小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1057回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“小さなGoPro” ディスプレイ無し「HERO11 Black Mini」の小さくて大きな違い

小さいが、見ればGoProとわかるデザイン

遅れて発売の、mini

日本でもBlack Fridayなるイベントは、かなり定着の様相を見せている。10月のハロウィン、12月のクリスマスに挟まれて、11月には大きなイベントがないからかもしれないが、やはりその認知度を上げたのはAmazonのBlack Fridayと銘打った大セールではないだろうか。

今年9月に出たばかり「GoPro HERO11 Black」もBlack Fridayで25,000円 OFFなどで売られており、この機会に購入した人も多いようだ。一方同時に発表された「HERO11 Black Mini」は、もともと少し遅れて発売の予定だったが、その後、11月18日に発売延期となっていた。ディスプレイを排して小型・軽量化を狙った、バリエーションモデルである。直販価格は64,000円だが、1年間のGoProサブスクリプション付きの場合は48,000円。

GoProの初期のモデルはディスプレイを内蔵しておらず、必要であれば別途ディスプレイモジュールを買ってくっつける必要があった。それだけ昔は機能的にもシンプルだったわけだが、昨今のように機能が上がった今、ディスプレイなしモデルはどんな使い勝手なのだろうか。

GoPro HERO11 Black Mini(以下11 mini)をさっそくテストしてみよう。

小型だが、軽くはないボディ

11 miniは、通常モデルを小型化することで、よりいろんな場所へ設置できることを狙った製品である。レンズ、イメージセンサーなどのカメラ回りはHERO11 Blackと同じで、カラーも同じであることから、見た目のイメージもGoProだとすぐわかるデザインとなっている。

側面に「MINI」の文字

小型モデルということで、横幅は11 Blackの71.8mmから52.4mmとだいぶ短くなっており、正面から見るとほぼ正方形に見える。一方で折り畳みマウントの取り付け方が違う関係から、高さおよび厚みは多少増している。

正面から見るとほぼ正方形

底部のマウントは、折り畳みであるところは変わりないが、11 Blackが本体に埋め込まれるように収納されるのに対し、11 miniは本体への埋め込みがないので、折り畳んだ部分がそのまま高さとなる。

底部のマウントは埋め込み式ではなく、出っ張っている

またマウントは背面にも付けられている。こちらは埋め込み式ではあるものの、ヒートシンクが新たに付けられている関係で、厚みが5mm弱増えている。

背面のヒートシンクとマウント

開口部は右側で、USB-Cの充電端子とmicroSDカードスロットがあるのみ。バッテリーは交換できない埋め込み式となっている。内蔵バッテリーは11 Blackから採用された、低温環境下の性能向上と、撮影時間が最大38%長くなるEnduroバッテリーを採用。ただ容量は1,500mAhで、着脱式バッテリーの1,720mAhよりはすこし少ない。着脱式のEnduroバッテリーがそのまま入っているわけではないという事である。

開口部内はUSB-C端子とSDカードスロットのみ

気になる重量だが、11 Blackの154gに対し、11 miniは133g。その差は21gである。ディスプレイを外したわりには、それほど軽くなってない印象だ。

ボタンは正面のステータス/ペアリングボタンと、上部のシャッターボタンのみ。上部には小型ながらステータスディスプレイがあるので、本体だけでもある程度の設定変更は可能だ。

上部に小型ステータスディスプレイがある

正面と上部には、マイクホールもある。背面のマウントの奧にスピーカーもあるが、ピピッという動作音を再生する程度である。動画再生はペアリングしているスマートフォンで確認することになるので、ここから再生音が出るわけではない。

正面と上部にマイクホール

ビデオ解像度は最大5.3Kで、3タイプのアスペクト比が使える。なお本機は写真撮影機能がない、動画オンリー機である。

解像度アスペクト比解像度
5.3K8:75,312×4,648
5.3K4:35,312×3,984
5.3K16:95,312×2,988

軽量化を活かした撮影

では撮影してみよう。今回は小型軽量化されたということで、帽子に簡単に固定できるクイッククリップも合わせてお借りしている。

通常のGoProの重量では、帽子の縁に挟み込むように取り付けるのだが、11 miniは軽そうだということで、帽子のツバの部分に装着してみた。最初は背面のマウントを使ってみたが、それだとカメラが前に行き過ぎて慣性がかかり過ぎる。底面のマウントを使うと、多少ずっしり感はあるが、なんとか実用の範囲内である。

帽子のツバにも固定できる

頭部固定用にはヘルメットマウントが付属するのみだが、自転車用のヘルメットはデコボコしているので貼り付けづらい。このようなキャップにも固定できると、もうちょっとカジュアルな用途でも使えるだろう。

この装着方法で、自転車に乗って撮影してみた。解像度は5.3Kで、画角は「リニア+水平維持」、手ブレ補正はAutoBoostである。これまではハンドルマウントで取り付けていたが、帽子にマウントしてもかなり安定して撮影できる。路面の振動を体で吸収しているからだろう。

帽子に固定して撮影

後半はタイムラプス撮影だが、やはりここまで時間を圧縮すると、実際は結構揺れてるんだなとわかる。もっと滑らかに見せたいのであれば、なんらかの後処理が必要だろう。

撮影のコントロールはQuikアプリで行なう。撮影前は画角などのプレビューができるが、録画をスタートするとプレビュー画面が出てこなくなる。車載やスポーツ撮りを自分でやる場合は、撮影中の画面を見ているヒマなどないかもしれないが、第三者として撮影する場合には、やはり録画中のモニターは欲しいところだ。特にモニターなしモデルであるからには、そのあたりは頑張って欲しかった。

撮影のコントロールは「Quik」から行なう

音声収録も改めてテストしてみた。11 Blackのときは風量低減のテストでありながら、天候が無風だったので効果がわからなかった。今回はそこそこ風がある。

風量低減モードのテスト

傾向としては11 Blackと同じで、風量低減をONにすると明瞭度がガクッと下がる。また低域の風切り音はそれほどカットできておらず、しゃべりの収録はちょっと厳しい。GoProは音声収録に関してあまり興味関心がないのか、今となってはライバルメーカーにかなりの差が付けられている部分である。

ハイスピードとスタートレイル

11 miniのビデオモードとしてプリセットされているのは、標準、TimeWarp、スタートレイル、ライトペインティング、ライトトレイル、タイムラプス、ナイトラプス7つである。

プリセットされているビデオモード

ハイスピード撮影に関してはとくにプリセットはないが、4Kでは120pで撮影できるので、30pで再生すれば4倍スローが得られる。今回はこの方法でハイスピード撮影をテストしてみた。

4K解像度でハイスピード撮影

水に潜らせても、カバーガラスが撥水コーティングされており、すぐに水切れする様子も確認できる。センサーやプロセッサはフルモデルの11 Blackと同じなので、4K解像度でこれぐらいのスローが撮れるわけである。

もうひとつ、11 Blackのときは曇天だったのでスタートレイルが撮影できなかったが、今回は天候に恵まれたので、撮影してみた。空は明るく写っているが、時間は20時ぐらいである。最終便の飛行機の軌跡も写っているが、こうした撮影が簡単にできるのも魅力の1つである。

スタートレイルによる夜間撮影

もう少し長く撮影したかったが、これぐらいが内蔵バッテリーでの限界である。さらに長時間撮影したい場合は、外部バッテリーを使って給電する必要がある。

最後にカラーモードのサンプルを掲載しておく。カラーモードにはフラット、自然、自然な彩度の3つがある。今回サンプルの動画は、すべて「自然な彩度」で撮影している。

フラット
自然
自然な彩度

総論

11 miniは、公式サイトのサブスクリプション付き価格で比較すると、11 Blackよりも1万円安となる。小型・軽量であることが1つの売りではあるが、ディスプレイがないこと以外にも、静止画モードがない、録画するとプレビューが見えない、バッテリー交換できないといった制限があり、意外に差は大きいのではないかと思う。

特にGoProは、撮影後に操作が効かなくなって、SDカードとバッテリーを抜いて強制リセットみたいなことをせざるを得ないシーンがたまにあるが、バッテリーが抜けないとその技も使えない。2つのボタンの長押しでリセットがかかるようにはなっているが、過去それも受け付けないことがあったので、現場で詰むことにならないか心配である。

元々用途がしっかり決まっているユーザーには魅力的だが、色々な用途で使って可能性を試してみたいというユーザーには、不満が残るだろう。また音声収録に関しても、イマドキの動画カメラとしては、機能的に低い。少なくとも、最初に買う1台ではないように思う。

従来モデルでは取り付けづらい場所に設置したいとき、あるいはタレントに取り付けるので目立たないようにしたいという用途には、ちょうどいいだろう。小型ながら10bit/5.3K/60pで撮れるというのは、4Kで使うにしてもトリミングできる余裕もあり、他のカメラと合わせるためにカラーグレーティングにも耐えられるというアドバンテージがある。

小さいから初心者用ということではなく、逆にプロに近い人じゃないと良さが引き出せないカメラのようである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。