鳥居一豊の「良作×良品」

第118回

ソニー「HT-A5000」フルセットの実力! サウンドバーで「360 Spatial Sound Mapping」

昨年発売されるやいなや大きな話題となったソニーの「HT-A9」。コンパクトなコントロール部と4本のワイヤレススピーカーをセットにしたこのシステムは、独自の立体音響再生技術「360 Spatial Sound Mapping」により、複数の仮想スピーカーを生成、Dolby Atmosをはじめとするさまざまなサラウンドに対応できるものだ。最小単位と言える構成で、単品コンポーネントにも迫るリアルなサラウンドを実現できることは、筆者自身も大きく驚かされた。

ソニーの「HT-A9」

そして、サウンドバータイプである「HT-A7000」は、単体でもDolby Atmosに対応した優れたサラウンド再生能力を持つが、後のアップデートにより、リアにワイヤレススピーカーを追加することで「360 Spatial Sound Mapping」にも対応。サウンドバーの弱点である後方の再現性まで含めたリアルなサラウンド再生を実現した。

手前から「HT-A7000」「HT-A5000」「HT-A3000」

これらのモデルの実力は現在でもサウンドバーシステムの最上級のレベルにあり、薄型テレビの組み合わせどころか100インチを超える大画面と組み合わせても遜色のないスケールの大きなサウンドを楽しめる。それだけに価格もやや高めだ。ましてや、別売オプションであるサブウーファーやワイヤレスリアスピーカーを追加するとさらに予算は増えてしまう。すんなり購入できる方は限られてしまうだろう。

そこで登場したのが、弟機である「HT-A5000」(実売約12万1,000円)と「HT-A3000」(同8万8,000円)。どちらもサウンドバータイプのホームシアターシステムで、横幅121cmのHT-A5000は55型や65型、横幅95cmのHT-A3000は40型クラスの薄型テレビにマッチするモデルだ。

価格的にもかなり身近となり、リビングなどでホームシアターを楽しむ人に注目のモデルとなるのは間違いなしだ。なぜなら、どちらも上級機と同様に別売オプションのワイヤレスリアスピーカーを追加すれば、360 Spatial Sound Mappingが楽しめるのだ。もちろん、Dolby Atmos、DTS:Xに対応し、単体でも前後左右に加えて高さ方向の再現も可能なサラウンド再生が行なえる。

HT-A3000も、使い勝手のいいサイズで、リビングだけでなく書斎などのプライベートルームで楽しめるなど、気になるモデルではあるが、今回はHT-A5000を取り上げる。別売オプションのワイヤレスリアスピーカー、ワイヤレスサブウーファーを用意したフルセットで、ホームシアターシステムとしてのポテンシャルを試してみることにした。

別売オプションのワイヤレスリアスピーカー、ワイヤレスサブウーファーも追加した、たフルセットでのサウンドイメージ

55型の薄型テレビより横はやや大きめ。イネーブルドスピーカー内蔵の5.1.2ch

まずは「HT-A5000」から紹介しよう。前述の通り横幅は121cmとやや大きめの部類になるサウンドバーだ。内蔵するスピーカーは、フロントに3チャンネル(左/センター/右)の46×54mm口径のユニットがあり、両端には壁の反射を利用して左右の広がりを拡大するビームツイーターも備える。中央のセンタースピーカーの両脇には45×108mm口径のウーファーが2個配置されている。さらに、天面にはイネーブルドスピーカーが左右の両端に2つある。ユニットの口径は46×54mmだ。フロント3chとサブウーファー、イネーブルドスピーカーはいずれもソニー独自のX-balancedスピーカーを採用。これは楕円形ユニットの形状を工夫することで楕円形ユニット特有の音の歪みの発生を抑えたものだ。

HT-A5000を斜め上から見たところ。天面の両側に見えるのがイネーブルドスピーカー
HT-A5000のフロントパネルの中央付近。前面はパンチングメタルで覆われており、センタースピーカーとサブウーファーが見える
HT-A5000の前面の左側。左chのスピーカーは案外内側にあり、その外側にはビームツイーターがある
天面左側にあるイネーブルドスピーカー。こちらもパンチングメタルのカバーを備える
天面右側にある操作ボタン。タッチセンサー式で電源や音量などの基本操作が行える。また表面の仕上げはシボ加工のような細かい凸凹がある仕上げ。マット調だが革製品にも似た質感で指紋も目立ちにくく使いやすい

視聴に使用した薄型テレビのレグザ55Z9900Lの手前にサウンドバーを配置すると、横幅は少し55Z9900Lよりも大きい。65型と組み合わせてもサイズ感としては釣り合いの取れる大きさだ。サウンドバーの高さは67mmと十分に薄いが、最近の薄型テレビは画面下部もどんどん小さくなっているので、薄型テレビのリモコン受光部をふさいでしまう。だが、HT-A5000にはテレビ用リモコンの赤外線信号を受信して薄型テレビへ向けて再送信するリピーターを備えているので、リモコン操作ができなくなる心配はない。リピーターの動作は設定でオン/オフできる。

背面にある接続端子は、HDMI入力が1系統とHDMI(ARC)端子が1系統となる。このほかに光デジタル入力端子、USB-A端子、ネットワーク端子、センタースピーカー出力端子がある。センタースピーカー出力端子は、対応するソニーのBRAVIA XRシリーズのモデルと接続すると、テレビの内蔵スピーカーをセンターチャンネルとして使用できるもの。登場人物の声などがテレビから再生されるので、画面の下にあるサウンドバーから声が聴こえるような違和感がない。対応するBRAVIA XRユーザーならばぜひ使いたい機能だが、ここでオススメしなくても、対応BRAVIA XRとHDMIケーブルで接続すれば、自動的にセンタースピーカー用のケーブルを接続するようにテレビ画面でお知らせしてくれる。ソニー純正の組み合わせのみではあるが、よく出来た接続ガイドだ。

背面にある端子部。2つのHDMI端子とUSB端子、光デジタル入力端子、センタースピーカー出力端子(モノラルミニ端子)がある。壁掛け用に奥まった配置となっている
サウンドバーの両側面にはバスレフポートの開口部がある。角を丸めたデザインで前面が細かい凹凸のある仕上げとなっている

レグザ55X9900Lと組み合わせた今回の取材では、テレビとHDMIケーブルで接続した後、HT-A5000側のメニューから設定画面を表示すれば「かんたん設定」が呼び出せるので、こちらのガイドに従って接続や設定を行なえばいい。こちらも十分簡単だし、ワイヤレスリアスピーカー、ワイヤレスサブウーファーを接続する場合も、それをガイドする画面が表示される。

続いて、ワイヤレスリアスピーカーと、ワイヤレスサブウーファー。ワイヤレスリアスピーカーは2種類が用意されているが、今回は「SA-RS5」(実売約7万4,800円)を選んだ。見た目はHT-A9のスピーカーとそっくりだが、サイズは一回りコンパクトになっている。前側にリアスピーカーがあり、上部にはイネーブルドスピーカーも備えている。そして、「SA-RS5」はバッテリーを内蔵しているので、完全ワイヤレスで使うこともできる。電源を接続する場合も端子は底面にあるので配線が目立ちにくくなっている。

部屋の後方に設置したSA-RS5。スピーカースタンドを使って設置した
「SA-RS5」の上面。パンチングメタルのカバー越しにイネーブルドスピーカーがあるのがわかる。操作ボタンは電源ボタンと音場測定ボタン
「SA-RS5」の底面。左右の表示の下に電源端子がある。横のボタンは手動接続時のLINKボタン
「SA-RS5」の背面。上部には着脱可能なカバーがあり、カバー内には壁掛け金具の取り付け用のネジ穴がある

基本的には左右同一のスピーカーのペアだが、きちんと左右が区別されている。底面の表示を確認して間違えないように試聴位置の後ろ側に配置しよう。スピーカーの左右が間違いなければ、あまり設置位置は気にしなくてもいい。「Spatial Sound Mapping」の測定と補正により、最適な場所に仮想スピーカーが生成される。これが家庭用ホームシアター機器として画期的な部分だ。後は電源を接続するだけで、自動的にHT-A5000がSA-RS5を認識してペアリングが行なわれる。

サブウーファーは「SA-SW3」(実売約5万2,800円)。比較的コンパクトなサイズだが、16cm口径のウーファーユニットを備え、200Wの内蔵アンプで駆動される。こちらもサウンドバー付近、あるいは壁際などの邪魔にならない場所に置き、電源を接続すれば準備は完了。ペアリングも電源を入れれば自動で行なわれる。

サブウーファー「SA-SW3」。スリムな形状だが奥行きはわりと長め。バスレフポートは前側に配置されている。天面や側面の仕上げはHT-A5000と同じだ
「SA-SW3」の背面。上部に電源ボタンとLINKボタンがあり、下部に電源端子がある

HT-A5000との接続が完了すると、SA-RS5、SA-SW3ともに前面にあるインジケーターが緑色に点灯する。これで接続は完了だ。接続が上手くいっていないとインジケーターは赤色に点灯するので、電源を入れ直して再度試すか、手動接続をしてみよう。接続の完了後は、本体の電源オン/オフに連動して動作するので、いちいち各スピーカーやサブウーファーの電源をオン/オフする必要はない。

上級機とほぼ同様の機能を備える

「かんたん設定」でガイド通りに設定を行なえば、ほぼすべての設定が済むが、設定画面も一通り紹介しておこう。メニューのデザインや設定項目などはソニーのホームシアターとほぼ同じで項目などはHT-A9やHT-A7000と同様。スピーカー設定では、ワイヤレススピーカーの設定や音場設定などができる。

「スピーカー設定」から「音場の調整」を行なうと、テスト信号が出力され内蔵するマイクで自動的に測定・補正する。必要に応じてマニュアルスピーカー設定もできる。このあたりの操作感はHT-A9などと同様だ。ワイヤレススピーカーの設定は、「かんたん設定」で接続がうまく行けば特に使う必要はない。手動で接続する場合や「ワイヤレス再生品質」を選ぶときに使用する。ワイヤレス電波の干渉で音が途切れる場合は「ワイヤレス再生品質」を見直そう。

HT-A5000のメニュー画面。画面は映像入力の切り替え画面。設定が必要な場合は、上部のタブから「設定する」を選ぶ
設定画面のメニュー一覧。ワイヤレスリアスピーカーなどの設定は「スピーカー設定」にある
「スピーカー設定」の画面。「音場の調整」を済ませた後は、測定値かマニュアルスピーカー設定かを選ぶことができるようになる
「音場の調整」の画面。ワイヤレスリアスピーカーやワイヤレスサブウーファーを接続している場合は、画面にも各スピーカーが表示されるので、念のため確認しよう
マニュアルスピーカー設定の画面。音場の調整(方向)と音場の調整(高さ)を調整できる
ワイヤレススピーカー設定の画面。手動接続や接続確認のほか、音が途切れる場合のための「ワイヤレス再生品質」の項目もある

「音声設定」は、音質に関わる機能の設定画面。ワイヤレススピーカーとの接続時は「360 Spatial Sound Mapping」を「入」で間違いないだろう。単体使用時は、「サウンドフィールド設定」で「Sony Vertical Surround Enhancer」などのサラウンド再生方式を選択できる。CD品質の音声をより高音質化する「DSEE Extreme」も「入」の方が音の厚みや響きの美しさが出て好ましかった。

音声設定では、「360 Spatial Sound Mapping」など、高音質機能の設定ができる。基本的に初期値のまま問題ないだろう

以降はホームシアター機器の基本的な機能の設定だ。初期値のままで問題ないが、HDMI機器制御などは必要に応じて設定を確認しよう。「eARC」の選択は薄型テレビに合わせて切り替える。Bluetoothモードは受信と送信が選択できる。スマホなどの音楽をBluetoothで聴くなら「受信」、深夜にワイヤレスイヤフォンなどで聴くなら「送信」を選ぶ。送信時のコーデックではSBC/AAC(受信のみ)/LDACが選べる。このほか、本体の基本設定、Wi-Fi接続などの通信設定などがある。

「HDMI設定」の画面。HDMI機器制御のほか、「eARC」機能のオン/オフなどがある
「Bluetooth設定」では、受信/送信が選択できる。使い方に合わせて切り替えよう
「本体設定」の画面。配置により、薄型テレビのリモコンがうまく動作しない場合は「IRリピーター」を「入」にする
「通信設定」の画面。Wi-Fi接続やネットワーク設定、ソフトウェアアップデートなどの項目がある

音楽再生でもなかなかの実力

HT-A5000も、上級機と同様にBluetooth機能で高音質コーデックのLDACに対応するなど、音楽再生用のスピーカーとしても高機能だ。Chromecast built-in、AirPlay 2対応でスマホの音楽再生もできるし、Googleアシスタント搭載機器、Amazon Alexa搭載機器との連携にも対応する。そして、HT-A5000単体でも、USB端子に保存した楽曲の再生やSpotifyの再生などが可能だ。

軽くスマホ経由の音楽再生も試してみたが、サブウーファーも接続しているので低音再生も十分で、スケールの雄大なサウンドを楽しめた。声も鮮明でくっきりとしたサウンドで、中低音の充実した映画寄りのサウンドバランスだが、音楽でも大きな不満はない。サウンドフィールドを「入」とすると部屋全体に音楽が響くようなサラウンド再生になるが、サウンドフィールドを「切」にするとステレオ再生に近い音場感となる。と言っても、純粋にフロントの2チャンネルだけが鳴っているわけではなく、適度なステレオ感の拡大は行なわれているようで、目の前にあるサウンドバーが鳴っているとは思えない広がりの豊かな鳴り方だ。

また、サブウーファーやリアスピーカーをオフにして、サウンドバー単体で聴くと、さすがに低音の鳴り方には差があるが、内蔵のサブウーファーも案外頑張っていてスケール感こそやや小さくなるが、ドラムやベースなどのリズムが力不足になることもないし、声の実体感のある鳴り方もなかなか好ましい。このあたりは、さすがはソニーのホームシアター機器で単体でも基本的な実力としては十分だ。音楽再生だけに限れば、サブウーファーやリアスピーカーは特に必要ないだろう。

メニューの「音楽をきく」の画面。音楽配信サービスの「Spotify」にも対応している

いよいよ映画の上映。視聴作品はサラウンド効果が実に巧みな「モービウス」

モービウス 4K ULTRA HD&ブルーレイセット
(品番:UHB-81769/7,480円/発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)
(C) 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. MARVEL and all related character names: (C) & TM 2022 MARVEL

今回上映した「モービウス」は、マーベルコミックスが原作のダークヒーロー物。血液の難病を抱えた天才医学者のモービウスが、吸血コウモリのDNAを融合することで難病を克服しようとするが、実験を行なったモービウス自身が人の血を食料として生きる異能者となってしまう。言わば、現代に甦った吸血鬼の物語だ。

(C) 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. MARVEL and all related character names: (C) & TM 2022 MARVEL
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この作品は音声はDolby Atmosで、音響設計が巧みなことが大きな特徴。冒頭の吸血コウモリの巣穴へモービウスが向かう場面からして、無数のコウモリの集団がモービウスたちに襲いかかり、周囲が飛翔するコウモリだらけになるような場面で、その無数のはばたきが自分の周囲をぐるぐると回るなど、なかなか凝った音の演出が多い。また、モービウスは超人的な身体能力を得ただけでなく、吸血コウモリの優れた聴覚や音の反響を知覚して目に見えない人や物の場所を知る能力なども持つ。こうした能力を発揮する部分でもユニークな音響効果が駆使されている。サラウンド音声の面白さを知るにはぴったりの作品だ。

まずは、ワイヤレスリアスピーカーとワイヤレスサブウーファーの電源を落として、サウンドバー単体での音を確認してみた。冒頭の無数の吸血コウモリに取り囲まれるシーンでは、音に包まれているような感じはあるが後方の音は実体感がなく、周囲を吸血コウモリがぐるぐると旋回している感じはやや物足りない。吸血コウモリの大群がはばたきをしている音の厚みや圧迫感はよく出ている。内蔵のサブウーファーもなかなか頑張っていて、爆発音の音圧感や重量感がやや足りないかという程度。BGMは基本的には一般の映画と同じ前方定位なのだが、曲によって鼓動のような重々しいリズムが頭上から鳴るなど、あらゆる場所に音が配置されることもある。

高さ方向の再現はイネーブルドスピーカーを内蔵していることもあり、こちらもなかなかの再現。頭上というよりはちょっと斜め上のあたりに定位する感じだが、後で聴くリアル5.1.4ch構成の再生と聴き比べなければ物足りなさはない。サウンドバー単体でも、基本的な実力は十分に優秀で、まずはサウンドバーだけを入手しても満足度は高いと思う。

続いては、吸血コウモリから抽出したDNAをモービウス自身に注入する人体実験の場面。違法な実験のため、公海上に出た貨物船で行なわれる。貨物船内には護衛の傭兵たちがいるが、狭い船内で賭博に興じる様子が実にリアルだ。船のエンジン音と思われる暗騒音が周囲から聴こえていて、画面では傭兵たちの声が騒々しく鳴っている。その奥の隔離された場所でモービウスに吸血コウモリのDNAが注入され、惨劇が始まる。

ここで、ワイヤレスリアスピーカーとワイヤレスサブウーファーをオンとして、再生を再開。これまでは「Dolby Atmos」のみの表示だったところに「+360 Spatial Sound Mapping」が加わる。スピーカー構成としてはリアル5.1.4chで複数の仮想スピーカーによる立体音響が再現される。まず、貨物船内の暗騒音や狭苦しい感じがより生々しく感じられる。異様な人体実験が行なわれる雰囲気も満点だし、吸血鬼モノということでホラー的な雰囲気もよく伝わる。サウンドバーだけでもサラウンド感は十分に感じられるが、やはり後方のスピーカーがあると臨場感は劇的に変わる。

ワイヤレスリアスピーカーの追加時は、「360 Spatial Sound Mapping」が動作していることが画面表示で確認できる

モービウスは意識を失い、人間の血を求める怪物に成り果ててしまう。様子を見にきた傭兵に襲いかかり、生き血を吸う。その動きは瞬間移動のような素早さで、あらゆる方向から傭兵たちを襲う。逃げ惑う傭兵が暗い船倉で襲われる場面はまさにホラー映画。カンカンと金属の床に足音が響き、傭兵たちの緊張した息づかいが前方から聴こえる。そんな場面で予想もしない場所から、獣のようなうなり声とともにモービウスが現れる。特に後ろから襲いかかってくるときは音も後ろに現れるし、そのうなり声に実体感があるので、思わずギョッとしてしまう。

360 Spatial Sound Mappingによる空間再現は見事なもので、後方や高さを含めた立体的な音の定位は上級機のHT-A9にも迫るものがある。ただし、フロントの3chの実スピーカーが横幅121cmのサウンドバーに内蔵されていることもあり、空間の大きさやスケール感はやや小さく感じる。55型や65型くらいの画面のスケール感と釣り合う感じで、120型のスクリーンだと音のスケール感がやや物足りなくなる感じだ。このあたりは、上級機のHT-A9とHT-A7000との違いを感じる部分で、そのぶん空間の再現が緻密に感じるなど、明確に空間表現のバランスを変えていると思われる。

(C) 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. MARVEL and all related character names: (C) & TM 2022 MARVEL

吸血鬼となってしまったモービウスは、貨物船での殺人事件や違法な実験などで警察に疑われてしまう。自らの研究室に潜伏する。自ら開発した人工血液を補給した後、血が不足して意識を失い化け物と化してしまうまでの時間を計測したり、身体能力を確認するあたりは医学者らしくもあるが、血液の病で身体的なハンデを背負って生きてきたモービウスにとってもその異常な身体能力に喜びも感じていた。しかし、殺人事件の容疑者としての取り調べ中の不在時、モービウスの親友であり幼い頃から同じ血液の病に苦しんできたマイロが彼の秘密を知り、同じく吸血鬼となってしまう。吸血鬼としての能力を肯定し、自由に人を襲い始めるマイロを止めようとする。

取調室でのモービウスは、コウモリの聴覚でマイロが人を襲っていることを知り、脱走を図る。超人的な身体能力で部屋から難なく抜け出し、吹き抜けの階段ではなんと飛翔して最上階までジャンプしてしまう。どうやら空気の流れを知覚して、風に乗るような理屈らしい。それを示すため、CGを駆使したエフェクトで空間が歪むような、透明な風が吹いているような演出があるが、それ以上に風のうなりを示す低音の使い方が見事だ。時に風切り音のようでもあるし、ゴーっという感じの音に鳴らない音で風を感じさせるが、サブウーファーのおかげで、うなるような風の音も存在感たっぷりに鳴る。

ワイヤレスサブウーファーのSA-SW3は、対応サブウーファーでは小さい方のモデルだが、ローエンドの伸びもかなり優秀だし、試聴室の床を鳴らすくらいパワーもある。これはさすがに内蔵サブウーファーでは十分には再現できない領域。映画館のような地響きのような音まで出すのだから立派だ。

地下鉄内でのマイロとモービウスによる追跡シーンも見物で、追い詰められたモービウスがホームに侵入してきた列車の起こす風を利用して飛翔する場面は、狭い地下鉄の坑道を吹き抜ける風と列車の走行音が重なりながらも決して混濁することなく、迫力満点のシーンとなる。こうした音がいっぱい配置されるようなシーンでも、音の定位は明瞭で移動感もスムーズ。本当に見事な空間再現力だ。

リビング用の手軽なホームシアターとして、完成度の高い組み合わせ

果たして、モービウスは吸血鬼になってしまったマイロを救うことができるのか。親友同士の悲しい戦いがクライマックスとなる。それにしても、Dolby Atmosなどのサラウンド音響はその設計や演出がどんどん巧みになっていて、映画館でも感心することが多いし、自宅のホームシアターならば緻密に計算された音の演出を、一番良い席で細かくチェックすることもできる。

Dolby Atmosは家庭で楽しむにはハードルが高いと言われていたのはもはや過去の話で、優れたサウンドバーで存分に楽しむことができるし、ワイヤレスリアスピーカーやワイヤレスサブウーファーがあれば、一気に映画館に近づく。HT-A5000やHT-A3000はそれをさらに身近にしてくれた。

100型級の大スケールの映像にも釣り合うHT-A9とHT-A7000、リビングでは一般的なサイズになりつつある50~60型クラスにベストマッチのHT-A5000、書斎やプライベートルームでも本格的なホームシアターが実現できるHT-A3000とまさに鉄壁のラインアップが完成した今、迷う理由はどこにないだろう。ホームシアターに憧れていた人はぜひとも注目してほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。