小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1041回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

簡単撮影で効果大! Insta360のライカレンズ + 1インチ360度カメラ

Insta360 ONE RS 1インチ360エディション

360度カメラがリニューアル

アクション系のカメラは、永らくスポーツ撮りに使われてきたが、Insta360がこのジャンルに参入して以降、アクションと360度撮影が微妙に混じってきた感がある。それもそのはずで、2020年発売の「Insta360 ONE R」は、カメラモジュールを組み替えることでアクションカメラにもなり、360度カメラにもなるという異色作であった。

当時のレンズモジュールは、4K広角レンズ、360度ツインレンズ、1インチ広角レンズの3種。2022年にはリニューアルモデルの「Insta360 ONE RS」が発売され、モジュールとしては4K BOOSTレンズが新規に仲間入りしたが、360度ツインレンズは更新されなかった。

そして今年、360度ツインレンズの新モデルが登場、ライカレンズ搭載の1インチセンサーとなった。それに合わせてボディの組み替えが行なわれ、新型バッテリーモジュールとともに、縦型の「1インチ360エディション」として新規に発売された。

今回はこの1インチ新モジュールで色々撮影してみたい。

360撮影に向く縦型

Insta360 ONE RS 1インチ360エディションは、新モデルではあるのだが、コア部分はInsta360 ONE RSと同じものである。形は全然違うが、これもInsta360 ONE RSの1形態なのである。

従ってフルセットを買えば118,800円となるが、すでにONE RやONE RSのユーザーはコアユニットは持っているはずなので、コアだけを除いたセットのアップグレードバンドル(96,600円)も併売される。2020年発売のONE Rのユーザーも切り捨てないあたり、Insta360の良心を感じる。

まず全体像を把握してみよう。新開発の1インチ360度デュアルレンズモジュールは、元々のコアユニットの寸法からするとかなり大きくなる。過去1インチセンサーを搭載した広角モジュールもちょっと大きかったので、センサーが1インチになるとモジュールの寸法からははみ出すということだろう。

注目の1インチ360度デュアルレンズモジュール

これにコアモジュールがくっつく。コアモジュールにモニター、電源ボタン、録画ボタン、マイク、microSDカードスロットがある。従来はバッテリーモジュールが底部に薄く貼り付いたわけだが、今回はさらに横方向に延長する格好で、コアモジュールとほぼ同形の新型バッテリーモジュールがくっつく。

3つのモジュールが合体して縦型に

全部合体させて、縦にして使うというわけだ。モジュール同士のロックが外れないよう、縦持ち用のブラケットを装着すると完成だ。電源や録画ボタンは、ブラケット上のボタンが位置合わせしてあり、押し込めばそのまま押されるようになっている。バッテリー側の充電ポートとしてUSB-C端子と、底部の三脚穴はそのまま露出する作りとなっている。

合体したボディをブラケットに差し込んで固定
ボタン類はブラケットの上から押せる構造

こうしてモジュール化すると、SDカードは簡単には取り出せなくなるが、元々360度撮影の場合、メモリーカードに記録されているのは半球の動画が2個並んだだけの動画なので、どのみちアプリと接続して加工が必要になる。特に直接取り出せなくても、実用上はあまり問題ないと言える。

横型ではアクセスできた側面は、新バッテリーで埋まる

注目の1インチ360度デュアルレンズモジュールだが、レンズはライカ スーパーズミクロンの35mm換算6.52mm/F2.2が2つ付いている。本体から出っ張っているため、取り扱いには注意が必要である。なお持ち運び時のレンズカバーも付属する。ISO感度は、写真・動画ともに100-3200。

レンズカバーも付属

撮影可能な解像度は、写真が6,528×3,264の2:1、動画が6,144×3,072/24pとなっている。30pの場合は5,888×2,944で、横は6Kとなる。センサー片側が3K×3Kの正方形で、これを2つ横に並べるので映像的には6K×3Kということだろう。実際にはここから映像をクロップして切り出し、コンテンツ化することになるので、最終的にはHD解像度程度の動画が得られることになる。

撮影モードは、写真、HDR写真、動画、タイムラプス、タイムシフト、ループ撮影、バースト、スターラプス、インターバルの9種類。動画ファイル形式は独自の.insv形式で、最大ビットレートは120Mbps。編集にはスマホアプリか、Windows/Mac用のInsta360 STUDIO 2022を使用する事になる。

バッテリーは6K/30p撮影で約60分。全体重量は239gとなっている。横型ONE RSより重量増で動作時間も短いが、3K×3Kセンサーを常時2個動かしている事を考えれば、まあそらそうよねーという話である。

簡単撮影で効果絶大

では早速撮影してみよう。これまでのONE RSでは、360度撮影でもカメラモジュールを付け替えるだけなので、横向きに構えて撮影していた。ただその持ち方だと指が写り込んでしまう可能性があり、ホールドには注意が必要だった。

今回は縦に長くなったことで、バッテリー部をホールドできるし、底部の三脚穴にグリップやポールを接続しやすくなった。撮影後に確認したら指が入り込んでNG、というケースは大幅に減った。

1インチセンサーの恩恵を受けやすいのは、静止画だろう。アプリを使って任意の場所を3,840×2,160の4Kサイズで切り出せる。通常の「写真」撮影では、ノーマルとPureShotの2タイプで書き出しできる。また任意切り出しである「360」のほか、「InstaPano」、「小惑星」といった書き出しのバリエーションがある。一方「HDR写真」では書き出しのバリエーションが少なく、画像加工のバリエーションも少なくなる。

「写真」での書き出し画面
「HDR写真」での書き出し画面
「写真」撮影で通常書き出し
「写真」撮影でPureShot書き出し
「HDR写真」撮影で通常書き出し
「写真」撮影でInstaPano書き出し
「写真」撮影で「小惑星」書き出し

HDRでは9枚の写真を合成するため、コントラストを圧縮していい具合に収まっているものの、若干のっぺりした感じは否めない。HDRではアプリ側で面白い加工ができないため、どっちのモードで写真を撮るかが悩ましいところである。

動画撮影においては、360度撮影したものをVR的に提供するやり方もあるだろうが、これは見られる人が限られる。多くの人は、撮影したあとでアングルを決めたり、自由にパンやズームできるカメラとして使うほうがメリットがあるだろう。

切り出しで書き出す場合、解像度はフルHDとなる。こうした切り出しでも輪郭のキレが保たれているのが、ライカレンズと1インチセンサーの恩恵だろう。編集時にキーフレームを打つことで、アングルやズーム、回転といった動きを任意に設定する事ができる。

アプリではキーフレームを打ってアングルを変えていく
スマホ縦動画も簡単に作れる

360度を活かした多彩な効果

手動ではなかなか面白い動きが思いつかないという場合は、アプリの「編集ラボ」にある自動編集機能を使うのも手だ。下記の動画は前半が通常の編集、後半は「スカイスワップ」で映像加工したものを編集している。アングルの移動を伴う、というか単にグルグル回るだけみたいな映像加工は人間にはなかなか思いつかないところであり、このあたりは処理するAIと選ぶ人間の組み合わせの妙である。

多彩な効果が試せる「編集ラボ」
「スカイスワップ」で書き出した動画を編集(修正版)

以下は「シネラプス」で編集した映像だが、単に歩きを普通の動画として撮影しただけで、こうした動画に加工してくれる。短編で面白い動画を投稿したいTikTokerには面白いアイテムだろう。

「シネラプス」で編集した映像

久しぶりにタイムラプス撮影も試してみた。カメラを設置するだけで、アングル決めはあとでいいので、とりあえず撮るぞと決心するだけである程度の効果が期待できるのは強みだ。ただ通常の動画撮影に比べると、仕上がりの解像度は今一つのように思える。

タイムシフトで撮影

最後に音声収録のテストを行なった。マイクはコアモジュール上の3方向にあることから、今回はハードウェア的にはONE RSと変わらない。ただUSB-C端子の横にあったマイクは、今回のバッテリーモジュールで塞がってしまうので、実質前方と上のマイクしか使えない事になる。

従って録音モードも、横型のONE RSでは「風切り音低減」、「方向強調」、「ステレオ」の3タイプから選択できたものが、「方向強調」が使えなくなっている。要するにビームフォーミング的な効果が得られなくなるということだろう。

ただ360度カメラの場合、セルフィー撮りは前でも後ろでも関係ないので、マイクを自分の方に向けて撮影できるというメリットがある。今回は「風切り音低減」と「ステレオ」の2タイプを試してみた。

「風切り音低減」と「ステレオ」の集音テスト

「風切り音低減」は広がり感はないものの、たしかにフカレがかなり抑えられているのがわかる。前も後ろも同時に撮影できることから、歩きながらのVlog撮影には使いやすそうだ。

総論

小型アクションカメラや360度カメラは、撮影時が楽しいというデジタルカメラやスマートフォン撮影とは違う。撮ったあとにどう加工するか、編集のほうに技術の中心がある。従ってなるべく高解像度で撮影しておくというのが王道になるわけだが、そこにライカレンズと1インチセンサーを持って来たわけだ。

これまでのInsta360 ONE RSとは見た目が全然違うために別製品のように見えるが、実際にはバッテリーの装着位置が変わったことで縦型のカメラとなった。従来のカメラモジュールも使えるので、縦型アクションカメラとしても使える事になる。

モジュールを合体、分離させるというアイデアは、「DJI Action 2」に影響を与えたと考えられるが、今度は本家Insta360がDJI Action 2の縦型の発想を取り込んだとも言える。もっとも360カメラにはリコーTHETAという縦型のお手本があるので、そのフォロワーが縦型になることに何の不思議もない。

360度のままで視聴者に見せるというのも面白いが、あえて普通のカメラみたいに切り出して使うと、どうやって撮ったんだ? という映像に仕上がって面白い。日常を撮るカメラというよりは、高画質方向へ振った本製品は、映像クリエイター的な指向のあるユーザー向けのツールだと言える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。