小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1027回
JBL、巨大ワンボックスオーディオ「L75ms」を聴く。実はHDMI付き
2022年4月6日 08:00
アメリカの音響機器メーカー「JBL」は、ジャズ・ロック系では昔から人気が高いが、スタジオでもモニタースピーカーとしてよく見かける、ある意味プロ御用達ブランドである。昨今はヘッドフォンやイヤフォン、Bluetoothスピーカーなど小型コンシューマオーディオにも力を入れており、昨年夏にも「JBL LIVE PRO+ TWSをレビューしたところだ。
JBLの名前は、創業者のジェームス・バロー・ランシングに由来するが、JBL創業の3年後に若くしてこの世を去った。そんなJBLが昨年で創立75周年を迎え、ブランド創立75周年記念モデルが次々と登場している。昨年夏に第1弾となるスピーカーの「L100 Classic 75」を、昨年秋に第2弾となるプリメインアンプ「SA750」をリリース。
そして今年第3弾となるのが、一体型オーディオシステム「L75ms」である。第1弾、第2弾ともにベースモデルが存在したが、L75msはベースモデルのない、新規開発のミュージックシステムとなる。3月下旬から販売がスタートしており、価格は198,000円。
ストリーミングからアナログレコードまで気軽に楽しめるというワンボックスシステムを、早速試してみよう。
予想を上回るサイズ
マルチソース入力が可能なワンボックススピーカーは、ベースをBluetoothに置いている事もあり、大型とはいえ横幅が50cmを超えるものは希である。筆者も「L75ms」の写真を見たとき、ソニーの「SRS-X9」ぐらいのサイズなのかなと思っていたのだが、いざ実機が届いてみてその大きさに驚愕した。
外形寸法は790×287×216mm(幅×奥行き×高さ)と、想像していたものの3倍ぐらいデカい。だいたい36インチテレビぐらいの横幅がある。
重量も15.9kgで、4歳ぐらいの子供と同じぐらいだ。1人で持てないこともないが、一度置いてしまうと移動はしんどい重量となる。まあそれでも第1弾「L100 Classic 75」の35.1kgよりは軽いのだが、1人で扱えるギリギリの重量とサイズである。
ボディはウォールナットで、背面は直線だが前面は扇形というモダンクラシック・デザインになっている。フロントグリルは昨今のLシリーズで採用されている、四角い格子状ウレタンのQuadrexグリル。マグネット式になっており、簡単に取り外せる。
スピーカーユニットはハの字に取り付けられている。中央の黒いのが100mmミッドレンジ、そして左右に130mmのウーファーがある。さらに両脇に25mmアルミドームツイーターがあり、その下がバスレフポートとなっている。小型ウーファーの数を増やして低音を稼ぐ作戦とはいえ、それらを左右に配置してミドルレンジが真ん中に1つというのは、割と珍しい設計と言える。
天板には3つのボタンのみ。ボリュームのアップ/ダウンと、入力切り替えがあるのみで、電源ボタンは背面にメインスイッチがあるだけ。
背面に回ってみよう。大きなヒートシンクは、電源部の放熱に使われるものと思われる。ヒートシンクの下が入出力端子だ。右からHDMI ARC、Phono入力、3.5mmAUX入力、サブウーファー出力となっている。LAN端子もあるが、BluetoothおよびWi-Fiも内蔵する。
「BASS CONTOUR」というスイッチが見えるが、これはキャビネット棚など囲われた空間に設置した場合の低音のボンつきを低減するための機能である。
扱えるソースは、Google Cast対応のネットワークオーディオ、HDMI、Phono、Bluetooth、3.5mmAUXの5タイプ。またUPnPでLAN上にある音楽ファイルも再生できる。再生対応ファイルは、AAC/AIFF/Apple Lossless/DSD(PCM変換)/FLAC/MP3/OGG/WAV/WMA。対応サンプリングレートは192kHzまで。
アンプ出力は、ウーファー125W×2、ミッドレンジ50W×1、ツイーター25W×2の合計350W。Phono入力用のプリアンプも備えるが、MMカートリッジのみの対応となる。
リモコンも見ておこう。シルバーで片手で持てるサイズのリモコンは、Bluetooth接続だ。メニュー操作などがあるわけではないが、十字キーの中央が楽曲の再生と停止、左右がスキップと頭出し、上下がボリュームになっている。下にあるのは入力切り替えボタンだ。
大きなサウンドイメージ
いわゆるアンプ込みのオールインワンシステムだが、今どきの音楽ソースはほとんどストリーミングになっている事もあり、まずはそのあたりから見ていこう。
本機はWi-Fiを備えるが、インターフェースとしてはGoogle Castの設定が必要になる。Google Homeアプリを使って機器登録を行なうと、以降はホームネットワーク内で各種音楽サービスから、本機へ向かってキャストするという段取りだ。
今回はiPhone12 miniを使用しているが、Apple Music、Amazon Musicともに問題なくCastできた。Amazon Musicでは一応360RAやDolby Atmosもそのままストリーミングできるが、本機側が空間オーディオ対応機器ではないので、通常の2Dに切り替えて聴いた方が良好な結果が得られる。
またハーマンが提供する「MusicLife」というアプリを使うと、ホームネットワーク内のUPnP対応NASなどに格納されている音楽ファイルを再生することができる。以前ダウンロード購入したハイレゾファイルなどを聴くといった使い方ができる。
再生音は、実にダイナミックレンジが広い。音源にはCD品質とハイレゾ品質が混在しているが、ハイレゾソースのほうがはるかに伸びやかに再生できる。逆にCD品質のソースだと、ダイナミックレンジ的に頭打ちになる感が強く感じられる。
もう1つ本機のサウンドの特徴は、ある程度音量を出さないと良さが発揮できないところである。ボリュームの刻みも大きく、1ステップ上げただけでかなりの音量になるあたり、広い部屋で聴く事を想定したシステムなのだろう。特に低域は音量を絞るとあまり出なくなるので、低音量でニアフィールドで聴く場合は、別途サブウーファは必須だろう。
スピーカーの作りとしては、ウーファーとツイーターがハの字型に配置されるというユニークな設計だが、ステレオのワイド感はかなり強い。左右を1.5mぐらい離したブックシェルフのような聞こえ方をする。横幅は約80cmだが、それを上回るサウンドフィールドを形成する。
JBLらしい立ち上がりの速さを残しながら、エコーの残響も綺麗に最後まで聴かせる。過去のリファインモデルではなく、今のJBLの技術を自由な発想で作られたことがわかるサウンドだ。
リモコンにSFXというボタンがあるが、これはマニュアルに記載がない。ただこれを押すと、ステレオ感がより強く感じられるようになる。ON・OFFの二択のようだが、ディスプレイが何もないので、現在ONなのかOFFなのかは切り替えて聴き比べてみないとわからない。
デジタルソースという点では、HDMI ARC入力があるということで、テレビと組み合わせてサウンドバーのような使い方もできる。ただ高さが約22cmあるので、テレビの前に配置することはできない。一応40インチテレビの前に置いてみたが、画面の下1/3ぐらいが見えなくなるので、実用的ではない。
現実には、市販のテレビ台の中には入らないと思うので、何か別のキャビネットを見つけてそこに収納するか、本機の上に直接テレビを乗せてしまうといった使い方になるだろう。音質的にはもちろん問題ないが、テレビの音声は極端に左右に振ったりしないので、ステレオ感は音楽よりは若干狭いように感じられる。
総論
Phono入力もある本格オーディオシステムで、音響的には非常に満足できる製品だ。横長ワンボックスなので、設置場所には工夫が必要だが、左右のスピーカーの配置に悩む必要もなく、配線も必要なく、ドンと置けばそこで完結するので、使い出しは早いはずである。
これだけしっかりしたオーディオシステムであれば、XLRの入力を付けてプリアンプと繋ぐといった使い方ができれば、よりハイエンドユーザーにもアピールできただろう。ただ、本機だけで完結できるところがミソではあるので、考え方が難しいところだ。
198,000円という価格を見て敬遠される向きもあるかと思うが、日本の賃金水準はアメリカの55%しかないことを考えれば、アメリカでは適価でも日本では高く見える。ちなみに198,000円の55%は約11万円で、さらに円安傾向も進みつつある。アメリカ人の感覚からすれば、今の日本でいうところの約10~11万円相当の値頃感だ。それでこの作りと音なら絶対に買い、というところだろう。
L75msは高級機やハイエンドモデルではないが、JBLがじっくり開発した意欲作であり、音質面でもJBLらしさも強調した製品である。もし筆者に別荘があったら、これをドーンと設置して、日がな一日音楽を楽しみたいところである。