小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第968回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

動画に振り切った新スタイルLUMIX、「BGH1」登場

パナソニックから登場したボックスカメラ、LUMIX「BGH1」

拡張前提のボックスカメラ

LUMIXの中でも特にGHシリーズは、動画撮影機能が強いラインナップとして、業務用途として使われてきた。とはいえ昨今はもっぱらフルサイズのSシリーズに注力しており、GHシリーズは2年前にGH5Sが出たきりとなっている。

昨年のInterBEE2020に合わせる形で発売が開始されたLUMIX「BGH1」は、マイクロフォーサーズながらLUMIXシリーズ全体としても、初めて動画専用に割り切ったカメラとなる。しかも一般のカムコーダ型ではなく、シンプルなボックスカメラとして登場した。先頭のBはなんの意味か明らかになっていないが、プロ機にはBroadcastingという意味で「B」が付くモデルは多い。つまりBGHはプロ向けのGHシリーズという意味にも取れる。

店頭予想価格は25万円前後。ベースとなったカメラは2018年発売のGH5Sだが、当時ボディのみで30万円前後で発売されたことを考えると、若干安くなっている。

同じボックスカメラとしては、昨年ご紹介したソニー「FX6」が思い当たる。FX6の場合ボディはボックス型でも、モニターやグリップが同梱されており、必要に応じてビルドアップするスタイルだったが、BGH1の場合はモニターやマイク、グリップは同梱されていない。必要なものは自分で用意するカメラである。

2021年は、ボックスカメラ元年となるだろうか。早速テストしてみよう。

小型・シンプルだがまさにLUMIX

まずボディだが、サイズ的には手のひらに乗る、若干奥行方向が短いキューブ型。6辺が面取りしてあり、そこにボタンや端子、録画タリーなどが配置されている。どの方向からでも押せるように、あえて斜め部分に配置したのだろう。ただし操作ダイヤルだけは上面にある。ボディの形は全然違うが、FnキーやQ.MENUキーなどがあり、操作体系は従来のLUMIXと変わらないことが伺える。

ボディは約545gで、軽く手のひらに乗るサイズ
手持ちの一番小さいレンズ、14mmパンケーキを装着してみた
真上にメニューダイヤルとホットシューがある

ボディには録画ボタンしかなく、静止画用のシャッターボタンはない。静止画は全く撮れないわけではなく、リモートアプリ経由では撮影できるのだが、なにかのメモや記録用と考えたほうがいいだろう。

特徴的なのは、ボディ前方に開けられたネジ穴だ。上と左右に3箇所あり、底面には三脚固定用として2箇所ある。底面よりボディ上面・側面のほうがネジ穴がいっぱいあるというのは、プロ用シネマカメラにはあったが、25万円というコンシューマ価格帯では珍しい。

ボディ3面にそれぞれ3つのネジ穴がある
むしろ底面のほうがネジ穴が少ない

センサーは有効画素数1,028万画素の4/3型Live MOSセンサーで、マウントはもちろんマイクロフォーサーズ。画素数を下げて感度を上げていること、DCI 4K(4,096×2,160)/60pの撮影に対応するところなどは、GH5Sと同じだ。

マウントはマイクロフォーサーズ

撮影フォーマットとしてはMP4とMOVが選択できるが、MOVのみDCI 4K撮影可能で、より高ビットレート撮影ができる。撮影可能モードを全部書きだすとすごい量になるので、ここではMOVの4K撮影モードのみまとめておく。注意点としては、4K/60p撮影では4:2:2, 10bit撮影は不可ということである。クロマキー合成では不利だが、H.265の200Mbpsで撮れるので、画質的には悪くないはずだ。

GH5Sのときは4K/60pが内部記録できなかったが、今回はH.265を併用し、4:2:0ながら10bitで内部記録できるようになっている。このあたりは2年の進化を感じさせる部分だ。

背面を見てみよう。バッテリーはボディ内蔵ではないので、かなり大型のものが付けられる。出力はSDIとHDMIがあり、外部同期入力もある。デジタル一眼では難しかったマルチカメラ撮影が可能だ。タイムコード出力もあるので、音声レコーダとの同期にも使える。

充実の背面端子。端子カバーは簡単に着脱できる
バッテリーはカムコーダらしい外付け型

マイク入力はミニジャックしかないが、上部にはホットシューもあり、XLR入力用のマイクロフォンアダプタが装着できるようになっている。

Ethernet端子も備えている。ここは制御ソフト「LUMIX Tether for Multicam」を使って、最大12台のBGH1をEthernetケーブル経由で制御およびリモート撮影が可能だ。加えてPoE+に対応しており、規格対応ハブを使えば、電源供給もできる。今回LUMIX Tether for Multicamでの撮影もテストしてみたかったのだが、あいにくボディ記載のシリアルナンバーが認証されず、ソフトウェアがダウンロードできなかった。

今回お借りしているレンズは、「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH」と「LEICA DG NOCTICRON 42.5mm/ F1.2 ASPH. / POWER O.I.S.」の2本である。

今回使用したLEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH(左)とLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/ F1.2 ASPH. / POWER O.I.S.

本機は電子手ブレ補正も備えるが、これは装着するレンズによって使えないケースもある。基本的にはレンズの光学補正を補強するものとして動作するようで、レンズ側の手ブレ補正対応が必要。そもそもボディと通信できるレンズを装着しないと手ブレ補正の動作設定に入れない。今回のレンズでは上記ズームレンズは手ブレ補正非対応で、42.5mm単焦点のみボディ内手ブレ補正が利用できることになる。

どんな撮影にも対応

このカメラはどんな目的で使うかによって変化する、かなり自由度が高いカメラだ。60pで一般のビデオカメラのようにも使えるし、24pでシネマカメラとしても使える。WEB中継用のネットワークカメラにも、ドローンに乗せてもいいし、スタジオでマルチカメラとしても使える。様々な切り口があるわけだ。

活用イメージ

そのため、メニュー構成にも工夫がある。撮影モードとして、クリエイティブ動画モードほか、デフォルトでカスタムモードが5つ、最大12まで利用できる。各モードを選択して解像度やフレームレートなどを設定すると、それが記憶される。次回からは撮影モードを選ぶだけで、一発で設定した状態に変更される。空いたモードに既存モードをロードすることで、モード間のコピーもできる。なおモード変更時は動作周波数などが変わるので、カメラが再起動する。

「撮影モード」でカメラセッティングを一発で変更できる

本機にはファインダもモニタも付属しないので困ったなと思ったのだが、スマートフォン向けのアプリ「LUMIX Sync」でモニターとある程度の設定変更が可能になる。今回はこれで撮影することにした。いろんな撮影モードを事前に仕込んでおけば、スマホアプリからのモード切り替えで、様々な撮影に対応できる。前回GH5Sの際は4K・HLGで撮影したので、今回はカラーグレーディング前提でDCI 4KのV-Log、23.98p/400Mbps/4:2:2,10bit ALL-Iの撮影モードを作成し、撮影してみる。

スマートフォン向けリモートアプリ「LUMIX Sync」
画面タッチでAFポイントも指定できる

まず手ブレ補正だが、お借りしたズームレンズが光学手ブレ補正を搭載しないので、ボディ内の電子手ブレ補正も効かない。ハンディで撮影するには、レンズの選択が重要になるというわけだ。

動画の電子補正はレンズ側に手ブレ補正がある場合のみONにできる

単焦点のNOCTICRON 42.5mmは光学手ブレ補正があるので、電子手ブレ補正と組み合わせて撮影してみたが、画角が35mm換算で85mmになるので、歩きながらの撮影ではなかなか厳しいものがある。

手ブレ補正比較。ズームレンズは手ブレ補正がない

AFに関しては、機能的にはGH5Sと同じなので、顔・瞳認識での人物撮影が可能だ。スマホ画面をタップしてAFポイントを指定することもできる。またAF追従感度なども変更可能だ。今回は2つのレンズでテストしたが、VARIO-SUMMILUX 10-25mmでは標準状態でうまく追従できる。NOCTICRON 42.5mmでは顔認識自体は動作するものの、AF駆動速度が追いつかないようだ。つまりAFカスタム設定は、撮影シーンに対して変更するだけでなく、レンズによっても細かく設定を変えることで、希望する動作に追い込んでいく必要があるということだろう。

顔認識によるAF追従比較。レンズによってAF駆動速度が異なる
AFを使いこなすには、レンズごとにAFカスタム設定の変更が必要

今回お借りしたレンズはかなり上質で明るいレンズなので、フォーサーズでもボケ味がいい。Log撮影でカラーグレーディング前提ではレンズの発色を語ることはあまり意味がないが、かなり持ち上げても破綻せず、しっとりした味わいは感じることができる。

色を持ち上げても破綻がない
NOCTICRON 42.5mmはやわらかいボケ味が魅力
V-Logで撮影し、DaVinci Resolveでカラーグレーディングしたサンプル

LUMIX Syncでの撮影は、若干表示にディレイがあるものの、ワイヤレスでモニターでき、録画スタートもできる点でメリットは大きい。しかしカメラのすべてのメニュー項目にアクセスできるわけではないので、現場でフレームレートを変えながらハイスピード撮影などをやる場合は、HDMIやSDIのモニターが必要だ。

LUMIX Syncでは全てのメニューにはアクセスできない

思いのほか大健闘の夜間撮影

続いて夜間撮影をテストしてみたい。以前「LUMIX S5」でもテストしたことがあるが、高感度撮影では「デュアルネイティブISOテクノロジー」が利用できる。これは高感度撮影時に専用の処理回路に切り替わってノイズを抑える機能だ。

「デュアルネイティブISOテクノロジー」も利用できる

ISO感度はGH5Sと同じく、最大で51200まで上げられるが、V-Log撮影では最大が25600までに制限されるようだ。どのみちグレーディングで調整できるし、SNを落としてまで無理に感度を上げる必要はないという判断なのかもしれない。

LUMIX S5では、Log収録ではNR処理が控えめになることがわかったので、今回はカメラ側のNR処理を最大の+5に設定して撮影してみた。照明なしの外灯だけの明かりで撮影してみたが、夜空や暗部に多少の粒子ノイズは残るものの、ISO 25600という高感度で後処理なしでこの程度であれば、十分実用範囲だろう。

LUMIX SyncでもNRの設定にはアクセスできる
街灯だけでこれだけ写れば十分
星も普通に映る
ISO25600での夜間撮影

純粋にセンサー感度ではISO上限が409600のソニーα7S IIIには敵わないところではあるが、25600ぐらいでも色味はしっかり出ている。後処理でノイズリダクションをかければ、かなりいい勝負ができるのではないだろうか。

総論

放送用機器の世界では、「マルチパーパスカメラ」という製品群がある。ボックス型のカメラヘッドに様々なアクセサリをくっつけて、スタジオカメラにビルドアップしたり、リモートカメラとして使うカメラである。BGH1は、録画機能を内蔵しているので「カメラ」ではなく「カムコーダ」ということになるのだが、それでもジャンル的にはマルチパーパスカメラということになるのではないだろうか。

機能的にはGH5Sと同じで、設定メニューもほとんど変わらない。その点、α7S IIIをベースにして全然違うシネマカメラに仕上げた「FX6」ともまた違うアプローチである。

初めて買うカメラがこれ、という場合はしんどいが、これまでデジタル一眼に対してリグを組んで拡張してきたようなユーザーにとっては、これまでのアクセサリが十分に活かせるというメリットがある。

昨今ではスタジオでの対談収録でも、新型コロナ感染防止対策として、カメラマンなしの固定でマルチカメラ収録というスタイルも見られるようになった。カメラマンが張り付かないのならファインダも不要で、リモートで全部できたほうがいい。

シネマ用途としてはフルサイズ機がほしかったところではあるが、小型レンズのバリエーションではマイクロフォーサーズに軍配が上がる。

形状がストイックなので「高級カメラ感」はないが、色んな用途にマッチする非常に潰しの効くカメラが出てきた。FX6とともに、今年はこうしたボックスカメラの使い方が広がる年になるのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。