小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1030回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

iPhoneだけで撮影~完成まで。しかも無料。iMovie3.0の使い方

iMovie 3.0

イベント再開?

新型コロナウイルスの感染者数は一向に収束の気配を見せないところだが、日本国内では次第にイベントや展示会などが再開されるという話を聴くようになった。もちろん来場者数万人クラスの大規模イベントは未だ慎重論が主流だが、メーカーの新製品発表会やハンズオンイベントなど、入場者数を区切って行なうイベントなら、様子を見ながら次第に再開の方向へと進みつつある。

以前なら関係者全員でゾロゾロと出かけていったイベントも、人数が絞られると代表者1人が行って報告、みたいなことも多いと聞く。イベントに行くのはいいが、大変なのはそのあとのレポートである。

時間をかけて写真とテキストでレポートを作っても、結局は読まれないといったことが起こる。だが5分程度の動画レポートなら、時間があるときにさっと目を通してくれるだろう。とはいえ、YouTuberならともかく、普通の人には動画レポートなどは難しくてできない……と思われている。

それがiPhoneだけで撮影から編集、公開までできたらどうだろうか。今回は、ちょっとした動画ならもうiPhoneだけで全部できる、という話をしてみたい。

今回iPhoneに絞った理由は、編集ソフトであるiMovieが無料で入手できるため、特別にアプリを購入しなくても実現可能だからである。以前は600円で販売されていたが、2017年から無料化されている。

そしてちょうど今年の4月14日に新バージョンであるiMovie 3.0が発表され、すでにダウンロードできるようになっている。新バージョンの目玉の1つが、テンプレートどおりに作業すれば一通りの動画が完成できる「ストーリーボード」だ。

テンプレートどおりに動画を埋めていくと作品が完成する「ストーリーボード」

だがテンプレートにうまく填まるように撮影できているかというと、そんなことは全くないし、ましてやテンプレートを見ながらそれ通りに撮影するなんていうことをイベント会場ではやれないだろう。

もう1つの目玉が、自動編集でイイ感じの動画を仕上げてくれる「マジックムービー」だ。こうした機能はすでにGoProやInsta360が提供するアプリでも実装されているが、遊びならともかく、仕事でそれが凄く便利とか使い倒しているという話はあまり聞かない。仕事用の動画で「なんか勝手にイイ感じのクリップが、イェー」で済むかと言えば、全然済まないのである。

選んだクリップから切り出してイイ感じに仕上げてくれる「マジックムービー」

この2つの機能は、どちらも利用者が「こうなって欲しい」という意図があった場合には、あまり役に立たない。どちらかと言えば無目的に撮ってみた動画を、どうにか見られるようにしてくれる機能である。

今回は、ビジネスレポートという意図を持って撮影した動画をストレートに伝えるために、マニュアルによる編集の方法をお伝えしていきたい。ちなみにiMovieはMacOS版やiPadOS版もあるが、iOS版は画面サイズの関係からUIが全然違うので、他のOSでは使ったことがあるという人にも役に立つものと思われる。今回の記事では、iPhone 12 miniを使用している。

カット編集が簡単

今回は、筆者が個人的に運営している「コデラ家のハタケ」というYouTube番組の制作を行なっていく。畑の野菜のレポートだが、展示会や発表会での製品レポートにも同じセオリーでやればいいだけなので、参考になるはずだ。

まずiMovieを起動すると、過去に作成したプロジェクトが表示される。画面下から上にスワイプすると、新規プロジェクト開始画面が出てくる。マニュアルでタイムライン編集を行なうには、一番下の「ムービー」を選択する。

一番下の「ムービー」を選択

次にメディアを選択する画面になるので、撮影したクリップをマルチ選択する。この場で中身の確認はできないが、あきらかに撮影に失敗したカットなどがあれば、ここで選択を外しておくといいだろう。

使用する動画をマルチ選択する

画面下の「ムービーを作成」をタップすると、選択したクリップが順に並んだだけのタイムラインが作成される。

とりあえずタイムラインができた

まず編集の方法論として、“中身を確認しながらそれぞれのクリップの使いどころを先に決めていく方法”と“全体の並び順を決めてから細かいところを直していく方法”の2つがある。すでに撮影しているときに編集の順番まで考えていればいいが、多くの場合はそこまで考えられないだろう。

よって各クリップの使いどころを確定していきながら全部のクリップに目を通し、そのあとで並び順を考えるという方法が、扱いやすいと思われる。

タイムラインはピンチインで縮小、ピンチアウトで拡大できるので、細かい編集をする場合はピンチアウト、全体の流れを見たい場合はピンチインする必要がある。

編集したいクリップをタップすると、両脇に黄色いハンドルが現われる。標準では「ハサミ」のマークのトリムモードになっているはずだ。

標準ではトリムモードになる

この黄色いハンドルを掴んで後(右)のほうにドラッグすると、動画の開始点を移動することができる。しゃべり出しに間がある場合は、ハンドルをドラッグして不要部分を詰めておく。

なおハンドルをドラッグしている間は無音なので、どこからがしゃべり出しかを音で判断することはできない。今どきのiPhoneならそれぐらいできるパワーはありそうだが、iMovieに機能実装されていないのが残念だ。

むしろ音を聞きながらカットしたい場合は、再生ボタンを押して再生し、いいところで止めて「分割」したほうが早いかもしれない。不要な部分は、それを選択して「削除」していく。こうして各カットの使いどころを切り出し、不要なものを削除していけば、全体が整理され、構成もしやすくなる。

しゃべり出しのところまで再生して、「分割」

カットとカットの間にある縦線は、トランジションだ。縦線は「トランジションなし」のマークで、ここをタップすると別のトランジションを選択することができる。トランジションは、ワイプなどの効果を付けて次のカットへ繋げてくれる機能だが、全カットに使うとうっとうしいだけなので、ほどほどにしておくべきである。

カットとカットの間は、トランジションが設定できる

なお昨今はYouTube的な編集、つまり喋りを短くどんどん繋いでいっても、多くの人は違和感を感じなくなっているので、全部トランジションなしでも問題ないだろう。

iPhone動画撮影あるあるとして、横向きで撮影したつもりが、ジャイロセンサーの判定が曖昧で縦動画として撮影されている事がある。カメラを下向きや上向きに構えたときに起こりやすい現象だ。

当然iMovieでもこの縦横認識はそのまま持ち込まれるので、編集していると途中で縦動画が差し込まれることになってしまう。これを修正するには、プレビュー画面を2本指で押さえて、ひねるようにすると、動画をローテーションすることができる。

プレビュー画面をひねれば、ローテーションできる

簡単なことが難しいけど難しい事が簡単

編集テクニックの1つに「インサート編集」というものがある。例えばある商品を説明している人物の喋りの上に、その製品の映像だけを被せるといった編集方法で、一般的な動画編集では普通に使われる手法である。

多くの映像編集ソフトの場合は、タイムラインに「トラック」が複数あり、上のトラックに重ねたものが画面上の上に乗る、という仕組みになっている。この場合、上記のような編集を行なうとすると、トラック1に顔出しの喋りの映像が入り、トラック2に製品の映像が音声なしで乗っかるといった構造になる。

一方iMovieでは、映像に「トラック」という考え方を採用していない。映像がベーストラックで、映像が2つ重なるということができない。では上記のような編集を行なうにはどうするかというと、喋りのクリップから映像と音声を分離し、音声を製品の映像の下に潜り込ませる、という方法になる。

映像と音声を分離したいクリップを選択肢、編集メニューから「切り離す」を選択すると、映像と音声が分離される。サムネイル下に「ビデオ 2022/04/2…」と書いてあるクリップが、分離された音声だ。「ビデオ~」はファイル名で、元々どこの音声だったのかをファイル名で示している。

映像と音声を分離したところ

分離した音声を選択すると、編集メニューに「バックグラウンド」という項目が現われる。分離した音声は、「フォアグラウンド」か「バックグラウンド」か、どちらかになる。現在は「フォアグラウンド」であるということだ。

この「フォアグラウンド」と「バックグラウンド」の考え方は、従来の編集ソフトの一般的な概念からかなり遠く離れているので、要注意だ。まず「バックグラウンド」とは、編集タイムライン全体のベース(下地)になるという意味のようで、バックグラウンドに指定した音声は、絶対にタイムラインの先頭へ配置されて、そこから動かせなくなってしまう。頭から最後まで入れるBGM、みたいな扱いになるらしい。

「バックグラウンド」として分離された音声は、タイムラインの先頭に配置されて動かせない

一方「フォアグラウンド」は、一般的には「上に乗る」という意味で使われるが、映像ならともかく音声のフォアグラウンドってなんやねん? という話になる。iMovieの場合は、位置が動かせる音声、という意味で使っているらしい。よって分離した音声を映像の下に潜らせたい場合は、「フォアグラウンド」に設定しなければならない。

「フォアグラウンド」で分離したのち、音声を映像に潜り込ませる

音声の移動は、この細いバーを長押しすることで移動できる。うっかりすると音声編集モードに入ってしまうので、操作が難しい。また思った位置で手を離しても微妙に違うところに貼り付いたりと、位置調整が難しい。

もう1つ、喋りを編集するテクニックに、「スプリット編集」というものがある。通常は映像と音声が同時に切り替わるのだが、先に音が先行して切り替わり、遅れて映像が切り替わるとか、あるいはその逆を行なうのが、スプリット編集だ。これは編集点のショックを和らげる効果があるほか、シーンの変わり目を印象的にするなど、ドラマなどでよく使われる手法である。

実は高度なテクニックなのだが、iMovieでは拍子抜けするほど簡単にできる。編集点の前後となるクリップの映像と音声を分離し、映像だけ、あるいは音声だけ編集点をドラッグしてトリムすれば、勝手にスプリット編集状態になる。

映像だけを縮めると、勝手に音声が前に潜り込む

分離した時点で音声は勝手にフェードイン/フェードアウトに設定されているので、必要がなければ「音声」の編集で「フェード」を選択し、フェードイン状態をカットへ戻す必要がある。

自動でフェードインに設定されている部分を修正

自動だが自由ではないテロップと音楽

動画に文字情報を入れることで、似たようなものや一見してもわからないものを説明する事ができる。iMovieのテロップ入れは、クリップをタップして編集モードに入り、「T」の字のアイコンをタップする。

テロップにはプリセットが用意されており、刺激的なパターンが並ぶが、オープニングでもなく動画の途中に入れる説明用テロップとして使えるのは、「標準」ぐらいしか用意されていない。

テンプレートは沢山あるが、「普通」のものが少ない

プレビュー画面上で文字を入力し、ドラッグで位置移動、ピンチイン・アウトで文字の大きさを調整できる。ただ日本語フォントの種類が少なく、標準状態ではヒラギノ角ゴシック、同丸ゴ、同明朝程度である。

日本語フォントが少ないのが難点

別途フリーフォントをインストールしてみたが、iMovie上では認識できなかった。システムフォントとして認識されているものしか選択できなくなっているのかもしれない。

テロップは必ずクリップの先頭から入り、約4秒間でアウトする。イン・アウトのタイミングを調整する事ができないので、動画の途中でテロップを入れたい場合は、入れたい場所の直前でクリップを分割してやるなど、ちょっと一手間かかる。

音楽については、「オーディオ」 - 「サウンドトラック」からBGMが選択できる。ここから追加すると、タイムラインの全体尺に合わせて長さを自動調節した音楽が「バックグラウンド」として追加される。つまり、頭から最後まで音楽が敷かれるわけである。

「サウンドトラック」ではかなりの曲がiCloud経由で提供されている
音楽は「バックグラウンド」として配置される

一部分だけ、例えばタイトルのバックだけ音楽を付けたい場合は、追加された音楽を「フォアグラウンド」へ変更し、場所を移動させる事になる。オーディオレベルは、喋りの音量に対して自動調節されるが、場合によってはほとんど聞こえないので、手動での調整が必要だろう。

なおiMovieだけを使って編集した完成動画は、以下で確認していただきたい。

コデラ家のハタケ#36

総論

多くのスマートフォン向け編集ツールは、マニュアル編集で高度なことをやる方向にはなく、見栄えを良くする手段として「自動化」の方向に進んでいる。しかしこれはユーザーが関与できる部分が少ないため、求めているものとズレがあっても修正が難しいというデメリットがある。

iOS版iMovieは、画面サイズの問題もあって、高度な編集ができるわけではない。だがコミュニケーションも動画になりつつある今、ちょっとしたレポート動画に高度な編集が求められるかというと、そういうわけでもないだろう。それよりも、撮影してアップするまでのスピードのほうが重要になっている。

iPhoneで撮影して、カフェや電車の中でそのまま編集、アップロードというスピード感でやることを考えれば、元々シンプルなことしかできないiMovieは、悪くない選択肢だと思う。

またApple同士の強みとして、iMovieで編集したプロジェクトを書き出して、Final Cut Proで開けるようになっている。素材もプロジェクトファイルに含まれるので、1ファイルを転送すれば編集作業が開始できる。

ザックリしたバージョンをiPhoneで先に上げておき、あとでMacでちゃんと編集したものに差し替えるといったワークフローも考えられるだろう。普通の動画制作でも、時間短縮のためのツールとして使えるという事である。

iMovieはかなり古いツールだが、iOS版はあまり実用的だと見られていないのか、ちゃんとしたチュートリアルがないという問題がある。またiMovieのヘルプは初心者向けに書かれており、機能のすべてが網羅されているわけではない。

みんな知ってるがあんまり使われていない謎ツールな扱いになってしまっているが、とりあえずiPhoneだけでスピード勝負という用途には便利に使える。ちょこっと練習すればすぐマスターできると思うので、この連休中に取り組んでみてはいかがだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。