小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1028回
新生OMデジタルソリューションズの最上位「OM-1」で動画を撮る
2022年4月13日 08:00
待望のフラッグシップ
デジタルカメラは日本のお家芸的なところがあるが、事業としてはかなり舵取りが難しい分野である。カメラメーカーとして1936年に第1号カメラ「セミオリンパスI」を発売したオリンパスだが、カメラ事業の歴史は、2021年1月に日本産業パートナーズ株式会社に譲渡が完了したことで、一旦幕を閉じた。そして新生OMデジタルソリューションズとして、再スタートを切った。
新体制でどういったカメラを出してくるのか、注目が集まっていたところだが、今年3月に発売された「OM-1」はOLYMPUSロゴを冠したフラッグシップモデルとして登場した。ボディのみの店頭予想価格は、27万3,000円前後となっているが、すでに初期ロットが完売したのか、多くのショップでは納期を1カ月~2カ月とするところが増えてきているようだ。
「OM-1」といえば、オールドファンは1972年に登場したフィルム用一眼レフカメラを思い出すだろう。高さが低く横に長いスマートな形が特徴で、以降多くのファンを作り上げた。凄い性能ながら小さく作るのが得意なメーカーだったのだ。
そんな歴史を持つ「OM-1」の名前を再び名乗るカメラに注目が集まるのは当然で、発売以降多くの静止画のレビューが登場している。一方で動画はどういう絵を出してくるのか、気になるところである。そこで今回は、新生OM-1の動画レビューをお届けする。
これまでオリンパスでのデジタル一眼フラッグシップは「OM-D E-M」で統一されてきたが、今回OM-1となったことで、型番としても今後はリセットされる可能性が出てきた。新時代のOM-1を、さっそく試してみよう。
気負いのないデザイン
新会社になったとはいえ、ユーザーはかつてのオリンパスのカメラの使い勝手を求める。思いきって全然違うカメラになるという可能性もあったわけだが、OM-1は2020年発売のフラッグシップ「OM-D E-M1 Mark III」に近いルックスとなっている。
ヘッド部分にはOLYMPUSのロゴを残すが、ボディ右下には目立たない格好で「OM SYSTEM」のプレートが埋め込まれている。OLYMPUSのロゴがいつまで使用されるのか現時点でははっきりしないが、このロゴが「OM SYSTEM」に変わった時、カメラも大きく変わるという事だろう。
前面からみるとデザイン的な違いは少なく見えるが、軍艦部を上から見ると、かなり違うのが分かる。まずフロントダイヤルだが、E-M1 Mark IIIではシャッターの周りにリング状に付けられていたのに対し、前方に埋め込みとなった。シャッターはかなり前傾して付けられている。
リアダイヤルも表出していたが、これも埋め込みタイプになった。左肩のAFおよびモードボタンの構造は変わらないが、電源レバーが少し短くなっている。
センサーは新開発となる4/3インチ、有効画素数約2,037万画素の裏面照射積層型Live MOSセンサー。画像処理エンジンも新しい「TruePic X」となっている。ボディ内手ぶれ補正は5軸のセンサーシフト方式に加え、電子手ブレ補正も併用できる。
動画としては、H.265とH.264に対応。DCI-4Kの4,096×2,160ドットと、テレビ4Kの3,840×2,160ドットの両方に対応する。またHD解像度では最高240fpsでのハイスピード撮影も可能になっている。
記録方式:H.264/8bit
撮影モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
C4K | 4,096×2,160 | 30p/25p/24p | 約102Mbps |
60p/50p | 約202Mbps | ||
4K | 3,840×2,160 | 30p/25p/24p | 約102Mbps |
60p/50p | 約202Mbps | ||
FHD | 1,920×1,080 | 30p/25p/24p | 約202Mbps(ALL-I) |
約27Mbps | |||
60p/50p | 約52Mbps |
記録方式:H.265/10bit
撮影モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
C4K | 4,096×2,160 | 30p/25p/24p | 約77Mbps |
60p/50p | 約152Mbps | ||
4K | 3,840×2,160 | 30p/25p/24p | 約77Mbps |
60p/50p | 約152Mbps | ||
FHD | 1,920×1,080 | 30p/25p/24p | 約82Mbps(ALL-I) |
約22Mbps | |||
60p/50p | 約42Mbps |
内部記録では、オリジナルのOM-Log400での記録もできる。HDMI出力では動画RAWでRGB 12bit出力のほか、HDMIモニタリングスルーモードでは、YUV 10bit/8bitでの収録も可能。音声では、ハイレゾ対応外部マイクを接続すれば、96kHz/24bitのハイレゾ録音にも対応する。
端子類はすべて左側で、外部マイク入力、イヤフォン端子、micro HDMI、USB-C端子がある。
液晶モニターは3.0型約162万ドットの静電容量式タッチパネルで、ヒンジは横出しのバリアングル。ファインダはOLEDで、約576万ドット。
バッテリーは新タイプの「BLX-1」で、容量は2,280mAh。こちらはOM SYSTEMのロゴが付けられている。
使い勝手のいいLog撮影
では早速撮影である。レンズはオリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」をお借りしている。レンズ内手ブレ補正内蔵の、35mm換算24-200mmズームレンズだ。
まず動画に関しては、H.264またはH.265で撮るかの選択がある。今回はOM-Log400で撮影し、カラーグレーティングする予定なので、10bitで撮れるH.265で撮影を行なった。本機はHLGでの撮影も可能だが、この場合はH.265撮影が必須となる。なおOM-Log400およびHLG撮影では、最低ISO感度が400になるので、晴天での撮影ではNDフィルターを用意した方がいいだろう。
Log撮影でも、ビューアシスト機能があり、Rec.709色域での確認が可能だ。
まず手ブレ補正からテストしてみよう。メニューでは手ブレ補正OFF、センサーシフト+電子補正、センサーシフトの3つから選択できる。手ブレ補正OFFはレンズ側の補正スイッチと連動しており、これを切らない限りOFFが選択できない。
一方レンズ補正をOFFにしてしまうと、今度は手ブレ補正のメニュー自体が選択できなくなる。レンズ補正なしでセンサーシフトだけ使いたい場合は、どうするのだろうか。試しにパナソニック製レンズでレンズ補正スイッチがあるものを付けてみると、レンズ補正がOFFの場合は全メニュー選択できるものの、レンズ補正がONだと「センサーシフト+電子補正」が選択できない。
どういう理屈でこんな組み合わせになるのかよくわからないが、手ブレ補正の組み合わせは結構複雑なようだ。
補正力は、静止画の方でもかなり評判が高いが、動画でもかなり良好だ。レンズ+センサーシフトでも十分な補正力がある。電子補正も組み合わせると、画角が1段狭くなるものの、かなり強力な補正力が期待できる。
画角の違いもまとめておく。電子補正なし、電子補正あり、電子補正+デジタルテレコンの3段階で比べてみた。デジタルテレコンも併用すれば、寄り方向はだいぶバリエーションが増えそうだ。
AFに関しても、静止画レビューではかなり評価が高い部分である。一方動画でのAFでは、花や風景など自然物にはスパスパ決まる一方で、人物撮影ではうまく行くときもあれば行かないときもあるなど、動作が安定しないケースがある。顔認識の枠は出ているのに、そこにフォーカスが行かないなど、若干不思議な現象が見られた。どうも背景が無限遠に抜ける構図に弱いのかなという気がする。
OM-Log400による撮影は、モニター上でもアシスト機能があり、またDaVinci Resolve用のLUTも公開(Blackmagic Design社製 DaVinci Resolve用 3D-LUT / OMデジタルソリューションズ)されていることもあり、期待どおり色乗りの良い高解像度の撮影ができる。
またカラーグレーディングも暗部階調が十分にあり、ハイコントラストにもHDR的な表現にも振りやすい。サンプル動画は、最初が標準LUTのみ、2番目がカラーグレーディングしたもの、3番目が両者比較となっている。
ハイスピードと夜間撮影
本機では、フレームレートを下げることで、ハイスピード撮影が可能になる。またHD解像度ではハイスピード専用モードも備えており、最大で0.1倍のスローが可能だ。ただこれもコーデックの縛りを受ける。H.264では240fps撮影24p再生で最大0.1倍だが、H.265では200fps撮影25p再生の0.13倍となる。
コーデック | 撮影 フレームレート | 再生 フレームレート | 速度 | ビットレート |
H.264 | 240 | 23.98 | 0.1 | 21Mbps |
29.97 | 0.12 | 27Mbps | ||
59.94 | 0.25 | 54Mbps | ||
H.265 | 200 | 25 | 0.13 | 24Mbps |
50 | 0.25 | 45Mbps |
今はネットが動画の主戦場となり、あまりNTSCだPALだと気にしなくなったところはある。とはいえ、日本のようなNTSC圏では、ノーマルスピードの映像は30pか60pで撮影するケースが多い。ハイスピード映像をそれらのノーマルスピードの中に入れてコンテンツを作ることを考えれば、H.265では25pと50pでしか撮れないというのは、不可解である。
4K解像度とHD解像度の専用モードを比べていただくとお分かりかと思うが、ハイスピード専用モードでスロー効果を最大にセットした場合、ビットレートが低く、ディテールが失われる傾向がある。かつてAVCHDの時代にはHD解像度なら28Mbps程度で十分とされてきたが、今ならその倍は欲しいところである。4Kでは十分な画質なだけに、専用モードの画質の低さが惜しまれる。
本機は裏面照射積層型Live MOSセンサー搭載ゆえに、夜間撮影にも期待が高まるところだ。ただ静止画では最高ISO感度102400まで取れるものの、動画では12800までに留まる。サンプルでは、絞りF4、シャッタースピード1/60固定で、ISO感度を400から順に2倍ずつ上げて撮影している。ただ録画中にISO感度が変更できないのは、動画カメラとしては使いづらいところだ。
HDMI出力についても少し触れておきたい。動画撮影では、外部収録以外でも、例えばクライアント確認のためにHDMIにモニターを接続する機会が多い。多くのカメラでは、撮影解像度と関係なくHDMI出力解像度が選べるか、モニターに合わせて自動で出力解像度を調整するが、本機ではそのような機能がない。
つまり4Kで撮影する場合には、4Kのクライアントモニターを用意しなければならない。現実問題、バッテリー駆動のフィールドモニターではHD解像度のものがまだ多く使われており、画角や演技確認ぐらいならHD解像度ディスプレイで十分である。このあたりは、動画では使いづらいポイントになるだろう。
またHDMI出力をしていると、スロー・ファーストモードでの撮影ができない、HDのスロー解像度モードを使う事ができないといった縛りがある。
総論
動画カメラとしては、これまで評判が低いというよりも、評判そのものをあまり聞かなかったOMシリーズだが、実際使ってみると静止画のイメージどおりの動画が撮影できる。解像度も高く、OM-Log400は扱いやすい。
一方で、動画ユーザーのニーズを特に吸い上げているかというとそうした印象もなく、HDMI周りの排他仕様や機能の考え方など、使いづらい点が気になる。特に画質モード変更は、メニューから数値を変更して「戻る」でメニューを抜けると変更されず、OKボタンを1回押して確定してからメニューを抜けないと変更されないといった作法が、ミスを呼びやすい。
筆者も今回この仕様に苦しめられた。ハイスピード撮影したあと通常撮影に戻ったつもりが、それ以降全部ハイスピードで撮れている、みたいなことが仕事撮影で起こったら、悲惨である。
OM-1はフラッグシップゆえ、長期間使う事を考えると、やはりフルサイズのHDMI端子が欲しかった。Micro端子はどうしても接触不良やコネクターの緩みなど、強度の面で不安がある。
多少厳しい評価となったが、小型・軽量、強力なボディ内手ブレ補正という個性は、動画撮影でも十分に戦えるポテンシャルがある。それゆえに動画ユーザーの間でも、OMのファンを獲得していって欲しいところである。