小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第767回 ソニーとボーズ、NCヘッドフォンのライバル対決! 帰省や旅行を快適に
ソニーとボーズ、NCヘッドフォンのライバル対決! 帰省や旅行を快適に
2016年8月3日 10:00
今度は周囲の音を聞きたくないという話
つい2週間前に、周囲の音が聞こえるという安全のためのイヤフォン・ヘッドフォンをレビューしたばかりだが、今度はその逆、“周囲の音をカットするヘッドフォン”の話をお届けする。
それというのも、お盆も近くなり、このタイミングで帰省や海外旅行など遠出を考えている人も多いはずだ。普段とは違った長距離の移動、さらには移動中に寝てしまいたいというケースもあるだろう。そういう時に強力なアイテムが、ノイズキャンセリング(NC)ヘッドフォンだからである。
かく言う筆者も、実家が宮崎県なので、帰省は飛行機以外の手段は考えられない。飛行時間は1時間20分程度だが、その間一眠りするために毎回NCヘッドフォンのお世話になっている。
愛用しているのはボーズの「QuietComfort 2」で、一度アーム部の破損で無償交換して貰ったこともあり、外見的はまだ傷んではいないのだが、発売は2005年で、もう10年以上前のモデルだ。ここで最新のNCヘッドフォンの実力を体験するのも悪くない。
今回はワイヤレスながらハイレゾ対応として人気の高いソニー「h.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)」と、BOSEとしては初となるNC兼ワイヤレスヘッドフォン「QuietComfort 35 wireless headphones(QC35)」の2モデルを比較してみる。MDR-100ABNは今年3月発売で実売35,000前後、QC35は6月発売で実売4万円弱と、価格的にも近い。この夏の人気ツートップと言えるモデルだ。
音質やNCの特徴など、ぜひ購入の参考にしていただければ幸いである。
なお、「飛行機の中でワイヤレスヘッドフォンはマズいんじゃないの?」と思われるかもしれないが、2014年9月のルール変更により、ワイヤレスヘッドフォンが使用できる機体が増えている。参考までに国内2社の案内は以下のとおりだ。
対応していない機体もあるので、使用する際は機内アナウンスや乗務員の指示に注意を払っていただきたい。
ワイヤレスでハイレゾ、SONY「MDR-100ABN」
ハイレゾ対応機器メーカーとして、業界の先頭を走るのがソニーである。以前からハイレゾ相当の音質を謳うBluetoothコーデック「LDAC」を開発、対応機器を増やしている。MDR-100ABNもその一つだ。ただし今回はもっとカジュアルな利用を想定して、音源やコーデックをハイレゾにこだわらず評価している。
ソニーのh.earシリーズは、ボディ全体が1色というカラーリングを採用しているシリーズだ。従来SONYロゴは、白、黒、ヘアラインシルバーといった無色しか使われてこなかったが、SONYロゴに色を乗せた製品というのはこのシリーズが史上初だそうである。
カラーはビリジアンブルー、シナバーレッド、チャコール・ブラック、ライムイエロー、ボルドーピンクの5色だが、今回はシナバ—レッドをお借りしている。
一見大型ヘッドフォンに見えるが、イヤーパッドが肉厚のために、耳の周囲のスペースは狭い。アラウンドイヤータイプだが、装着すると若干耳にパッドが当たる。ただ、パッドはかなり柔らかく作られているため、メガネをかけたまま装着した場合でも不快感はない。
ドライバは40mm径の「HDドライバーユニット」で、40kHzまでの高域をカバーする。ハウジング表層部は一体成形で穴もなにも無く、ボタン類やマイク穴などはすべてエッジ部分に集められている。
左側に電源とNCのON・OFFボタン、ワイヤード接続用のステレオミニ入力端子、充電用USB端子がある。右側はボリュームと曲のスキップボタンがある。
Bluetoothヘッドフォン/イヤフォンでは、ボリュームとスキップが1つのボタンで兼用になっているものが多い。短押しと長押しで機能が分けてあるのだが、長押しでどちらの機能になるのかはメーカーごとに違っており、統一されていない。ボリュームを上げようとして大好きな曲をスキップしてしまったときのイライラ感といったらないわけだが、別々のボタンを用意しているのはさすがである。
装着感としては、左右の締め付けはそれなりにあるはずだが、圧力がイヤーパッドに対して均等にかかるため、キツい感じはない。1時間ほど装着しっぱなしでテストしたが、特に痛みも感じなかった。
ソニーのNCのポイントは、周囲の環境音を解析して3つのモードを自動で切り換える「AIノイズキャンセリング」を搭載している点だ。モードとしては、旅客機などで効果的な「NCモードA」、バス・電車などの「NCモードB」、オフィス環境対応の「NCモードC」がある。今回は電車による移動と、喫茶店での原稿書きでテストしている。
電車移動だが、完全に無音になるわけではなく、走行ノイズも低域成分は多少聞こえる。車内アナウンスも小さいが聞こえてくるので、割と安心できる。おそらく旅客機モードでは最強にNCを効かせるのだろうが、今回のテストではそこまでのモードチェンジはしてないようだ。
一方喫茶店では、周囲の話声というかガヤは多少聞こえる。店内にはそこそこ大きな音量で低音過多の音楽が流れているが、それはほとんど聞こえず、無視できるレベルだ。
余談だが、原稿書きのような仕事では周囲が完全に無音ではなく、多少ガヤ付いていた方が集中力が上がるという検証結果もある。そんなわけで、仕事とか宿題とかは割と捗る程度の聞こえ具合だ。
音質としては、最近のソニーのハイレゾ対応機の傾向どおりで、あまり過剰に音を演出せず、“綺麗に聴かせつつも低域は多少盛る”という音になっている。ワイヤレス+NCで原音忠実にこだわる人もあまりいないとは思うが、ソースの音質に対して割と忠実に鳴るヘッドフォンと言えるだろう。なお今回の音源は、iPhone 6を使用し、Google Play Musicのストリーミングで楽曲を再生している。
なお本機はNC OFFでも使用できる。周囲のノイズ量が変わるだけで、音質的にはそれほど変わらないが、低域の出はNC ONの方が若干いいようだ。
安定のボーズ品質「QuietComfort 35」
NCヘッドフォンの元祖とも言えるのがボーズだ。1978年にボーズ博士が基本設計を完成させて以来、航空機やレーススタッフ向けの業務用ヘッドセットを作り続けてきた。一方コンシューマ製品は意外に新しく、2000年発売の初代QuietComfortが最初である。一方ソニーは、すでに1995年にコンシューマ製品としては初となるNCイヤフォン「MDR-NC10」と、ヘッドフォン「MDR-NC20」を発売している。
そういうライバル関係にある両社だが、ボーズの最新モデル「QuietComfort 35」(以下QC35)は、ボーズとしては初の「ワイヤレスながらNC」のヘッドフォンだ。カラーはシンプルなブラックとシルバーで、今回はブラックをお借りしている。
ボーズらしい「スッとした」デザインで、ハウジング部もコンパクトだ。しかしながら奥行きが深く、内部に耳が当たる感じがないのはさすがである。ロゴもヘアライン仕上げのブラックで、海外メーカーには珍しくことさらにメーカーを主張していない点は、好感が持てる。
イヤーパッドは厚みはそれほどでもないが、当たりが柔らかい。この辺の作りの上手さは、他社の追従を許さない。ヘッドフォンはどっちがLかRか判別が難しいものもあるが、本機はハウジング内のスピーカーを保護する布地に大きくL・Rとプリントしてあり、わかりやすい。ただ、照明の消えた飛行機の機内など、暗い場所では見えないだろう。
ハウジング左側には、アナログオーディオ入力端子しかない。ソニーは3.5mmだが、こちらは2.5mm径なので、普通のステレオミニケーブルでは代用できないので注意が必要だ。
一方右側には表面に電源とBluetoothペアリングスイッチ、エッジ部にボリューム、再生停止ボタン、USB充電端子がある。またボーズ製品には珍しく、NFCにも対応している。
また右側のみ、メッシュ状の穴が2箇所に開けられている。用途は不明だが、マイク穴ではない。おそらく放熱用ではないかと思われる。
Bluetooth接続時のコーデックは非公開だが、編集部の取材でaptXには非対応だということはわかっている。残りはSBCとAACだが、AACに対応しているかはわからない。
業界最高のNC性能を謳うが、確かにノイズをキャンセルする能力は「MDR-100ABN」を上回る。電車の騒音は、中域の「シャー」程度しか聞こえず、低域のノイズはほぼカットできている。車内アナウンスも遠くで小さく聞こえる程度だ。一方駅のホームでのアナウンスは、割とよく聞こえる。郊外の駅ではそれほどうるさくないので、NCのレベルもそれほど強くないのかもしれない。
喫茶店での原稿書きでは、周囲のガヤも多少聞こえてくる程度で、音楽が鳴ってしまえばマスキングされてほとんど気にならないレベルだ。ただ、漏れ聞こえてくるガヤは、人の声としては不自然に中高域に集まっているので、若干耳障りな感じがする。
本機と同時に発表され、9月下旬発売予定のイヤフォンタイプ「Quiet Control 30」では、アプリを使ってNCの効き具合を調整できるが、QC35は同じアプリは使えるものの、NCのコントロールはできない。アプリでできることと言えば、ヘッドフォンに適当な名前が付けられることと、無音時の電源OFF時間を設定できる程度なので、無理にアプリを使う必要もないだろう。複数の機器と連携する際の管理や、ペアリングの切り替えが手軽にできるという利点はある。
音質的には、これはもう“いつものボーズサウンド”である。低域が「ドッコーン」と鳴り、滑らかな中域が展開、そこに柔らかい高音が絡まる。なお以前からボーズ製品はそうだが、NC OFFで音楽を聴くモードはない。
操作時の音声ガイドも用意しており、日本語も選べるが、英語混じりの日本語が笑ってしまうレベルでダメダメだ。そこもまた楽しめるというおまけ付きである。
総論
NCヘッドフォンを装着しての移動には、独特の雰囲気がある。好きな音楽だけに満たされた音空間の中、風景だけが高速で流れていく様は、そこに自分もいるはずなのに、家に居ながらプロジェクタで映画を見ているような、そんな気持ちにさせられるのだ。こればかりは、実際に体験したことがある人にしかわからない感覚だろう。
現時点で最先端とも言える両ヘッドフォンは、どちらも甲乙付けがたい出来である。ソニー「MDR-100ABN」はそつの無い音作りでハイレゾまで対応、サポートコーデックも多彩で、LDAC対応の再生機があれば最高のパフォーマンスが得られるのがポイントだ。NC効果ではボーズにやや劣るものの、あまりにも何も聞こえないのは危ないと感じる人には丁度いいだろう。
一方のボーズの「QC35」は、いつものボーズサウンドがワイヤレス+NCで得られるのがポイントだ。作りもコンパクトで、旅行には持って行きやすい。カラーリングも落ち着いているので、中年以降のユーザーの服装にもマッチングしやすいのもポイントだ。NCの機能は素晴らしいが、aptX非対応をどうとらえるか、そのあたりはユーザーの判断に任せたい。
NCヘッドフォンは、長時間の装着を前提に作られているため、フィット感はどちらも甲乙付けがたい出来だ。まだ一度もNCヘッドフォンを使ったことがない方、あるいは筆者のようにそろそろ新モデルの買い換えを考えているユーザーには、今がいいタイミングだろう。
この夏の楽しみとして、1台検討してみてはいかがだろうか。
ソニー h.ear on Wireless NC MDR-100ABN | ボーズ QuietComfort 35 wireless headphones |
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