小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第759回 へ、変態だー! ログもとれるオリンパスの超個性派アクションカメラ「TG-Tracker」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

へ、変態だー! ログもとれるオリンパスの超個性派アクションカメラ「TG-Tracker」

オリンパスが参戦!?

 オリンパスと言えば、一眼でもコンパクトでも、個性の強いカメラを次々とリリースする老舗カメラメーカーである。カメラメーカーではあるが、ボイスレコーダのシェアも高く、2011年にはボイスレコーダながらビデオが撮れる「LS-20M」といった変わり種もリリースしており、当時はなかなか人気だった。

今回紹介する「TG-Tracker」

 マイクロフォーサーズでも良いカメラは沢山あるが、コンパクトでも2014年から「OLYMPUS STYLUS TGシリーズ」という、いわゆるタフカメラのラインナップをリリースしている。そんなTGシリーズの系譜と呼んでいいのか、タフ仕様のアクションカメラ「OLYMPUS STYLUS TG-Tracker」が6月下旬に発売される。

 店頭予想価格は45,000円前後。発売前ということもあって、通販サイトでもそれぐらいの価格で予約を受け付けている店が多いようだ。

 カテゴリとしては、映像と共に様々なログが記録できる「フィールドログカメラ」という新ジャンルらしいが、同時にオリンパスの現行商品としては唯一のビデオカメラ、ということになる。すでにアクションカメラは多くのメーカーが参入し、飽和状態にあるが、そこはオリンパス。いい意味で変態なカメラに仕上がっている。

 本体のみで防水・防塵、4K撮影も可能なタフカメラを、早速試してみよう。

コンパクトボディに機能凝縮

 まずはデザインからだ。ボディーカラーはグリーンとブラックがあるが、今回はブラックをお借りしている。タフ仕様ということで全体的にゴツゴツしているが、構造としてはなかなか面白い。アクションカムの多くはGoProに代表される平面箱型と、ソニーASシリーズに代表される横型の2タイプあるが、本機は後者である。

かなりゴツゴツしたボディ

 本体のみで30m防水、防塵、耐衝撃2.1m、耐低温-10度、耐荷重100kgという頑丈さだが、側面の液晶モニタはビデオカメラのように開いて背面に向けることができる。そもそもアクションカメラで液晶が開くものはほとんどないわけだが、なかなかに思い切った設計だ。しかも閉じたときにも液晶が外側を向くので、ヒンジの位置が後ろにあるという変態ぶりである。残念ながら上下角には回らないが、ノーファインダ撮影が当たり前のアクションカメラとはひと味違う。

ファインダが開くのはアクションカメラでは珍しい

 前方のレンズは35mm換算で13.9mm、画角にして204度の超広角。F2.0の単焦点で、撮影範囲はレンズ先端より20cmとなっている。

204度という超広角レンズを搭載

 撮像素子は1/2.3型の裏面照射CMOSで、有効画素数は720万画素。本機は4K撮影も可能だが、3,840×2,160だと本来約830万画素が必要なはずだ。何らかの拡大処理が入るということだろう。

 電子手ぶれ補正を内蔵しており、補正ONだと若干画角が狭くなる。本機は珍しく、4K撮影でも電子手ぶれ補正が効く。筆者がこれまでレビューしてきたカメラでは、恐らく初めてではないかと思われる。元々一眼カメラに搭載されていた「TruePic VII」をベースに新開発した画像処理エンジン「TruePic VII for 4K」を搭載したのがポイントだ。ただ、センサーの画素数がフル4Kより少ないので、可能になったというところはあるだろう。

手ぶれ補正なし手ぶれ補正あり
動画
13.9mm

不明
静止画
13.9mm

 動画記録はH.264のMOVフォーマット。Windowsでは先日QuickTimeのサポートが終了しているため、MOVは使いづらいフォーマットとなってしまった。なお音声はリニアPCMだ。

記録モード画素数フレームレート
4K3,840×2,16030p
FHD1,920×1,08060p/30p
HD1,280×720240p/120p/60p/30p
480854×480240p/120p/60p/30p

 注意点としては、動画の連続記録時間が29分までとなっていること。これはヨーロッパの輸出課税による制限なのだが、付けっぱなし・回しっぱなしが基本のアクションカメラで、時間制限があるというのは使い勝手が悪い。このあたりは「ビデオカメラ」としては残念な仕様で、メーカーの動画カメラ経験不足が現われている。

 レンズの上にあるのはLEDライトだ。水中撮影も可能で、レンズプロテクタは水中用のものに変更できる。この場合はプロテクタで周りがケラレるので、水中モードにして画角を少し狭くする必要がある。

レンズの上にはLEDライトも搭載
水中用レンズプロテクタも付属

 左側面にはヒンジ付きの液晶モニタがある。1.5型/11万5,200ドットのTFTカラー液晶で、視野角は下方向からが多少狭いだけで、上と左右は広い。ヒンジは上下には回転しないが、視野角の広さに助けられている。

液晶は輝度、視野角ともに十分なクオリティ

 上部には録画ボタンとメニュー、OKボタンのほか、メニュー操作用の左右ボタンがある。左ボタンは長押しでWi-Fi接続のショートカットとなる。右ボタンは短く押すと搭載されているセンサー情報を表示、長押しでLEDライトが点灯する。

上部には操作ボタン
後部にはGPSとWi-Fiのアンテナ格納部がある

 録画ボタン前方には、録画中を示す赤いLEDと、GPSのログ記録を示す緑のLEDがある。ボタンの後方にはGPSとWi-Fiのアンテナ格納部がある。

 右側面には電源スイッチがある程度で、機能的には何もない。ビデオカメラならここがグリップ部になるところだが、本機にはグリップハンドル(ステディグリップ SG-T01)が付属している。レンズが超ワイドなので、本体を握ると指が写り込む可能性が高いため、手持ち撮影の時にはなるべくグリップを使った方がいいだろう。

右側には電源スイッチがある程度
グリップホルダーが付属

 マウント部は前方に凸型ミラーが付いている。自分撮りするときには液晶画面が見えないが、これを見れば画角を確認できる。細かいところまで考えてあり、なかなか上手い作りだ。

マウント部先端にはミラーが付いている

 ちなみにグリップ部の根元のほうはネジで外れるようになっている。どこかで見たことがある形状だなと思って試しにGoProのマウントアクセサリを付けてみたところ、問題なく装着できた。

 純正アクセサリはホルダーとストラップぐらいしかないが、GoPro用の固定アクセサリが使えるのであれば、かなりいろんなところに付けられそうだ。まあ、もちろんメーカーサポート外の使い方にはなるのだが。

グリップとマウント部は外せるようになっている
GoPro用のマウントアクセサリを付けてみたら、問題なく固定できた

 バッテリは背面挿入型で、蓋を開けるとHDMIマイクロ、microSDカードスロット、microUSB端子がある。

バッテリは背面から

4Kも撮れるが……

 本機のポイントは、単なるタフカメラではなく、GPS/気圧/温度/方位/加速度センサーを搭載し、電源ONの時には常にログをとり続けるところにある。Trackerの名称はそこから来ているわけである。だがまずこれを試す前に、カメラ性能のほうをチェックしておこう。

 まずは4K動画撮影だ。レンズが最大204度という超広角なので、原理的には手持ち撮影時のブレが、映像全体に与える影響は小さいはずだ。手ぶれ補正のON/OFFを試してみたが、確かに効いている。ただあまりにも広角で中央部分以外は直線がすべて湾曲してしまうので、補正がONでもその湾曲具合の変化で、かえって手ブレが目立ってしまう。またローリングシャッター歪みもあり、手持ちでの歩き撮影の場合、映像がプルンプルンする。

4K手ぶれ補正ONで撮影。補正はされているが、全体的にプルプル感がある
4ksample.mov
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
手ぶれ補正ON/OFFの比較。確かに補正は効いている
stab.mov
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 手ブレ補正OFFだと画角が広いが、周辺部の歪みや色収差、フォーカスのズレなどを見ると、正直ここまでのワイドが無理して必要かなという気がする。通常は手ブレONでの画角ぐらいで十分だろう。

 画質的には、ビットレートは80Mbps弱あるので、エンコードに起因する劣化は少ないように見える。ただセンサーからの解像度が低いので、全体的に精細感は欠ける。一応4Kまでは撮れるが、編集時にHDに縮小するか、最初からHDメインで撮影した方が良好な結果が得られるだろう。

 静止画は手ぶれ補正がないので、フル画角の画像となる。画質的には動画とそれほど変わらないところを見ると、従来のOLYMPUS STYLUS TGシリーズのように、デジカメがベースではないことがわかる。

静止画では手ぶれ補正がOFFとなる

 LEDライトも試してみた。LEDの数としては1つだが、かなり明るい。LED懐中電灯並みと言えばイメージはお分かりだろうか。夜でも撮影できるが、LEDライトが照らす範囲よりもレンズの画角のほうが広いので、どうしても周囲が暗い状況にはなってしまう。動画として撮影できる実用距離としては、1.5mぐらいまでだろうか。

LEDライトによる夜間撮影
night.mov
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方で、この明かりを向けられる側は、点光源が1つだけなので、かなりまぶしい。夜間に人に向けるのはあまり好ましくないだろう。

 720pか480pであれば、ハイスピード撮影も可能だ。今回は720/120pと240pで撮影してみた。近接20cmまで行けるとはいえ、ものすごく広角なので、なかなかモノに寄れないのが難点だが、人間のアクションなどは広角の方が撮りやすいだろう。

720p以下ならハイスピード撮影も可能
slow.mov
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 さらに水中撮影もできると言うことで、以前のサブマリナーカメラに引き続き金魚のきんちゃんにご協力いただき、水中ハイスピード撮影も試してみた。グリップを装着し、上下逆にして水槽に突っ込むというスタイルだ。

 手動で自由にアングルが選べるし、突然動いたりしないので、金魚たちもそれほど驚かない。ただでさえ水中は動きが遅いが、さらにスローモーションだと環境映像みたいになる。LEDライトも付いているし、川や海での水中撮影はかなりいけそうだ。

 ただしグリップの中身は空洞で、中に水が入る。水中から引き上げると、グリップ部分から水が大量に出る点は注意が必要である。

トレッキングに最適なログ機能

 一般的なアクションカメラと違い、TG-Trackerはかなり多機能だ。GPSを搭載しているカメラはいくつかあるが、本機はそれ以外にも気圧/温度/方位/加速度センサーを搭載している。以前カシオのスマートウォッチ「WSD-F10」とアクションカム「EX-FR100」の組み合わせを試したことがあるが、フィールドで写真も含め様々な情報を取って楽しむという点では、似ている部分も多い。

 カメラ上部にある右ボタンを押すと、インフォメーションとして液晶画面に方位、傾き、移動距離と高度などがグラフで標示される。

右(INFO)ボタンを押すと各種センサーのデータが標示できる

 また本機では設定画面でLOGをONにすると、GPSによる位置情報も含め、これらのセンサー情報をログとして記録する。カメラの電源がOFFだと当然記録しないが、カメラモードで電源が入っている間は記録し続ける。トレッキングなどの場合、撮影しないのにずっとカメラの電源を入れっぱなしというのはバッテリーの無駄だ。カメラ機能はOFFでログだけ記録する場合は、電源スイッチをLOGに倒しておく。

 ログは一時的にカメラ内のメモリーに記録されており、電源をOFFにしたときにmicroSDカードに記録される。ログは保存された時点でいったん途切れて別ファイルになってしまうので、長いトレッキングの際にはあとで見直したときに使いづらいということが起こる。カメラは使い終わったがログの記録は続けたいという場合は、スイッチをOFFではなくLOGに倒せば、ログは引き続き連続で記録される。

 記録されたログの活用には、スマホアプリ「OI.Track」 (OLYMPUS Image Track) を利用する。今回はAndroid版を利用したが、iOS版のアプリも提供されている。

 カメラとスマホをWi-Fiで接続すると、microSDカード内に記録されたログの一覧を見る事ができる。詳細を見たいログをタップすると、移動した位置情報と高度の情報を確認する事ができる。図のログでは、公園の途中からログ記録が始まっているが、電源を入れたのは公園の入り口だ。つまり入り口からログ取得開始まで2分ぐらいだと思うが、GPSの捕捉に手間取ったということだろう。

公園一周のGPSログ
標高データも同時に取得している

 多少位置情報にズレがあるが、ここは木が鬱蒼と茂っているので、位置情報が取りづらかったのかもしれない。これぐらいのズレはスマホのGPSでもありうる事である。

ログと共に撮影した動画を再生する事もできる

 注意点としては、スマホでログを参照するときは、いったん設定でLOG記録をOFFにして、電源を入れ直す必要があるところだ。つまりいったんLOG記録機能を完全停止させないと、ログが参照できないというわけである。だがログ記録は留めずに途中で走行ルートを参照したいこともあるだろうから、このあたりの仕様はもう少し洗練が必要だろう。

 アプリでは、こうしたGPSログのマップや標高データ推移グラフと共に、撮影した動画を再生するモードも備えている。例えば山登りをしながら撮影した場合、斜度がキツイグラフの部分を再生すれば、大変そうに登っているシーンにジャンプできるというわけだ。景色の良かった場所を、後から地図でチェックする時なんかにも便利だろう。

総論

 アクションカメラとして見れば、動画の連続時間が29分というのはなんじゃそれ?という感じだが、数々のセンサーやログ機能、LEDライトや液晶モニターなど、よくこれだけの機能をこのサイズにまとめたなという驚きがある。

 スマートフォンでもアプリを使えば同じようなログは取れるが、このコンパクトさと防水・防塵であることは大きい。レジャーとしてスポーツする際には、緊急対応も含めてスマホを携帯しないというケースはあまり考えられないが、モータースポーツやレース出場などの場合は携帯しないだろう。そんな時に適した1台である。

 一方でカメラメーカーが作ったアクションカメラとしては、画質がやや残念なのは気になるところだ。204度という広角は一つのウリではあるものの、エッジ周辺の画質を見ると、普通はレンズとしては使わない部分を無理して使っているような印象を受ける。面白いカメラではあるが、せっかく行った場所ならば、映像は綺麗に残したいところである。

 万人受けするカメラではないが、趣味であちこち山登ったりする人は、こういうカメラが1台あると相当楽しいんじゃないかと思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。