小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第825回
AF爆速化で個性が見えてきた! ソニーの超望遠1型センサーデジカメ「RX10M4」
2017年10月25日 08:00
1インチセンサー史上最大?
先週はRXシリーズ最小モデルとなる「RX0」をレビューしたが、ソニー製品では1インチセンサーを使ったデジカメの最小モデルということでいいだろう。一方で1インチセンサーを使った最大のモデルといえば、文句なしにRX10シリーズである。
DSC-RX10M2ぐらいまではいわゆる“ネオ一眼”クラスであったが、M3からはボディがフルサイズ機並みに大型化した。こんなでっかいカメラでセンサーが1インチなのかという、逆のギャップがあるカメラなわけである。
そのRX10の最新モデルが、今回ご紹介する「RX10 IV」(DSC-RX10M4/以下RX10M4)だ。ボディはM3と同じで中身が違うという、RXシリーズにはよくあるパターンである。市場推定価格は19万円前後となっており、ネットの通販サイトでも最安で18万円弱といったところである。
今回のポイントは、新しいセンサーと画像処理エンジンがどう使われているか、それで何が変わるのか、というところになるだろう。
個性際立つカメラ、RX10M4を実力をチェックしてみよう。
スペックアップのポイントを整理
ボディデザインなどは前作RX10M3と同じで、スペックも共通部分が多い。何が同じで何が違うのか、まずそのあたりを整理しよう。ちなみにRX10M4は、M3の上位機種と位置づけられていて、M3も併売するそうだ。
まずレンズだが、M3同様24~600mm/F2.4-4のZEISSバリオ・ゾナーT*で、これは同じだ。NDフィルター非搭載なのも同じである。
センサーはサイズも同じ1インチのExmor RS CMOSで、画素数も同じだが、世代が変わっており、バッファメモリー容量が増えている。このあたりは連写性能やスーパースローモーション時に違いが出るところだ。
さらに今回は位相差検出方式AFセンサーを配置した構造となっており、315点の像面位相差AFと25点のコントラストAFを併用する「ファストハイブリッドAF」となっている。前作はコントラストAFだけだったので、この点は大きな違いである。
また新しいAFシステムに合わせて、液晶モニタもタッチパネルとなっている。画面タッチでフォーカス位置を指定できるほか、ファインダー使用時にも液晶面のタッチでフォーカス位置が調整できる機能が付いた。これは昨年キヤノンがEOS M5で搭載して話題になった機能である。
動画撮影機能については、4K/30pまでという点は変わらず。全画素超解像ズームは、HD撮影時だけでなく、4K撮影時でも利用可能だ。画質に関しては後ほどチェックしよう。
また高倍率ズームでの撮影の便宜を図るため、無限遠から3mまでのフォーカスレンジリミッターが付いた。これは手前にフォーカスが合わなくなることで、ネットやガラス越しに撮影する場合、ネットやガラス反射にフォーカスが合ってしまって困るという問題を解決するものだ。
動画フォーマットは、以前はXAVC S、AVCHD、MP4の3タイプだったが、今回からMP4がなくなってXAVC S、AVCHDの2つとなった。ただしXAVC Sは4KとHDでモードが別れているので、合計3択となる。
補助的な機能として、動画撮影時にプロキシファイルを作ることが可能になった。従来プロキシファイルは、PCの性能に対して高ビットレート動画の編集が難しかった時代に活用されたもので、低ビットレート/低解像度の動画ファイルを使って編集、最終レンダリング時にオリジナル解像度のソースと入れ替えて完パケを作るという作業に使われた。しかし本機の場合は、スマホ転送を高速化したり、ネットに上げたりする際の便宜のためにプロキシを使えということのようだ。
文句なしのズーム倍率+爆速AF
RX10M3では、静止画では24mmから600mmまで、4K動画では28mmから680mmまでと、光学で25倍ズームが使えるところがポイントであった。加えて動画では、全画素超解像ズームを併用すれば、28mmから1400mmまでの50倍ズームとなる。
今回のM4も基本的な仕様は共通。なお、4K撮影時の全画素超解像は50倍ではなく、37.5倍(28mmから1,050mm)である。つまり光学テレ端からさらに1.5倍寄れるということである。
全画素超解像は、単純なデジタルズームではなく、画質劣化を抑えたズームが可能だ。実際に4Kモードで光学25倍と、全画素超解像の37.5倍を比較してみたが、画質的な荒れや甘さはほとんど感じられない。満を持しての搭載ということで、画質的にも納得いく完成度となっているようだ。
4Kでも常時37.5倍寄れるということは、やはり望遠を生かした撮影に向くという事になる。野生動物の撮影やフィールドスポーツなど、遠くの被写体を追う撮影では強力なカメラである。
その点で欠かせないのが、なんといってもAFの追従性だろう。今回は315点の像面位相差AFを加えた「ファストハイブリッドAF」、加えて液晶のタッチでフォーカスポイントが指定できる。
液晶のタッチは、メニュー操作だけにするか、タッチAFだけにするか、両方生かすが選択できる。液晶画面を触るのが嫌いな人は、タッチ機能そのものをOFFにできる。ただ、わざわざM3ではなくM4を買う理由として、タッチAFを使わない手はない。
狙ったところまで一気に行けるだけでなく、合焦する際に“行ったり戻ったり”がない。これは写真よりもむしろ、動画撮影時に威力を発揮するポイントだろう。このAFが実現できたことで、以前から搭載されてきた「AF駆動速度」も、正確なAF移動が何度でも再現可能になったことで、より使える機能となった。
またファインダー撮影時には液晶画面が消灯するが、タッチ機能だけは生きている。ファインダを覗きながら液晶画面をタッチすることで、ファインダ内の絵を見ながらフォーカスポイントを動かせるようになった。
これもタッチ動作の範囲が決められるほか、液晶面と画面の位置を絶対位置にするか、相対位置にするかが選択できる。絶対位置だと、画面上の位置と液晶面の位置がキッチリ合う。一方相対位置だと、パソコンにおけるタッチパッドみたいに、狙った場所までカーソルを動かしていくような操作イメージとなる。
絶対位置だと瞬時にフォーカスポイントが移動できる一方、相対位置だと少しずつずらしていって目的のポイントまで確実に持って行けるというメリットがある。どちらがいいかは、撮影条件によるだろう。
また液晶画面のタッチ範囲も、全体だけでなく右半分だけとか右1/4とか、一部分だけに限定することもできる。タッチエリアが広すぎて使いづらいといった場合に、範囲を限ると便利だろう。
機能アップしたスロー他
続いてRX0でも一つのウリとなっていた、スーパースロー撮影もチェックしておこう。RX0の撮影時間は、画質優先で2秒間、時間優先で4秒間だったが、本機は画質優先で4秒間、時間優先で7秒間と、倍近く伸びている。
フレームレートとスロー速度の関係は、RX0と同じだ。
- | 24p | 30p | 60p |
240fps | 10倍スロー | 8倍スロー | 4倍スロー |
480fps | 20倍スロー | 16倍スロー | 8倍スロー |
960fps | 40倍スロー | 32倍スロー | 16倍スロー |
本機特有の機能としては、スタートトリガーに「エンドトリガーハーフ」が加わったことだ。従来のスタートトリガーは、シャッターを押した時から記録され、エンドトリガーは押した時から逆に遡って記録された。エンドトリガーハーフは遡る時間を半分にしたモードだ。
今回はハトが飛び立つ瞬間にボタンを押すことで、丁度飛び立つ瞬間の前後をうまく撮影することができた。ただし、ハイスピード記録時間が伸びたため、撮影終了後にメモリーカードに書き込む時間もそれなりに長くなっている。次々にチャンスが来るような撮影では、書き込みを待ってイライラすることもあるだろう。
もう一つの新機能として、本機はプロキシ生成に対応した事が挙げられる。例えば4Kで撮影したとしても、ちょこっとネットに上げたいといった場合には、4Kファイルをスマホに転送するのは無駄である。
一方本機で作られるプロキシファイルは、1,280×720/9Mbpsだ。ネットに上げるには十分であろう。スマートフォンへの転送は、プロキシのみを対象とするか、オリジナルのみか、両方かを選択できる。
転送にはソニーのリモート用アプリ、PlayMemories Mobileを使用する。サムネイルにPxと書かれているのが、プロキシファイルだ。従来スーパースロー映像はスマホに転送できなかったが、M4では転送ができるようになった。
ただ記録方式がAVCHDの場合は、プロキシが記録されない。またXAVC S HDでもフレームレートが120pの時、手ぶれ補正がインテリジェントアクティブの時も、プロキシは記録されないので、注意が必要だ。
プロキシの利用はどちらかというとコンシューマ向けだが、プロ向けの機能も向上している。HDR素材撮影用カメラとして、今回はS-Log3までの撮影に対応した。マルチカメラ撮影時の望遠カメラとして、他のプロ用カメラと同じLogで撮影、グレーディング処理できる素材が撮れるのは、HDR時代に対応したリニューアルポイントだと言える。
ただコンシューマ用途としては、HDRのHLG対応も欲しかったところではある。
総論
今回のスペックアップで、RX10の立ち位置がはっきりした。これはもう遠距離を狙うカメラだ。手前にフォーカスが合うことを防止するフォーカスレンジリミッターを、わざわざハードウェアとして搭載したところも、それを裏付けている。
全画素超解像に加えてファストハイブリッドAF、しかもタッチAFが使えるとなれば、“ザッと寄って素早く撮る”みたいなシーンには最適である。M3から搭載された、ボタン一発でズームバックする「ズームアシスト」を併用すれば、寄りすぎて今どこ狙ってるかわからないといったこともないだろう。
個人的には、静止画の連写性能も大幅にあがったことで、ハードウェアとして連写切り換えダイヤルが欲しいところだが、ボディデザインが据え置きなので仕方がないところである。
もう一点惜しいところとしては、4Kの手ぶれ補正がスタンダード止まりなところだ。テレ端ではどうせ三脚に載せるのであまり関係ないが、ワイド側で撮る時には、ハンディスタビライザーには微妙に載せにくいサイズと重量なのである。
さらに今回もまた4K/60p記録が見送りとなったのは、残念だ。このあたりは画像処理エンジンを2個積むなど、思い切った構造変化がなければ難しいだろうが、RX10シリーズでもそこに到達できなかったというのは、正直ガッカリである。
ただ、これだけの寄れるレンズとAF性能を備えたカメラなら、下手に一眼と望遠レンズを買うよりも、決定的瞬間が捉えられる可能性は高い。子供のスポーツシーンを撮影するといったパパ用カメラとしては、満点に近いだろう。
ソニー DSC-RX10M4 |
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【訂正】記事初出時に、「以前はHDでしか使えなかった全画素超解像ズームが、4K撮影時にも使えるようになった」と記しておりましたが、前機種のM3も4Kの全画素超解像ズームは対応していたため、記事を修正しました。また、「エンドトリガーハーフ」の機能説明にも誤りがありましたので、訂正しております。(11月2日追記)