小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1029回
大画面化するAmazon Echo Show。ついに壁掛け可能な15型へ
2022年4月20日 08:00
Amazon Echoは言わずと知れたスマートスピーカーの代表的シリーズだが、Echoに画面が付いたシリーズがEcho Showである。2017年に米国で始めて発売されたEcho Showは7インチディスプレイを搭載していたが、今その画像を見ると「思ってたのと違う」と思われる事だろう。
その後10インチモデル、5インチモデルと世代が進むにつれて、次第に方向性が固まってきた。
再び方向性が変わってきたのは、昨年発売の第3世代「Echo Show 10」からである。Echo Studioを彷彿とさせる大型スピーカー部の額にお面のような格好でディスプレイが付いており、ユーザーの方向に向けて常に本体が回転し、正面を向くというユニークさで、「そう来たか」と唸らせる作りだった。
そんなEcho Showの中で、最大画面サイズを更新するのが、「Echo Show 15」である。15.6インチの液晶ディスプレイを搭載……というよりディスプレイそのものが本体となっている。価格は29,980円。
現行のEcho Showシリーズ中で唯一縦向きにも使えるEcho Show 15を、さっそく試してみた。
ディスプレイ自体がスピーカーに
Echo Show 15は、対角15.6インチ、解像度1,920×1,080/16:9のスクリーンを持つが、フレームには額縁で使われるマット紙のようなエリアがある。一般的なディスプレイは額縁部分を限りなく薄くする方向に進んでいるが、あえてこうした枠を設けることで、壁掛け時にはフォトフレームのような雰囲気になるところを狙ったものと思われる。
左上の角にはカメラがあり、ビデオ通話などに使用できる。ただ解像度は5Mピクセルと、第3世代Echo Show10の13Mピクセルから大幅に減退している。それほどコミュニケーションを重視したモデルではないという事だろう。
奥行きは、黒い外枠部分のみは22mmだが、そこからさらに奥に出っ張っており、全体では35mmと、昨今のディスプレイとしては厚みがあるほうだ。基本的にはスマートスピーカーの流れを汲むものなので、内部には40mmのフルレンジドライバが2つ搭載されている。音は背面のテーパー部から放出されるようになっており、壁にピッタリくっつけた場合でも音の出口が塞がれないようになっている。
背面には電源ポートと、取り付け金具を組み込むエリアがある。本機には壁掛け用の取り付け金具は付属するものの、スタンドのようなものは同梱されていない。よって基本は壁掛けということになる。本体重量は2.2kgあるので、両面テープはやめたほうがいいだろう。やはりネジ留めが基本となる。背面の溝が工夫されており、取り付け金具を壁に取り付けたあとからでも、横置きにするか縦置きにするかを変更できる。
借家なので壁に穴が開けられないという方もあるだろうが、Amazonではネジを使わない壁掛けツール「石膏ボード用固定金具 壁美人 Echo Show 15用」も販売している。家庭にある180度開くホッチキスを使って固定するものだ。
別途スタンドを購入すれば、デスクトップに置く事もできるようになる。今回はEcho Show用に設計されたスタンド「SANUS MEHHS-B2」もお借りしている。
ACアダプタのケーブル長は約1.4mで、一般的なEchoよりは長いが、壁掛けにするとちょっと足りないのではという気がする。そこはテーブルタップ等で延長しろということなのだろう。AmazonではEcho Show 15用の延長ケーブルも売っている。
大画面をどう使うか
ではセットアップして早速使ってみる。他のEcho Show同様、Amazonアカウントでログインするだけで、セットアップは終わりである。
ホーム画面は、ニュースや写真などライブラリの上に時刻や気温をオーバーレイするエリアと、その上に乗ってくるウィジット画面で構成される。画面上を上から下にスワイプすると、ショートカットメニューにアクセスできる。
画面が大きいので、ついタブレット的に画面を指で操作してしまいがちだが、本機は基本的に「Echo」の領域を出るものではない。画面へのタッチ操作は可能だが、機能は音声コマンドで対応するものか、ウィジットで提供されるものに限られる。つまりFireタブレットではないので、アプリストアから好きなアプリを入れるとか、Bluetoothキーボードを繋いでどうこうするようなものではないという事である。
壁掛けがメインということもあり、これに向かって細々と操作するというものでもなく、常時なんらかの情報が表示されているティッカーやホワイトボード的なものと考えるべきものだ。
ウィジットには今日の予定や買い物リスト、天気予報、Amazon Musicの再生履歴などが常に表示される。ライブラリ表示にはニュースも表示されるので、詳細を見たかったら画面をタップすると、全画面表示になる。一方音声コマンドで「アレクサ、もっと見せて」というと、全画面表示になったのち、ニュースを音声で読み上げてくれる。
ウィジットは、利用者がどう使いたいかによるだろう。筆者が便利に感じたのは、買い物リストだ。音声入力も可能だが、「人気アイテム」のところから大抵切れているものが見つかる。作成したリストは、スマートフォンのAlexaアプリの中から参照できるので、買い忘れもないというわけだ。
家族共有のメモとして使うという例もよく紹介されている。まだスマホを持たせるには早い子供がいる家庭では、置き手紙で伝言を残すしかないわけだが、こうしたスマートディスプレイがあれば、子供からの返信も出先から確認できる。また「Alexa電話」を使えば、画像付きで通話もできる。
加えてAlexaアプリから「カメラ」でアクセスすれば、電話としてコールすることなく、Echo Show 15のカメラの映像をスマートフォン側から確認できる。最近は地震も多い事だし、出先から家庭内の状況確認やペットの様子など、家の中がどうなってるか確認したい時に便利だ。
こうした用途は、壁掛けで使った際にメリットが出る。リビングに常時情報が表示されたスクリーンが1つあるだけで、家庭の運営がスマートになる。
侮りがたしAV性能
続いてAV機器として見た場合をチェックしてみよう。壁掛けにした場合、その場でAmazon Primeを視聴するというケースは考えづらい。だが専用スタンドを使用してテーブルトップで使用する場合には、コンテンツ視聴に利用するというケースは出てくる。
まずオーディオに関して、Amazon Musicで再生テストしてみた。プルダウンして現われるショートカットメニューから「ミュージック」を選択すると、Amazon Music上の「最近再生した楽曲」へ移動する。
本機は空間オーディオ対応機器ではなく、ウィジェット上では特にオーディオフォーマットの切り替え機能もない。全体的に、Androidアプリ版のような挙動は期待できない。つまり、UIとしては自分のプレイリストにもアクセスできないし、特定のアーティストを検索してアーティストページへ移動、アルバムを確認するみたいなことは、一切できない。
過去履歴以外の音楽を聞きたかったら、ボイスコマンドに頼るしかないというところは、画面がメインではありつつも所詮はEcho、という事である。せっかく大きな画面のUIがあるのに、Androidアプリ並みのアクセシビリティが期待できないのは残念だ。
再生音は、40mmフルレンジが2基では、低域はあまり期待できない。そもそも40mmフルレンジは、ヘッドフォンで使われるサイズである。ただ、音の広がりはなかなか面白い。背面に何もない状況だとそれほどの広がりはないが、背面に壁があると、壁の反射音によって画面サイズの横2倍ぐらいの大きな音場が楽しめる。さすが壁掛けを前提に設計された機器だけのことはある。
本格的に音楽を楽しむなら、別のEchoと組み合わせるという方法もあるが、朝にちょっと聞くだけとか、雰囲気のBGMとして流すのであれば、十分対応できるだろう。当然ながら、縦で使用する場合には左右の音の広がりは期待できない。
Amazon Primeを楽しむ端末としても、なかなか面白いポジションにある。これまでFireタブレットは10インチが最大サイズだったわけだが、それよりも大きな画面で楽しめるわけだ。もちろん、タブレットほどは軽くないしバッテリーでは動かないので、手に持って視聴するようなものではないが、29,980円で買えることを考えると、満足度は高い。
コンテンツへのアクセスに関しては、アプリ版とはちょっと違うUIになるものの、かなり画面上で選ぶ事ができるため、Amazon Musicのような不自由さはあまり感じなかった。音楽コンテンツはEchoの機能を継承、映像コンテンツはFire TVの機能を継承、ということかもしれない。
動画視聴に際しては、解像度はHDに限られるが、ニアフィールドで視聴するぶん精細感は高い。またオーディオも左右の広がり感が強いため、思いのほか満足感が得られる。本腰を入れるならテレビで見るべきだろうが、仕事しながら横においてチラ見、みたいな用途には最高だろう。
総論
Echo Show 15は、そのサイズから、どうしてもこれがFireタブレットだったら……という思いが先行してしまうが、実際には大画面Echoとして新しいジャンルを築くモデルだ。
スマートスピーカーは一定の地位を築いたが、スマートディスプレイははまだ道半ばだ。そこでEcho Showというアーキテクチャを、もっと別の方向で伸ばせないか。そうした試みの第1弾が第3世代Echo Show 10であり、本機Echo Show 15はその第2弾といった風に見える。
本機は特に「壁掛け」というスタイルで生きる設計となっており、「壁の絵」に向かって細かい操作はしないだろう、という思想を感じさせる。Echoなので音声コマンド全般を受け付けるし、最小限のコマンドは文字表示でアシストしてくれるので、なんと呼びかければいいのかに迷うことはない。
常時点灯しっぱなしというのがなんともゼイタクではあるが、周囲が暗くなると自動的に画面が暗くなり、時刻表示のみとなる。深夜は時計に化けるわけだ。
ウィジェットが限られているので、できることも限られる傾向にあるが、Fireタブレットのように色々使えます、というよりは、いくつかの機能決め打ちで使うもの、それ以外の時はBGV、みたいな割り切りがある。そして意外な事に「Amazonでお買い物」という機能がないという点からも、割と社会実験的な方向性が強いのかなという気がする。
「ビジュアルID」を登録すれば、カメラに写った人にカスタマイズされたホーム画面を表示するといった使い方もできる。これまでEcho Showは小型モデルが多かったので、どちらかというと1人1台というか、家族と共用するという傾向は希薄だった。家庭内のEchoは相互にリンクできる、という設計だったわけだ。
だがリビングに壁掛けした場合などは、誰か1人が占有して使うものではなくなる。本機は、スマートディスプレイが本格的に家庭全体の共有物として入り込むためのサイズであり、用法を提案している。
壁掛けスマートディスプレイは、スマートフォンやスマートスピーカーとはまた違うベクトルとして、定着するだろうか。少なくとも今はまだ、バッチリ用途がハマるという人と、そうでもない人の温度差が激しい製品であるとは言えそうだ。