小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第967回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Electronic Zooma! 2020総集編。“オーディオ復権”として記憶される年に

特異点となった2020年

2020年という年は、誰にとっても長く記憶に残る年になったということで異論はないところだろう。新型コロナウイルスの影響は多くの人の生活に影響を与え、働き方まで含めて新しい生活習慣に半ば強制的に合わせざるを得なくなった。

筆者個人としても、2001年からスタートした本連載が今年で20年という節目を迎えることとなった。連載数としても今回で967回を数える。1,000回などまだ遠い先の話だと思っていたのだが、来年にはもう1,000回を迎えることになりそうだ。これもひとえに毎週楽しみに読んでいただいている読者諸氏のおかげである。改めて御礼申し上げる。

さて今年AV機器業界としては、前半には新製品の数も少なく、どのメーカーも新しい事業計画の切り直しに懸命だったようだ。しかし後半に盛り返し、面白い製品が集中した印象がある。加えてユーザーの興味の方向性も大きく変わり、趣味のものというよりも、生活にちょっと“プラスα”する製品に注目が集まったようだ。

今年1年で本連載が取り上げた製品をジャンル分けすると、カメラ×13、オーディオ×17、ネット配信×3、ドローン×3、スマートフォン×2、テレビ/レコーダ×2、サービス×2、楽器×1となった。スマートフォンはカメラしかレビューしてないのでカメラに加えてもいいのだが、それでもまだオーディオのレビューが上回る。レビュー数でオーディオがトップだったのはこの20年間で始めての事である。

では早速ジャンル別に、今年のトレンドを振り返ってみよう。

カメラ篇

キヤノン「EOS R5」

昨年までカメラは、4KからHDRへと、よりリッチな映像体験をもたらす存在であった。今年は本来ならば東京オリンピックが開催されたはずであり、これまでの流れからすればコンシューマ製品に8Kの流れができることも予想された。しかしフタを開ければ、8K撮影可能なカメラはキヤノン「EOS R5」の登場に留まった。

8K対応ミラーレス一番乗り、キヤノン「EOS R5」の実力

元々8K製品を用意していなかったのかもしれないが、多くのメーカーは4K・HDRを維持した上でフルサイズセンサーやコンパクト化へと進んだ1年となった。

究極のこだわりカメラ、富士フイルム「X100V」で撮る4K
頑張れば手が届くフルサイズ。4K/60pも撮れる「LUMIX S5」を試す
フルサイズで手乗り?! ソニー「α7C」で4K動画を撮る

また久しぶりのアップデートとなる「α7S III」は、4Kながらもハイスピード撮影時にAFが効くなど、これまでのカメラではできなかったところをクリアし、常識を塗り替えたカメラだった。もちろん暗所撮影もより強力になっている。さらにそれをベースにシネマカメラ化した「FX6」は、プロ仕様にちょっと拡張しただけといったものではなく、全く別カメラのレベルまでビルドアップされた製品だった。

ソニー「α7S III」
ソニー「FX6」

夜間撮影能力がエラいことに、ソニー「α7S III」
ソニー「α」から登場したCinema Lineの秘蔵っ子!?「FX6」

ミラーレスカメラの新しい潮流としては、Vlogger向けという新ジャンルが誕生した事が上げられる。おそらく製品企画のスタートは昨年だろうから、今のようなコロナ禍は想定されておらず、YouTuber向けに企画されたものだろうが、今は動画がコミュニケーションツールとして重要になっており、予想以上に時代にフィットした。

ソニー「VLOGCAM ZV-1」
パナソニック「LUMIX G100」

誰でもVlogデビュー!? ソニー「VLOGCAM ZV-1」を試す
Vlogger市場にパナソニックが参戦! 「LUMIX G100」が凄い

個人向け市場だけでなく、企業での導入も拡がっている。企業の営業職も取引先へ足を運ぶということができなくなり、自分でオリジナルの製品紹介動画で営業するという必要も出てきたからである。企業の動画制作、ライブ配信といった需要は、まだ来年以降も成長が見込める、というよりも、来年からがいよいよ本番だろう。

いわゆるアクションカメラと言われるジャンルの製品も、風向きが変わってきた。この手のカメラは日本でも一時期売れた時期があったが、元々スポーツ人口が小さいので、スポーツ自撮り用途ではすぐに市場が飽和してしまった。そこでコンパクトカメラという部分をクローズアップして、様々な拡張ができるものや、別用途に特化する製品に分岐が始まっている。

Insta360 One R

アクションカムの常識をぶっ壊す! 驚きのモジュール方式「Insta360 One R」
アクションカムで1型!? 画質に注目「Insta360 ONE R 1インチ版」を試す

特におもしろかったものとしては、「GoPro HERO9 Black」がある。Maxレンズを取り付けると、360度ひっくり返っても映像が正対したままというのは、もはや手ブレ補正の領域を超えている。そしてもう一つ、「DJI Pocket 2」がワイヤレスマイクまでセットにしたモデルを出したというのも非常に面白い。VLogger向けの製品もそうだが、しゃべりの音声収録強化は今後のトレンドとなるだろう。

Maxレンズモジュラーを装着した「GoPro HERO9 Black」
DJI Pocket 2

大きく生まれ変わった「GoPro HERO9 Black」、Maxレンズに注目
スタンドアロンで高度な撮影、最高に使いやすいカメラに!「DJI Pocket 2」

オーディオ篇

今年はオーディオ製品が好調で、記事のビューもかなり高かった。意外なようだが、オーディオ関連でもっともビューが多かった記事が、サンワサプライのBluetooth送信機のレビューである。

サンワサプライのBluetooth送信機

こういうのでいいんだよ! TVの音を低遅延でワイヤレス化、サンワサプライのBluetooth送信機

テレビの音を低遅延でBluetooth化するだけという製品だが、困っている人が多かったようだ。家で仕事するようになると、いわゆる家庭ノイズが気になってくる。家族の誰かがテレビを1日中つけっぱなしという家庭も多いと思われるが、仕事している身からすればこれは大変なストレスになる。これだけ関心が高いのであれば、テレビ本体でもワイヤレスイヤフォンへの直接対応は考えた方がいいだろう。

かと思えば、実はテレビ用サウンドバーのビューも高かった。加えて首かけスピーカーや骨伝導スピーカーにも注目が集まった。家族が多い「静かにしろ」派と、一人暮らしの「いい音で全開」派の両方から関心が集まったというあたりに、テレビの音は今のままじゃダメだという、次の課題が見えてくる気がする。

Soundcore Infini Pro
BOSE TV Speaker
シャープ「AN-SS2」
完全ワイヤレス骨伝導イヤホン「PEACE TW-1」

Ankerサウンドバー「Soundcore Infini Pro」、2万円チョイで買えてDolby Atmos対応
3万円台で買えるBOSEのサウンドバー、「BOSE TV Speaker」を試す
首かけ vs 骨伝導!? TVの音をワイヤレスで、シャープ「AN-SS2」、AfterShokz「AS801」
世界初の“骨伝導”完全ワイヤレス、「PEACE TW-1」を試す
TVの“声”をはっきり聞き取りたい! ソニー「お手元テレビスピーカー」が便利

また今年は、スマートスピーカーの新モデルが集中した年であった。本コラムでは扱っていないが、GoogleとAppleは久しぶりの製品投入となった。以前は出かける前にパッと情報を知るといった使い方が多かったものが、音質が大幅に向上し、家庭内でちゃんと音楽を聴くというニーズにシフトしてきているように思う。

4世代目に突入したAmazon Echo

球体が新トレンド!? 4世代目に突入したAmazon EchoとEcho Dot

また意外にも普通のミニコンポであるウッドコーン搭載ミニコンポも、気になっている方は多いようだ。いずれにしても、今年は巣ごもり需要でオーディオのニーズが伸びた年と言っていいだろう。

一体型ミニコンポ「EX-D6」

ウッドコーン初! ビクターの約6万円一体型ミニコンポ「EX-D6」を聴く

その他注目のソリューション

今年の連載の中で最も読まれた記事が、3万円4Kテレビの記事であった。もはや4Kテレビもこんな値段で買えるが、性能的には普通という事で、購入の検討に入った人も多かったようだ。

TCL「43K601U」

見せてもらおうか、3万円4Kテレビの実力を。TCL「43K601U」をMac用モニタとして購入

で、このモニターのその後はどうなったかというと、リビングのテレビは大きい方がいいということで、家族に取られてしまった。その代わり以前使っていた東芝の40型レグザが筆者のところに戻ってきて、環境的には以前の状態に戻った事になる。机のサイズからしても40インチぐらいがちょうどよかったので、まあそれはそれでよしとしよう。

スマートフォンは今年取り上げた数は少なかったが、ソニーXperiaとApple iPhone、Google Pixelの3モデルは押さえたので、最低限のトレンドは押さえたつもりだ。

Xperia 1 II
左からウォークマン「A100」、iPhone 12 mini、Pixel 4a(5G)

もはや「プロスマホ」、Xperia 1 IIを試す。快適AF、秒20コマ連写

AppleとGoogleの“今”がわかる、iPhone 12 mini VS Pixel 4a(5G)カメラ比較

スマートフォンのカメラは、今後もハードウェアとしてのスペックを上げ続けるのか、それともソフトウェアによる補正で従来型カメラとは違う道を歩むのか、いよいよその分かれ目にさしかかってきているように見える。個人的にはスマートフォンは今後、プロセッサパワーを使った補正や「盛れ」「映え」でゲタを履かせる方向になっていくのかなという気がする。一方のソニーはプロフェッショナルニーズに寄せることで、市場においてユニークな地位を確保しようという作戦だろう。

ドローンも今年は3モデルをテストしたところだが、やはりDJIの機体性能とコスパは一歩抜きん出ている。他社も頑張ってはいるのだろうが、じゃあ他のブランドって何よ? と聞かれると返答に困る状況だ。だが日本政府は2021年より、セキュリティ対策として政府購入のドローンから中国製を排除する方針を固めたところだ。もちろんDJIもこれに含まれるが、国産カスタムドローンも各パーツはDJI製が圧倒的シェアをしめており、「中国製」まで範囲を広げると、もうパーツが揃わないんじゃないかという気がする。

PowerEgg X
DJI Mini 2

空飛ぶ卵「PowerEgg X」を試す。水面着陸は成功するか!?

約10万円の新定番ドローン、DJI「Mavic Air 2」を飛ばす! 4K/60pで34分飛行

200g以下の衝撃再び、手が届く4Kドローン「DJI Mini 2」

また規制対象となる機体の重量200g以下を100gに引き下げることも検討されるなど、あからさまなDJI潰しに動いている。今後ますます重視される無人機需要に対して、日本はDJI抜きでやれるのだろうか。

一方で新しいAV機器の方向性としては、ネット配信用機材がある。「Webチャット」の意味合いが全く変わり、ガチ高画質多人数会議へと変貌したのも記憶に新しいところだ。ライブスイッチャーなどはこれまでプロしか用がなかったシロモノだが、個人や学校、企業広報部などに浸透しつつある。とはいえ、機材があるだけではコンテンツにならず、そこには膨大な試行錯誤とノウハウが必要になる。

ローランド「GO:LIVECAST」使用イメージ
サンワサプライのキャプチャ「400-MEDI034」
アイ・オー・データ機器の「GV-LSMIXER/I」

“誰でもスマホでLIVE”時代に差をつけろ! ローランド「GO:LIVECAST」

これでいんだよ! ゲーム録画・Web会議で使えるサンワサプライのキャプチャがステキ

PC不要で合成も! iPad連動ストリーミングBOXで手軽にウェビナー/ゲーム配信

来年もこうした配信系機材は続々と投入されるだろうが、機材売り切りでは市場の成長は見込めないだろう。今後は「基本も知らないし興味もそんなにない人が触る」のを前提に、ウェビナーや動画マニュアル、サポートチャットなどとパッケージング化した売り方でないと、企業では買ったはいいが誰も使えず、今後10年その手の予算凍結、みたいな悲劇を招いてしまうのではないだろうか。

総論

以上駆け足ではあるが、2020年のトレンドを振り返った。カメラはまだまだ今年やり残したことがありそうだが、ハイエンド方向はこの景気低迷で、今後も市場が付いてくるのかが心配なところである。

スマートフォンについては毎日使う消耗品であり、人によっては1年で買い換えるサイクルは珍しくなくなってきている。しかし今後、カメラ性能が毎年2倍アップするみたいな世界は来ないだろう。カメラの数が増えるとはいっても使いこなしを考えれば3つが限界だ。大きな変化があるとすれば多眼カメラの採用だが、リーディングカンパニーであったLYTROもLightも、事業撤退を表明している。

ただ、映像のスタビライズに関してはまだまだ芽がありそうだ。動画用には有り余る画素数の余裕を切り出し領域に使い、回転にも耐えうる補正を実現するという方向性は、GoProが示したとおりだ。Google Pixelにはすでにその方向性の芽生えを感じる。

オーディオについては、廉価ながら効果が大きい製品が好まれるようになった。3万円代のサウンドバーしかり、高音質スマートスピーカーしかりである。完全ワイヤレスも、2万円も出せば高級機と言えるほどに価格も落ち着いてきて、買いやすくなった。

「巣ごもり需要」と言われた消費が今年の経済をギリギリ回した感じだが、来年も同様の傾向が続く保証はない。業界企業としても非常に先が読みづらい、不安定な未来に対してどのように挑戦していくべきか、決断を迫られているところだろう。

さてそんなわけで今年のElectronic Zooma!も、今号で最後となる。それでは皆様、よいお年を!

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。