、良く言えば穏やかな印象になる。

 結果としては、UD-505ではモード1のキレ味の良い再現が個人的には一番好ましかった。Bulk Pet転送は他社のUSB DACでも採用されているので、機器によって印象も変わるだろう。実はUD-505も高域がややキツく感じるところがあるのだが、高域の鋭さが好ましくない場合は、モード2が良い。

 異なるメーカーの複数の機器での検証も必要だと思うが、UD-505でのBulk Pet転送はなかなか好感触だった。Bulk Petは、ティアックの独自技術ではなく、インターフェイス株式会社が開発したもの(関連記事)。メーカーが使用料を負担する必要があるが、対応したドライバおよびファームウェアの更新で使えるようになる。つまり、現有のUSB DACなどがソフトウェアの更新で対応可能というわけで、今後対応機器が増えてくる可能性もある。CDなどのディスクプレーヤーでの再生ではなく、ハイレゾ音源や音楽配信などPCで音楽を再生し、USB DACを使ってオーディオ再生をすることが一般的になりつつある今、ちょっと楽しみな技術だと思う。

アップサンプリング機能とデジタルフィルタ特性の違いを聴き比べ

 7曲目になると、いよいよお待ちかねのバトルテーマを集めた「ひるまぬ勇気〜レースバトル〜果てしなき死闘」となる。この曲は聴き応え満点であることは言うまでもないが、演奏するオーケストラの編成も、通常はないドラムスやパーカッション類が追加されていることがわかる。ゲームでの原曲と近い力強いリズムが印象的な曲になっている。

 ゲーム版の音楽自体でも曲の良さはわかるが、特にリズムセクションが生演奏になると、ぐっと盛り上がってくるような高揚感に大きな差がある。実際に人が演奏する微妙なズレや熱気がよく伝わってくると、こうした迫力のある曲の良さがますます高まる。

 ここで、今度はアップコンバート機能とデジタルフィルタ特性の違いを試してみた。UD-505ではアップコンバート機能として、2×Fs/4×Fs/8×Fs、DSD256/DSD512のアップサンプリングが行なえる。2×Fsとはここでは元の周波数の2倍のサンプリング周波数に変換することを示す。DSD256は、サンプリング周波数でいうとDSD 11.2MHzに相当する。ちなみにSACDで採用されたDSD 2.8MHzのことをDSD64とも呼ぶが、これはCDのサンプリング周波数を64倍しているという意味(44.1×64=2822.4)。

 こうしたサンプリング周波数の変換は、計算によるものなので原理的には情報量が増えるとか、本来あるべき音を復元するというものではない。しかし、サンプリング周波数の変換時に時間軸方向のクロックも打ち直すので、クロックの乱れに起因するジッタの影響を抑えられる効果が期待できる。また、その後のDA変換での演算でも、より高いサンプリング周波数とした方が演算精度が高くなることが期待できるので、音質への影響も大きい。

 このアップコンバート機能で、2×Fs/4×Fs/8×Fsを試してみた。元は96kHzなので、192kHz、384kHz、768kHzに変換したわけだ。明らかな違いとしてわかるのは、激しく打ち鳴らされるドラムやパーカッションのアタック感。2×Fsから4×Fs、8×Fsへと高めていくほどに出音のエッジがやや丸くなる感触になる。面白いことに出音の勢いや音のキレが穏やかになるというわけではなく、アコースティック楽器らしい感触になる。また、パン! と鳴った後の音の響きの余韻もなめらかで気持ちがよい。

アップコンバート機能をOFFとした状態。操作はメニューからの選択のほか、リモコンのボタンでダイレクトに切換が可能
アップコンバート8xFs。リモコンのボタンを押すごとに2×Fs/4×Fs/8×Fs/DSD256/DSD512/OFFが切り替わる
アップコンバートDSD512。DSD変換なので、PCM音源では音の感触や音楽全体の印象も変化する

 UD-505は低音のパワーもなかなか力強いのだが、中高域のエネルギーが全開という感じで、楽曲によっては中高域で音が鋭すぎると感じることもある。歪み感の多いキツい音ではないのだが、エネルギーバランスとしてやや高域が強めな印象だ。そうした印象も、アップコンバート機能の8×Fsだとかなり収まり、好ましいバランスになったと感じる。

 音の鋭さはやや抑え気味に感じるが、生音の生き生きとした感じが豊かになり、感触としては8×Fsがもっとも好ましかった。電気楽器などを多様した曲ではOFFや2×Fs程度の方が好ましいかもしれないが、すべてが生楽器のオーケストラ演奏では8×Fsの生っぽい音の方がライブ感もあって良いと感じた。

 DSD256やDSD512となると、より生音らしいしなやかさが出るし、オーケストラ演奏のステージの広がりや奥行き感のような音場が豊かになると感じた。この音場感もなかなか捨てがたく、しっとりとした曲などではなかなか楽しいのだが、体温が上昇するくらい熱く盛り上がりたいバトルテーマを聴くには、少々穏やかになったと感じる。しかも演奏は、8曲目「天空魔城」、9曲目「暗黒の魔手〜破壊を望みし者」と、中盤のクライマックスの場面を彩った曲が続く熱い展開だ。このあたりの場面は、アップコンバートは8×Fsで生演奏らしいライブ感たっぷりの音で味わいたい。

 続いては、フィルタ特性の切り替え機能。デジタル音源の再生は、サンプリング周波数のおよそ半分あたりから量子化ノイズなどが極端に増える。そうした特性があるため、CDの44.1kHzならばおよそ20kHzでそれより上の帯域をカットするフィルタを備えている。これはデジタルオーディオ機器のすべてが備えるものだ。

 UD-505はこのハイカットフィルタの特性を5つ切り替えることができる。PCM音源の再生時はそれぞれに名前が付いていて、OFF、Slow roll off、Sharp roll off、ShortDelay Slow、ShortDelay Sharp、Low dispersionとなる。

 Slow roll offやSharp roll offはCD時代からあったフィルタ特性で、指定した帯域より上の情報を急峻にカットするのがSharp roll offで、CDでは標準の特性。プリエコーやアフターエコーが発生するなど音質への影響があるとも言われ、緩やかなカーブでカットするようにしたのがSlow roll off。リップルの発生などは抑えられるが、実は高域特性は劣る。ShortDelay系は最近採用されることが増えてきたもので、一般的なフィルタを通した音はピークの前にプリエコーが発生するがその発生を抑えたもの。フィルタ特性自体はスロー特性とシャープ特性の両方がある。Low dispersionは低分散特性をもったショートディレイフィルタだ。

DIGITAL FILTER(PCM)をOFF。こちらもリモコンのボタンでダイレクトに切り替えができる
DIGITAL FILTER(PCM)をSlow roll off。ナチュラルな感触の音になるが、音像はやや遠い感じになる
DIGITAL FILTER(PCM)をSharp roll off。エッジの立ったやや鋭い印象で、CDらしい音の感触
DIGITAL FILTER(PCM)をShortDelay Slow。音像もしっかりと立ち、音のナチュラルな感触があり、個人的にはこれが良かった
DIGITAL FILTER(PCM)をShortDelay Sharp。ナチュラルな感触で聴きやすい音と言えるが、他とくらべるとやや穏やか
DIGITAL FILTER(PCM)をLow dispersion。音の感触として自然で、滑らかに感じる。やや音像も遠目な印象

 これらは、音質的の善し悪しというよりは、音の感触の好みに合わせて選べるもので、聴き比べてみて、好ましいものを選ぶといいだろう。個人的にはShortDelay Sharpが音が前に出てくる感じがあり、生音らしい感触や音像の芯の通った力強さが好ましいと感じた。また、Sharp roll offは尖った感じが強まったと感じるし、Slow roll offは音の滑らかさが強まる。音の違いは明瞭だが、聴き心地や音楽全体の印象が変わるといったイメージだ。

 なお、DSD音源を再生した場合は、フィルタ特性の切り替えはWIDEとNARROWの2種となる。これはカットオフ周波数がWIDEは高め(DSD 2.8MHz時は76kHz)、NARROWは低め(DSD 2.8MHz時は39kHz)となる。いずれも可聴帯域をはるかに超える高い周波数でのカットオフだが、案外音質には違いが生じる。DSD音源を再生するときには試してみよう。

バランス接続でヘッドフォン再生も試してみた

 曲も中盤を超えたところだが、「交響組曲」という構成もあって、楽曲はゲーム本編のストーリーをかなり忠実になぞっており、曲名を出すだけでネタバレになりかねない。実際、序盤からかなりドラマチックなストーリーが展開するので、RPGとしてのゲーム性だけでなく、ストーリー重視で楽しむ人にも満足できる作品となっている。かなりの大ヒット作なのでプレイしている人は多いと思うが、未プレイの人はぜひ最後の最後までプレイしてみて欲しい。

 というわけで、タイトルからネタバレしにくく、曲としても印象的なものとして14曲目の「愛のこもれび」をヘッドフォンで聴いた。タイトル通り穏やかで心休まる曲で、そういう場面で使われる曲を集めたもの。漠然とした説明で申し訳ないが、この曲が流れると自然に涙が浮かぶという人がいてもまったく不思議ではない名曲。

 UD-505のヘッドフォン出力は、冒頭で紹介した通り、標準プラグ×2、4.4mmのバランス端子がある。標準プラグ2つを使ったバランス出力、4.4mm端子のバランス出力ができることが特徴だ。バランス出力も、通常のバランス出力と、理想的なグランドが得られ、電源からのノイズの影響が抑えられるアクティブ・グランド出力の2つが選べる。標準プラグの方は、アンバランス出力に切り替えて、ヘッドフォン出力2系統という使い方も可能だ。

 試聴ではDITA Dreamを使用した。ヘッドフォンと接続する端子部が着脱式になっていて、さまざまなタイプの出力端子に対応できることが特長のひとつ。3.5mmのステレオミニ端子と変換プラグを使ったアンバランス出力と、4.4mmバランス出力とで聴き比べている。

設定で各ヘッドフォン出力の信号を切り替え可能。通常のバランス出力を選択した状態
4.4mmバランス出力端子をアクティブ・グランド出力に切替

 アンバランス出力では、生音らしい感触や音の芯の通った力強いサウンドになる。ヘッドフォンアンプとしての実力も十分な質の高さであることがよくわかる。曲は落ち着いたゆったりとした曲で、冒頭は木管楽器とハープの柔らかな音色が優しく響き、途中から弦楽器の艶やかな音色が加わってくる。しっとりとした優しい音色だが、音像はくっきりとして粒立ちがよく、低音の弦楽器の響きをしっかりと出る。

 雄壮な曲として最後の19曲目も聴いたが、オーケストラの雄大な迫力もしっかりと出るし、低音の駆動力も十分だ。

 これをバランス出力とすると、音場がぐっと広がり、ホールトーンまできめ細かく再現されるようになる。ステレオ感の向上だけでなく、SN感も向上するようで、音場の広がりだけでなく、個々の音の細かな表情まで豊かに描かれる。しっとりとした「愛のこもれび」は優しい感触が増し、19曲目ではフィナーレの壮大なメロディーを実にパワフルに聴かせてくれる。

 個人的にもっとも感触が良かったのが、アクティブ・グランド出力だ。S/Nの向上が特徴だが、そのせいか音のディテールが増し、音の自然な感触が際立つ印象になる。音場の広がりの豊かさだけでなく、個々の音のエネルギー感もより明瞭になったと感じる。

 ナチュラルな音の傾向で、絶対的なパワー感や迫力はバランス出力の方が優れるので、19曲目はバランス出力の方が満腹感いっぱいで試聴を終えることもできる。そのあたりはバランス出力も捨てがたいのだが、オーケストラ演奏を生々しい音で収録した本作の良さを存分に味わうには、アクティブ・グランド出力の方が好ましいと感じた。

ハイレゾの音の良さがよくわかる名曲を優れたオーディオ機器で聴く喜びがある

 オーディオ誌の編集者として仕事をはじめたばかりの頃。連日高価なオーディオ製品の音を出していたにも関わらず、音の善し悪しどころか違いさえもわからずに、細かく違いを聴き分けるオーディオ評論家の先生方を超人のように感じていた。それは耳の能力の問題というより、聴き方を知らなかった面もあるが、一番の理由は自分が聴いたことのない曲では音の違いなどわからないということ。

 その点、ゲームで使われた音楽は、軽く100時間を超えるプレイの間ずっと聴いていることもあり、すっかり耳に馴染んでいる。子供の頃に聴いたアニメの主題歌を、歌い手の声はもちろん、楽器の編成に至るまで驚くほどよく覚えているように、一度耳になじんだ曲は時間が経ってもその記憶は薄れない。それくらい聴き込んだ曲を使うと、オーディオ機器による微妙な音の違いもよくわかる。趣味のオーディオの第一歩は、決して高価なオーディオ製品を買うことではなく、自分の大好きな曲を暗唱どころか、耳コピーできるくらいにまで聴き込むことだと思う。それは、映画や音楽、ゲームやアニメなどで誰でも普通にやっていることだったりする。

 「交響組曲ドラクエXI」は楽曲の素晴らしさや演奏、録音の良さでも十分に優秀な作品だが、ゲームを存分に楽しんだ人ならば、ごく普通のオーディオシステムで聴いただけでも、その音の良さがはっきりとわかる。金管楽器がまさにノリノリでメロディを奏で、打楽器やリズムセクションは、まさに人が叩いているという感じがはっきりとわかる躍動感のある音を出す。ゲームで流れていた譜面通りの正確な演奏でも楽曲の良さは感じられるが、音楽を聴く喜びや演奏者の熱気や高揚した雰囲気までは伝わらない。そんな聴いているだけで楽しくなるような素晴らしさが「交響組曲ドラクエXI」にはある。ハイレゾ版は発売直後にはランキングトップに輝いたほどの人気だったので、すでに多くの人が聴いていると思うが、ゲームをプレイした人ならばぜひとも聴いてほしいと思う。

 そして、楽曲の音の良さを実感できた人は、ぜひともより良い製品で聴くということにも挑戦してみてほしい。「交響組曲ドラクエXI」はきっと良いオーディオ機器と出会うための優れたガイドになってくれるはずだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。